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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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読めない助け

 





「へええええ…ユリさんのこの武器とても不思議な形ですね…?歯の部分がギザギザ…それに真っ赤…どんな鉱石を使ったんですか?」


「内緒っす!!」


「そうですか…やっぱりSSSランク冒険者ともなると装備も未知なんですねぇ…アリアさんの武器は…白黒の手袋とブーツですか?」


「そうね」


「何も変哲もない手袋とブーツですね…本当にその身一つで戦われてるんですね?」


「魔獣相手なら拳と蹴り以外に剣とかいろんな武器も扱うけれど人相手なら無手ね。相手も油断するし加減間違えて殺す心配もだいぶ減るから基本は何も持たないわね」


「なるほど…」



 長テーブルに置かれた白黒の手袋とブーツ、全てが真っ赤で少し大き目で特殊な形をした剣を何度も手に取り熱心に見つめるファルファはふとアリアの襟元が最初よりはだけている事に気付く。



「あ、もしかしてこの部屋暑かったですか?アリアさん」


「え?別にそんな事ないわよ?」


「そうですか…?あ…何かアリアさんの首から血が出てませんか?」


「「…」」



 真っ白の肌だからこそ映える赤色が首元に見えたのかファルファがそう問うとアリアとユリの動きが固まるがアリアが首元に手を当てるとその赤色は綺麗さっぱり無くなっていた。



「別に血なんて出てないわよ?」


「あ、あれ?どうやら見間違いだったみたいですね」


「でもまぁそういう変化を感じ取るのはとってもいい事よ?将来が楽しみね」


「そ、そーっすね!マジいい感じっす!」


「そ、そうですか?でも兄からはお前はまだまだと…」


「兄…もしかしてファニスさんの事かしら?」


「そうですね…よくわかりましたね?」


「同じ森人族(エルフ)で同じ色の瞳、ファニスさんがファルファさんを見る目がただの受付嬢に向ける様なものじゃなかったわ」


「っすねー。心配してる感じっしたもんねー」


「さ、流石SSSランク冒険者ですね…観察眼が凄いです…」



 そんな話をしながら三人で会話を弾ませていると唯織達が出て行った扉がノック無しに開き気を失ったのか青白い顔をして唯織とテッタに脇を抱えられているファニスとシルヴィア達が部屋に戻ってくる。



「に、にいっ…ギルマス!?」


「すみませんアリア先生…ファニスさんが…」


「…さっき聞こえてた悲鳴はそういう事ね。唯織達はギルドカードを発行してもらえたのかしら?」


「あ、はい。みんなのギルドカードを発行した後ぐったりしてしまって…」


「そう…ファルファさん、申し訳ないわね。多分だけれどファニスさんの個人テストかなにかでうちの生徒達がやりすぎちゃったみたいだわ」


「…確かにギルマスなら何かしそうですね…」


「そういう事だから…悪いのだけれど任せちゃってもいいかしら?」


「わかりました」



 そう言うとファルファは申し訳なさそうにしている唯織とテッタからファニスを受け取りソファーに寝かせて笑みを浮かべてくれるが…



「…やっぱり後味悪いわね。私の生徒が迷惑かけたわけだし何か塩漬けになっている討伐依頼とかあるかしら?薬草採集とか街の清掃とか普通の冒険者じゃこなせない依頼でも何でもいいわよ。依頼料もいらないわ」


「えっ!?SSSランク冒険者様にそんな…」


「世界に五人しかいないSSSランク冒険者の内、二人をタダでこき使えるチャンスよ?そんな事をさせられるのは今ここに居るファルファさんだけだわ。箔が付くわよ?」


「え…えっ…えっとぉ…」



 アリアがそう切り出すとファルファは塩漬けになっている依頼に心当たりがあったのか傍にあった分厚い依頼書を慌てながらパラパラと捲っていき二つの依頼書をテーブルに並べる。



「…で、でしたらこの二つの依頼…どうでしょうか…?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という馬鹿げた内容だと思われるかもしれませんが…」


「確認させてもらうわよ」



 二枚の紙を手に取るとアリアは綺麗な文字で書かれているが所々何かで滲んでいる依頼書の内容と子供の拙い文字ですら読みやすいと思える程の飛び飛びでよくわからない文字で書かれたもう一枚の依頼書の内容に眉を顰めて呟く。



「…これ、何時の依頼なのかしら?」


「綺麗な文字で書かれている依頼書に関しては三年前でもう一つの依頼書は()()()()()()()()()()…」


「つい最近だと思います…?何でわからないのよ?」


「す、すみません!…そ、それが…この依頼書、何て書いてあるかわからないのと差出人不明…更に目安箱から出てきた依頼書でして…」


「…いつその目安箱に入れられたかわからないって事なのね?」


「はい…最初は何かの悪戯かと思ってたのですがいつの間にか同じ依頼書が目安箱の中にまた入ってたりと…正式な依頼手順を踏んでいないので無効依頼なのですが毎回入っているので一応依頼書は取ってあるんです」


「…そう」


「んー?どんな依頼なんすかー?あたしも見ていいっすか?」


「ええ」



 話の内容がいまいちわからず焦れたユリがアリアから二枚の依頼書を受け取るとアリアと同じ様に眉を顰める。



「…なるほどっすねぇ……これ、()()()()()()()()()()()んじゃないっすか?」


「そうね。解決してあげるべきね」


「っ!?お、お二人はこの依頼を完遂出来るんですか!?」


「出来るっすけど…唯織っち読んでみるっす」


「は、はい」



 少し疲れた様にため息をついたユリはソファーに体を沈ませて後ろにいる唯織達に二枚の依頼書を突き出すと唯織はその依頼書を受け取り読み上げていくと徐々に眉間に力が入っていく。



「依頼内容、世界樹アルムの雫、竜の爪、賢者の石の採集…これ、()()()()()()()()()()()ですか?」


「ろ、ロストポーションですの!?」


「えっ?…でもロストポーションっておとぎ話の産物だよね?」


「あれですよね…シャルが言ってるのはどんな呪いをも解呪したり失った四肢を元の状態に戻したり死者蘇生が出来るという伝説の…世界樹アルムの雫と竜の爪は手に入りそうですが…」


「でも世界樹アルムの雫と竜の爪が手に入ったとしても…というよりその二つを見る事すらかなり難しいのにそもそも賢者の石と深者の石って存在しないんだよね…?」



 唯織が読み上げた依頼書の内容にメイリリーナ達はおとぎ話に出てくるロストポーションについて議論を始めるがシルヴィアは唯織の肩に顎を乗せながらもう一つの依頼書を覗き込む。



「…今問題なのはそっちじゃない。こっちの読めない依頼書の方」


「うん…多分この依頼、同じ人の依頼か依頼主に近しい人の依頼じゃないかな…?」



 そう唯織が推察するとアリアは黙って笑みを浮かべユリは声を弾ませながら唯織に問う。



「何でそう思うっすか?」


「まずこの何が書かれているかわからない依頼書なんですが、インクが渇いていない状態で触ってしまってるのか全てが左から右へインクが擦れています。これを見る限りこの依頼書をかいた人物は恐らく目が見えていない…指で触って手探りで書いた可能性があります。目が見えていれば擦れない様に気を付けるはずですから」


「ふむふむ?続けるっすよ」


「はい。次に綺麗な文字で書かれている依頼書ですが三年前に依頼されていて涙で滲んでいます。なのでこの綺麗に書かれた依頼書の依頼主はもう一枚の依頼書を書いた目の見えない誰かの為にロストポーションを求めている、もしくは目が見えなくなってしまった自分の為にロストポーションを求めている…そしてこの何が書かれているかわからない依頼書は多分ですが…依頼を出しても受領されない事に痺れを切らして自分で材料を求め…ミイラ取りがミイラになった…だからこの目の見えない依頼主が頑張って依頼している…どうですか?」


「もう一声っすね。まだまだこの二枚の関連付けが甘いっす」


「…なら根拠は使われているインクと筆記用具です。僕もよく師匠に手紙を書くのでわかりますがこのインクは店で売られている様な物ではなく自作しているだろう色合いです。そして筆記用具ですが多分これは木を尖らせてペンの代わりにしているのか通常のペンとは違う紙の削れ方をしています…これでどうですか?」


「…おっけーっす。あたしもアリアっちも唯織っちと同じような理由でこの二枚の依頼書は同じ人、もしくは目の見えない家族からの依頼だと思ってるっす」



 そう唯織が口にするとアリアが何も言わずにソファーから立ち上がり唯織の頭を一撫でして部屋を出て行く。



「あ、え?アリア先生?」


「あれはついてこいって感じっすねー。…んじゃファルファっち、この二つの依頼はあたし達が何とかするっすー」


「え、あはい!すみませんがよろしくお願いします!」


「よーし!みんな付いてくるっすー!野外活動の始まりっすよ!」


「ちょ!?…ファルファさん失礼します!」



 そしてソファーから立ち上がるのではなくタンッと唯織達を跳び越すように跳ねてアリアの後を追いかけ始めたユリに置いてかれまいと唯織達もファルファに挨拶して部屋を飛び出していく…。





 ■





「んー…これなら六人全員ゆったりと座れそうね…この馬車をもらっていいかしら?」



 真新しく大きい商業用の幌馬車を指差したアリアは後ろで手を揉み込んでいる裕福そうな人に話しかけるとその人はニカっと歯を見せて笑う。



「お目が高いですねー!かしこまりました!価格は金貨50枚ですが馬は如何しますか!?もしお求めであれば二頭で金貨50…計白金貨1…いえ、金貨90枚でご案内出来ますが!」


「有難い申し出だけれど馬は大丈夫よ。実はもう馬は持ってるのよ」


「左様でございますか!ではではこちらで書類の記載をお願いしても宜しいでしょうか!?あ!お客様!是非馬車にこの様なオプションを…」



 そう言って商魂逞しい商人に連れられて行くアリアだったがユリ含め唯織達はアリアがパパっと買っていた馬車に夢中になっていた。



「馬車って言っても荷馬車ですわ…これに乗るんですの?」


「うーん…流石にこれは辛そう…」


「そうですね…もう少し良い物がいいんですが…」



 王族貴族のメイリリーナ達はアリアが買った馬車に不満を零して馬車を見つめるが…



「き、き、金貨50っ…そ、そんな大金…」


「金貨1枚って平民の1ヶ月分の給料だよね…?50枚…」


「…お金持ち」



 平民である唯織達は金貨50枚の価値について考え小さく身震いをさせるとユリは腰に手を当て呆れた表情を浮かべる。



「SSSランク冒険者になれば一依頼白金貨数枚っすからねー。でもあまりにも高すぎてほとんど依頼ないっすからあんま無駄遣い出来ないんっすけど…まぁいいっすか」


「「白金貨!?」」


「…金貨100枚で一枚?」


「…意外とSSSランクの冒険者を雇うのは安いんですのね?」


「世界で三人…今はアリア先生とユリさんもだから五人だけど安いんですね…」


「そうですね…()()()()()()()()をその金額で雇えるのは確かに…」


「「アリア先生レベル…た、確かに…」」


「…意外と安い?」



 ユリの発言と王族、貴族令嬢の発言で金銭感覚が鈍り始めた庶民達だったがユリは呆れた様に訂正する。



「んや、あたしらはわざと安くしてるんっすよ。本来ならSSSランクの冒険者の依頼料が白金貨50枚からっすもん」


「「「ごっ!?」」」


「流石に上流階級のおじょー様達も目ん玉飛び出たっすか?ちなみにSSランクは白金貨数枚、Sランクは金貨50枚前後ってとこっすね」


「「「……」」」


「まぁあたしらが何で安いかっすけど、お金っつーもんで本当に助けて欲しい人を助けれないのは後味悪いっすからねー。お金が有り余ってる依頼人なら遠慮なくもらうっすけど、お金がない人からはこんな感じで別の形の報酬をもらってるっす」



 そう言うとユリは真っ黒の軍服を捲りベルトに付けられた木の実で出来たアクセサリーを唯織達に見せると唯織は当然の疑問をユリに投げる。



「…では何故報酬を白金貨数枚より下げないんですか…?」


「唯織っちは痛い所突くっすねー…冒険者ギルドでSSSランクがはした金で動くと価値が下がるってーあほくさい理由でこれ以上下げらんないんっすよ。ほんっとーに馬鹿げてるっすわ…わからなくもないんっすけどねぇ…だからまぁ…わざとこっちが何かをしでかして塩漬けになってる依頼をわざと受けてるっつーわけっす」


「な、なるほど…」


「あ、ちなみにっすけど魔色検査の件もわざとっす」


「シャルがそうなんじゃないかって言ってたので何となく察してました…」


「そっすか」



 素っ気無く呟いたユリはしばらく無言で馬車を見つめ…眉間に皺を寄せ何かを悶々と考えているのかこめかみを押さえつつ言葉を零す。



「…なんてゆーか…やり方とかはすっごい無茶苦茶でアリアっちは色々不器用っすけど唯織っち達の事を大切にしてるっつー事は知ってて欲しいっす」


「…はい、それもみんなちゃんとわかってます」


「そうですわね。ここまで来て何も思われてないとは思ってませんわ」


「初めて会った時の印象はもうほんっとうに最悪でしたが…」


「ええ…何度殺されそうになったか…でもそのおかげで世界が変わりましたね…」


「…僕はあの日、本当に全部を変えてもらったから…」


「…アリアっちいい先生。みんなわかってる」


「…そっすか。ならよかったっす」



 皆が笑顔を浮かべているのを見たユリは釣られる様に笑みを浮かべ…



「馬車買ったわよ~…って、何みんな笑ってんのよ?」


「別に何もないっすよー!さっさと依頼主んとこいくっす!」


「「「「「っ!?」」」」」


「…おーめっちゃ目立つ」



 不思議そうな顔をしているアリアを迎えユリは馬車を片手で引っ張り歩き出す…。

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