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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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追いつかない頭と心

 





「まぁそう言う事だから何にも縛られない自由な透明の魔色は全ての魔色を扱えるし、自由に魔法を使う事が出来るのよ」



 長い長い沈黙を破る様に呟いたアリアの声はとてもあっけらかんとした声色だった。



「…アリア先生…イオリ君の師匠、勇者シオリ様はイオリ君と同じ透明の魔色なのでしょうか…?」



 そしてそんな声にシャルロットはそうアリアに問うが返って来る言葉はシャルロットが想像した答えとは別だった。



「いえ?まず根本的な話になるけれど、詩織はこの世界の住人じゃない…所謂()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「「「「っ!?」」」」」」


「そして…悪いけれど、()()()()()()()()()


「「「「「「「っ!?」」」」」」」



 一度目の暴露は当然知っている唯織は驚かなかったが二度目の暴露は皆と同様に唯織も驚愕の表情を浮かべた。



「あ、アリア先生は師匠と同じ世界から来たのですか!?」


「んー…まぁそうね。唯織の言う通り詩織とは同郷といっても間違いないわね」


「そ、そうなんですか…」


「…んで、シャルの問いの答えだけれど、詩織と私が生まれ育った世界では魔法というものは存在しなかったのよ」


「っ!?…な、なら何故アリア先生はもちろん勇者シオリ様も魔法が…?」


「私はちょっと特殊だから詳しく話せないけれど、詩織に関してはまぁ神からのプレゼントよね。この世界を救ってくれって言って何の力も与えなかったら神様馬鹿じゃない?」


「そ、そんな不敬な…」


「まぁ、いいのよ。…んで、詩織から聞くと神から魔法を扱う術と血統魔法をプレゼントされた時、既に色が付いてたみたいなのよね。まぁ神々の特色みたいな感じかしらね?一応詩織は透明以外の全ての魔色を扱えるわよ」


「そ、そうなんですか…ならもう一つ質問が…」


「何かしら?」


「何故…紫の魔色はこの時代に伝えられてないのですか…?」


「それは一番扱いが難しく、習得するまでの間に死んじゃったからだと思うわ。さっきも言ったけれど魔法はイメージ…明確にイメージが出来なければ扱う事が出来ないし、書物に書かれている内容だけで魔法の全てを理解するのは到底不可能だもの。実際に見て学び、自分のイメージを膨らませないと意味がないわ。例えば…テッタ?空中が捻じれると言われてそれを正確に思い浮かべる事は出来るかしら?」


「…む、無理です…」


「まぁそう言う事ね。だから使い手が死んでしまえばそれを見て体験出来ずにどんどん廃れ…最終的には消滅するわ。…これは透明の魔色についても同じよ。人々は自分に色を付けすぎて元々無色透明だった頃を思い出す事すら出来ず、どうやって扱っていいかわからないから周りから無能と言われ、それを受け入れてしまった透明の魔色を持つ人々は魔法を使うという行為を忘れ…現状に至るってわけ」


「「「「「「…」」」」」」


「…だから唯織は詩織のおかげで透明の魔色という本来の力を知り、それを扱う為にいっぱい努力してここにいるわけ。…どう?今まで自分が信じてきたものが全て崩れ去った感覚は。新しく生まれ変わったみたいでしょう?」



 教卓に肘をつきながら悪戯っ子の様な笑みを浮かべて問われた言葉…それは生まれ変わるきっかけを与えてくれるとても重く、怖く、それでいてとても暖かく、楽しみを孕んだ言葉だった。



 そしてその言葉をどの様に受け取ったか…アリアは言葉を受け取った者達に優し気な笑みを浮かべて見守る。



「…イオリさん…本当に申し訳ありませんわ…わたくし、イオリさんが居ない場所でイオリさんの事を無色の無能だと何度も蔑みましたの…本当に…申し訳ありませんわ…」


「…イオリ君、私も透明なんかとって侮辱する様な事を言ってしまいました…本当にごめんなさい…」


「本当にごめんなさい…私もイオリ君と同列視されるなんてって…本当にごめんなさい…」


「…イオリ君、僕…イオリ君の机に魔法をかけて悪戯しようとしてたんだ…本当にごめんね…」


「っ!?」



 深々と頭を下げるメイリリーナ、シャルロット、リーチェ、テッタの姿に驚いた唯織は…



「…皆さん、顔を上げてください。…蔑まれたり暴力を振るわれたりするのはもう慣れてますから…気にしないでください」


「「「「っ…」」」」



 とても悲し気で今にも消えてしまいそうな笑みを浮かべ…その笑みは四人の心を深く…抉る様に一生消えない傷を残した…。





 ■





「…はい、とりあえず入学初日の特別講義はこれにて終了よ。んで、これがみんなが住む特待生寮の資料だからしっかり目を通しておきなさいね。…んじゃまた明日元気に登校するのよ~解散~」


「…うむ、実に有意義な講義だった…ミネア、儂らも戻るか」


「わかりました、ガイウス理事長」



 夕日が落ちかける独特な光が差す教室からそそくさと退室するアリア、ガイウス、ミネアを見届けた生徒達は呆れた様な表情を浮かべる。



「…これ、どうしますの…?」


「え…こんな重苦しい感じで今日終わるの…?」


「…アリア先生は掴み所が無くて調子が狂いますね…」


「え、えっと…とりあえず寮にいく…?」


「…そうですわね。ずっと教室にいても仕方ありませんわ…」



 そう言いつつメイリリーナ、シャルロット、リーチェ、テッタの四人は席を立つが…



「…イオリさんは寮へ行かないんですの…?」


「…いえ、僕は一人で寮に向わせて頂きます。…僕が皆さんの隣を歩いてたらきっと皆さんが悪く言われてしまうので…」


「そう……ですか…では…」


「はい。皆さんお気をつけて」



 メイリリーナの誘いをやんわりと断った唯織は皆が教室を出て行くのを見届けるとそのまま机に突っ伏し、自分の気持ちを机の上に吐き出した…。



「はぁ……どうやって接したらいいのかわからない…同じ歳の人にあんな風に声をかけられたの初めてだし…」



 今まで蔑まれていたのにも関わらずたった半日でここまで変わると思っていなかった唯織は頭も心も現状に追いついていなかった。



 そして…夕日も完全に落ち、月光が教室を照らし始めた時…



「…イオリ?」


「…シルヴィ…?」



 ずっと唯織の事を待っていたシルヴィアがようやく口を開いた。



「…?帰らないの?」


「え…?あ、嘘…もう夜になってる…」


「…ずっと机に頭を打ち付けてたよ?」


「え、僕そんな事してた…?」


「…うん。どうしたらってぶつぶつ呟いて頭ぶつけてた」


「…なら止めてくれてもよかったんじゃないかな…?」


「…面白かったから」


「面白かったからって…それだけでこんな時間まで僕の事待ってたの…?」


「…うん」


「そっか…じゃあ寮にいこっか…」


「…いくかー」



 気の抜ける様な返事をする無表情のシルヴィアと一緒に教室を後にし、レ・ラーウィス学園の廊下を二人で歩く唯織は月光に照らされるシルヴィアを見つめる。



(…なんだろう…シルヴィアとは初対面のはずなのに緊張しないんだよね…やっぱり師匠の弟子だからかな…?でも師匠に僕以外の弟子がいるなんて聞いてないし…アリア先生ともかなり親しそうにしてるし…謎だ…)



「…?どうしたの?惚れた?」


「えっ!?い、いや!何でそうなるの!?」


「…じっと見つめてるし」


「ご、ごめん…師匠の弟子なのにシルヴィの事を一切聞かなかったし、一切見た事がないから不思議だなって思って…」


「…私がシオリの弟子じゃないって疑ってる?」


「い、いや……うん、ちょっとだけそう思ってる…」


「…そっか…シオリと私の関係、アリア先生と私の関係、気になる?」


「…うん。聞かせてくれる…?」


「…」



唯織の問いに可愛らしく小首を傾げたシルヴィアは自分の唇を人差し指でなぞり…



「…ダメ、内緒」


「っ…」



 とても蠱惑的な笑みを浮かべながら唯織の耳元で囁いた。



「…話す時が来たら教えてあげる。でも忘れないで?私は絶対にイオリの味方だから」


「…うん、わかった」


「…じゃあ寮にいこ?」


「っ!?ま、またこれ!?ちょ、自分で歩けるってえええええ!!」



 今度は可愛らしい笑みを浮かべたシルヴィアにお姫様抱っこされながら新しい寮までもの凄い速さで運ばれた…。





 ■





「す、すごい…こんな豪華な寮を使っていいの…?」


「…すごい」



 まるで貴族が羽を休める様な大きく清潔感のある屋敷の門前に来た唯織とシルヴィアはあまりの豪華さに驚きを隠せず棒立ちしていると執事服を着た黒髪の青年が門を開く。



「特待生のイオリ様とシルヴィア様ですね」


「え、あ…はい、そうです…」


「私はこの特待生寮の管理を任されている執事長、セルジュと申します。既にご学友のメイリリーナ・ハプトセイル様、シャルロット・セドリック様、リーチェ・ニルヴァーナ様、テッタ様は各自の寮室にて休養しております。イオリ様の寮室にはメイドを付けない様にとイオリ様とシルヴィア様のお師匠、シオリ様からお達しがあった様なのですが…問題はございませんか?」


「あ、はい、大丈夫です…ありがとうございます…」


「では、ごゆるりと」


「…ほらいこ」


「あ、うん…」



 胸に手を当てながら腰を折る所作はとても優雅なもので唯織が何処となく()()()()()()()執事…セルジュの所作に見惚れているとシルヴィアが唯織の手を引っ張り窓から明かりが漏れる寮の中へと入っていく。



「うわぁ…中も凄いね…?」


「…だね」



 煌びやかなシャンデリア、高級感を放つ木製の手すりに赤い絨毯が敷かれた階段と廊下、調度品も全てが高級品だと主張する内装は唯織とシルヴィアに圧迫感を与えていく。



「なんだか落ち着かないね…」


「…ん、早く部屋にいこ。()()()()()はこっち」


「うん。…うん?…うん…?」



 何だかシルヴィアの言い方に変な含みがあった様に感じた唯織だったがシルヴィアに手を引かれるまま赤い絨毯の階段を上り、いくつかの扉を通り過ぎながら突き当りの部屋まで二人で移動する。



「えっと…資料だと一番奥が僕の部屋で隣がシルヴィなんだね」


「…?うん?」


「…?じゃあまた明日ね?」



 ずっと小首を傾げているシルヴィアに疑問を抱きながらも唯織が自分に当てられた部屋へ入ると…



「…え?何でシルヴィもこっちの部屋なの?」


「…?私達の部屋でしょ?」


「え?…いやいや、シルヴィは隣の部屋って書いてある…って!?な、何で脱ぎ始めるの!?!?」


「…?ここがイオリと私の部屋だから?」


「えええ!?な、何で!?シルヴィは隣の部屋だよ!?」


「…お風呂入ってくる」



 シルヴィアは唯織の部屋で突然服を脱ぎだしそそくさとお風呂へ向かって行く。



「ちょ、ちょっとまっ…え、えええ…?な、何でこんな事に…」



 薄い板を一枚隔てた場所から聞こえる水音とシルヴィアの肌色のシルエット見た唯織は顔を赤らめる事なく自室を出て廊下に腰を下ろす。



(何で僕の部屋でお風呂入り始めたんだろ…。…あぁ、そっか…シルヴィア相手に緊張しないのって師匠にすごく似てるからか…。よく僕がお風呂に入ってる時も一緒に入ろうって言って入ってきたし、僕が一人で寝てるといつの間にか一緒に寝てたりするし…。…そう考えると師匠の弟子なんだろうなぁ。…ま、()()()()()()()()()()…)



 ずっとシルヴィアに対して感じていた親近感の正体を突き止めた唯織は表情を和らげて更に思案していると…



「…?イオリ君?何で廊下にいるんですか?」


「あ…シャルロット・セドリックさん…まぁ色々ありまして…」



 唯織の考え事を止める様にふわふわした部屋着に着替え、心なしかお風呂上がりのいい匂いを漂わせているシャルロットが唯織に声をかけた。



「それよりどうしたんですか?いくら寮だからといっても結構遅い時間ですし…」


「え、えっと……」



 そう唯織が問いかけるとシャルロットはピンクゴールドの髪を触りながら頬を赤く染めて口ごもるが、何やら決心した様な面持ちで口を開く。



「テストの前に話してたイオリ君の師匠…勇者シオリ様についてお話を聞きたくて帰って来るのを待ってたんですが…この時間になるまで帰って来なかったので…」


「あっ…そう言えばお話する約束をしていましたね…」


「ええ…だからお話を聞きたいのですが、今からでもいいですか…?」


「い、今から…ですか…?」



(ま、まずい…!今、僕の部屋にはシルヴィアが…!)



「ダメ…ですか…?」



 少し潤んだ瞳と少し紅潮した頬を寄せてきたシャルロットに唯織が距離を取ろうとした時…



「え、えっと申し訳ありません。明日ではダメ『イオリ?何で部屋にいないの?』っ!?!?」


「えっ!?し、シルヴィアさん!?!?は、裸!?!?!?」


「…?シャルロット?」


「ま、待ってくださいシャルロット・セドリックさん!!これは誤解なんです!!!」


「い、イオリ君の不潔!!!!!!」


「あぐっ!?」



 濡れた髪をタオルで拭い下しか履いていないシルヴィアが扉を開け、唯織はシャルロットの平手をもらった…。

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