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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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最終テスト

 





「さてと…まずは誰からかしら?」


「わたくしがやりますわ」



 穏やかな草原…仁王立ちして待ち構えているアリアに対峙したメイリリーナはランに作ってもらったエーデルワイスを鞘から抜き放ち無駄なく魔力を起こして全身に纏っていく。



「…へぇ?三ヶ月前とは本当に別人みたいね?私の教えがよかったのかしら?」


「…ええ、そうですわ。アリア先生以上の教師はいないと思いますわよ」


「あら?随分素直じゃない?何か悪いものでも食べたのかしら?」


「この三ヶ月常にあなたの手料理しか食べてませんわよ!!!いつも美味しい料理ですわ!!!」


「…何でそんなにキレてんのよ?」


「何で…?キレられる覚えが無いとでも言うんですの!?」


「…?別にないけれど?」


「っ…そうですわね…あなたはそういう人でしたわね…!!」



 心当たりがないのか小首を傾げ続けているアリアに怒りで身体が震え始めたメイリリーナは目をスッと細めてアリアを睨みつける。



「魔力を起こす訓練をクリアした後の組手と武器を使った訓練の二ヶ月間…!!ご飯を食べた後だと言うのに腹パン腹パン腹パン腹パン!!何度あなたに吐かされたと思ってるんですの!?!?」


「吐いたらまた食べさせてあげたし掠り傷も残さない様にちゃんと毎回回復魔法かけてあげたてたし、逆にそのおかげで三ヶ月前より肌も綺麗になっているし髪もつやつやだし身体も絶好調でしょう?」


「そうですわね!!ありがとうございますわ!!それでも腹パンで吐かされ続けた事は恨んでますわ!!!」


「そう…まぁ今日ぐらいは吐かないといいわね?何処からでもかかってきなさい」


「ええ!!そうさせてもらいますわ!!!」



 白黒の手袋とブーツを身に着けた露出の激しいアリアが笑みを浮かべながら手招きするとメイリリーナは三ヶ月前の実力テストで神速の血統魔法を使ったリーチェとは比べ物にならないスピードでアリアに接近してエーデルワイスで斬りかかる。



「くっ!?」


「へぇ?もし前回みたいに円の外に出すルールなら今の一撃でリーナの勝ちだったわよ」



 リーナのエーデルワイスを片手で鷲掴みにしたアリアは自分が後ろに動かされた事に笑みを浮かべ…



「吐かない様に歯ぁ食いしばりなさい」


「っ!?うぐっ!?!?」



 エーデルワイスを上に引っ張りがら空きになったリーナの腹へ引き切ったアリアの拳が突き刺さりボールの様に後方へ吹き飛んでいく。



「ふぅん……あんまり手応えが無かったわ」


「げほっ!!…まだ…まだですわ…!!!」



 絶対に腹に攻撃してくると予想していたメイリリーナは片手で腹を守りエーデルワイスを握り直してアリアにもう一度瞬発する。



「心は折れてないわね。んじゃ…」



 そう言いながら瞬発してくるメイリリーナを見据えアリアは深く腰を落として迎え撃つ…。





 ■





「うげぇ…」


「…王女とは思えない吐きっぷりね…」


「誰のせいだと…っ!うげぇ…」


「はいはい…合格だからみんなの所で見てなさい」


「わかってますわ…」



 全身を草や土まみれにして蹲るメイリリーナに回復魔法やらなんやらを施し呪詛の様にぶつぶつ呟きながら後方に下がっていくのを見届けアリアは自分の手で隠していた脇腹を見つめる。



「普通に食らったわね…合格どころか満点合格ね」



 真っ白な肌についた赤い線を親指でなぞり治したアリアは目から光を失い幽鬼のような足取りで近づいてくるリーチェを見据える。



「次はリーチェね?流れ的にシャルかと思ったけれど」


「ええ。実力テストの時は何度も何度も死の淵に立たされましたし、武器を頂いてからの一ヶ月…あの時と比べ物にならない程の死の体験をしたので一度ぐらいその体験をアリア先生にもしてもらおうかと」


「なるほどねぇ。でもそのおかげで剣の腕はハプトセイル一のものになってるはずよ?」


「ええ…正直今ならシルヴィとイオリさんとは互角、アリア先生以外に負ける気がしません」



 腰の後ろに交差させて吊るしているアネモネとアイリスを抜かずにブレスレットの空間収納から山茶花を取り出したリーチェは居合の構えを取りアリアを睨みつける。



「アネモネとアイリスは使わないのかしら?」


「だって魔法は使わないんですよね?」


「使わないわよ?」


「ならまだ山茶花の一刀に賭けた方が勝率は高いです」


「ふぅん…連撃の勝負じゃなくて一撃の勝負って事ね。いいわよ、間合いに入ってあげるからしっかり狙いなさい」


「言われなくても…」



 アリアがゆっくりとリーチェに向かって行くとリーチェはどんどん深く集中していき姿を見ていなければそこに存在している事がわからない程存在が希薄になっていく。



「いい集中だわ。これは期待できそうね?」


「……」



 アリアの言葉に耳を傾けずじっと自分の間合いに入るのを待ち構えているとリーチェの腕からバチバチと音が響き始め…



「さぁ…来なさい」


「っ!!!!!!!!!」



 雷が落ちた様な轟音と共に首目がけて鞘から抜き放たれた刀身が透明の山茶花を右手の手の甲で受け止めしっかりと左手で山茶花を握り…



「…どうですか?」


「…合格ね。やる様になったじゃない」


「そうですか…ありがとうございます」



 掌と手の甲からポタポタと血を落としたアリアは満足気に笑みを浮かべ、リーチェもアリアに釣られて笑みを浮かべながら皆の元へと戻っていく。



「ふぅ…まさかここまでざっくりいくとは思わなかったわ…後で直さないといけないわね…」



 リーチェの一撃で破けてしまった手袋を空間収納に放り投げたアリアは手を振って傷を治し、楽しそうに真っ赤な大鎌を振り回し赤黒いボロ布をマントの様に纏って近づいてくるシルヴィアを見据える。



「次はシルヴィね。…本当にそれが気に入ったのね?」


「…ん。かっこいい」


「そう。…流石にシルヴィ相手に素手は厳しいし…力を貸してちょうだい、ヴリトラ」



 リーチェに破かれた白黒の手袋が無ければ不利だと感じたアリアは指をパチンと鳴らし、光沢のある銀色の魔法陣を空中に描くとその魔法陣から純銀で身の丈程の巨大な戦斧を取り出す。



「…え?何それ?」


「神龍武装ヴリトラよ」


「…それ使うの?」


「使うわよ?」


「…やめとく」


「は?」


「…やんない。デスサイズ壊したくない」


「…ランが作った武器がそう簡単に壊れるわけないでしょう?」


「…でもやんない」


「あっそう…まぁ別にシルヴィに関してはテストする必要なかったし別にいいけれど…」


「…デスサイズ帰ろ」



 明らかにアリアが手に持つ神龍武装ヴリトラという戦斧がヤバいと思ったシルヴィアは戦わずに大事そうにデスサイズを抱えて元居た場所まで戻っていき…



「なんかシルヴィが何もせずに戻ってきたんですけどいいんですか?」


「ええ、別に問題ないわよテッタ。次はテッタでいいのかしら?」


「はい。次は僕がやります」



 おどおどしていたテッタはすっかり面影を無くし、意思の強さが宿ったのか頼り甲斐のある目つきでアリアを見据え腰と太ももに付けた艶消しの鞘からアンドロメダを抜き放ち構える。



「…三ヶ月前はいつも何かに怯えていたのにいい顔をする様になったじゃない?男前よ?」


「ありがとうございます。…こうやって僕自身が変われたのはアリア先生…全部あなたのおかげです。イオリとシルヴィには勇者シオリ様という師匠がいますが…僕にとっての師匠はアリア先生です」


「あら?随分嬉しい事を言ってくれるじゃない?」


「別にアリア先生を喜ばせようと思って言ったわけじゃないです。素直に僕が今思っている事を伝えているだけですよ」


「そう…予想以上にいい男になったじゃない。これなら安心ね」



 銀色の巨戦斧から手を離すと光の粒子となって空中に解け、白黒のブーツの調子を跳ねながら確かめると手招きする。



「んじゃ…始めましょうか?」


「はい…いきます!!!」



 そう声を上げた瞬間テッタの姿がアリアの目の前から消え…



「シッ!!!」


「フッ!!!」



 後ろに回り腰目がけてアンドロメダを挟む様に振るったテッタの両手を軽く飛び跳ねながら蹴り飛ばすとアリアは地面に両手をついてグルグルと回りながら蹴りの連撃をテッタに浴びせていく。



「っ!?な、何ですかその動き!?」


「これは格闘と音楽、ダンスを合わせたカポエイラよ!!手袋が破けてるから蹴り技メインで行くわよ!!」


「くっ!?!?」



 全く距離感の掴めない奇妙な動きで女性にしてはかなりの長身であるアリアから繰り出される長い脚の蹴撃はまだ身長も低く手足の短いテッタからすれば二本の槍で攻撃されている様な錯覚を生み出し必死に両手に持ったアンドロメダで弾いていく。



「ほらほらほら!!防いでばっかじゃ合格させれないわよ!?」


「うっ!?…何でブーツなのに岩を殴ってるみたいに硬いんですか!?」


「それが私の武器だからよ!!」


「答えになってないですよ!?いっ!?!?」



 ブーツとアンドロメダがぶつかってるとは思えない程の硬質な音と衝撃に苦し気な表情を浮かべたテッタは自分の猫耳にアリアの蹴りがありえない音を立てながら掠めた事に一気に顔を青褪めさせて距離をあける。



「み、耳…あ、よかった…ちゃんとある…」


「確かに獣人の血が入ってると可愛いけれどそういう所が不便よねぇ。ギリギリで避けても耳が吹っ飛んだり尻尾が吹っ飛んだりしちゃうし。私もたまに耳と尻尾を忘れるわ」


「それは獣人族としてどうなんですか…?」


「そうよねぇ…まぁ…そんな事よりもう終わりかしら?だいぶ息があがってるじゃない」


「…まだまだこれからです」


「そう、なら続きを始めましょうか」


「…絶対に治してくださいね!!!」



 明らかに人の動きを超えた動きをして人型の駒と化したアリアに対して決死の覚悟をしたテッタはアンドロメダを握り直して瞬発した…。





 ■





「どう?出し切ったかしら?」


「は、はい…もう無理…です…」


「よし、テッタも合格よ」



 アンドロメダを手放し地面に倒れたテッタは鼻から流れ続ける鼻血を拭いながら息も絶え絶えに答えるとパチンという指を弾く音と共に全身の疲労と痛みが引く感覚を感じて小さく息を吐く。



「はぁ…もう少し行けると思ったんですが…」


「何言ってんのよ?私の身体にこれだけ傷つけておいて満足してないのかしら?」



 アリアの白い体には数多くの赤い線が刻まれていたがテッタはアリアの身体を見つめまた小さく息を吐く。



「でもほとんど血も出ない掠り傷じゃないですか…」


「まぁ私は頑丈だもの。それでも納得出来ないのならこのまま折れずに私に付いてきなさい」


「…はい」



 アンドロメダを艶消しの鞘に納めたテッタはアリアに頭を撫でられ吹っ切れたのか笑みを浮かべながら皆の元へ帰り…



「随分やる気みたいね?シャル」


「だって本物をやっと使えるんですよ?それまであんなに重い木で出来たアスターを…でもそのおかげでアスターが今や手足の様に操れるので満足してますけどね」


「…見事なものね?」


「ありがとうございます」



 首や腕、脚を使って器用にアスターを回したシャルロットは槍術の達人の様な雰囲気を醸し出しながらアリアにアスターを向ける。



「実は私、アスターをもらってから授業でボロボロになっても夜遅くまで練習してたんですよ?リーチェの剣がハプトセイル一なら私の槍はハプトセイル一と言った所でしょうか」


「随分大きく出たわね…って言いたいけれど存外間違いじゃないのよねぇ」


「ふふ、アスターを持った今の私ならアリア先生にも槍なら負けないと思いますよ?」


「…へぇ?いい度胸じゃない。力を貸してちょうだい、リンドヴルム」



 あまりにも勝ち誇った表情で穂先を向け続けるシャルロットに気分を良くしたアリアは笑みを浮かべながら指を鳴らし、真っ白な魔法陣から真っ白で少し光を帯びている槍を抜き出しシャルロットと同じ様に全身を使って回し弄んでいく。



「……なんか光ってません?」


「まぁ特別な槍だから光るわ」


「…まぁいいです。私とアスターは全力を出すだけなので」


「本当にその槍を気に入ってるのねぇ…走った事も無かった貴族令嬢だったのに…」


「で、でも今はハプトセイル一の槍術士ですから!」


「ならハプトセイル一の槍術士さん?一試合お相手願えるかしら?」


「い、いいでしょう…いきますよ!!」



 三ヶ月前の事を掘り起こされたシャルロットは顔を真っ赤にしながらアスターに自分の魔力を食わせ、自身の体に力が湧き上がってくるのを感じつつ笑みを浮かべているアリアへ瞬発する。



「あらあら?そんな素直に突っ込んでくるなんて反撃して欲しいって言ってる様なもんじゃない」


「ならどうぞ反撃してください!!」


「ならお望み通り!!」



 とてつもないスピードで槍を構えながら突撃してくるシャルロットに対してアリアが完璧な角度、完璧なタイミングで突きを放つと目の前からシャルロットが消え…



「そこです!!!」


「甘いわ!!」


「ぐっ!?」



 一瞬で後ろに回り込んだシャルロットがアリアに向けてアスターを突きこむがアリアは地面に倒れ込む様に伏せてそのまま足を跳ね上げさせ、アスターを下から蹴りつけるとがら空きになったシャルロットの腹に突き出した槍を強引に引き戻して石突を突きこむ。



「…けふっ…わかってたんですか?」


「わかってたと言うよりシャルの目を見れば何を狙ってるのかわかるわよ。ずっと私の後ろの方を見てたじゃない」


「うっ…」


「でもまぁ、今の一撃はとてもよかったわよ?戦い慣れた人じゃなければ串刺しだわ。合格だけれどこれだけじゃせっかくアスターを使えるのに消化不良でしょう?相手してあげるから全力で来なさい」


「っ!はい…!!」



 まだアスターを使えるという事に顔色を良くしたシャルロットはまたアスターをくるくると弄び全力でアリアに突撃していく…。





 ■





「…ふぅ。一番手こずったわね…」


「うきゅ~…」



 ポタポタと血が落ちる頬を指で拭って癒したアリアはアスターを抱いて満足そうに倒れているシャルロットに回復魔法をかけるとシャルロットは勢いよく跳ね起きる。



「さっきも言ったけれどシャルは合格よ。槍術に関してはまだ型だけで綺麗だから自分なりにアレンジして実戦的に近づけて行けばもっと良くなるわよ」


「はい!」


「…この三ヶ月で随分変わったわねぇ…」



 アスターをまたくるくると弄びながら無邪気に皆の元に帰っていくシャルロットに三ヶ月前の面影はなくただの槍好きの少女となり、アリアはシャルロットとすれ違って近づいてくる唯織を見据える。



「さて…ラストね」


「はい。僕で最後です」



 腰の後ろに付けたナイフケースからトレーフルを抜いた唯織は目を細めながら腰を少し落として油断なく構える。



「トレーフルを使うのね。アコーニトを使うのなら私もバハムートを使おうと思ったけれど…力を貸してちょうだい、ファフニール」



 唯織がナイフを使うと分かったアリアは少し悩みつつ指を鳴らして紫色の魔法陣を一つ描くとその魔法陣から紫色のナイフを一本取り出しくるくると回す。



「よし、私もナイフを使うから蹴りと拳もありでいいかしら?」


「はい、僕もそれを想定しているので」


「わかったわ。…それじゃあ、強くなった唯織の実力を見せてもらおうかしら?」


「……いきます!!!」


「いくわよ!!!」



 唯織とアリアの距離は一瞬で潰れお互いのナイフがぶつかり合った衝撃で髪を暴れさせた…。

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