幕間
湖を囲む様に鬱蒼と生い茂る木々…その湖の傍にひっそりと建てられた木の家。
人が住むには不便としか言いようのない木の家の中で…声が聞こえる。
「…ん~~…いおりん~……ん…」
一糸纏わぬ生まれたままの姿でベッドに横たわる乳茶の様に優しい髪色を持つ少女は何かを求める様に腕を動かすが…
「んー…?いおりん~…?……あぁ…もういおりん居ないんだった……うううううううう!!!!寂しい寂しい寂しい!!!!いおりん~!!!いおりーーーん!!!!」
求めたものが腕の中に無い事に子供の様に癇癪を起し、見っとも無くじたばたとしていた…。
「…はぁ~…いおりんに会いたい…会いたすぎる…!!!…会いに行っちゃう…?でも今いおりんは一人で頑張ってるんだし…ああああああああいおりんんんんんんんん!!!!!私のいおりんんんん~~~!!!…あぁ…お腹すいた…」
人目が無い事をいい事に裸体で暴れまわる少女は耐えがたい程の空腹に襲われ、そのままの姿でベッドから抜け出し食料を求めて木の家の中を彷徨い始め…
「…なんか食べる物あったっけー?…って、いつもいおりんに用意してもらってたから何もないし……ん?封筒…まさかいおりんからのお手紙!?!?!?」
空腹である事も忘れて木のテーブルにポツリと置かれた手紙に飛びついた。
「…あー、いおりんが学校に入学してもう一ヶ月経つのか…いおりんがいなくて寂しすぎて不貞寝してたから記憶ないなー…。…あれ?ていう事は私、いおりんを見送ってからずっと寝てたの!?流石にヤバすぎない!?」
そしてその手紙を読み進め…
「…だらしない格好しててごめん…めっちゃ寝てたしめっちゃご飯食べてなかった…。でもまぁ、心配性な所は変わってないのかな…?それはそうと…友達が出来た…?なら私がいおりんの友達に相応しいか師匠として、お姉ちゃんとしてちゃんと見極めないとね…!!」
手紙を大事そうに封筒に戻した少女は木で出来た大き目の箱から氷漬けの生肉を取り出し、そのまま掌から炎を生み出すと氷漬けの生肉は徐々に溶けていく。
「んー…もうちょっと解凍した方がいいかな…?…こんなもん…?まぁお腹に入ればいっか」
手の上で生肉の解凍と過熱を終わらせた少女は…
「んじゃ頂きます」
そのまま肉にかぶりつき、自分の空腹を満たし始めた…。
■
「んでね~!?私があげたペンでいおりんから手紙来たの!!もーめっちゃ嬉しくて嬉しくて!!」
生い茂る木々、爽やかな青い草原、彩り鮮やかな草花、雲一つない晴れ渡る青空、草木を育てる暖かい日差し、時折吹く風は花びらと香りを乗せて目と鼻と耳を楽しませてくれる天国の様な空間で白い丸テーブルについた少女は興奮気味に向かいに座る人物へと語る。
「あ、あはは…それで僕の所まで来たと…」
興奮気味に語られた人物…茶色の髪に翡翠の様な瞳、少女の様な顔立ちをした少年は苦笑しつつティーカップに口を付けていた。
「えー?別に暇だからいいでしょ?話し相手になってくれてもいいじゃん?」
「いやいや…詩織は暇でも僕は暇じゃないんだけど…」
「何言ってんのー?だってここは千棘の夢の中だよ?本体は寝てるんだから暇じゃん!!」
「そういう事じゃないんだけど…まぁわかったよ。僕が寝てる間は話し相手になってあげるよ…」
渋々と言った態度を示す少年…千棘だが、その表情は穏やかな笑みを浮かべていた。
「んでさ~…私、思うわけよ…どんだけアルマの世界で魔王が生まれ続けるんだよって!!いおりんが生きてる間ぐらい休みくれてもよくないかな!?そう思うよね!?」
「それがアルマっていう世界の理なんでしょ?どうこう言っても仕方なくない…?」
「いやそれぐらいわかるけど愚痴だって言いたいじゃん!!どうにか魔王を殺す前に共存とまではいかなくても唯織が生きてる間だけは悪さしないでーって説得したりもしたんだよ!?なのにあいつらは壊す殺す蹂躙する世界を支配するしか言わないし!!」
「あはは…まぁ、魔王ってそんなもんでしょ…」
「…千棘がそれを言うの…?」
「まぁ、僕は特殊だと自分でも思うよ?ちゃんと自分でもわかってるからいいでしょ?」
「そういう問題…?…あ~~~…千棘がアルマの魔王になってくれたらすっごい楽なのに~~~…」
「あはは…僕がそっちの世界に行けるわけ…行けるわけ…」
「…?どうしたの?私なんか変な事言った?」
「…」
他愛のないたらればを漏らしてから深く考え込んで一言も喋らなくなってしまった千棘を心配そうに見つめる詩織。
「おーい千棘ー?もしかして誰かに起こされてるー?」
「…」
「おーい千棘ー。ちーちゃーん?」
「…あ、ごめん…。ちょっと試してみるか…」
「え?どうしたの?」
「詩織さ…このイヤリングを付けてくれる?」
「う、うん?…こう…?」
突然差し出されたイヤリングに驚きながらも耳に付けた詩織は耳元に新しい重みが加わった事にちょっと楽しそうに笑みを浮かべると…
「…うん、おっけー。多分僕の考えが正しけれ…あ…ごめ…」
同じ様に笑みを浮かべていた千棘が白い丸テーブルに突っ伏してしまう…。
「ありゃー時間切れか…んじゃあまた暇な時にくるから『い、いや…』…ん?」
「僕から…会いに…行く…ま…た…」
「んん…?それってどういう―――――」
最後まで言えなかった詩織は一面の花畑から自分のベッドに帰ってきた事を悟って首を傾げる。
「んー?僕から会いに行くってどういう事?…まぁいっか、また夢渡を使って千棘の夢に行った時に聞けばいいし…お肉食べるか~」
そう呟きまた料理とは言えない大雑把な焼肉でお腹を満たそうと寝室を出た時…
「あら、本当に成功したわね。お邪魔してるわよ詩織」
「…………へ?えええええええええええ!?!?!?」
血の様に赤い瞳の白黒狼美女が不法侵入していた…。