表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
39/157

冷える体

 





「ど、どういう事ですの!?」


「どうもこうもないでしょう?私言ったわよね?課外授業だって。だからこれは依頼と言う名の授業なのよ?あなた達でもちゃんとこなせるから自分達で頑張りなさい。ヒントも出してあげるし移動も手伝ってあげるわ」


「な、何を言ってるんですの!?人の命がかかってるんですのよ!?」」



 冷たく言い放つアリアに向ってメイリリーナが詰め寄っていくとアリアは小さく息を吐いて言う。



「あのねぇ…今後も何かある度に自分は何もしないで人の命がかかってるからってすぐに私を頼るつもりなのかしら?」


「っ!?」


「はっきり言うけれど私はあなた達の学校の先生でこの世界の人間じゃない…()()()()()()()事になるのよ?我が子可愛さに何でもしてあげる様なママでもパパでもないしこの世界の勇者、由比ヶ浜 詩織でもないわ。私が手を出して解決するのはあなた達が色んな事を試して試して試し尽くしてどうしようもならない壁にぶち当たった時だけ。それにこれぐらいの依頼、あなた達なら力を合わせれば簡単にこなせる様に鍛えてきたと思っているから任せてるのよ?あんまり私をがっかりさせないでちょうだい」


「っ…」


「リーナ、あなたが女王になるなら、シャル、リーチェ、あなた達が自分の家の当主になるなら人一人の命の重さを、これから背負うであろう大勢の人の重さを今ここでしっかりと学びなさい。今回のメインは貴族であり王族のあなた達三人の為の課外授業なんだから」


「「「…」」」



 そう言うとアリアは離れているシャルロットとリーチェに視線を向け俯いているメイリリーナの頭を軽く撫でて背を押すとまた料理を作り始めてしまうがメイリリーナは目を鋭くして席に着き口を開く。



「ティリアさん、一度あなたのお兄様にお会いさせて頂いてもよろしいかしら?もし話を聞けるようであれば詳しく話を聞かせて欲しいですわ」


「…!」


「ありがとうございます。イオリさん、ティリアさんのお話を聞いて考え付いた呪いが先程言っていたバジリスクの石化、エントの呪歌、レイスの邪視の三つで間違いなさそうなんですのね?」


「う、うん。石化に関してはシルヴィも言ってたけど他にも石化の呪いをかける魔獣はいるんだ。でも石化は石化だから同じ呪いだと思うよ」


「わかりましたわ。…でしたらシルヴィ、食事が出来るまでの間、お風呂に入りながらでも呪いについて教えてくれませんこと?」


「…ん、いいよ」


「なら私もお風呂に行こうかな。どんな呪いなのか知りたいし、対策も考えないとだし」


「そうですね。私もご一緒させて頂きます」



 そう言うとメイリリーナ、シャルロット、リーチェは一切こちらに視線を向けないアリアを一瞬睨んでシルヴィアと共に風呂場へと姿を消し、何がどうなっているのかわからずオロオロしているティリアにやれやれと言った苦笑を浮かべるユリ、黙々と料理を作るアリアという何とも言えない空気が場を支配する。



「え、えーっと…じゃあ僕もお風呂に入ってこようかな…イオリはどうする…?」


「うーん…僕はいいかな。テッタ入ってきなよ」


「うん、行ってくるね」



 重い空気に耐えれなかったのかテッタもお風呂へと姿を消し…



「さて…唯織?料理は作り終えたからみんなが上がったら配膳してくれるかしら?私は少し外に出てくるわ」


「え?あ、はい」


「助かるわ。…ティリアちゃん、私は手伝わないと言ったけれどきっと唯織やリーナ達があなたのお兄ちゃんを助けてくれるから安心しなさい」


「…!」



 そう言ってティリアの頭を一撫でしたアリアは馬車の外へと姿を消してしまう。



「はぁ~…ほんっと難儀っすねぇ…」


「あはは…」


「…多分アリアっち、落ち込んでると思うっすからあたしも付いてくっす。この子に話しかけてくれたら反応出来るっすから何かあったら呼んで欲しいっす」


「は、はい…」



 アリアが心配なユリから真っ赤な子猫を受け取ると生暖かさ…これが血液なんだと思わせる冷たさにゾッとする唯織だったがユリを見送るとこの場に唯織とティリアだけが取り残され…



「え、えっと…ティリアさん…必ずお兄さんは助けるので安心してくださいね?」


「…!」


「あはは…」



 気まずい雰囲気を何とかする為に早く誰か帰って来て欲しいと願う唯織だった…。





 ■





「全く何なんですの!?あの言い方!!!ほんっとうにムカつきますわ!!!!」


「ちょ、リーナ!湯船の中で暴れないでよ!!」


「そうですよ!気持ちはわかりますが落ち着いてください!!」


「…騒がしい」



 皆が集まる部屋から移動した浴場では一糸纏わぬ姿で楽しく語らう四人の少女…とはいかず、思いの丈を叫び合う集会場となりシルヴィアは煩わしそうに言う。



「…アリアちゃんが言ってた事は全部正しい。怒るのはお門違い」


「正しい事はわかってますわ!!別にそれについて怒ってるわけじゃありませんわよ!!」


「…?なら何に怒ってる?」


「……ですわ」


「…聞こえない。もう一回」


「だからアリア先生が()()()()()()って言った事について怒ってるんですのよ!!!!」


「…は?」



 メイリリーナが怒っている事がまさか人助けに手を貸さなかった事ではなくいつか別れるという事に対してだとわかったシルヴィアは声を漏らし…



「私達の事を導くとか言ってたのにいつか別れるとか…本当に何なんだろアリア先生は…」


「全くです…流石に私も頭に来ましたね…」


「…………ぷふっ…あはははははははは!!!そっちに怒ってたの!?くふっ…あははははは!!」


「「っ!?」」


「っ!?な、何なんですのいきなり…?」



 泡だらけの髪をそのままに腹を抱えて床を転げるシルヴィアの姿にメイリリーナ達はぎょっとする。



「あー……最初はまた逆ギレでもしてるのかって思ってたけど…くふふ…そっかそっか、貴族の考えはかなり薄れてたと思ってたけどだいぶアリアちゃんの事好きになってたんだね?」


「なっ!?そんな事ありませんわよ!!わたくしはわたくし自身の成長の為に利用してるだけですわ!!」


「わ、私だって……ううん、多分シルヴィの言う通りだと思う…」


「私もそうですね…最初は剣の師として見てましたが最近は違いますね…きっと姉がいればこんな気持ちになっていたと思います…」


「ふーん?シャルとリーチェは素直なんだね?リーナとは大違い」


「あ、あなた達……んもう!そうですわよ!!何か文句でもおありですの!?」


「別に何も文句も無いし、人を好きになったりその人に特別な感情を抱くのはおかしくないでしょ?私だってイオリの事大好きだもん」



 シルヴィアの今までの気だるげな雰囲気など一切なく、無表情の顔はいつの間にか笑みが浮かんでいる事に気付いたメイリリーナ達は同じ女性なのにも関わらず見惚れていた。



「シルヴィ…あなた、そんな表情も出来るんですのね…」


「なんかいつもと雰囲気が違うから少しドキッとしたかも…」


「ええ…氷の人形の様な方だと思ってました…」


「私も一応人間だし笑ったりはするけど?」



 そう言って泡を流し濡れた長い髪を頭の上で纏めて湯船に浸かったシルヴィアが手を叩くと浴室が真っ暗になり無数の星空の様な光が天井に小さく灯る。



「綺麗ですわね…」


「黒の魔色…こんな使い方が出来るんだ…」


「黒の魔色は透明の魔色程では無いですが魔族が使うイメージであまりよく思われてないですけど…確かにこれは綺麗ですね…」



 シルヴィアの作り出した星空をうっとりと見つめるメイリリーナ達だったが星明りに照らされるシルヴィアの表情は…



「どんな魔色も使い方次第で最悪なものにもなるよ。光だって光が強すぎれば身を焦がして目を潰す。水だって顔を覆えば息が出来なくて溺れ死ぬ。風だって強く吹かせて天高く舞い上がらせれば落下してぐちゃぐちゃになる。全部その人がどう扱うかなの。…魔法は本来人を殺す為のものなんかじゃない、人の生活を豊かにするものなの…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「……」」」


「…ごめん、今するは無しじゃなかったね。呪いについて聞きたかったんだよね?教えてあげるよ」



 さっきまでの見惚れる様な笑みは見る影も無く、とても暗く冷たい表情でメイリリーナ達は温まった身体が冷めていく感覚を覚えた…。





 ■





「…」



 水底の石が見える澄んだ川、水の流れる涼しい音、そしてその川に流されていく軍服を脱いだ白黒の狼は暗くなっていく空を見つめていると岩では無い何かに頭をぶつける。



「全く…何処まで流れていくつもりっすか魔王様」


「ユリ…」



 アリアと同じく軍服を脱いだユリはアリアを抱き寄せ二人で川の流れに身を任せていく。



「何を悩んでるんっすか?」


「…距離感が上手く掴めないのよ。私達には私達の世界があるでしょう?情が移ったら…」


「別れにくくなるっすか?」


「……」


「魔王様の性格からして情が移るなんて最初から分かり切ってた事じゃないっすか。それでもこっちの勇者に頼まれてこっちに来たんっすよね?せっかく仲良くなってきて頼り甲斐があるってみんなが思ってくれて楽しくなってきたのにいつか別れるなんてもう二度と会えないみたいな言い方したら酷っすよ?」


「……」


「…まぁ、そういう風に言わないと魔王様自身、踏ん切りがつかないって言うのもちゃんとわかってるっす」


「…はぁ…私って本当に面倒くさいわね…」


「魔王様は一度手に入れたものは手放したくない人っすからねぇ…手放す辛さを知ったらより過保護が進みそうっす」


「…そうね」



 そう小さく呟いたアリアはすっかり冷たくなったユリの身体を抱き上げると水に濡れた髪を退かして真っ白な首筋を露わにする。



「いつも支えてくれて助かるわ。好きなだけ飲むといいわよ」


「別に血を飲む為に来たわけじゃなかったんっすけど…お言葉に甘えるっす」



 いつの間にか現れていた満点の星空の下、アリアは冷めた身体を温める様にユリを抱きしめ血が抜けていくのを感じる…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ