優勝賞品
「優勝は詩織、リーチェペアだね。どうだった?ビーチバレーって結構面白いでしょ?」
オレンジ色の空、青かった海は空の色を反射してオレンジに染まるまで続いたビーチバレーは詩織とリーチェがランとユリを下し、フレデリカとシリカがシャルロットとククルを下し、リーナとティアがテッタとアデルを下し、唯織とティア、アンジェリカとシエラの勝負は接触後からティリアが唯織の事を強く意識し過ぎて上手く動けずアンジェリカとシエラが勝っていた。
「いやー…流石に魔力を纏わないでぶっ続け三試合はきつかったー…」
「ですね…でも楽しかったです」
「アリアちゃんー私達優勝したんだし、なんかあってもよくなーい?」
「…んー、まぁ、そうだね。何か用意するよ」
フレデリカとシリカ、アンジェリカとシエラの試合はアンジェリカとシエラが、詩織とリーチェ、リーナとティアの試合は詩織とリーチェが勝ち、最後にアンジェリカとシエラ、詩織とリーチェの試合が終わり、その勝者二人は砂浜に寝そべっていた。
「ああ、そう言えばユリ教諭?」
「ん?なんすか?」
そしてアンジェリカは思い出した様に疑問に思っていた事をユリに問う。
「さっきイオリとティリアのラッキースケベを見たのだが、その後イオリが賢者タイムになっていたはずなのだがシエラが違うと言うのだ。もう一度賢者タイムについて詳しく教えてもらえないだろうか?」
「えっ…」
まさかみんなが集まっている時に聞かれると思わなかったユリは声を漏らし、
「「はぁ!?いおりんとティリアがラッキースケベ!?」」
「ひっ!?ち、違うんです!ボールを追いかけたらぶつかっちゃって上に乗っちゃっただけなんです!!」
「そうですよ…どちらかと言うと僕がぶつかりに行ったと思うのでティリアは悪くありませんよ」
「それを言ったらあんなサーブをしたあーしが悪いだろ…」
寝そべっていた詩織とリーチェは目を見開いてティリアとシエラを睨み、
「……何教えてんのユリ?」
「うっ…ま、まぁ…アンジェっち達も年頃じゃないっすか?そういう知識もそろそろと思ったんっすよ…」
ユリはアリアの満面の笑みの裏に怒りが隠れている事を悟り正座した…。
「…はぁ、そうやって一部に偏った知識を与えちゃダメでしょ?」
「すんませんっす…」
「アンジェ、その事については授業で教えてあげるから待ってて?」
「わかった」
小さく溜息を吐きながらユリの頭を撫でるとアリアは手をパンパンと鳴らして視線を集める。
「それじゃあ詩織のご要望通りに優勝賞品を準備するから皆は用意した料理で夕食にしちゃって。アーデ、国王様と王妃様の調理とかも任せるね?」
「は、はい!」
そう言ってアリア、ユリ、ランの三人は不可視化の結界を張ったのか姿が消え、皆はアデルが調理してくれる海の定番とも呼べる料理に舌鼓を打ち始める…。
■
「流石に食べ過ぎたかな…」
水着を着ているとはいえ胸と下しか隠れておらず、食べたばかりでお腹が気になる唯織はまだ楽しそうにバーベキューをしている皆から少し離れた場所で夜の海を眺めていた。
(…やっぱり気にしちゃうよね…何か僕、魅惑の魔眼効かなかったみたいだし…)
さっきからチラチラと視線を送って来るティリアに気付きつつ、気付いていないフリをしながらジュースを飲んでいるとパーカーを羽織ったティアが上から顔を覗かせた。
「ねぇイオリ君?」
「…どうしたんですか?ティアさん」
「気付いてるでしょ?ティリアがそわそわしてるのに」
「…まぁ、はい」
「ティリアはイオリ君と話したそうにしてるけど、そうしないって事はイオリ君は話したくないの?」
「そう言う訳ではありませんが…」
そう言って特定の人物達に視線を向けると鋭い眼光をティアに向けている事に苦笑し、ティアも原因が分かって苦笑する。
「シオリとリーチェね…」
「はい…本当はすぐにでもティリアのモヤモヤを解消してあげたいんですが、今の状態で二人で話したりしてると割り込んできそうで…」
「なるほどねぇ」
「だからティリアに伝えてくれませんか?話すならみんなが寝静まった時、ここで待ってるって」
「わかった。…でも、無理する事は無いからね?ハッキリさせない方がお互いにいい事もあるし…」
「まぁ…そうですね…」
「後、これはティリアのお姉ちゃんとして言うけど…私の可愛い妹を泣かしたりしたら怒るからね?」
「うっ…は、はい…」
何処の姉妹も下に対して過保護になるのかと改めて思った唯織はティアがティリアに耳打ちしている姿を見ていると皆の足元に白い煙が立ち込め始めた。
「煙…?まさか攻撃!?」
皆も以上に気付いたのか戦闘が出来ないシエラ達と王族を囲む様に臨戦態勢を取った。
「な、何が起きてんだ!?」
「こ、怖いです…!」
「えっ!?えっ!?何事!?」
「ちょ…こんなの聞いてないんですけど…!」
その包囲陣に囲まれたシエラ達が唯織達の空気が明らかに変わった事で異常事態だと悟り慌て始めると張り詰めた声色なのに安心する声がする。
「みんな落ち着いて、絶対に僕が守ってあげるから」
「「「「っ…」」」」
「リーナ」
漆黒のガントレットを付けたテッタがそう言うと名前を呼ばれたリーナが笑みを浮かべて指示を飛ばし始める。
「アンジェ、フリッカ、血統魔法を使ってこの場からの視界共有、索敵。わたくしは音で索敵しますわ」
「了解した」
「わかった」
「シオリは空から索敵を」
「はーいよ」
「リーチェ、ティリア、索敵に引っかかり次第応戦」
「わかりました」
「はい」
「シャル、リーチェとティリアの援護用意」
「準備出来てるよ」
「ティア、多勢の場合を考え海水を使って広域殲滅の用意を」
「わかった」
「イオリさん、国王と王妃の安全を第一に。最悪転移魔法で帰国してくださいまし」
「了解」
「そしてテッタさん、血統魔法でゴーレムを作り広域索敵、地中警戒、わたくし達の防御、一番負担がありますが当然問題ありませんわよね?」
「問題ないよ」
「流石ですわ」
「ほう…」
「あら…」
余りにも迅速で不足ない指示と行動、皆がリーナの指示が最適だと信じる信頼にイヴィルタは目を丸くしながら唸り、メルクリアはリーナがこの中で一番信頼を置いているテッタとの関係が気になって頬に手を当てながら声を漏らした。
「さぁ、何処からでもいいですわよ…かかって来てくださいまし…」
『偽天の女王』で戦闘学科の落ち着いた心音と、緊張でドクドクと煩い座学学科の心音を聞きながら周囲の音に耳を凝らしていた時、
「何だあの光…?」
「何かが昇ってく…?」
アンジェリカとフレデリカが何かの光が空に向かって飛んでいくのを見つけ、
「…ああ、そう言う事ね。リーナ、警戒態勢解いていいよ」
「え…?」
空の警戒に当たっていた詩織がリーナにそう言った直後、空に爆発音と共に色取り鮮やかな火の花が咲いた。
「これ…花火ですの?」
「うん、多分アリアちゃんが用意した私とリーチェの優勝賞品って所じゃない?」
「…そう言えば用意してくれるって言ってましたね。全く…そうならそうと一声かけてくれればよかったのに」
リーチェが『山茶花』を納めると皆も苦笑しながら武器を納め、追加の花火が打ち上がり夜空を塗りつぶす程の花火が次々と咲き乱れていく。
「これが花火か…そういえばリーナ達の入学式の日にも一度見たな?」
「見た。でもあれは朝だったからここまで綺麗じゃなかった。夜に見るのは別格な美しさ」
「あー、いおりんの魔法をアリアちゃんが上に弾いた時のか。まぁ、花火は夜にするもんだしねー」
身体に響く低音で身体と耳を、夜空に咲く花で目を、仲間達とこの光景を見ているという事で気持ちを楽しませてくれていると…
「皆さん、私達のサプライズを楽しんで頂けましたか?」
何処からともなくアリアの声に似た丁寧な喋りが聞こえてくると先程までは何も無かった砂浜に無骨な鉄の塊が姿を現し、その鉄の塊の上に立つ煌びやかな衣装で身を包んだユリとラン、ピンクの髪で何処となく少年姿のアリアに似た小さな女の子に様々な色の光が当てられた。
「さっきの緊急時の対応は文句の付けようがないぐらい完璧だったっすよ!」
「まぁ、それ込みのサプライズって事だ。んで、こっからは詩織とリーチェの優勝賞品だ。全員気分がノッて来たらこれでも振ってくれ」
そう言ってランがばら撒いたのは三人の髪色に合わせたピンク、赤、白に光るナイフ程の長さの棒で…
「それでは…私達、ファンタジアダフネのライブをお楽しみください!一曲目はこれ!『ファイアーワークス』!」
ピンク髪の女の子がそう声を張り上げるとアップテンポで明るい曲が砂浜に響き、三人は一糸乱れぬダンスと美声を披露し始めた…。




