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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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初授業

 





「はーい、出席とるわよー。リーナ」


「はいですわ」


「シャル」


「はい」


「リーチェ」


「はい」


「テッタ」


「はい!」


「シルヴィ」


「…ん」


「唯織」


「はい!」


「テッタと唯織は元気いいわね?何かいい事でもあったのかしら?」


「はい!」


「ええ、まぁ…」


「そう。仲がいいのはいい事だわ」


「…いいこと」


「「「…?」」」



 朝の出来事を知らぬ振りをしたアリアは唯織とテッタに笑みを向けながらきょとんとしているリーナ達を無視して話を進める。



「んじゃ今日なんだけれど…魔法の基礎を昨日終わらせてるし基礎訓練をやるわよ」


「基礎訓練…?何をするんですの?」


「だから基礎訓練よ。走ったり飛んだりとかその辺ね」


「え…?ま、魔法の訓練はしないんですの…?」


「魔法の授業をしてもいいんだけれど正直あなた達はこの学園のトップにいるからしばらくは魔法を使わない基礎訓練をするわ」


「そ、そうなんですのね…」


「何よリーナ?もしかして運動苦手なの?」


「べ、別にそんなことありませんわ!!」


「あらそう。…んじゃ、この動きやすい体操着に着替えて校庭に集合ね」



 そう言うとアリアは何もない場所から空間収納を利用して人数分の体操着を配り、パチンと指を鳴らして校庭へ一瞬で移動する。



「で、伝説の転移魔法をただの移動に使うなんて…ほんっと馬鹿げてますわ…」


「ま、まぁ…アリア先生が規格外なのは昨日でわかってたんだし…更衣室に行こう?」


「そうですわね…リーチェさんとシルヴィアさんもいきますわよ」


「ええ…」


「…?私も?」


「一体どこで着替えるつもりなんですの!?」


「…イオリと一緒に?」


「だからシルヴィアさん!またイオリ君に迷惑をかけていいんですか!?」


「…説教お化け」


「誰が説教お化けですか!!いいから行きますよ!!」


「「…」」



 シャルロットが強引にシルヴィアの腕を掴んで教室を出て行くのをきょとんとしながら見つめるメイリリーナとリーチェ…。



「い、いつのまにあんな仲良くなったんですの…?」


「さぁ…?まぁ、私達もいきましょう」


「…ええ、そうですわね」



 いつの間にか仲良くなっている事を不思議に思いながらもメイリリーナとリーチェもシャルロット達の後を追い…教室には唯織とテッタの二人だけになる。



「イオリ?僕達も更衣室にいこう?」


「え、ああ…はい、そうですね…」



 そして唯織とテッタの二人も更衣室へと向かって行くが…テッタは唯織の顔色が悪い事に気付く。



「…?どうしたの?具合悪かったりする?」


「いえ、そういう事では…ちょっと裸を見せるのが恥ずかしいというか…」


「…え?男同士だよね…?…え?も、もしかしてだけどイオリって女の子…!?」


「あ、いえ!普通に男ですよ!?」


「あー…びっくりした…イオリって女の子っぽい顔だから…」


「あはは…よく言われます…」



 苦笑いも女の子っぽい表情の唯織を不思議そうに見つめたテッタは黒い猫尻尾をゆらゆらさせながら唯織の手を繋ぐ。



「…まぁ、裸を見せるのが嫌なら僕ちゃんと後ろ向いてるから安心してよ」


「ありがとうございます…」


「…後、僕に丁寧な口調を使うのやめない…?」


「え…?」


「…ほら、なんというか…友達っぽくないでしょ…?」


「っ!そうで…そうだね、わかった…ありがとうテッタ」


「うん!」



 そうしてテッタに手を引かれながら唯織も更衣室に向った時…



「…む、泥棒猫…?」


「…?何を言ってますの?」



 遠く離れたシルヴィアだけは何かを感じ取っていた…。





 ■





「んじゃ全員揃ったわねー。…って…何で唯織とテッタは手を繋いでるのかしら?」


「え?あ、忘れてました…」


「あ、ほんとだねイオリ…えへへ…」


「…やっぱり泥棒猫…?」


「だから何を言ってるんですの…?」


「「…」」



 アリアの指摘に顔を赤くした唯織とテッタ、シルヴィアの発言の意味がわからないリーナ、顔を赤くしている二人を呆けながら見つめるシャルロットとリーチェ…アリアは何とも言えない空気を飛ばす様に咳払いする。



「んんっ…さて、これから基礎訓練を始めるんだけれど…あなた達、魔力についてどれだけ知ってるかしら?」


「…?魔力についてですか?」


「え…?魔法を使う為の魔力じゃないんですの…?」


「はい、アリア先生」



 アリアの突然の問いに首を傾げるシャルロットとメイリリーナだったが、リーチェは小さく手をあげた。



「魔力は身体の中で作られるもので私達の動きを助ける働きも担っています。魔力が尽きれば身体の動きが鈍る事からもこれは間違いないと思います」


「いいわねリーチェ。流石剣を使うだけあって身体の事は詳しいわね?」


「ええまぁ…」



 リーチェの回答に笑みを浮かべたアリアがリーチェの頭を撫でるとリーチェは顔を赤くして俯くがアリアは撫でながら話を続ける。



「今リーチェが答えてくれた通り、魔力って言うのは魔法を使う為だけのものじゃなく、私達が生活するのに必要な言わば手足の様なものなのよ。例えばそうねぇ…これでいいわ。シャル、これを折ってみなさい」


「こ、これを折るんですか…?」



 空間収納から鉄の棒を取り出したアリアはそのままシャルロットへ手渡すが…



「んんんんっ……む、無理です…」


「まぁそうよね。んじゃ他の人も試してみなさい」


「…む、無理ですわこんなの…」


「…流石に私でも無理です…」


「ぼ、僕も無理…」



 顔を真っ赤にする程力を入れても折れず、そのまま皆も試すがシャルロットと同じ様に顔を真っ赤にするだけだった。



「んじゃ唯織」


「あ、はい…」



 顔以外露出させていない唯織にアリアが鉄の棒を手渡すと…



「こうです、か?」


「「「「っ!?」」」」



 唯織の華奢な体からは想像もつかない程に鉄の棒はぐにゃりと曲がりバキンという音を立てて折れてしまう。



「シルヴィも」


「…ん」


「「「「っ!?」」」」



 唯織が折って短くなった鉄の棒をシルヴィアもいとも簡単に捩じ切ってしまう。



「こんな感じで二人は簡単に折ったり捩じ切ったりしたわけなんだけれど…何が違うと思うかしら?」


「え…?な、何が違うか…ただ単に怪力なだけじゃ…?」


「ならシャル、唯織とシルヴィの腕を触ってみなさい」


「…ん」


「どうぞ…」


「し、失礼します…っ!?や、柔らかい…!」


「でしょう?流石にどれだけ筋力があっても流石に折ったり捩じ切ったりするのは()()()()()()()()。だから非力な私達は魔力で身体を助けるのよ」


「魔力で身体を助ける…?」


「ええそうよ」



 そう言うとアリアはシルヴィアが更に短くした鉄の棒を握りつぶしてシャルロットの手に乗せながら説明を始める。



「唯織とシルヴィ、私があなた達以上の力を出せるのは()()()()()()()()()身体の動きをサポートしてるからなのよ」


「つ、常に魔力を起こしてるんですか!?」


「そうよ。唯織は透明の魔色だからあなた達には見えないかもしれないけれど…シルヴィをよく見てみなさい」


「…ん」



 アリアの言葉で唯織以外の皆がシルヴィアをジロジロと見つめるとシルヴィアの体の周りを覆う様に薄い膜が出来ている事に気付く。



「ほ、本当ですわ…」


「こんなに目を凝らさないと見えないなんて…」


「凄い…無駄が一切ないです…」


「本当だ…()()()もシルヴィアさんと同じ様に常に魔力を起こしてるの?」


「うん。透明の魔色は本当に透明だから見え辛いかもしれないけど僕も起こしてるよ」


「…やっぱり泥棒猫だ」


「だからやめなさいって」


「…むぅ」



 テッタの呼び捨てに妙な敵対心を抱き始めたシルヴィアの頭に手刀をお見舞いしたアリアはもう一度空間収納からさっきと同じ鉄の棒を人数分取り出す。



「という事で、あなた達には魔力の扱いと身体能力の向上を合わせた基礎訓練を今からしてもらうわ。目標はこの鉄の棒が簡単にぽきぽき折れる所までよ」


「…ま、待ってくださいアリア先生…」


「…?どうしたのかしらリーチェ?」


「簡単に魔力を常に起こしてるって言いますが…それがどれだけ難しいと…例えるなら常に目を開いてる、常に全身に力を入れ続けてる様なものですよ…?」


「ええそうね。だから別に一日で出来る様になれなんて言うつもりはないわ。…でも実際に唯織もシルヴィも私もそれを当たり前の様にしてる…ならあなた達にも出来るわ」


「っ…」


「それに私、言ったわよね?折れずに私に付いてきなさいって。そしてリーチェ、あなたも言ったわよね?はいって」


「それは…」


「なら折れずに私に付いてきなさい。絶対に後悔なんてさせないわ」


「…はい」


「リーナ、シャル、テッタ、あなた達もよ。折れずに私に付いてきなさい。絶対に後悔なんてさせないわ」


「…仕方ありませんわね」


「頑張ります…!」


「はい!」



 妙に説得力と安心感がある物言いにリーチェはまた顔を赤くして俯いてしまうが素直にアリアから鉄の棒を受け取り、リーナ達もやる気に満ちた表情で鉄の棒を受け取り…



「んじゃ、四人は今から魔力を起こしながらお昼ご飯まで校庭を全速力で走り続けなさい。息が上がって脚が上がらなくなったら私の回復魔法で何度でも走れるようにしてあげるわ」


「「「「っ!?」」」」


「ほらさっさと始めなさい!!走らないなら私が全速力で追っかけてあげるわよ!?罰ゲームもあるわよ!?」


「「「「は、はい!!!」」」」



 目を見開きながらアリアの言葉に絶望し、全速力で校庭を走り始めた…。



「さて…」


「「……」」



 そしてアリアは必死に走っている四人を心配そうに見つめている唯織と無表情で我関せずなシルヴィアに柔らかい笑みを向け…



「唯織とシルヴィなんだけれど…二人は逆に魔力を一切起こさないでこの木製武器で近接戦闘をしてもらうわ」


「えっ!?ま、魔力を起こさずにですか…!?」


「…流石にそれはしんどい、無理、ヤダ」


「あら?全力で私との殺し合いの方がいいのかしら?」


「…アリア先生性格悪すぎ…鬼畜魔王…」


「こ、殺し合いは遠慮します…」


「ならさっさと好きな武器を選びなさい。ナイフ、短剣、剣、大剣、斧、棍棒…思いつく限りの近接武器を用意したわ」


「す、すごい…木製の鞭に大鎌…え…?ちょ、ちょっと待ってくださいアリア先生…!これ…んっ!?」


「…な、なにこれ…()()()…る…!!」



 二人の表情が驚きに変わった事に気分を良くしてアリアは凶悪な笑みを浮かべた。



「ハッ…あんたら二人に()()()するとでも思ってたのかしら?あの四人が泣いて心が折れるレベルの授業を施してあげるわ…感謝しなさい?」


「…マジで鬼畜魔王…」


「こ、これ…何でこんなに重いんですか…?」


「その木の中に鉄を仕込んで魔法をかけて重さを全部5㎏ぐらいになる様に調整してあるわ。普通に持つだけなら問題ないと思うけれど、武器として持つとめっちゃくちゃ重いはずよ」


「…えぐい…えぐすぎる…」


「ど、どうしよう…ナイフの形なのに重すぎる…!」


「はいはい、何時までも喘いでないでさっさと武器を選んで始めなさい。始めないなら倍の重さにするわよ?」


「「っ!?」」



 アリアの一言で唯織はナイフ、シルヴィアは剣を拾って校庭の真ん中へと走り…とてつもなくぎこちない近接戦闘を始める…。



 そして…



「よし、楽しい授業の始まりね」



 アリアも髪を纏め、腕、腹、脚を大きく露出させた動きやすい格好に着替えて校庭を走る四人を追いかけ始めた…。

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