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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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黒い死神

 





「ひぃぃぃ!?!?こ、降参!!!」


「しょ、勝者テッタ!!」



 黒髪の生徒の首と心臓に後ろからアンドロメダを添えていたテッタはくるくるとアンドロメダを回しながら鞘に納めると笑みを浮かべる。



「…ふぅ。戦ってくれてありがとうね」


「っ!?ああああ!!!!」


「…や、やりすぎたかな…?」



 テッタの笑みは可愛らしい天使の様な笑みだったのにも関わらず対戦相手だった生徒には別物に見えたのか大声を上げながら走り去っていく。



「次は誰が……っていないですけど、ミネア校長…?」


「え、あ…皆棄権したようですね…」


「わかりました。では失礼します」



 シャルロットから続きメイリリーナ、リーチェ、テッタの決闘はたった一戦で挑戦者の心を折り、圧倒的な実力の差から決闘場ではミネアと対戦者ぐらいしか声を出しておらずとても静かだが…



「イオリ、頑張ってね?」


「イオリさん、頑張ってくださいまし」


「イオリ君頑張って!」


「皆に見せつけてきてくださいね」


「…イオリ、ふぁい」


「うん、みんなありがとうね」



 テッタと入れ替わる様に唯織が決闘場の中央へと歩きだすと静かだった決闘場に冷たい悪意がどんどん満ちていく。



(まぁそうだよね…)



 突き刺さる様な視線、見下すような視線、ひそひそと聞こえる声…その全てが自分に向けられ体から熱が無くなっていく感覚を感じながらミネアの元へと行くとミネアは優し気な笑みで迎えてくれる。



「イオリ君…これからきっとイオリ君を見る皆の目が変わります。頑張ってくださいね」


「…はい、頑張りますミネア校長」



 冷たい悪意を溶かす様に声をかけてくれるミネアに弱々しくても笑みを向けた唯織はテッタ達と戦うはずだった人達が唯織なら倒せると踏んで大きくなった一年生の群れを睨みつけて決意の声を上げる。



「…僕は透明の魔色を持つ特待生クラスの唯織です!!!ですが僕は皆さんが思っているほど弱くもありませんし無能ではありません!!!それを今ここで証明する!!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!」


「い、イオリ君!?」



 そう声を荒げると一年生の群れが爆発する様に声を上げ始め様々な魔法が空中に浮かびあがりミネアも驚きを隠せずに困惑するが…



「ミネア校長、唯織がやると決めたので私達と見守りましょう。唯織?殺さなければ私が腕を落とそうが脚を刎ねようが何とかしてあげるから全力でやるのよ?」


「わかりました!ありがとうございます!!」


「あ、アリア先生!?ちょ、待っ」



 いつの間にかミネアの後ろに立っていたアリアはミネアを攫う様に抱きかかえて遠くに離れ…唯織はアリアに感謝しながら目をスッと細めてナイフケースからトレーフルと空間収納から魔王の角で作られた詩織の剣を抜き放つ。



「すぅぅ…はぁぁ……よし…!!!全員ぶっ飛ばしてやる!!!!!!!!」



 激しく跳ねる心臓を抑える様に深く深呼吸して叫ぶと開始の合図と言わんばかりに色取り取りの魔法が唯織に襲いかかるが…



「はああああああっ!!!!!」



 唯織は左右に持った詩織の剣とトレーフルで魔法を次々と斬り裂き一年生の群れへと瞬発していく。



「なぁっ!?いつのまに!?」


「いくぞ!!!!」


「あがっ!?!?」



 一番前で魔法を放っていた男子生徒の鳩尾に蹴りを放って吹き飛ばすと後ろに控えていた生徒も巻き添えになって吹き飛び空中に浮かんでいた魔法が制御を失って爆発していく。



「次っ!!!!」


「ひあっ!?!?ぐあっ!!!!」



 魔法の爆発に紛れながら再度瞬発した唯織は近くの女子生徒の制服を掴み勢いよく投げ飛ばすとそれに巻き込まれる様に生徒達が転びまた空中に浮かんでいた魔法が爆発していく。



「そこ!!!!」


「っ!?うぐあ!?!?」



 空中では魔法が誘爆する様に爆ぜているのにも関わらず唯織は足を一切止めずに目に付く相手に瞬発して次から次へと流れる様に処理をしていく。



「次!!!!」


「がぁっ!?」


「次!!!!」


「きゃあっ!?」


「次ぃ!!!!」


「うがぁ!?」


「次ぃ!!!!!」



 鬼神という言葉が優しく思える程の動きで相手の魔法を斬り裂き時には避けて同士討ちさせ、的確にトレーフルの柄や剣の柄で意識を刈り取っていく唯織は黒い死神そのものだった。



「僕を馬鹿にしてた奴ら!!!さっさとかかってこい!!!ぶちのめしてやる!!!!」



 そう叫んだ唯織はまだまだ数の減らない群れへと果敢に襲い掛かっていく…。





 ■





「ちょ!?アリア先生!?何故止めないんですか!?」


「…?止める必要ありますか?」


「っ!?あなたって人は…!!離してください!!!」



 テッタ達との決闘を放棄した者も含め約200人の生徒の群れに一人で突っ込む唯織を心配して今すぐにでも止めたいと考えたミネアはどうにかアリアが掴む腕を振り解こうとするが…



「少し黙って見ててもらっていいですか?」


「ぐっ!?」



 アリアは笑みも浮かべず平坦な声色でミネアの腕を後ろに捻り上げて動きを封じる。



「ちゃんと見てくださいミネア校長。唯織は今一人で今まで自分を虐げていた者達と戦っているんですよ?何故止める必要があるんです?」


「…」


「それにほら、魔法なんか使わなくても唯織は無傷。さっきから剣の腹を使って斬らずに意識だけを刈り取ったり拳や蹴りを上手く使ってます。冷静に戦ってる証拠ですよ」


「ですが…一年と言ってもあの数は…」


「だから大丈夫ですよ。唯織は詩織の弟子ですしこの三ヶ月間、私が食事まで作って徹底的に鍛えたんですよ?シャルやリーナ、リーチェ、テッタの強さも見ましたよね?魔法を一切使うなと制限したのは私ですがどうです?ミネア校長は魔法を使って魔法を使わない今のシャル達に勝てますか?」


「っ…」


「今はこの子達の様に見守ってあげるのが大人ってもんじゃないですか?」


「…」



 捻り上げた腕を離し少し離れた場所で唯織を見守るシャルロット達に視線を向けさせるとミネアは深くため息をつく。



「はぁ…わかりました…ならこのまま決闘は続行させます…」


「ありがとうございます。まぁ、本当に問題ありませんから見ててください」


「はぁ…」





 ■





「無色の無能のくせに生意気なんだよ!!!!」


「僕は無色でも無能じゃない!!!僕は唯織だ!!!」


「ぶあっ!?!?」



 顔に回し蹴りを放ち男子生徒をふらふらと立ち上がろうとする生徒に向って蹴り飛ばし…



「火よ!!水よ!!我が呼びかけに答え槍の姿を現し『遅い!!!』うぐっ!?」


「風よ!!我が呼びか『遅い!!!!』がはっ!?」



 詠唱が聞こえれば一瞬で間合いを潰して殴り飛ばし…



「燃えちまえ!!!!」


「っ!!せやぁ!!!」


「なっ!?中級魔法を斬るとか何なんだよ!?!?がはっ!!!」



 詠唱が終わって魔法が放たれても剣とナイフで斬り裂き強かに剣を打ち付け…



「すみませんが眠っていてください!!!」


「きゃぁっうっ!?」


「もう一度すみません!!」


「うぐあ!?」



 通りすがりに女子生徒の制服の襟を掴み勢いよく地面に叩きつけて群れに向って放り投げ…



「食らええええ!!!」


「間に合わない…なら!!!」


「ぐはっ!?!?」



 遠くから魔法を撃つ生徒を妨害出来ないと悟って空間収納から薊を取り出し透明の矢で即座に撃ち抜き…



「隙だらけだ『見えてる!!』ぶべぁ!?」



 後ろから斬りかかってくる生徒の顎を薊を振り上げて打ち抜き…



「土よ!我が呼びかけに答えかの者を捕えよ!!フル・アースウォール!!」


「火よ!我が呼びかけに答えかの者を捕えよ!!フル・ファイヤーウォール!!」


「閉じ込められた…なら!!!」



 火と土の壁で囲まれると空間収納から大鎌形態のアコーニトを取り出し囲っている壁を全て刈り伏せ…



「な!?なんだよその鎌!?!?」


「シッ!!!」


「ふぐぅっ!?」



 魔力を流してガチャガチャと音を立てながら槍形態に変わったアコーニトの石突で鳩尾と顎を穿ち…



「調子にのってんじゃねぇぞ!!!」


「僕は!!僕を見てくれる友達と過ごしたいだけなんだ!!!絶対に特待生クラスの席を譲ったりなんかしない!!!」


「おぼぁっ!!」



 真正面から振り下ろされた剣をアコーニトで受けがら空きになった腹に蹴りを入れ…



「な、何でだよ…無色の無能なんだろお前…何で…何でそんなつえぇんだよ…」


「…そんなの知りません。僕は僕です。…眠っててください」


「ぐっ!?…」



 大鎌の姿に戻ったアコーニトを首に添えられガタガタと足を震わせていた男子生徒の意識を刈り取った唯織は静かに小さく息を吐く。



「…ふぅ…終わった…」



 決闘場に倒れ伏して一向に立ち上がる気配を見せない約200人の生徒達を一瞥した唯織は空間収納にアコーニトを仕舞うと静寂を保つ決闘場に凛とした声が響く。



「勝者イオリ!!これにて特待生クラス編入を賭けた決闘を終了します!!」


「……」



 ミネアの声が響くと観戦していた上級生達はざわざわとし始め唯織が倒れ伏している一年生達を少し申し訳なさそうに見つめていると頭に優しい重みを二つ感じる。



「よくやったわね唯織。まさか全員ぶちのめすとは思わなかったわよ?」


「…イオリぐっじょぶ」


「アリア先生、シルヴィ…ありがとうございます…」



 アリアとシルヴィアの手で優しく髪を梳きながら撫でられる心地のよさに目を閉じて身を委ねそうになっていると背中に何かが触れた。



「やりましたわねイオリさん。流石ですわ」


「イオリ君はやっぱりすごいね?びっくりしちゃった」


「まさか1対200でも無傷なんて思いませんでしたよ?今度手合わせしましょうね?」


「流石イオリだね!僕、信じてたよ!イオリなら大丈夫だって!」


「みんな…」



 皆が拳を唯織の背中に当てるとそのまま笑みを浮かべながら片手を上げ…



「…うん、みんなありがとう!」



 唯織は笑みを浮かべ初めて皆とハイタッチをして喜びを共有し合った…。

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