不安
重厚で立派な両開きの扉の前…その前には雪の様な白髪から黒髪に戻った唯織が俯きながら立っていた。
(…やっぱりこうなっちゃった…理事長ガイウス・セドリック公爵様からの呼び出し…退学…かな…)
魔法の授業が行われてから一ヶ月…あれから唯織は担任の先生に試験の日まで休む様に言われ、一度も学校の敷地を跨ぐ事が出来ずにいた…。
そんな試験日の当日、まだ他の生徒達が登校していない早朝に理事長であるガイウス・セドリック公爵から直々に呼び出しを唯織はもらっていたのだ。
(…退学はまだいいとしても師匠に嘘を付いてた事がバレる…どうしたらいいんだろ…)
退学よりも自分が元気にやっているという嘘を師匠についてしまった事に扉の前で唯織が頭を悩ませていると…
「…何をしている?イオリ君。その扉は勝手に開いたりはしないのだが?」
「っ!?」
まるでこちらを見透かしているとでも言いたげな物言いで扉の奥から低く重圧のある声色が問いとなって響き、唯織はビクリと体を震わせて扉へと手を伸ばす。
「し、失礼します…由比ヶ浜 唯織…理事長ガイウス・セドリック公爵様の召喚を受けて参りました…」
「…うむ。わざわざこんな時間に来てもらってすまないな」
服の上からでもわかる鍛えあげられた肉体、相手を見透かし射貫く様な鋭い目元に金色の瞳、伸びた白髪を頭の後ろでしっかりと結んでいる男…理事長ガイウス・セドリック公爵は恐る恐る部屋に入ってくる唯織を見つめ、威圧感のある雰囲気を取り払って自分なりの笑みを浮かべる。
「さて…そんな扉の前で立たれては話も出来ん。イオリ君、そのソファーに座りたまえ」
「は、はい…」
「…何、緊張しているのか?」
「い、いえ…そんな事はありません…」
ガイウスの笑みが怖いなんて言えない唯織は咄嗟に嘘を付いてしまうが…
「嘘を付くなイオリ」
「っ!?…す、すみません…そ、その…理事長の笑みが怖く…」
「…それは本当の様だな…そ、そうか…かなり自然に笑えていたと思ったのだが…そうか…儂の笑顔は怖いか…」
「っ!も、申し訳ありません!」
嘘を暴き、笑みが怖いと本音を言われてしまったガイウスは少ししょぼくれた様な表情を作るがすぐにいつもの表情に戻る。
「…よいよい。嘘を勝手に暴いて問い詰めたのは儂だ。いいから腰を下ろしたまえよイオリ君」
「はい…」
唯織がようやくソファーに腰を下ろした事を確認したガイウスは唯織の向かいに置かれているソファーに座り直し、話が長くなる可能性を見越して唯織の前にティーカップを置く。
「よし、少し話が長くなるかもしれんからな。それを飲みながら話を聞いてくれたまえ」
「はい…」
「別に悪い話ではないから身構えるでない…まずイオリ君をここに呼んだ理由なのだが…」
「…退学…でしょうか…?」
「…話を最後まで聞きたまえ。悪い話ではないとさっき言っただろう?」
「も、申し訳ありません…」
「…はぁ。さてここに呼んだ理由なのだが…」
唯織の前に用意した物と同じティーカップに口を付け、勿体ぶる様に言葉を区切ったガイウスは…
「イオリ君の指導に当たっていた教師と同じ教室にいたクラスの生徒を全員この学園から排除したのでな。その報告を面と向かってしておこうと思ったのだ」
「………は…?」
また自分なりの笑みを浮かべ、唯織が想像した斜め上の言葉を発した…。
■
「ふむ…これは酷い…」
一ヶ月前…校舎の屋上から唯織を見守っていたガイウスは地面に蹲る唯織を放置して校舎へと戻っていく教師と笑いながら校舎へ戻っていく生徒達を見て苛立っていた。
「…はぁ、ミネア」
息を吐き捨てながら何もない場所にそう呟くと突然ガイウスの後ろにメイド服を身に纏った黒髪の女性が現れ頭を下げる。
「はい、ガイウス様」
「あの教師とイオリ君に魔法を撃った者、そしてそれを笑って見過ごした者共の情報をすぐに集めるのだ」
「かしこまりました、ガイウス様」
そしてガイウスの言葉を聞いたミネアと呼ばれたメイドの女性はまた姿を消し、校舎の屋上にはガイウス一人だけになる。
「全く…これではイオリ君の師匠に申し訳が立たん…本当にこの世界はイオリ君にとって生き辛い世界だ…」
寂しそうな表情を浮かべたガイウスはそう呟き、校舎の中へと姿を消した…。
………
「ど、どういう事なのですかガイウス理事長!?何故私が解雇処分なのですか!?」
「…儂が何も知らないと思っているようだな?」
「っ…そうか…そうか…!!あの無色の無能がっ!?」
「…貴様、儂の前でイオリ君をその様に呼ぶとは…命が欲しくないようだな?」
唯織と同じ教室にいた生徒達が怯えて見守る中…目にも留まらぬ速さで唯織の担任を任されていた教師の顔を鷲掴みにしたガイウスは徐々に力を込めていきながら続きを口にする。
「イオリ君は何も言っていない。儂はこの目であの日、貴様らがイオリ君に対して行った酷い仕打ちを見ていたのだよ」
「っ!?」
「今ここにイオリ君が居ないのも貴様が寮から出るなと指示したのだろう?」
「ち、ちが『違わないとも』っ!?」
「儂は嘘が見抜ける…それは知っているだろう?」
「っ…」
「それに儂には優秀な目と耳と鼻があるのだ…そして優秀な手足もな?…この意味…貴様ぐらい賢しい者ならわかるだろう?」
「っ!?…こ、この学園は…この学園は貴族特権を持ち込むことを禁止しているはずです!!そんな事がまかり通るとでもおも『まかり通るとも』っ!?」
「何故なら既に貴様はこの学園の教師ではないからだ…みなまで言わなくとも…わかるだろう?」
「っ…」
必死にガイウスの手から逃れようとしていた男は恐怖のあまり子供達の前で股を濡らし始め…
「そして散々イオリ君を貶めた元学生の貴様ら…」
「「「「っ!?」」」」
「もしイオリ君に何かあったら…家族がどうなるか、わかるかね?」
ガイウスの口から放たれた言葉は子供達ですら簡単に予想できる未来を想起させ…
「後…イオリ君から金銭を巻き上げた犯罪者が二名、故意に魔法を放ち、イオリ君を負傷させた犯罪者が一名いたな?ミネア、犯罪者を捕えろ。そしてその犯罪者の家族に監視を付け、妙な真似をすれば儂の名の元に粛清を行え。…忘れる所だったが門番と他の教師、他のクラスの生徒達にもイオリ君を貶める様な発言をした者がいれば対応しろ」
「かしこまりました、ガイウス様」
「「「がっ!?」」」
その未来を実演して見せた。
「平民諸君。セドリック公爵家、現当主であるガイウス・セドリックに物申したい者は一歩前に進みたまえ。無ければ即座にこの場から立ち去るがいい」
そして部屋の中には犯罪者として捕らえられた三人の子供だけが取り残された…。
………
「という事なのだよ。理解してくれたかね?」
「そ、そんな…ぼ、僕の所為で…」
「…む?これはイオリ君の所為ではない。学園側のミス、儂のミスなのだ。だから気に病むことはないのだよ」
「で、ですが…」
「くどいぞイオリ。この学園では儂が法だ。だからイオリ君は何も気に病むな。…わかったか?」
「……はい…申し訳ございません…」
「…イオリよ。こういう時はありがとうございますだ」
「……わかりました。僕の為にありがとうございます…ガイウス・セドリック理事長…」
僕の為…そう自分の口から吐き出した唯織は胸の内が温かくなる感覚を覚え、溢れそうになる涙を必死にこらえようとした時…
「…うむ。それでよい。それと特別にガイウスと呼ぶ事を許可する故、儂も堅苦しい接し方は止めさせてもらうぞ?」
「っ!?」
驚きのあまり温かい涙はすぐに収まってしまった。
「そ、そん『この学園では儂が?』…わ、わかりましたガイウス様…」
「…まぁいいか。よし、では次の話をしようじゃないかイオリ君」
「っ!?ま、まだ何かあるんですか!?」
「…だからそんなに身構えんでいい」
怯え、笑み、驚き、ころころと変わる唯織の表情に思わず笑みが零れたガイウスは唯織の前に一枚の紙を裏返しで差し出した。
「が、ガイウス様…この紙は…」
「表を見てみろ」
「は、はい……え…?学園への正式入学…特待生クラスへの推薦状…?こ、これは…」
「うむ。イオリ君にはこの事を伏せていたのだが…実はこの校舎、本校へ入学する為の最終試験場のだよ」
「そ、そうだったんですか!?」
「うむ…何せイオリ君の入学は本来予定されていなかったのでな…」
ガイウスの言葉に驚きを隠せない唯織は手渡された一枚の紙を隅から隅まで読んで当然の疑問をガイウスへとぶつける。
「で、でも…僕はこの校舎で何もしていませんが…」
「む…?そうだな…確かに何もしていないな?」
「で、でしたら何故…それにこの特待生クラスへの推薦とは…」
何故自分が何もしていないのに選ばれたのか納得のいかない唯織に笑みを濃くしたガイウスは…
「何だ不満か?…ならっ!!!」
「っ!!」
唯織に向って鍛え抜かれた拳を振り抜いた。
だが…
「…ま、まさかそう来たか…」
唯織はガイウスの放った拳を避けるだけではなく、突き出された腕を引っ張り体勢を崩させ首元にナイフを当てていた。
「っ!?ガイウス様!!!!この!!!『止すんだミネア!!!!』っ…」
突然唯織とガイウスだけの部屋に姿を現したミネアが唯織に飛び掛かるのを止めるとガイウスは酷く冷たい目…人を殺す事に一切の躊躇をしないと思わせる赤い目をした唯織に優しく問いかける。
「…済まんがイオリ君…ナイフを下ろしてくれんか?」
「………っ!?も、申し訳ございませんガイウス様…!!!」
その問いかけに反応が遅れた唯織はナイフをこちらに向けているミネアとガイウスの顔を見て顔を青くして床に額を付けて謝り始める。
「いや…儂の方こそ済まなかったな…。こうでもしなければイオリ君はその書類を受け取ってくれなかっただろう?」
「…え…?」
「この校舎で何もしていないから正式に入学しないと言われても困るからな…実力を今見せてもらった。これで試験を合格とさせてもらう。これならいいだろう?」
「…こ、これも僕の為…ですか…?」
「ああそうだとも。本当は魔法の実力を見せてもらいたかったのだが…おめでとう、これでイオリ君は正式に我がレ・ラーウィス学園の生徒となった。そして今の動きで確信した。君はこの特待生クラスへ入る資格があると。重ねておめでとう、イオリ君」
「…は…え…?」
あまりにも目まぐるしく変わる状況に正常な判断が出来なくなった唯織は床に座りながら首を傾げ呆けてしまう。
「…はぁ、ガイウス様、そういう事でしたら先に私だけでもそうお伝えしてください。心臓が止まりかけました…」
まるで体の一部の様にナイフを弄びながらメイド服のスカートへと仕舞ったミネアはため息を吐き、零れた紅茶の後片付けをし始める。
「済まなかったなミネア。…どうだ?イオリ君ともし戦う事になったら…ミネアなら勝てるか?」
「…率直に申し上げて無理です。殺す事を前提とした戦いであれば…かすり傷ぐらいは負わせられるかと」
「…そうかそうか。ハプトセイル王国、秘密組織暗殺部隊筆頭のミネアが言うのであれば肉弾戦でイオリ君を殺せる者はいないだろうな」
「ガイウス様…それはここで言うべき事ではないと思います…それにイオリ様を正気に戻した方がいいのではないですか?」
「…む、確かにそうだな…イオリ君?大丈夫かね?」
「は…え…あ、はい…す、すみません…」
「まぁ、一旦ミネアが淹れてくれた紅茶で落ち着こうではないかイオリ君。ミネアが淹れてくれる紅茶は格別なのだぞ?」
「お褒め頂きありがとうございます」
「あ…はい…い、頂きます…あ…本当ですね…美味しいです…」
「お褒め頂きありがとうございます」
「あ…いえ…」
何が何だかわからない唯織はミネアが入れてくれた紅茶に口を付け、ぐちゃぐちゃになった思考を纏め始めた…。
■
「…えっと…話を纏めるとこうですか…?僕と一緒に学んでいた人達は本入学の基準が満たせていなかった補欠生徒で、最後の見極めの為にこの校舎で学ばせていた…そしてここの先生方も正式に採用していたわけではなく、いわゆる研修の為に居たと…」
「うむ。本入学の基準をその場では満たせなくても2ヶ月の指導で基準に見合う様になる者もいるからな。実際本日の見極めで本入学になる別の教室で学んでいた生徒達もいるし、それは教師も同じ事だ。未来ある若人達を教えるのにあたって不足がないのかを確かめる…実に合理的だろう?」
「そ、そうですね…」
「疑問に思う事はそれだけでよいか?他にも聞きたい事があるのなら答えるぞ?」
「…わかりました。なら次は特待生クラスについて教えてもらえませんか?」
「うむ。…ミネア」
「はい、ガイウス様」
名前を呼ばれただけで即座に一枚の紙をテーブルに置くミネア…そしてガイウスはミネアが置いた一枚の紙を指で差しながら説明を始める。
「まずレ・ラーウィス学園は12歳から入学でき、そこから4年間の学習を行って各々の才能を伸ばすのが目的だ。そして卒業後はこの学園で学んだ事を糧として軍人や冒険者になる者もいるし、店の経営者として成功する者もいる。…ここまでは最初に説明していたが大丈夫か?」
「はい…入学する時に師匠と一緒に聞きました…」
「うむ。…だが若人の将来は多岐に渡る…一纏めに才能を伸ばすと言っても軍人になりたい者と店を持ちたいという者が一緒に学んだら…どうなると思う?」
「…意識の違いから衝突が起きる…とかでしょうか?」
「うむ、まぁ誰でも考え付く事だ。それに教師も多くない…だから同じ目標を持つ者同士で学び合えるよう学科とクラスを分ける。そして特待生クラスはその中の一つだ」
「はい…」
「そしてイオリ君が入るのは戦闘学科だ。これは読んで字のごとく戦闘技術を学ぶ学科だ。そしてこの学科には10のクラスがあるのだ」
「10クラス…」
「まぁ8クラスは想像通り魔色に合わせたクラスだ。そして魔色を複数持つ者達のクラスと魔色を持っていても魔力の総量が低く、近接戦闘で戦う事を目指した者達のクラスだ。…他にも商業を目指す者達の学科があるのだが…不思議そうな顔だなイオリ君?」
「は、はい…特待生クラスの説明が…」
「そうだったな…イオリ君は特待生クラスについて聞きたがっていたのに余計な事を話してしまった。…これだから歳は取りたくないものだ…」
「え…?失礼ですがガイウス様はおいくつなのですか…?鍛え抜かれたお体なのでわからないのですが…」
「今年で62歳だな。…そうだよな?ミネア」
「間違いございません」
「っ!?も、もっと若いと思っていました…あの拳を受けたら尚更…もっと若いかと…」
「よいよい。…でだ、特待生クラスについてなのだが…簡単に言えば特別な者達が集まるクラスだ」
「と、特別…ですか…。透明の魔色で師匠の弟子だから僕もそこに…という事でしょうか?」
「…まぁそういう意図がないとは言わん。…だが生まれや育ちが特別と言うだけではその特待生クラスには入れんのだよ」
「…というと…」
「うむ。実力も特別じゃなきゃ入れないクラス…何もかもが特別じゃなきゃ入れないクラスが特待生クラスだ」
「な、なるほど…」
「そして教師も特別なのだ。…通常の教師じゃ教室にすら入れんだろうからな…」
「え…?それはどういう事でしょうか…?」
「教えてやってもいいんだが…それでは楽しみがないだろう。だから明日の入学式までの間、楽しみに待っておきたまえ」
「は、はぁ…わかり…ました…」
特待生クラスに入る者は特別中の特別だという情報しか得られなかった唯織は自分を何とか納得させるとガイウスはそんな唯織を見て優し気な笑みを浮かべる。
「…そうだな、これだけは言ってもいいだろう…イオリ君」
「は、はい…?」
「存分に学園生活を楽しんでくれたまえ、イオリ・ユイガハマ君。君が我が学園の戦闘学科特待生クラスへ来る事を心から待っている」
「…はい」
学園生活を楽しむ…そんな事が出来るかわからないが唯織はミネアからそっと差し出された新品の黒い制服を受け取った…。
■
「…イオリ君はとてもいい子だな」
「…そうですね、今時あんなに優しい子はいません」
「む…それは儂の孫が優しくないと…?」
「…そうですね、少しませているかと」
「…そこが可愛いと思うんだがな…」
唯織が制服を受け取って部屋を去った後、ガイウスとミネアは従者の間柄とは思えない気さくな会話をしながら紅茶を嗜んでいると…
「やっほー!ガイウスさん久しぶりー!元気してたー?」
「「っ!?」」
元気な声が突然部屋に響き…何もない場所から一人の少女が姿を現した。
「し、シオリ・ユイガハマ殿…!!儂を…い、いえ、私を驚かさないでください…流石にこの老骨…心臓が止まるかと思いました…」
「し、シオリ様…ご無沙汰しております…」
「あ、ミネアちゃんも久しぶりー!元気してたー?」
「え、ええ…お陰様で…」
「そっかそっか!!」
まるで向日葵の様な明るい笑みを浮かべた少女…唯織と同じ姓を持つシオリが空いているソファーに遠慮なく腰を下ろすとガイウスは恐縮しながら固唾を飲み…シオリへ問いかける。
「…シオリさん…今日来てくれたという事は…特待生クラスの教師を引き受けてくれるという事でいいでしょうか…?」
「あー…その事なんだけどさー…あ、ミネアちゃんありがとね?」
「い、いえ…お話を遮ってしまい申し訳ございません…」
特待生クラスの教師…特別な生徒達を教える特別な教師としてガイウスから指名されていたシオリはガイウスと同じ様に恐縮しきっているミネアから紅茶を受け取り、紅茶を口に付け…
「やっぱ私、教師やらない事にした!!」
きっぱりと教師はやらないと告げた。
「そ、そんな!?……や、やっとイオリ君を特待生クラスへ迎えれる準備が出来たのに…!!!」
そしてガイウスはシオリの言葉で正しく膝から床に崩れ落ちた…。
「が、ガイウス様…お気を確かに…し、シオリ様…もしよろしければ理由をお伺いしても宜しいでしょうか…?」
「あ、ああ…聞かせてもらえないでしょうか…?」
「ん?あぁ!そうだよね!ちゃんと理由言わないと納得できないよね!」
あっけらかんとした態度で紅茶を飲みほしたシオリはガイウスとミネアがソファーに座り直した事を確認してコホンとわざとらしく咳をし…
「コホン…えっとね?今日は私より教師に適任な人を連れてきたんだよねー」
「…シオリ様より教師に適任な方…!?そんな方がいるのですか!?」
「うんうん。この部屋に呼んでいい?」
「え、ええ…是非一度お伺いさせて頂いても…?」
「はいはーい…あ、そうだガイウスさん」
「ど、どうしました?」
「…特待生クラスの生徒枠、一つ空けて欲しいんだよね。いいかな?」
「「っ!?」」
ガイウスとミネアが絶句してしまうお願いを満面の笑みで言い放ち、自分の代わりとなる教師を何もない空間から呼び出した…。
■
「…明日から正式にレ・ラーウィス学園の生徒…特待生クラス…本当に僕…大丈夫かな…」
自分が居なかったのにも関わらずボロボロになっていない寮の部屋で唯織は新しい真っ黒の制服を眺め…不安の気持ちを零した…。