お披露目会
「これが海…!!」
青く澄み渡り日差しを肌に突き刺す晴天の空、シャクシャクと音を立てながら足裏に熱と沈み込む感触を寄越す真っ白な砂浜、生暖かく鼻をツンと刺激してくる潮風…テッタは可愛らしいくも青年へと成長していく身体を黒い半ズボン型の水着だけで隠し、人生初の海に目を輝かせていた。
「お、一番乗りはテッタかー。ちょっとこのビーチパラソルを砂に刺して日陰を作ってくれる?」
「あ、はい!」
白黒のパーカーと水着、足元しか素肌を晒していないアリアが持つ赤白のビーチパラソルを受け取り砂浜に突き刺していく。
「どう?人生初の海は」
「何というか…僕が見てきたものって本当に世界のごく一部で、世界ってこんなに広いんだって思いました!」
「お、いい感想だね?連れてきた甲斐があるよ」
テッタが刺したビーチパラソルの影に寝そべれる簡易的な椅子を並べたり、テーブルや飲み物と氷がぎゅうぎゅうに詰まった白と青の大き目な箱、不思議な手触りのぺったんこな輪と動物、食べ物等を出したりとテキパキ海水浴の準備をしていると近くに止めていた馬車の扉が開いた。
「ひゃっほーい!!海海ー!!」
「っ!?」
まず飛び出してきたのは詩織…詩織は神書を使ったのか大人の姿で黄色のビキニに青い短めのサロペット、頭には真っ黒で前が見えないのではないのかというサングラスが乗っかており、いくら海水浴をする為の格好だと言うのはわかっていても下着同然の露出姿にテッタは顔を真っ赤にした。
「あ、アリア先生…本当にあれは水着なんですよね…?下着じゃないんですよね…?」
「ならテッタは今パンイチで外をうろつく変質者って事?」
「ち、違いますけど…」
「アトラス海王国と正式に国交が開かれれば夏は海水浴という文化は普及するし、水着という格好が広まる。時代の最先端を行く人達は皆等しく常人から変質者として扱われ、その素晴らしさを知った常人は変質者を偉人、時代の革命者だと扱うものさ」
「なるほど…」
「ははーん?なーに顔を赤くしてんのテッタくぅ~ん?残念だけど詩織ちゃんはいおりん一筋だからごめんね~?」
「ははは…」
「…その乾いた笑い傷つくんですけど?」
どんなに見た目が綺麗な女性でも中身はいつもの詩織だと思うと途端に冷静になれたテッタは次々と出てくる仲間達の水着姿に顔を赤らめていく。
「う、うーん…やっぱりちょっと派手だったかな…恥ずかしいなぁ…」
次に出てきたのはシャルロット…いつもストレートな髪を三つ編みにし、胸を強調する様に胸元で紐がクロスしており、腰のラインを綺麗に見せる為に細い紐がキツイ角度で吊られているワインレッドのレイヤードビキニを頻りに直していた。
「でも似合ってるじゃないか」
「似合ってる。バッチリ」
そんなシャルロットを励ます様に現れる三つ編みが解かれたアンジェリカとフレデリカ…アンジェリカは黒、フレデリカは白の胸下とウエストを縛る様に繋がっているクリスクロスビキニを着ており、腰には向こう側が透けて見える黒と白のパレオが纏われていた。
「逆に何でアンジェとフリッカはそんな自信満々なんですか…防御力が心もとない…」
そう言いながら出てくるのはリーチェ…自分の髪と絡める様に付けている好きな人と師匠がくれた黒と紫のリボンと同じ色のオレンジを基調とした黒紫のラインが入っているホルターネックビキニを着ており、下着姿同然の今の格好が恥ずかしいのか、自衛の為なのか腰には不釣り合いな黒のベルトとシエラとシリカが整備した愛刀『山茶花』が吊られていた。
「私もちょっとこれ…自分で選んだけど…恥ずかし過ぎる…」
リーチェの後から出てきたのはティア…ティアが着る水着は豊満な胸を覆い隠す夜を連想する様な黒紫のグラデーションカラーになっているハイネックビキニなのだが、胸元が黒のレースになっていて谷間がレース部分から透けて見える様になっており、小さな手でその透けている部分を必死に隠そうとしていた。
「う、うう…そんな事言ったら白の私はもっと透けてるんだから恥ずかしいよお姉ちゃん…!」
ティアと同じ水着を着て胸を必死に隠すティリア…ティアとは対照的に青空を連想する様な白水のグラデーションカラーで、胸元のレースは黒より肌色に近くてティアよりハッキリと胸の谷間が見えおり、両腕で必死に隠そうとするせいでより強調されている事は当の本人達は気付いていなかった。
「やっぱり少女の皮を被った怪物達…もいだろか…ガルルル…」
猛獣の様に今にもティリアとティアの胸に飛び掛かろうとするアデル…胸元にフリルがふんだんに使われた明るい薄緑色のフレアビキニで、お尻を強調する為なのかシャルロットと同じく際どい水着を重ねており、顔を半分覆い隠す大きな眼鏡は今日は鼻の上に乗っていなかった。
「胸ばっか気にして…そんなんじゃ女が下がるって昨日ユリ先生も言ってたじゃん。まだ成長途中何だから気にしても仕方ないでしょ」
呆れながらアデルを押さえるククル…アデルとは大きく違って布面積の少ないピンクと白のタイサイドビキニで紐部分は大きなリボン、左脚の太ももには同じ色のフリルのガーターリングがあり、トレードマークのツインテールも白いシュシュで纏められていてククルの元気さと可愛さが十全に引き出されていた。
「…じゃあこれは何なんだよクク?」
「ちょ!?何取ってんの!?」
ククルの水着から白い厚みのある何かを抜き取ったシエラ…シエラはトレードマークであるうさ耳の様なリボンを腕に付け、胸元が割れている黒のハイネックビキニで大きな胸を見せつけつつ、真っ白なパーカーを肩にはかけず腕の傷を隠す様に着ていた。
「ククちゃんも何だかんだ言って気にしてるんじゃないですか~」
「くっ…!この上質姉妹め…!」
姉と幼馴染のやり取りに笑みを浮かべるシリカ…長身の姉とは真逆の低身長でありながら不釣り合いな胸を持つシリカはトレードマークのリボンはそのままに、胸からお尻まで覆い隠す背中を露出したミニドレスの様な薄水色の水着を着ており、シエラと同じ様に腕の傷を隠す為に白いパーカーを腕に通していた。
「…っはぁ、お風呂以外でこんなに肌を晒すなんて…」
ようやく観念したのか出てきたのはリーナ…いつも下ろしている髪をシエラとシリカの様なピンと立った水色のリボンでツインテールにし、若干布面積が少ない青い紐ビキニを隠す様に薄く透けている白いシャツを胸元で結んでおり、剥き出しのお腹と脚を隠す様にシャツを伸ばしたり脚を交差させたりしながら顔を赤らめていた。
「ま、前々から思ってたんですけど…女子のレベル凄く高くないですか…?」
「ね?このまま成長したら美貌だけで人を惹き付ける様になると思うけど…僕の嫁達も凄いよ?」
水着姿の仲間に顔を赤くしっぱなしのテッタが改めて凄い美女達に囲まれている事を認識すると、アリアの言葉に応える様に馬車から二人の美女が現れた。
「ほぉ~?かなり綺麗な場所じゃねぇか」
詩織と同じく頭に真っ黒なサングラスを乗せたラン…真っ赤なビキニにローライズなショートパンツを合わせる凄くシンプルな水着なのにも関わらず、詩織やリーナ達には無い色気発しながら口端を吊り上げる。
「うひー!最高の天気っすねー!!…あ、日焼け止め塗んないと灰になっちゃうっす!日差しマジ苦手っすわー!あっはっは!ランっちも塗ってあげるっすよ!」
「ああ、頼むわ」
テンション高めで取ってつけた様な吸血鬼要素を出すユリ…胸元から下腹部の際どい部分までがっつりと開いたジッパー付きの黒のブランジングを纏い、惜しげも無く自分の身体を披露しながら谷間に挟んでいた物から白い液体を出して身体に塗り始め、ランはアリアが用意したベッドに寝そべりユリとお互いの身体に日焼け止めを塗り始めた。
「どう?ユリもランも凄いでしょ?」
「…!…!」
「みんなも塗ってあげるっすからアリアっち、不可視化の結界お願いするっす!」
「はいよ~」
言葉にならないのかトマトと見分けがつかない程顔を真っ赤にしたテッタが目を手で覆いながら頷いている姿を見つつ、みんなにも日焼け止めを渡して不可視化の結界と一応遮音の結界で遮ると馬車から麦わら帽子とラフなシャツと短パン、白いストローハットとワンピースを着た二人が姿を現す。
「アリア殿、我々にも服を見繕ってもらって済まぬな。これはとても動きやすい…王城でもこの格好が出来ればなぁ…」
「ええ、何もない時ぐらいこの格好をしたいですね」
王として、王妃としての礼服とドレスを脱ぎ捨てたイヴィルタとメルクリアが生き生きとした表情で青空を眩しそうに眺めている姿を見たアリアは…
「その気持ち凄く分かります…威厳の為に常に畏まった格好をしていると肩も凝るし疲れますよね…僕も…っ!?」
「む…?」
「…?」
元の世界での自分と重ねてしまい口を滑らせてしまった。
「え、あ、ほら、教師としていつもきっちりとした格好してるとって意味ですよ。あはは…」
「……度々思っていたのだが…」
「アリアさんって…」
(まずい…やっちゃった…最近気を許し過ぎて口がガバガバだ…!)
暑さと相まって砂浜に冷や汗を落としながら二人の訝しむ視線を受け…
「何処かの国で王城勤めでもしていたのか?」
「……流石に隠せませんか。そうですね、その通りです」
(あ、あぶねぇぇぇぇ!嘘言ってないからセーフ!セーフ!)
ここで嘘を吐けばガイウスに血統魔法で調べられた時に嘘がバレる事を懸念していたが、別世界の王国の国王として王城で働いているというのは事実で、どうとでも解釈できる質問をしてくれた事に胸を撫でおろした。
「まぁ…その話はまた今度にでも。日陰と飲み物を用意してあるのでそちらで寛いでいてください」
「うむ、助かる」
「海水浴というのがどういうものなのか楽しみにしてますね?」
今回の海水浴は生徒達の英気を養う事が一番の目的だが、その光景を見せる事によってアトラス海王国と国交を開けばどれだけ国民に対しての益が齎されるのかのデモンストレーションも兼ねていた。
「ええ、楽しみにしていてください。必ずハプトセイル王国の民の為になると思いますから」
口ではそう言っても結局の所は生徒の為…不可視化と遮音の結界から出て来て満面の笑みのユリと苦笑しているラン以外の生徒が全員顔を真っ赤にしている事から目を逸らしつつ、海水浴イベントを頭の中に思い描いていると…
「お、やっと来たね唯織」
「あ、イオリ!!」
「…す、すみません、覚悟を決めるのに少し手間取ってしまって…」
「「「「えっ!?!?!?」」」」
「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」
今まで素肌を黒のインナーで隠していた唯織…そんな唯織が処女雪の髪をお団子にし、テッタと同じ半ズボンの黒い水着と胸だけを隠す短い黒のタンクトップ、透けて見える膝裏までの長いパーカーを着て女性の様な華奢なラインと素肌を晒している事にお風呂に一緒に入ったテッタ以外の皆が驚き…唯織の身体に傷がある事を知っている詩織、リーチェ、シエラ、シリカは皆以上に驚き…
「うーん…うん、ちゃんと似合ってるね。それじゃあテッタと唯織の日焼け止めは僕が塗るからみんなは遊ぶ為に準備運動しといてね~」
不可視化の結界で唯織達の姿が見えなくなり、しばらくの間その場に立ち尽くした…。




