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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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ビーチバレー

 




「はーい、みんな準備運動はいいかなー?」



 基本的なレシーブ、トス、アタックを練習し終え、皆の額にじんわりと浮かぶ汗…皆の気合は十分漲っていた。



「よし、一チームはシード枠になるから…どうしようかなぁ…」


「あ、んじゃあたしもやりたいっす!」


「え?ユリもやるの?」


「大丈夫っす!あのくっそ重い重り付けてやるんで!」


「ん、ユリがやんならあたいもやるか」


「ランも?…まぁ、ハンデ付けるならいいか…んじゃ、くじで対戦相手決めるよー」



 ハンデ付きで飛び入りしたユリとランの分のくじを増やす為に二つの割りばしに三角の模様を付けるとそれを握り込んだ。



「んじゃ、唯織引いて」


「はい…〇ですね」


「次はテッタね」


「はい…△です」


「次、リーナ」


「…△ですわ」


「次、詩織」


「んー…これ!…□だね」


「次、アンジェ」


「ならこれにしよう。…〇だな」


「次、フリッカ」


「ん、これ。…×だった」


「シャル、ラスト引いて」


「…×でした」


「んじゃ、残った□がユリとランね?」


「ういっす!」


「詩織とリーチェか。身体能力もいいし楽しめそうだな?」


「よし!じゃあ対戦相手決まった事だし各コートに入ってー!」



 全員がくじを引き、遂にアルマ初の相手を傷つけない平和なスポーツと言う競技が始まる…。





 ■





「ランっち、身体の感覚は大丈夫っすか?」


「マジで重すぎんぜ…」



 銀色のブレスレットを両手首、両足首に付けた重りが重すぎる事に苦笑するランとユリ。



「へーい!ばっちこーい!!」


「何ですかその掛け声…」



 ネットを挟んでボールの砂を落とすランを前傾姿勢で待ち構える詩織とリーチェ。



「向かい風か…んじゃ、いっちょサービスエースと行くか。いくぜ詩織」


「私狙いって事ね…っしゃー!!」



 砂の落ち方で風を読んだランは高くボールを放り投げ…



「身体重てぇ…なぁ!!!!」



 鉛のように重たい身体を跳ね上げて空中でくの字になった反動を全て乗せた打球が長身の打点も相まって鋭角に詩織を襲、



「ど真ん中!!リー…はっ!?」



 わず、詩織が構えた一歩手前に不自然に軌道を変えて突き刺さった。



「えっ!?な、何ですか今の角度!?シオリの前でいきなり落ちましたよ!?」


「ひゅぅ~!ランっちサービスエースっす!」


「インドアのバレーとはちげぇ事が出来っから案外アウトドアのバレーも捨てたもんじゃねぇな」


「ちょ!?魔法は無しなんじゃないの!?」


「あん?あたいが魔法を使えない事は知ってんだろ?向かい風だし、トップスピン掛けて落としたんだよ」


「そ、そんな事出来んの!?」



 魔法を使ったとしか言いようのない不自然な軌道に詩織とリーチェが驚いていると点数板に数字を書き込んだアリアがケラケラと笑う。



「そりゃそうだよ。だってランは元の世界で女子U-18、21の選手に選ばれてたんだから」


「ただ年齢に比べて身長がデカくて運動が出来ただけだがな」


「はぁっ!?」


「…女子U-18、21って何ですか…?」


「…簡単に言っちゃえばこのバレーっていうスポーツで国を背負う代表の選手に選ばれてたって事だよリーチェ…」


「ず、ずるくないですか!?」


「何もずるくはねーだろ?バレーってのは一人じゃ何も出来ねぇ競技だからな。一人だけ強くてもどうにもなんねぇが…サーブは別だぜ?」


「「っ!!」」



 アリアから返球されたボールの砂を落としてもう一度サーブの体勢を取ると詩織とリーチェは身構え…



「二人で協力して上げてみなっ!!!!!」


「今度こそ!!」



 先程と同じ軌道で詩織にボールを放ち、詩織は急激に落下しても拾える様に前に出るが…



「っ!シオリ!!斜めに落ちます!!


「うぇええええ!?!?」


「ぐっ…!!」


「ナイッサーっす!!」



 今度は詩織を避ける様に斜め下に軌道を変え、少し遅れて落下地点にダイブしたリーチェを嘲笑うかのようにコートに突き刺さった。



「へぇ…よくわかったな?」


「…さっきはボールの回転が綺麗な縦だったのに今回は斜めにかかってましたから…」


「大分目がいいんだな?」


「じゃないと自分のスピードに目が追いつきませんから」


「面白れぇ…なら次はリーチェを狙うぜ」



 そう言って返球されたボールを持ってサーブ位置に移動するランの背中を見つめているとさっきより声のトーンを落とした詩織が呟く。



「…ごめんリーチェ」


「何言ってるんですか…私だって見えてたとしても魔力を纏ってないだけではなく、この砂の所為で足が取られて身体がイメージに追いつかないんです。弱気になる前に身体の何処でもいいから当てて上にあげてください。私も頑張って上にあげます…!」


「…わかった。次は宣言通り確実にリーチェを狙ってくると思う。だから普通じゃあり得ない戦法だけど…」


「…はい…はい…わかりました、それでいきましょう」



 砂のついたお互いの手を叩いて笑みを浮かべると次の打球の為にコートの左側目一杯まで寄って詩織は後ろ、リーチェは前で軽い前傾姿勢を取った。



「…あん?コートの片側をガラ空きにするとか正気か?」


「ランさんは私を狙うって言いました。…まさかこんなガラ空きのコートにボールを落として点を取るなんて()()、しないですよね?」


「おー?リーチェっちもなかなか策士っすねぇ!ランっち!逃げるっすか!?勝負するっすか!?」


「…んなの勝負一択だろ」



 ネットに身体を隠す様な絶妙な位置に陣取ったリーチェに前に落とすのは絶望的、同じ曲げ方ならコートアウト、ガラ空きの左側は逃げ、リーチェを狙いつつ左に曲げる事を強いられている状況なのに凶悪な笑みを浮かべたランはボールを今まで以上に距離を取り…



「あげれんなら…上げてみろっ!!!!」



 全力の助走から繰り出されたジャンピングサーブがリーチェの顔面に向かって飛んでくるが、



「曲げる…と見せかけて前っ!!いっつぅ!?」


「マジかっ!?」


「ナイスリーチェ!!」



 正確にボールの回転を読み切って絶対に無理じゃない様にわざと開けていた前に一歩踏み出しボールを綺麗に上げ、あまりの威力に涙目になりながら砂に倒れ込んだ。



「早く立ってリーチェ!アタック行くよ!」


「わ、わかりました!!」


「ブロックしちゃうっすよー?」


「っ!本当に砂がキツイっ!!」



 素早く立ち上がって落下地点で待機する詩織と目配せするとリーチェは十分な助走距離を取り、砂に足を取られながらも高く飛びあがると…



「リーチェ!!」


「はい!」


「せーっ…のっあ!?!?」


「…!くそっ!届かねぇ!」



 リーチェを囮にした詩織のツーアタックが決まり、リーチェの方に一瞬釣られたユリの後ろにボールが落ちた。



「っしゃー!」


「ナイスです!」


「くあー!流石に反応出来なかったっすー!」


「しゃーねぇしゃーねぇ、あたいもリーチェに誘われてんの気付かずに上げられちまった。相手のサーブしっかり上げてこーぜ」


「うっす!」



 ネットの向こうで見たかと拳を合わせてドヤ顔を浮かべている二人にランとユリは笑みを浮かべた…。





 ■





「アーデちゃん、どんな打ち方でもいいからコートに入れてくれればいいけど、外したりしても怒らないから気楽にね?」


「は、はい!テッタ様!」



 ファンも多い庇護欲を掻き立てる様な顔で笑みを向けるテッタとその笑みを見て鼻血が出そうになるアデル。



「…ティア、絶対に勝ちますわよ…!」


「う、うん…」



 まるで獲物を仕留めるかの様に目つきを鋭くするリーナとその気迫に怖気付くティア。



「い、いくよ!」



 下から救い上げる様なアデルのサーブは綺麗な放物線を描いて優しくリーナとティアの中間へ飛び、



「私が拾うよ!」


「わかりましたわ!」



 声を掛けて自分が拾うと示したティアは逆サイドギリギリのネット際にボールを上げ、すかさずリーナが助走に入ると同じく助走に入ったティアにマークしているテッタとネット越しに目が合った。



(…リーナ、怒ってる…?)


(ベタベタされて鼻の下を伸ばしてるテッタさんにお仕置きですわ…!)


「えっ!?えっ!?ど、どうしよう!?」


「ティア!いきますわよ!」


「うん!」



 数時間練習しただけなのに完璧なフォームで飛び上がったリーナはテッタから視線を切り、あたふたしているアデルに当てない様に空白部分に狙いを付け、ティアに視線を飛ばし、



「はあっ!!!」


「させないよっ!」


「っ!?」



 ティアにボールをトスすると見せかけて打ち抜いたが、反対側に居たはずなのに獣人族の身体能力をフル活用して一瞬で目の前に現れたテッタにブロックされて自陣にボールが落ちた。



「て、テッタ様凄いです!!」


「ありがとう、アーデちゃん」


「くっ…読まれましたか…」


「読んだと言うより見て反応したと言うか…」


「凄いですわね…」



 改めて魔力を纏っていない素の人間族(ヒューム)が他種族に劣っているんだという思いと、他種族とも引けを取らない、他種族と対等になるまで自分達を引き上げてくれたんだというアリアの凄さに溜息を吐きながら立ち上がろうとすると優しく手が差し伸べられた。



「ねぇ、リーナ?何か怒ってる?」


「…別に怒ってませんわよ?」


「そう?さっき睨んでたから…」


「…別に睨んでませんわよ」


「そっか、ならいいんだけど…魔力を纏ってなくてもリーナ相手に手を抜いたり出来ないからね。今度も全力で止めさせてもらうからね?」


「…望む所ですわ」



 テッタの笑顔から顔を背けて優しく伸ばされたテッタの手を取り立ち上がり…



「よかったね?デレデレしてなくてちゃんとリーナの事を見ててくれて」


「なっ!?な、な、ななななにいってるんでしゅの!?」


「テッタ君がアーデに取られたと思ったからあんなに怒ってたんでしょ?」


「うぐっ…」


「ティリアとリーチェぐらい分かりやすいよ?」


「そ、そんなにですの…?」


「だって…ねぇ…」



 この苛立ちとドキドキの気持ちの正体を理解した顔のリーナにティアはやれやれと笑った…。





 ■





「シリカ、アタック」


「む、無理ですー!!!」



 綺麗な放物線でシリカにトスを上げるフレデリカと必死に何度ジャンプしても指先すらネットの上に出ないシリカ。



「よっと、ククル!トスちょうだい!」


「ちょっ…!もっ…!むっ…!」



 指先に辛うじて当たった緩いボールを悠々と拾うシャルロットと引きこもりがちで体力がないのに砂浜という最悪な足場で体力を奪われコートにボールを落とすククル。



「まだ5回目だよ?流石に体力なさすぎると思うんだけど?」


「ばっ…馬鹿じゃないの…!?そっ…その5回のラリーがっ!尋常じゃない程続いてるからっ!疲れてるんでしょ…!?」


「でもシリカは全然疲れてないよ?」


「シリカは馬鹿で可愛いけど体力だけはあんの!…はぁ…何なのこの体力お化け達…!」


「えへへ…でも、ククちゃんの方が可愛いと思うよ?」


「シリカ、多分それ褒められてない」



 ククルが落としたボールをシリカが拾いサーブの準備を始めると、シャルロットはククルに耳打ちした。



「しばらくの間、私が一人で拾うからトスだけ上げて体力回復に努めてもらえる?」


「わ、わかった…とりあえず、上に上げればいいんだよね…」


「うん、任せたからね。後それとククルは器用だから……」


「……おっけ、やってみる」



 そんな作戦会議をしている時、フレデリカもシリカに耳打ちしていた。



「ねぇ、さっきのランさんのサーブ見た?」


「見ました!凄い曲がってましたよね!」


「シリカはアタックする時、ネットから指先すら出てなかった。だからシリカが点を取るにはサーブしかない」


「で、でも、親方みたいに高く飛べませんし、身長も無いですよ?お姉ちゃんなら出来るかもですけど…」


「別にランさんみたく凄いサーブをしろって言うわけじゃない。打つ時に……」


「……なるほどです。やってみます!」



 二つの作戦会議が終わり、シリカがボールの砂を落とすとコートラインから遠ざかり…



「せーー…のっ!!」



 ランの様なジャンピングサーブでは無いが、ジャンプしながら少しでも高い場所からボールを押し出す様に打った。



「流石にこれは拾える!」



 狙いも甘く、体力が切れたククルに向かってゆったりと飛んでくるボールに腕を伸ばそうとした時、



「…!ククル!それ曲がる!!」


「えっ!?きゃっ!?」



 風に煽られた事も相まって腕に当たらず、腕を避ける様にククルの顔目掛けて飛距離を伸ばしてコートに落ちた。



「わっ!で、出来ました!」


「ナイス、シリカ」


「えっ…?いきなり顔目掛けて飛んできたんだけど…?」



 ネットの向こうでハイタッチするシリカとフレデリカを茫然と見つめているとシャルロットがまた耳打ちをしてくる。



「今のは回転が掛かってなかったから不規則に動いたんだと思う。味を占めてまた同じやり方で来ると思うからククルは狙われない様にネットに近づいてファーストタッチは全部私に任せて。私だけじゃ絶対に勝てないから頼りにしてるよ、ククル」


「…わかった」



 何処となく戦闘学科だから、貴族だからと苦手意識を持っていたククルだったが、シャルロットに頼りにしてると言われ…笑みを浮かべた。



「…ククルは無理だからシリカの好きなとこでいい」


「わかりました!…せー…のっ!」



 もう一度シリカが同じ無回転のサーブを打つと軌道が不安定に揺れ…



「身体の何処でもいいっ!…ククル!」



 腕ではなく、また飛距離が伸びたボールを胸で上げ、



「ナイス根性!」


「二回目で打たせないよ!ククちゃん!」


「上等!」



 二打で打たれない様にピッタリと警戒してるシリカにニヤリと笑うと、シャルロットが必死に上げたボールに両手を伸ばし…



「こんな感じ…かなっ!」


「っ!?」


「とどっ…かないっ!」



 シャルロットにトスするのではなく、ネットの白帯を狙いすました様に反対側へトスしてネットに引っ掛けながら相手コートにボールを落とした。



「っ!ククルナイス!」


「まぁ?ククちゃんにかかればこんなもんかな!」


「シリカごめん。シャルを警戒しすぎて後ろに居すぎた」


「あーくしもククちゃんにベッタリし過ぎて端に寄り過ぎました…次はちゃんと真ん中に居ます!次しっかり上げます!」


「期待してる分、私も頑張る」



 そして両者がペアと手を叩き合い笑みを浮かべた…。





 ■





「わかってはいたが、我々の相手はユリ教諭とランさん並みに厄介な相手だな」


「くじ運なさすぎだろアンジェ先輩…」



 点数板に書かれた4-0という数字を見て苦笑するアンジェリカとシエラ。



「全部サービスエースなんて流石だねティリア」


「ま、魔力を纏ってなくても武術は使えるので…」



 武術を応用して豪速球のサーブで点を取り続けるティリアと笑みの唯織。



「さて…このままだとサーブだけで負けてしまうが…どうだ?あの速さの球に目は慣れたか?」


「…ああ、あーしが慣れるまでわざと点を取られてたんだろ?」


「いやなに、シエラの度胸が何処まで据わっているか気になったものでな。こんな状況で勝負を投げ出す女じゃないと知れたんだ、有意義な4点さ」


「流石は元生徒会長なこって…で?そんな言い方をするんだったら点を取り返す方法があんだろ?」


「ああ。嫌味な言い方になってしまうかも知れないが、相手は戦闘学科のイオリとティリア…魔力を纏っていなくても身体能力はシエラじゃ足元にも及ばない。…が、これは魔法も使わなければ武器も使わないスポーツだ。そして相手は私達に直接危害を加えられないのなら、やりようはいくらでもある」


「別に嫌味になんか聞こえねぇよ。アンジェ先輩はいつも真実しか言わない。さっさとその作戦を教えてくれ」


「…そうか。もう少し早く知り合っていたかったものだな」



 案外シエラからの評価が高い事に恥ずかしそうに笑みを浮かべたアンジェリカはシエラの耳元で作戦を話し始めた。



「…なんかアンジェさん達いい感じみたいだね?」


「そ、そうですね…次も速いサーブにしますか…?」


「多分だけど、ここまでサービスエースを取れたのはティリアの頑張りもあるけど、シエラさんが球に慣れる為にアンジェさんがわざと上げなかったと思うんだ。遅い球は確実に上げられると思うし、速い球も今度はアンジェが上げてくると思う」


「じゃ、じゃあどうしますか…?」


「…ねぇ、ティリア?遅い球でも速い球でも無くて、強い球って打てたりする?」


「強い球…ですか…?」


「うん、アンジェさんには悪いけど…吹き飛ばすぐらいの」


「…流石に魔力を纏ってない状態だと無理です。出来たとしても多分このボールが割れちゃう…態勢を崩すぐらいなら」


「で、出来るんだ…」


「ぶ、武術の応用ですっ!」



 怪力女だと思われたくない一心で顔を真っ赤にして必死に抗議するティリアに苦笑した唯織はアンジェリカと同じ様に耳元で作戦を話し開始位置へ着いた。



「さぁ、何処にでも打って来るがいい。私が必ず上げてやる」


「…いきます」



 シエラを後ろに下げてコートの真ん中に陣取ったアンジェリカを見据え、速い助走ではなくゆったりとした助走を付け…



「…えいっ!!」


「っ!?うっ!?!?」


「あ、アンジェ先輩!?」



 今までの四本とは比べ物にならない高さの跳躍から放たれた鈍い音が鳴ったボールは、上から直角に打ち下ろす様な角度でアンジェリカを襲い凄い勢いで後方に転がした。



「えっ!?わ、私そんな強く打っちゃいましたか!?」


「ティリア!アンジェさんは受ける瞬間わざと後ろに飛んだんだ!ボールは上がってる!!シエラさんを警戒しないと!」


「えっ!?えっ!?」


「チッ!バレたか!こうなったらダメ元だ!!」



 派手に目立ったアンジェリカに隠れる様にボールの落下地点に待機していたシエラは唯織の察しの良さに舌打ちを漏らしつつ、ツーアタックのジャンプをすると…



「「せーのっ!!」」


「止めてみやがれ!」


「「…えっ!?」」



 ブロックに飛んだ唯織とティリアの手にやんわりとしたボールを当ててもう一度緩くボールを上げ、



「よくやったシエラ!」


「「あっ!?」



 跳ね返って来たボールをそのままアンジェリカがバックアタックでコートにボールを突き刺した。



「うっわ、マジで出来ちゃったぜ…」


「流石に魔力を纏えず魔法も使えないとなれば空中と着地瞬間は動けないだろう。だが…今回の点はシエラのあの迫真の演技で二人を惹き付けてくれたおかげだ」


「ですね…あんなに吹っ飛んでいたのでシエラさんしか攻撃出来ないと思ってアンジェさんから意識を外しちゃいました」


「演技で吹っ飛ぶはずだったんだが…普通に吹き飛ばされたな」


「受けた瞬間、アンジェ先輩マジ声出してたしな?」


「っ!?ご、ごめんなさい…!」


「死ぬわけでもない、気にするな」



 たった一回拾っただけで真っ赤になった腕を擦りながらシエラにボールを渡すとアンジェリカはもう一度耳打ちをする。



「次はシエラが点を取る番だ」


「流石にあんなすげーサーブは出来ねえよ?」


「なに、迫力は無いかも知れないがこの頃合いなら先程のサーブと遜色ない必殺と呼べるサーブが打てるさ」



 ティリアのサーブと同じレベルのサーブが本当に打てるのかと眉を顰めながら聞き、笑みを浮かべながらサーブ位置に着いた。



「シエラさんがサーブか…身長があるからジャンプサーブ…?少し後ろ目で左右に開こう」


「わ、わかりました…!」



 油断なくどんなサーブが来ても対応出来るように唯織とティリアは身構え…



「んじゃ…ちょっくらやってみっか…なっ!!!」


「「っ!?」」



 下から救い上げる様なサーブ、手を開くのではなくきつく拳を握って打ち出されたボールは天高く飛んだ。



「真上に打った!?…そうか!太陽か!」


「ま、眩しくて見えないです!!」



 晴れ渡る青空故に太陽の光を遮る雲は無く、真っ白な光を背に落ちてくる黒い点は二人の距離感と足元を狂わせるのには十分で、



「「僕が上げるよ!(私が上げます!)…えっ!?」」



 ボールを見上げながら二人は砂浜に倒れて砂煙に巻かれた…。



「ちょ!?大丈夫かイオリ!ティリア!」


「ふむ…これはアレだな?」



 サーブを打った張本人としては点が取れた事はもちろん嬉しいが、まさか二人がぶつかって倒れるなんてと声を荒げ、アンジェリカはそのまま成り行きを見つめ、これがユリ教諭から聞いていたアレか?と口端を吊り上げた。



「いてて…ごめんねティリア、大丈夫だった?」


「は、はい…だいじょっ!?」


「んなっ!?」


「やはりこれはアレだったな」



 砂煙から姿を現した二人…そこには唯織を下敷きにしたティリアの姿があり、傍から見ればティリアが唯織を押し倒した様な光景があった。



「これは所謂ラッキースケベという現象らしい」


「ら、ラッキースケベ…?先輩何言ってんだ?」


「ユリ教諭曰く、ラッキースケベとは男女が二人で何かをする事によって引き起こされる現象らしい。意図せず女性の胸に手が当たってしまったり揉んでしまったり、スカートが捲れて下着を見てしまった、偶々部屋に入ったら女性の着替えを目撃してしまったりする事を総称してラッキースケベと言うらしい。今回はティリアがイオリとペアを組んだ為、ラッキースケベが起きた…これは必然の出来事、運命の悪戯と言う事だ。まさか本当に実現するとは思わなかった」


「な、何言ってんだよ先輩…」



 冷静に現状を解説するアンジェリカにシエラは馬鹿を見る様な目で見つめるが、当事者であるティリアはそれ所ではなかった。



「…?ティリア?やっぱり何処か怪我したりした?」


「おっおしっ!?押し倒しっ!?おおおおしおしおし!?!?」


「ティリア…?」


「ど、どどどどどどしどうしどどうしたら!?!?」



 突然の事でパニックを起こしたティリアは身動ぎ一つする事も出来ず、唯織の声が届いていなかった…。



「ティリア?…ティリア、どいてくれないと動けないんだけど…」


「わ、えっ!あっ!わ、わ、わああっ!?」



 どれだけ声を掛けても奇声を上げるだけで全く落ち着かないティリアの両頬を優しく包み、



「…ティリア、落ち着いて」


「あっ…」



 唯織はアリアが自分の頭を撫でてくれた時と同じ様に声色を優しいものに変えて撫でた。



「落ち着いた?」


「…はぃ」


「僕は何処も怪我してないけど、ティリアは何処か痛む所はある?」


「ないれす…」


「よかった。…それじゃあ、僕の上から降りて欲しいんだけど…」


「は、はひ…」



 落ち着いたと言うより振り切れてしまったのか顔を真っ赤にして唯織の上から退こうと身体に触れていた手を砂浜に下ろした時、パキッという音が響いた。



「…パキッ…?」


「あ、あれ…?…ま、まさか…!?」



 何かを壊した様な音に唯織は首を傾げ、ティリアも手に伝わって来た何かを壊した感触に今度は顔を青褪めさせ、添えられている唯織の手の上から自分の顔を触り確信した。



「め、眼鏡…!み、みな…い…で?」



 強力過ぎる魅惑の魔眼を無効化する眼鏡を手で潰してしまったのだと気付き、すぐに唯織から顔を背け…



(…あれ?眼鏡を今壊したって事は…倒れてからずっと眼鏡してなくて…()()()()()()()()()()()…?)



 パニックになってしまった状況で反射的に魔力を纏ってしまい、魅惑の魔眼にも魔力が流れて発動しているのにも関わらず、頬に手を当てて真正面から見つめていた唯織に変化が無かった。



(どうして…?何でイオリ君は私の魅惑の魔眼を見ても平気なの…?)


「ティリア?」


「っ!?ご、ごめんなさい!すぐに退きます!」



 また思考の海に落ちそうになったティリアは名残惜しい気持ちを振り払って唯織の上から退くと拉げた眼鏡を見つめた。



「…どうしよう…まだ魔眼の制御が上手く出来ないのに…」


「魔眼…あ、そう言えばティリアって魅惑の魔眼を持ってたんだったよね?」


「はい…」


「僕が見ても影響が無かったんだったらもう制御出来てるんじゃないのかな?」


「そう…かもしれないですね。でも、一応念の為にアリア先生に予備が無いか聞いてきますね?」


「本当だったら復元してあげたいんだけど…僕の復元は眼鏡として形を復元するだけで、魔眼を無効化する効果までは復元出来ないみたいだから力になれなくてごめんね?」


「いえ、ありがとうございます、イオリ君」



 そう言ってティリアは壊してしまった眼鏡を持って皆を視界に入れない様に離れ…



(イオリ君の身体、やっぱり傷の感触があった…それも多分全身に…それに魔眼が効かなかった…何でだろう…)



 唯織の身体の事、魔眼が効かなかった事をぐるぐると考え、



(…触られちゃった…バレただろうなぁ…)



 唯織もティリアの事をぐるぐると考えていた…。



「そしてイオリのあの状態がユリ教諭曰く、男性特有の賢者タイムと言うらしい」


「いや、よくわかんねーけど多分それは違え」

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