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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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三つの呪い

 





「いやはや!料理だけでなく夜の見張りまで…!助かりましたアリア殿!」


「いえいえ。気を付けてくださいね」


「ではお先に失礼します!」



 パンという乾いた紐の音と馬の嘶きが響くと商人の馬車がゆっくりと動き出し冒険者の二人、冒険者ではない二人が手を振りその姿を小さくしていくのを見届けたアリアは楽しそうに()()()()()()()()()()面々を見つめる。



「…!…。……!」


「その動きは…()()()()()()()()!?」


「…!」



 言葉は交わせなくても手の形…いわゆる手話を一晩かけてアリアとユリがティリアに教え込んだ所、地頭がよかったのか手話をマスターし手話の説明書を見るメイリリーナ達と会話する事が出来ていた。



「…いい顔する様になったわね」



 手話を教えた時…ティリアはアリアとユリのテントでボロボロと涙を零し今までの思いの丈を全て吐き出したのか今日は昨日より年相応の少女らしい表情を浮かべて話しているのを見守りながら完成まであと一歩の馬車の前で何かを書いている唯織とシルヴィア、ユリの元へと近づいて行く。



「さてと…そろそろ術式が書けたかしら?」


「…頭痛い。疲れた。しんどい」


「…ここの術式間違ってるわよシルヴィ」


「…うぐぅ…」


「いやー…流石に私でもこれはしんどいっすねー…後でもらっていいっすか?」


「いいわよ。好きなだけあげるわ」


「いよっしゃー!がんばるっすー!」


「アリア先生…この大きな馬車を丸ごと()()()()させるのを一人でやろうとしてたんですか…?」


「そうねぇ、ティリアに手話を教えなければ一人でやるつもりだったわ。…唯織は完璧ね?こういうのはきっと詩織より上手いわよ?」


「…む」


「いえ…僕の師匠ならきっともっとうまくやれると思いますから…」


「…ん」


「…?どうしたのシルヴィ?」


「…何でもない」



 真っ黒の木材を握りしめて細い針にありったけの魔力を流して何かの線を彫っていく唯織達から視線を外し、商業用の幌馬車から真っ黒の箱馬車に変わった馬車にアリアが触れて少し魔力を流すと馬車の木材が淡いジグザグの光の線を無数に走らせていく。



「ふぅん…いい感じね、ちょっと試してみようかしら。ちょっとみんな!!耳を塞いでなさい!!」


「え…?アリア先生何するつもりですか?」


「耐久度テストよ」


「は、はぁ…」



 大声を上げて体を解し始めたアリアに危険を感じて唯織はシルヴィア達と一緒に少し離れるとアリアは天高く跳躍し…



「…………っせい!!!!!!!!」


「「「「「「っ!?」」」」」」


「…わーお。すっごい踵落とし」


「っすねー」



 轟音と衝撃と共に箱馬車が天井まで地面にめり込むがアリアの蹴りが当たった場所には掠り傷が付くだけだった。



「…十分ね。これならドラゴンに転がされても壊れないでしょ」


「どんな事を想定しているんですか…」


「念には念をよ。…よっと」



 地面にめり込んだ箱馬車を軽々地面から抜いたアリアは自分が傷つけた場所を()()()()()に変えると唯織達の輪に混ざって真っ黒の木材と針を持ち最後の仕上げに取り掛かっていく。



「…それ、何の術式ですか?」


「これは空間収納の応用で空間拡張の術式よ」


「空間拡張ですか?」


「簡単に言えばこの馬車の中の空間を歪めて広くする感じね。内装に関しては私が調整するから側だけを何とかしてくれれば問題ないわ」


「サラッとまた凄い事を…っと、僕の方は全て完成しました」


「あたしもっすー!」


「……唯織とユリは完璧ね。シルヴィは?」


「…ん」


「…何よこれ、めちゃくちゃ間違ってるじゃない」


「…こういうの苦手、無理」


「まぁ頼んでる側だから別にいいわよ。私が直しておくわ」


「…教えてくれれば自分でやる」


「そう…ならここはこうで…」


「…何だか姉妹みたいですね?」


「そっすねぇ…しばらくかかりそうっすから気長に待つっすか」


「そうですね」



 まるで積み木で遊ぶ親子の様なシルヴィアとアリアを微笑ましく眺めた唯織とユリは離れた場所でティリアと手話で会話している皆の輪に加わっていく…。





 ■





「…出来た」


「ふぅ…結構時間かかったけれどこんなもんね」



 シルヴィアが最後のパーツを空に掲げると太陽はかなり傾き風景をオレンジ色に染めていたがシルヴィアもアリアも満足そうな笑みを浮かべて馬車を完成させた。



「みんな待たせたわね!新しい馬車が出来たからこっちに来てちょうだい!」



 アリアのその声に皆は集まってくるが…表情は何とも言えない表情を浮かべていた。



「もう夜になりますわよ…?また野営ですの?」


「あら?その喋り方でいいのかしら?町娘リーナちゃん?」


「もうティリアに第一王女だって言いましたわ…」


「私も公爵家の人間だって言いました」


「私ももう貴族だからって怯えられなくなりましたよ」


「そう…からかい甲斐がないのね?まぁ、そんな表情をしていられるのも今の内よ?」


「でも…リーナの言う通りもう暗くなりますよ…?僕の魔法なら夜とか関係無いですけど…イオリはどういう馬車なのかわかる?」


「いや…僕も外装しか作ってないからわかんないかな」


「…私も中はわかんない」


「あたしもティリアっちも知らないっすねー」


「…?」


「んじゃ思う存分驚くといいわ」



 そう言いながら笑みを浮かべたアリアが新しい箱馬車を持ち上げて皆の前に置くとアリアの魔力を流されたからか箱馬車にいくつもの線が浮かび上がりゆっくりと扉が開き…



「どうかしら?」


「「「「「っ!!」」」」」


「…おーこれはすげー」


「…?」


「時間かかってると思ったらこんな事してたんすか…」



 箱馬車の中には大き目の食卓に個室の寝室、更にキッチンや浴室等箱馬車には絶対に収まらない設備が完備されておりまるで高級宿屋の一室の様な光景が広がっていた。



「す、すごいですわ!何でこんな狭い箱馬車が広いんですの!?」


「水も流れるし火もつく!しかもなんか涼しい!」


「お風呂も凄く広くていいですね…昨日は水浴びだったので早速入りたいです…」


「わ!男の方も広いよ!」


「…ベッドふかふか。寝れる」


「ふふん。まぁ私にかかればこんなもんよね」



 馬車の中とは思えない空間に興奮したメイリリーナ達は馬車の中ではしゃぎ始めるが唯織とユリだけは呆れた表情を浮かべていた。



「…アリア先生…流石にこれはやり過ぎじゃないですか…?これでは旅とは言えない気がするんですけど…」


「っすねー…これじゃあ結局転移魔法で家に帰ってるのと同じじゃないっすか?確かこの移動や野営ってサバイバルの技術や知識を付けさせるためにするって言ってたっすよね…?精々揺れない様にとか涼しい様にとか脚を伸ばせる様にぐらいの改造だと思ったんすけど…」


「…?…?」


「…」



 控えめに指摘する唯織、的確に指摘するユリ、状況がわかっていないティリア、二人の指摘に顔を背けるアリア…。



「しかも絶対あれっすよね?生徒の事を思って冷たい水だとあれだからってお風呂を作ったり、飲み水とか食べ物でお腹を壊さない様にキッチン追加したり、寝不足で注意不足になったり寝てる間に虫に刺されない様にだったり、不衛生な場所でご飯を食べなくて済む様にってやったっすよね?」


「…」


「図星っすか…」


「あ、アリア先生…僕達の事をそこまで心配してくれるのは嬉しいですけど流石にこれは過保護すぎませんか…?流石にこれじゃあ…」


「う、うるさいわね…気付いたらこうなってたのよ…別にいいでしょこのぐらい…」


「気付いたらってどんだけっすかアリアっち…過保護なのは相変わらずっすねぇ…そこもいい所っすけど…」


「あはは…ありがとうございますアリア先生」


「…まぁ、色々あったけれど本来の目的を果たすわよ。ティリアちゃん?依頼について今から詳しく教えてくれるかしら?」


「…!」


「逆にここまで詳しい話を聞けなくてごめんなさいね…ほらみんな一旦テーブルに集まりなさい!依頼内容について話を聞くわよ!!」



 まだまだ箱馬車に興味を惹かれる皆を手を叩いて席に着かせたアリアはキッチンへと向かい、ユリはティリアの車椅子を押してテーブルへと運ぶとティリアは手話で今回の依頼について話し始める。



「……」


「まずは皆さん依頼を受けてくれてありがとうございます。依頼の内容ですが私のお兄ちゃん…血は繋がっていないお兄ちゃんですが、お兄ちゃんが私の身体を治そうとおとぎ話に出てくるロストポーションを作ろうとして…()()を受けたみたいなんです。だから私はお兄ちゃんの呪いを解きたくて依頼していたんですが誰も依頼を受けてくれなくて…っすね」


「呪い…それはどんな呪いなんですの?」


「……」


「…身体が石になっていく、身体から木が生える、夜になると苦しむ…っすね」


「お、恐ろしいですわね…それは一つの呪いですの?」


「んー…私、お屋敷でおじい様の部屋で本を見た事あるけど一つの呪いでそこまでのものは無かった気がする…」


「私も本で少しだけ見ただけで詳しくはわかりませんね…」


「僕も呪いとかよくわからない…イオリは何か知ってる?」


「…多分それはバジリスクの石化、エントの呪歌、レイスの邪視の三種類だと思う…シルヴィはどう思う?」


「…ん、石化はコカトリスもメデューサも同じだからわからない。でも残り二つはイオリの言ってる奴で間違いないと思う」


「だよね…」


「さ、三種類も呪いがかかってるんですの…?」


「多分ね…詳しく症状を診てみないとわからないけど三つは呪いがかかってると思う」


「…でもそれなら神官に頼めば呪いを解除出来るよね?」


「確かにシャルの言う通りだけど…シャルって神官に解呪してもらうのっていくらかかるか知ってる…?」


「え…?利用した事ないのでわからないです…」


「呪い一つに金貨10枚、更に解呪が難しい呪いであればどんどん金額が上がっていくんだよ。金貨一枚は王都の平民が一ヶ月で稼げる金額。ティリアさんは王都外の村で暮らしているから呪いを解除する為のお金を持ってないと思うよ」


「う…そうなんですね…」


「だから呪いを解く素材を集める為に冒険者に依頼をしていたという事ですね…あ、でも私達には勇者様の弟子であるユイ君とシルヴィがいるじゃないですか。二人の回復魔法とかで治す事は出来ないんですか…?」


「確かにそうですわ!それにわたくし達にはアリア先生もいますわ!」


「確かに!イオリ君とシルヴィ、アリア先生なら何とかなるかも!」



 呪いを解くのに頼りになりそうな三人を思い出したメイリリーナ達は先程までの重苦しい雰囲気を霧散して笑みを浮かべて唯織達に視線を投げるが唯織とシルヴィアは俯き、アリアは我関せずで料理を作り続けていた。



「…そ、それがね…僕達の師匠は回復魔法が苦手で…僕自身は掠り傷を癒したり止血したりしか出来ないんだ…」


「…私も」


「そ、そうですのね…ならアリア先生はどうなんですの?」



 そうメイリリーナが問いかけるとアリアは料理を作る手を止め…



「申し訳ないけれどこの依頼はあなた達で解決してちょうだい」


「なっ!?」



 冷たく言い放ち料理をまた作り始めてしまう…。

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