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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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シュークリーム

 





「…うくっ…ふあぁ~…寝ちゃってたのか…」



 雲一つない青空の下、レ・ラーウィス学園の屋上で授業中なのか校庭に響く教師と生徒の声を音楽にして微睡んでいた唯織は身体を起こして心地のいい風に髪を棚引かせていた。



「にしても平和だなぁ…アリア先生何してるのかなぁ…」



 特待生クラス編入を賭けた決闘から約一ヶ月…その間アリアは一度もレ・ラーウィス学園の特待生クラスに顔を出していなかった…。



 ………



「ちょっとみんなに言っておくことがあるわ」



 決闘が無事に終了した祝勝会中、アリアは唐突にそう切り出すと耳を疑う事を言い出す。



「私、今日からしばらくの間この国を離れるわ。私がいない間は各々自主トレしててちょうだい」


「「「「「ええええっ!?!?」」」」」


「…めっちゃ唐突」


「んまぁそういう事だからよろしくね」



 自分用に取り分けた料理を全て平らげるとそれだけを言い残して指をパチンと鳴らしアリアは姿を消した…。



 ………



「ん~っ…アリア先生の事だから何も無いと思うけど突然いなくなると少し寂しく感じるなぁ…」



 強張った体を伸ばしながら校庭を見下ろしていると12時を告げる鐘が響き校庭に出ていた生徒達はこぞって学園の中へ引き返し始める。



「もうお昼か…別にお腹空いてないし…する事ないなぁ…」



 一切動いてないからか全然空腹を訴えない腹を擦りつつ無人の校庭を眺めていると…



「あ、イオリさん。ここで会うなんて奇遇ですね?」


「リーチェ?どうしたの?」



 腰の後ろで交差する様に吊るした二本の剣をカチャカチャと揺らしながらオレンジの髪を押さえているリーチェが屋上に現れた。



「私は自主訓練を終えて少し休憩しようかと思って」


「そうなんだ。ここは晴れた時すごく心地いいもんね」


「イオリさんはどうしてこちらに?」


「特に理由はないんだけど…アリア先生がいないとなんか暇で…」


「ああ…いい意味でも悪い意味でも印象が凄いですからね」



 そう言いつつ唯織の隣に立って落下防止の柵に体を預けたリーチェは銀色のブレスレットに魔力を流して空間収納から茶色の袋を取り出す。



「よかったらイオリさんも食べますか?」


「ん?何それ?」


「学食で頂いて来たんですがシュークリームというお菓子です。甘いですよ?」


「へぇ…学食ってお菓子もあるんだ?まだ一回も行ってないから知らなかった…」


「まぁ、イオリさんもアリア先生と同じでいい意味でも悪い意味でも印象が強いですからね。どうぞ」


「あはは…ありがとう」



 小麦色のシュークリームを受け取った唯織は初めて食べるシュークリームがどんな味なのか想像しながら口をつけると…



「っ!お、おいしい!!」



 あまりのおいしさに目を真ん丸に見開きながら齧った場所から垂れるクリームをまじまじと見つめているとリーチェは微笑みながら茶色の袋からもう一つシュークリームを取り出す。



「…ふふ。まだ何個かあるのでもう一つ要りますか?」


「え?でもリーチェの分だよね?」


「構いませんよ。一人で食べるより誰かと食べた方が美味しいですから」


「そ、そっか…じゃあお言葉に甘えて…」



 もう一つシュークリームをリーチェから受け取るとリーチェも袋から取り出して小さく齧り始める。



「うん、やっぱり甘くて美味しいですね」


「リーチェは甘いお菓子が好きなの?」


「そうですね…基本お菓子であれば好きですがほら…アリア先生の手料理を食べた後だとどうしても食堂の料理が…」


「あ、ああ…わかる…学食じゃないけどお店で食べてもそう感じるし贅沢な悩みだよね…」


「ええ…ですので基本的にはお菓子で空腹を紛らわしてますね」


「そうなんだ。…あ」


「…?どうしたんですか?」


「リーチェ動かないで」


「ひゅっ!?」



 突然頬を優しく触られた事にリーチェは奇妙な声を上げて動かないでいると唯織の作り物の様な綺麗な顔が近づいてくる。



(な、何ですか!?何でいきなり!?か、顔近い!?まつ毛も長いし肌も綺麗だし目も綺麗で吸い込まれそう…それに何だかいい匂い…な、何ですかこの状況!?!?)



 顔を赤くしながらこの後何をされるのかと目をきつく閉じてぐるぐる考えていると唯織が離れていく感覚を感じる。



「う…え?ど、どうしたんですか?」


「いや、リーチェのほっぺにシュークリームのクリームが付いてたから」


「っ!?…そ、そうですか…」


「…?でもちゃんととれたよ?」


「そ、そうですね…ありがとうございます…」


「…?」



 バクバクと主張し続ける心臓をぎゅっと押さえつけたリーチェは若干の残念さを感じつつ何度も深呼吸をして気持ちを落ち着けていく。



「イオリさん?あまりそうやって異性の顔を触ったりしたらダメですよ?」


「そ、そうなんだ…よく師匠は取ってーとか拭いてーとか言ってたからつい…」


「そうでしたね…イオリさんの周りの異性と言ったらシオリ様かシルヴィですもんね…」


「あはは…」


「…」



 申し訳なさそうに苦笑してまたシュークリームを齧っていく唯織の横顔を見たリーチェはまた心臓が主張し始めたのを感じながらポツリ呟く。



「…その、よかったら………ませんか…?」


「え…?どうしたの?」


「…あの…王都…二人で…」



 顔を赤らめながらもじもじと単語だけ喋るリーチェに首を傾げた唯織だったがリーチェの言いたい事がわかった唯織は笑みを浮かべる。



「…ああ、うん。でも僕王都の事何も知らないよ?それでもいい?」


「っ!?だ、大丈夫です!男爵と言っても一応貴族ですから王都には詳しいですし案内します!!」


「そっか。…じゃあ何時にする?今から行く?」


「それは急すぎます!色々準備があるので!!」


「そ、そうなんだ…じゃあ何時が…」


「あ、明日にしましょう!」


「明日ならいいんだ…わかった、じゃあ明日…学校終わったらにする?」


「…せっかくなので朝からにしませんか?学園にはイオリさんが透明の魔色だと知ってる人が多いですし鉢合わせすると面倒ですから…」


「そうだね…じゃあ準備出来たら寮の前で待ち合わせかな?」


「本当は別の所を待ち合わせにしたいんですが…イオリさんは寮と学園を行き来する場所しか知りませんもんね…それでいいです」


「わかった。明日楽しみにしておくね?」


「ええ。…くれぐれも他の人には内緒でお願いしますね?」


「え?…ああ、うん。わかった」


「で、ではまた明日!!」


「っ!?…まぁ、ここから飛び降りたぐらいじゃ怪我しないよね…」



 明日の予定を決めたリーチェは屋上から飛び降りて校庭に着地すると校舎の中に消える。



「王都か…」



 王都で生活する人々に感じた様な疎外感や劣等感を友達が出来た事で一切感じていない唯織は笑みを浮かべ明日の王都巡りに思いを馳せる…。



 そして…



「…聞いたかしらシャル?」


「う、うん…リーチェがイオリ君を()()()に誘ってた…」


「これは…尾行ですわね」


「ええっ!?尾行するの!?」


「だってこんな事ありませんわよ!?絶対に尾行ですわ!!シャルは気になりませんの!?」


「うっ…気になるけど…」


「なら尾行ですわ!」


「う、うーん…いいのかな…」



 物陰から唯織とリーチェを監視するメイリリーナとシャルロットは姿を消した…。





 ■





 次の日の朝…



「イオリ様、おはようございます。もう登校…というよりはお出かけでしょうか?」


「セルジュさんおはようございます。今日はちょっと別の用事で…しばらくここに居させてもらっていいですか?」


「ええ、問題ございません」



 特待生寮の前、いつもの様に掃き掃除をしているセルジュに許可を得た唯織はアリアからもらっていた服を着て待ち合わせをしているリーチェの事を待ち始める。



「かなりおめかしされているようですが今日はどちらに行かれるのですか?」


「あ、えっと…その…」


「もしかして女性とデートでしょうか?」


「え?デートって何ですか?」


「デートと言うのは男女二人きりでご飯を食べたり色々なお店を回ったりするお出かけの事です」


「なるほど…であればデートですね」


「そうですか…であればいくつかイオリ様にアドバイスをさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「アドバイスですか?…是非お願いします」


「かしこまりました。デートという事であれば女性はそれ相応の勇気を出しているという事をまず覚えてください」


「それ相応の勇気…わ、わかりました」


「次に変化に気付く事です」


「変化…ですか?」


「イオリ様なら問題は無いと思いますが例えば髪型や服装…いつもと違う部分に気付いたらそれを伝えてあげるんです」


「いつもと違う部分を伝える…?」


「ええ。これは全てを正直に伝える必要はありません。良い所だけを伝えてあげるのがコツです。もしお相手が今回のデートを待ちわびて寝不足だったりした場合、そういう所は指摘せずに良い所だけを言ってあげるんです」


「な、なるほど…」


「次は靴と足に注意を向けてください」


「く、靴にですか?」


「ええ。女性にとってデートは相応の勇気がいると先程も伝えましたが今イオリ様がおめかししているのと同様に女性もおめかしをしてそれに合う靴を履かれていると思います。…ですがその靴はいつもの履き慣れている靴とは別の履き慣れていない靴を履いている可能性があります。その状態で長時間歩いていれば足は悲鳴を上げて痛くなります。適度な休憩をしたとしてもそれは避けれない事ですのでその気遣いをしてください。後歩幅を合わせる事もお忘れなく」


「なるほど…」


「これが最後ですが…今日という日を思い出せる思い出の品を何か一つプレゼントしてあげてください」


「今日を思い出せる思い出の品…ですか…」


「ええ。しっかりと形になるものです」


「わ、わかりました。デートと言うのはなかなか難しいんですね…アドバイスありがとうございます」


「いえいえ。イオリ様ならアドバイスしなくても問題ないと思いましたが念の為に。ではわたくしがここに居るとお相手が来ない気がするので別の場所を掃除させて頂きます。お楽しみくださいませ」


「あ、はい。セルジュさんありがとうございます」


「では失礼致します」



 唯織にアドバイスをしたセルジュは寮の中からずっとこちらを伺っているリーチェに気付いており気を利かして待ち合わせ場所から遠ざかって行き…



「…何をされているのでしょうかメイリリーナ様、シャルロット様?」


「「っ!?」」



 寮の影から監視していた怪しい変装をしているメイリリーナとシャルロットに声をかけるのであった…。

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