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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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新たな隣人

 





 ランとユリ達が襲撃される少し前…。



「まずは名前からいこっか~。俺はアリアって言うんだけど君は~?」


「アリア…アリア…覚えた。俺はギャリュジャギギだ」


「ぎゃ…ごめん、もう一回いい~?」


「ギャリュジャギギだ」


「ぎゃ…ギャリュジャギギ……ごめん~ギャリーって呼んでいい?」


「構わない。次は俺からいいか?」


「いいよ~」


「わかった。何故俺に対話を求めた?我々は攻撃したんだ、弱肉強食…殺すのが自然の摂理だろう?」


「それこそギャリーが言ってた気配が他の鮫と違ってたからね~。対話出来る可能性があるのに一方的に命を摘み取るのは好きじゃないんだ~」


「…そうか」


「んじゃ次ね~。さっき都って言ってたけどギャリーとその仲間達が住んでる場所とかがあんの~?」


「ある…が、場所は教えられない」


「そりゃそうだよね~」


「…やはり我々を支配するつもりなのか?」


「俺達が邪魔しないように近寄らない様にしようと思っただけだから荒らすつもりは無いよ~」


「…なら何故ここに来たんだ?」


「さっきも言ったけど生徒達と海に遊びに来ただけだよ~」



 お互い情報を与え過ぎない様に慎重に会話を重ねていくと…



(…?あれ?ユリとラン以外のみんなの心拍数が急に落ち着き始めた…?)



 視界の端に映る皆の心拍数が休憩しているには落ち着き過ぎている事に違和感を感じていた。



「…ギャリー、君の仲間に命令違反したりする血気盛んな奴とかいる~?」


「いないはずだ。ここに来たのも都で狩猟が出来る者達だけで来て、戦いを好まない者達は都から出ていない」


「ふぅん…」



 ギャリーがそう言うとアリアは白い魔法陣から真っ白な槍を召喚してギャリーの喉元に突き出した。



「何の真似だ?」


「その言葉が嘘で、俺の生徒達に何か危害を加えてたら今すぐお前とお前の仲間達を同じ目に合わせてやる。嘘偽りはないな?」


「ああ、嘘は言っていない」


「………」



 余りにも堂々とした雰囲気で偽りはないと言うギャリーを睨みつけたアリアは口から溜息の代わりに大量の泡を吐き捨てて槍を肩に担いで笑みを浮かべた。



「わかった、ギャリーのその言葉を信じるよ」


「信じてもらえたなら何よりだ。だが…何故こんな事を?」


「いや~…なんかね~?生徒達が船の上で全員寝ちゃったみたいでね~。こうやって俺を会話で足止めして寝込みを襲って人質でも取ろうとしてるのか確認したかったんだ~」


「船の上で寝た…?」


「…ん~?」



 槍を向けられた理由を聞いた途端、ギャリーは難しい表情を浮かべ…背に腹は代えられないという面持ちで口を開く。



「…すまない、もしかしたら同胞がアリアの生徒達に危害を加えようとしているのかも知れない…」


「…は?どう言う事だギャリー」


「時間がない、アリアの生徒の元に向かいながら話す」


「…わかった」



 一気に殺気立ったアリアに怯む事無く生徒の元にと言った事を信じて船に向かい始めるとギャリーが現状について詳しく話し出す。



「この海の中では三つの勢力がある」


「三つ?」


「ああ、一つは我々メガロドンを主軸とした勢力。二つ目はクラーケンを主軸とした勢力。三つ目はマーメイドを主軸とした勢力があるんだ」


「…話が読めた。ギャリーの勢力、メガロドンの勢力は何もしてないけど残り二つの勢力が何かしてるかもしれないって事か」


「そうだ」


「状況的にマーメイドの勢力か…?ギャリーは他の勢力に対してどういう立ち位置なんだ?」


「三つの勢力に分かれているがそれはただ単に住む場所が違うと言う意味だ。いがみ合っている訳でも争ってるわけでもない。だから立ち位置というものは無い」


「なるほどな…マーメイド勢力の戦力は?」


「マーメイド自体に戦闘能力は無い。ただ歌い魅了し誘うだけだ」


「ならクラーケン勢力が手を貸す事は?」


「十分にあり得る。あの娘達は仲が良かったはずだ」


「おっけー…大分状況が掴めた。ギャリーみたいに話は通じるのか?」


「我儘だが一応」


「わかった…殺さない様にするけど、万が一があったらその勢力を潰すからね」


「我々は平和に暮らしたいだけだ。もしそうなるのなら全力で止めさせてもらう」



 そしてアリアとギャリーが泳ぎ始めて一分…アリアの視界に白く巨大な何かが海上に向かって何かを伸ばしているのを見た瞬間、



「見つけたぞ…!」


「海の中で弓…?っ!?」



 青い魔法陣から召喚した青い長弓に真っ白の槍を番え、両腕を命一杯広げた射形から槍が放たれると目にも止まらぬ速さで海上に伸びていた物の間を突き抜け衝撃で全て弾け飛んだ。



『ラン!ユリ!大丈夫か!?』


『っ!アリアか!助かった!!』


『あたしは風になってるっすー!』


『ならそのまま巻き込まれない様に遠くに離れてくれ!』


『あいよ!』


『風になるっすー!』



 自分の頭上、海上を爆速で進んで離れていく船を見送ったアリアは槍を放った衝撃で荒れ狂う海中を物ともせずに泳ぎ、



「お前がクラーケンか!歯ぁ食いしばれ!!!」


『―――――ッ!!』



 ギャリーと同じく陸の村一つ程はある触手を全て失った巨大クラーケンを殴って海底に叩きつけ、



「隠れても無駄だ!」


「ひゅぐぅ!?!?」



 海底から巻き上がった砂煙の中、ティリアとティアの『巨水の三腕(ティアリス・リュイン)』に似た海水を圧縮した巨大な手で遠くで隠れていた上半身が水色の肌の人、下半身が魚のマーメイドを掴み、



「さぁ、お前らが何をしようとしてたか言い訳を聞こうか?」



 放った槍を魔法陣から再度召喚し、マーメイドをクラーケンの上に叩きつけて一刺しで貫けるように重ね巨大な手で握りしめていく。



「待ってくれアリア!!少し落ち着いてくれ!!対話をするんじゃないのか!?」


「俺はこの上なく冷静だよギャリー。こいつらが指一本、触手一本動かした瞬間に殺せるぐらい冷静だ。それに対話の意思もちゃんと持っている」


「うぐっ!?ギャリュジャギギ!?アンタまさかワタシ達を裏切ったの!?」


「おいマーメイド、まずは俺の質問に答えろ。それ以外の言葉を喋ったら問答無用で殺す」


「いつっ!?…誰がアンタなんっ!?!?」



 マーメイドの言葉を遮る様にアリアが頭上に手を翳すと手の上から全ての海水が球状に爆ぜ、失った部分を元に戻す様に大量の海水が穴を埋め始める。



「次は無い。分かったならはい、死にたければいいえだ。どっちだ?」


「は…はぃ…」


「よし。ギャリー、クラーケンは君みたいに人型になれるのか?」


「…ああ」


「わかった。クラーケン、お前も死にたければそのままの姿でいろ。生きたければギャリーみたいに人型になってはいと言え」



 暴れ狂う海流、圧倒的な圧と力にマーメイドが屈したのと同時にクラーケンも屈したのか徐々に巨体が縮み…



「は…はい…」



 身体の何処とは言わないが、黒い墨を漏らしながらクラーケンの特徴を身体に残した真っ白な美女が弱々しくはいと答えた。



「よし…この槍はまだ必要か?」


「ひ、ひちゅ…ひちゅようあ…ありまひぇん…」


「わ…私もです…」


「わかった」



 怯えながらもちゃんと答えた事でアリアは白い槍を手放して光の粒子へと変え、握りしめていた水の手も解除して二人を解放した。



「まずマーメイド。俺はアリアって言うんだが、お前の名前は?」


「ぷ…プィミリレラムです…」


「…プラムって呼んでいいか?」


「は、はい…」


「次、クラーケン」


「はい…ビュビレイクークです…」


「…ビビって呼んでいいか?」


「お好きに…」


「じゃあ本題だ。プラム、何で俺の生徒…仲間を眠らせた?」


「で、出来るだけ穏便に終わらせたかったから…」


「ビビ、プラムと何をするつもりだったんだ?」


「…()()です」


「救出?何から何を?」



 するとクラーケン美女…ビビは憎しみを込めた視線をアリアに向けた。



「私達の平和を荒らす人間共から水人族をよ…」


「…何?アリア、お前の仲間は水人族を攫っているのか?」


「ワタシも見たわよ!見た事ない船の上に水人族の女の子二人を人間共が囲んでた!」



 ギャリーとプラムも同じ様に敵を見る様な視線を向けてくるが、事情を知らなければそう見えても仕方ないと納得したアリアは緊張させ続けた身体から力を抜いた。



「ふぅ…ティリアとティアの事か。あの二人は俺の生徒で、周りに居た人間も俺の生徒と嫁だ。攫ったりなんかしてないよ」


「嘘だ!人間は嘘ばっかり吐くんだよ!ていうか何でドラゴンが人間の味方してるのよ!?」


「そうよ…あなた達だって何もしてないのに人間に卵を盗まれたり、鱗や牙、爪だって持ってかれたりしたでしょう?」


「いや、俺は人間だよ」


「「「…は?」」」


「正確には召喚術で召喚した龍と一体化した人間だけどな。お互い信頼し合ってないと出来ない芸当だ」



 アリアがそう言うと三人の顔が驚愕へと変わった。



「ドラゴンが人間の味方…?信頼し合う…?そんなのあり得ない…絶対嘘よ!!」


「ええ…あり得ないわ。あんなに人間を恨んでたドラゴンが…絶対にあり得ない…」


「それにドラゴンを召喚…?人間がそんな事出来るのか?」


「お前…いや、君達が人間と龍にどんな偏見を持ってるのか分かったけど事実だよ。リヴァイアサン」



 自分達の考えが正しい、そんな事あり得ないと言い続ける三人に見せつける様にリヴァイアサンとの獣神化を解くと更に驚愕の表情に変わった。



ぼばら?(ほらね?)


「ママ喋れてないから~」


「え…?し、神龍リヴァイアサン…?」


「神龍…う、嘘でしょ…?」


「まさか…そんな馬鹿な…」


「…さっきからずーっと聞いてたんだけどさぁ、ママの大切にしてる仲間達を襲ったり、私達のママの事を嘘つき呼ばわりしたり、見下す様な事言ったり、睨んだりしてるの凄く不快なんだよねぇ~…」


「「「っ……」」」



 気怠そうな声が更に低くなった事で命の終わりを悟った三人は口をきつく閉ざすが、



ぼば(こら)ぶばびばばん(リヴァイアサン)


「…だから喋れてないってママ~。…今回呼ばれたのが私でよかったね~?ファフニールとかリンドヴルム、アジ・ダハーカだったら問答無用で消されてたから気を付けた方がいいよ~?」



 そろそろ息が続かないのか両頬を膨らませているアリアの間抜けな姿のおかげでリヴァイアサンの圧殺するかの様な雰囲気が霧散し、リヴァイアサンはまたアリアの中へ戻り…



「まぁ…君達がどれだけ人間に対して憎しみと偏見を持っててもいいけどさ、人間だから全員が嘘つきだ、人間はみんな同じだから憎むとかそう言うんじゃなくて…人間だけどこの人は違うとか、種族全体じゃなく個として見て欲しいんだ。君達の勢力にも戦いたいと思う個がいれば戦いたくない個もいるでしょ?なのにその一部の個の所為で勢力全体が戦いたがってるとか敵だとか思われるのも嫌でしょ?だから憎む人間相手としてじゃなく、俺と建設的な話し合いをしてくれないか?」


「…ああ、そうだな…」


「…?」


「…家を海の中に作るの…作るんですか?」


「違うぞビュビレイクーク、プィミリレラム。アリアが言う建設的な話し合いと言うのは現状を良くする為にお互い積極的に話そうという意味だ」


「…ワタシ、人間の言葉って難しくてよくわかんない…」


「ですね…」


「ははは…まぁそう言う事だから話し合ってくれるなら付いて来てよ。仲間に君達を紹介するからさ」



 まだ戸惑っているギャリー、ビビ、プラムを引き連れて遠く離れた船へと泳ぎ始めた…。





 ■





「は~ん…それであたいらを襲ったってわけか…ふーん…?」


「「…」」



 船の縁に腰を下ろして甲板に上がったビビとプラムを睨みつけるユーラン…まな板の上の鯛ならぬイカと魚の様になった二人は…



「まっ、勘違いは誰にでもあるわな。プラムだっけか?あいつらはただ寝てるだけなんだよな?それと船を掴んでたのはビビだったか?触手を滅茶苦茶に斬ったと思うが怪我はしてねぇのか?」


「「…えっ?」」



 怒る所かこちらを心配するユーランの声に目を見開いた。



「…えっ?ええっと…うん…元々傷つけるつもりなかったから眠らせただけ…みんな全然寝ないからかなり強めに魔法をかけたからまだ起きないと思うけど…」


「…私の触手は人間の髪の毛みたいなものだから…」


「なるほどなぁ、今度は状態異常の特訓をしたほうがいいんじゃねーか?アリア」


「そーだね~でもなぁ~…状態いじょーかけれるのティリアとユリだけでしょ~?二人ともエロ系だからな~…あ、ティアの血統魔法があったか~。今度頼んでみよ~」


「えっ…?わ、ワタシ達襲ったんだよ…?」


「まぁ襲われたな?でも勘違いだったんだろ?なら別にいいじゃねぇか。あたいだって勘違いする時ぐらいあるさ」


「ふ、普通怒るんじゃないの…?」


「どうせアリアに圧倒的な力の差を見せつけられて心が折れたからあたいらの前に大人しく姿を現したんだろ?それとも何か?傷口に塩でも揉み込んで刺身にでもして欲しかったのか?」


「サシミ?って言うのはわからないけどなんか嫌な響き…」


「まぁあれだ、ただ寝てるだけで傷一つ付けられてねぇし、ユリだって痺れただけで傷ついてねぇし、アリアも敵じゃないって言ってんだ。あたいらからしたらそれだけで十分なんだよ。誰かに掠り傷一つでも付いてりゃ…そん時は問答無用で刺身だったかもな?」


「「……」」



 普通ならいくら仲間が敵じゃないと言ったからといって警戒はするはずなのに、初対面で襲った異種族の自分達を全くの無警戒で受け入れてる事が信じられないとばかりに二人は言葉を失った。



「にしても…ほーんと水人族ってこんな美形ばっかなんすね~。ティリアっちもティアっちもそうっすけど、プラムっちはアホツンチョロイン系美少女、ビビっちはおっとり根暗系美女、ギャリーっちなんて重い過去を背負った姫の専属護衛騎士系イケメンっすよ」


「何でギャリーだけそんな具体的な例えなんだよ……でも確かに美形が多いよなぁ…やっぱり血統魔法の影響って言うより水人族のルーツが関係してんじゃねぇか?」


「それしか考えられないっすよねぇ…」



 ユリが物珍しそうに三人の顔と身体つきを見渡し、こんなにも美形しか生まれない理由をランと一緒に思案しているとずっと黙ってやり取りを見守っていたギャリーがポツリと呟く。



「…何故分かったんだ?」


「「えっ?」」


「俺が姫の護衛をしていた事だ。ちなみにプィミリレラムもビュビレイクークも同じ護衛だった…もう姫はいないがな…」


「え…ま、マジすか?適当言ってたら当たっちゃったっすよ…」


「へぇ~?凄いぐーぜんだね~。その辺の話も聞きたいけどさ~とりあえずみんなを広い所で寝かせたいから日陰用意してくれる~?」


「あいあいっす~」


「おう」



 まさか適当に言った事が当て嵌まった事に驚くと、操縦席に寝かせていた皆の状態を確認をし終えたアリアが狭いからと皆を甲板に運び出し…



「「「……っ!!!ひ、姫様!?」」」


「「「……え?」」」



 ギャリー達は最後に運ばれてきた人物…ティリアを見て姫様と声を上げた…。

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