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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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世界のズレ






「では皆さん移動が出来た様なので授業を再開します。今から始めるのは魔力を使う為に必ず最初にやる行動…魔力を起こす事から始めます。皆さんまずは見ていてください」



 そう言うと先生は目を閉じて深く集中していくと先生の体の周りから青っぽい靄の様なものが現れ景色が歪んでいく。



「…皆さん見えますか?今私の周囲が歪んで見えると思いますが…これが魔力であり、魔力を起こすという行為です。私達の体には魔力が溜め込まれていますが、溜め込まれているだけで使える状態ではないんです。いわゆる魔力が寝ている状態ですので魔力を起こし、使える状態にするのが魔法を使う為に必ず必要な行為になります。魔力の起こし方は人それぞれなのですが…自分の体の中にある魔力に意識を向け、深く集中する事で魔力に呼びかける方法が一般的です。まずはここまで皆さんやってみましょう」



 先生のやってみましょうと言う言葉で教室にいた生徒達は魔力を起こし始めたが…



「はい、皆さんとてもいいですね。……イオリ?どうしたんですか?魔力を起こしてみてください」


「あ、あの…」


「先生!!イオリは無色の無能だからこんな事出来ないと思いまーす!!」


「…」



 唯織だけは体の周囲が歪まず、全く魔力を起こせていない事に先生と同じ様に体の周りから色付きの靄を出す生徒達は笑い…先生も眉間を指で解し始めて表情を険しいものに変える。



「…はぁ。これが透明の魔色…何もかもが普通と違う…このままだと――――…」


「…申し訳ありません」


「わかりました。イオリ、あなたは見学していてください。もう魔法の実技は参加しなくて結構です」


「…はい」



 私の評価が…そう言った先生に頭を下げ、生徒達の笑い声を聞きながら距離を取った唯織は自分が居なくなった事で淀みなく進んでいく授業に耳だけを傾け俯き…



(やっぱり僕の魔力は普通の人じゃ見えないんだ…)



 唯織の背後にある校舎がぐちゃぐちゃに歪むほどの濃密な魔力を身に纏いながら、師匠から教わった事実と世界で知られている常識の違いを思い浮かべる…。



「では皆さん魔力を起こす事が出来た様なので詠唱から魔法発動までやりましょう。10m先にあるあの的に向って魔法を発動させますが…まずは赤の魔色を持つ人から行きましょう。赤の魔色を持つ人は前に」


「「「「はーい!!」」」」


「次に魔力を起こしたまま的に向って掌を向け、詠唱を始めます。私は赤の魔色を持っていませんので発動しませんが…『火よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…オル・ファイヤーボルト』と詠唱してみてください」


「「「「火よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…オル・ファイヤーボルト!」」」」



 赤の魔色を生まれつき持つ生徒達が詠唱を淀みなく発声すると掌から拳程の大きさで出来た火の玉が10m先にある的へ飛んでいき…全て外れる。



「はい、発動は完璧です。命中させるにはしっかりと狙わないといけないので当たらなくても気を落とさないでくださいね。今回は発動さえ出来れば点数を与えますので他の人に怪我をさせない様的の方に掌を向け、発動させる事だけを意識してください。次、青の魔色を持つ人達は前へ」


「「「「はーい!!」」」」


「では皆さん、私は青の魔色を持っているので見ていてください。…『水よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…イル・ウォーターボルト』」



 青の魔色を持っていた先生の掌から拳より三回り程大きい水の玉が詠唱によって現れるとその水の玉は10m先にある的の真ん中へと吸い込まれ…貫通し、生徒達は驚きの声を上げていく。



「この様に初級魔法でも何度も使って練度を高めればあの程度の窓を貫く事が可能となるので是非練習してみてくださいね。では私と同じ『水よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…イル・ウォーターボルト』と詠唱し、あの的に向って発動させてください」


「「「「はい!水よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…イル・ウォーターボルト!」」」」



 生徒達が詠唱するとやはり先生より小さい拳程の大きさの水の玉が掌から飛んでいき…全て外れる。



「はい、問題ありませんね。では次、緑の魔色を持つ人は前へ。…同じ説明を何度も繰り返すのも皆さん面倒だと思いますので詠唱を伝えます。…『風よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…ハル・ウィンドボルト』」


「「「「風よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…ハル・ウィンドボルト!」」」」



 そよ風が的に向い…土埃を巻き上げる。



「…はい、しっかりと風の玉が飛んでいるので皆さん問題ありません。では次、茶の魔色を持つ人は前へ。詠唱は…『土よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…フル・アースボルト』…です。皆さん魔法を放ってみてください」


「「「「土よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…フル・アースボルト!」」」」



 泥団子の様なものが掌から飛んでいき…何発かは的に泥を付け、そのほかは全て地面へと落ちる。



「…はい、完璧です。何人かは的に当たったようですね…はい、では次、水の魔色を持つ人は…いませんね。黄の魔色…こちらも無しですね。今回はいませんでしたが水の魔色を持つ場合の詠唱は『氷よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…アル・アイスボルト』。黄の魔色を持つ場合の詠唱は『ラル・サンダーボルト』です。この詠唱も全てテストに出ますのでしっかりと覚えておいてくださいね。次に白と黒の魔色を…こちらも居ませんね。白の魔色を持つ場合の詠唱は『ニル・ホーリーボルト』、黒の魔色を持つ場合の詠唱は『リル・ダークボルト』です。この二つも必ず覚えておくように」



 全ての魔法の解説が終わり、次の説明が始まるかと思った時…



「はいはい先生!!無能…じゃなかった透明の魔色の詠唱は無いんですかー!?」


「アハハ!!無能って言っちゃってんじゃん!!先生!無能の魔色の詠唱を教えてくださーい!!」


「…」



 また唯織を見下しながら嘲る様に声を上げる生徒達…。



「…先程も言いましたが透明の魔色には攻撃魔法や防御魔法等は存在しませんので詠唱はありません。…それに皆さん、無駄話をしている暇はありません。基礎座学が終わり、魔法の授業が始まって今日から一ヶ月後…実技テストがあります。その結果でそれぞれの魔色に適した学科、それぞれの実力に見合ったクラスへと移動するんです。ここが人生の分かれ道と言っても過言ではありませんので各自魔力が切れるまで先程教えた初級魔法を的に向って撃ち続け、的に当てる練習をしてください。テストの採点基準はどれだけ離れた的に当てる事ができ、どれだけの破壊が出来るかが採点されますのでしっかりと練習してくださいね」


「「「「はーい!!」」」」


「では各自、魔色ごとにグループに分かれて順番に的当てを開始してください」



 そして先生、生徒達は一人俯く唯織を無視して魔法の練習を始めるが…唯織は先生の説明を聞き、師匠に教えられた真実と世界の常識のズレについてずっと思案していた。



(師匠の言っていた世界の理と先生が言った世界の理がズレ過ぎてる…まず魔色…魔色は赤、青、緑、茶、水、黄、白、黒、透明の九色じゃなく本当は()()()()()()()()()()…)



 先生の説明にはなかった師匠と唯織だけが知っている十色目の紫の魔色…それは…



(まさか世間では()()()()は存在していない事になってる…?師匠が言ってた()()()()()()()()最強の空間属性が何で知られてないんだろ…?師匠も僕もずっと人がいない場所にいたからわからない…)



 空間属性…唯織の師匠が色付きの魔法に対して最強だと言う紫の魔色が何故人々に知られていないのか…



(後は魔力を起こすのと詠唱という行為…確かに魔力を起こす行為自体は間違ってないけど何で最初から起こし続けておかないんだろ…?詠唱をすれば魔法の発動に関してはとてもしやすくなるのは間違いないし、一応空間属性…紫の魔色にも『ノル』という起句が存在している…だけど国としては戦争で人を殺せる魔法師を欲してるんだよね…?何で相手を殺す為にわざわざ自分が使う魔法の事を口にするんだろ…?()()()で魔法を発動する事が出来る事もみんなの間では知られてない…?)



 何故魔法をいつでも使える様に魔力を起こし続けていないのか、何故相手に自分の使う魔法の属性を口にしてしまうのか…あまりにもお粗末すぎる先生の教え…自然と師匠の教えと比べてしまう唯織はずっと俯きながら思案していた。



(…みんなが嬉しそうに使ってるその魔色だって本当は()()()()()()()()()()()って事も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事もみんなの間じゃ知られてないんだろうな…知ってたらきっと僕の事を馬鹿にしたりいじめたりしないもんね…)



 考えれば考える程思考の波に溺れていく唯織は楽しそうに初級魔法を撃ち続けている生徒達を見つめ、小さく息を吐いた時…



「水よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ…イル・ウォーターボルト!!」


「…っ!?」



 一人の生徒がわざと唯織に向って水の玉を撃ち、感傷に浸って警戒を緩めていた唯織は避ける事が出来ずに顔で水の玉を受けて倒れてしまう…。



「なっ!?い、イオリ!?大丈夫ですか!?」



 まだ使い始めて威力もない初級魔法でも当たり所が悪ければ怪我じゃ済まない事を知っているはず先生は血相を変えて唯織に駆け寄るが、生徒達は…



「ぷっ…あんなのも避けらんないのかよイオリ!!ほんっとお前って無能だよな!!防御魔法を使えよ!!」


「おいおい!無能の魔力は防御魔法が使えないんだって!!さっき先生が言ってただろー!?アハハ!」


「「「「ハハハハハ!!!!」」」」



 と、ずぶ濡れになった唯織を指を差しながら笑うだけで心配する事もせず…



「い、イオリ…くそ…これでイオリが怪我をしたら私の評価が…!大丈夫ですかイオリ!?」


「……」



 先生も自分の授業で怪我人が出た事が原因で教師としての評価が下がってしまう事だけを心配し、この場で唯織の事を本当に心配する者は一人もいなかった…。



「…こうなるから嫌だったんだ無能の無能を生徒を持つのは…!!今イオリに向って魔法を撃った人は職員室へ来なさい!!他の生徒はすぐに教室へ戻る様に!!…イオリ…イオリ!」



 今まで先生が唯織を心配した事は何度もあったし、何度もお目こぼしをしてくれた事もあった…それが自分の評価を守る為だったと言う事も知っていた…この場では自分は異物なんだと…。



「…はい…大丈夫です…」


「っ!?そうか…ならよかった…。私から魔法を撃った生徒に厳しく言っておくからこの事は黙っていてください。いいですね?」


「……はい」


「後、今日の授業はもう出なくていいので寮に戻って休んでなさい。欠席扱いにも早退扱いにもしないでおきますので」


「………ありがとう…ございます…」



 地面に蹲る自分を置いて校舎へと向かって行く先生と、笑いながら校舎へ向かって行く生徒達の足音が聞こえなくなった事を確認した唯織は咄嗟に被った制服の上着を頭から退かし…



「…わかってたじゃないか…初めからここに僕の居場所が無い事ぐらい…泣くな…泣くなよ僕…っ」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()に変わった髪を地面に垂らしながら涙を零す…。



 そして…



「ふむ…これは酷い…」



 真っ白な校舎の屋上にいた人物は静かに呟いた…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが気になるし面白いと思う [気になる点] 傍点が多すぎると思う、なんか気になって読みにくいから少し削ってもいいと思う、というか削ってくれ。 [一言] これからも頑張って。
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