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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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見せしめ

 





「陛下…あの国の血統魔法は危険です…本当にあの国と手を取り合う事が出来るとお思いですか…?」


「それに最近王城に入り浸っていた白黒の女…本当に信用出来る者なのでしょうか?」


「イグニス第一王子の一件からムーア王国での我が国の生徒による迅速な避難誘導と『巨躯の死龍』と呼ばれる魔獣の討伐の一件…その他大小に関わらずこの国の不利益になる事を潰し、益を運ぶ全ての出来事にあの白黒の女の影があります。そもそも白黒の女は何者なのでしょうか?お答えください陛下…」



 円卓に着く身なりの整った人物達…その姿で各領地を治める貴族、王都に在住する貴族、王城で国王の手足となって国営を行う重鎮達が集まっていると分かる場でイヴィルタは閉じていた目をゆっくりと開き口を開く。



「……彼女はSSSランク冒険者、白黒狼と呼ばれる者でレ・ラーウィス学園の教師だ」


「っ…陛下!!我々はそんな上辺だけの答えを聞きたいわけではありません!!我々だって彼女の事は調べております!!ですが過去も一切なく出生すら不明!!怪しい所の騒ぎではないのです!!信じられない事に彼女は無色の無能と聞きます!!無色の無能のはずなのに何故魔法が使えるのですか!?正直にお答えください!!彼女は何者なのですか!?」



 イヴィルタの答えで堰を切った様に捲し立てる家臣達…その中でも平静を保っている面々が居た。



「少し貴族として、王の家臣として見苦しく思えるのだが?」


「そうだな。少し落ち着いた方がいい」


「…ガイウス・セドリック公爵、()()()()()()()()()()()…」



 厳めしい声色を響かせる声の主はガイウスと短く刈り上げた茶髪、同じ色の揃えられた綺麗な髭、森を連想させる新緑の瞳、貴族の豪奢な服に包んだ巌の様な肉体…アンジェリカとフレデリカの父、ランルージュ公爵家現当主アルフ・ランルージュだった。



「アリア殿はレ・ラーウィス学園の特待生の担任として教師の役目を果たしているに過ぎない。そして陛下との関りはアリア殿の教え子に陛下のご息女、メイリリーナ・ハプトセイル第一王女がいらっしゃる。この場では些か不適当だが、実の娘が学園生活をどう送っているのか心配するのは親心だろう?その近況を聞くのに王城へ出入りするのも不思議ではあるまい。それに無色の無能ではなく透明の魔色だ」


「アリア殿はSSSランク冒険者だ。同じSSSランクである黒龍バルアドス殿、百鬼トーマ殿、精霊女王クルエラ・マリーシア殿だって過去も出生も明かしていない。同じSSSランクであるアリア殿も同じパーティのユリ殿の出生や過去がわからなくても何も問題ないだろう?そして透明の魔色が魔法を使う事が出来ると言う事は私達も知らなかった事。それを知らずに棚に上げて無色の無能と蔑むばかりの貴様より有益な人物だと思えるが?」


「し、しかし…!!」


「…なら儂がアリア殿とユリ殿の身元及び何かあった際の不手際や支障を全て保証しようではないか」



 アリアを訝しむ声ばかりの部屋がガイウスの一言で静寂を取り戻し…アルフとアルフの隣に座っていた人物が席を立って声を上げた。



「ふざけるなガイウス!!私がアリア殿とユリ殿を保障する!!」


「そうですガイウス!!冒険者の事は私達がよく知ってます!!だから保証するなら私達ランルージュ家がします!!」


「この…冒険者好き(ファン)共め…アリア殿は冒険者の前にレ・ラーウィス学園の教師だ。なら、理事長としても、孫娘が世話になっている恩人としても儂が保障するのが筋であろう?アルフ、()()()()



 長く手入れが大変そうな茶色の巻き毛、快晴の空を連想させる青い瞳、アンジェリカとフレデリカの面影がある顔、赤いドレスを完璧に着こなす美女…アンジェリカとフレデリカの母、イルリカ・ランルージュもガイウスに向かって声を上げると、ガイウスの傍に控えていたメイド服の美女がガイウスの耳元で囁く。



「ガイウス様、その言い方ですと公私混同されているかと」


「む…」


「よく言ったミネア!」


「よく言ったわミネア!やっぱり私達が保障するべきだわ!」


「貴様ら…聞こえておらんだろうに…!」



 ガイウスの表情が曇った事でミネアから何かを言われたとばかりにランルージュ夫妻とガイウスがいがみ合っていると、遠慮気味な声と共に手が上がるが…



「へ、陛下…私もお言葉をよろしいでしょうか…?」


「ガイウス!貴様はアリア殿を独り占めしすぎだ!!」


「そうよ!もっと私達の家に来る様に言ってちょうだい!」


「別に儂は独り占めしておらん!アリア殿は我が学園の教師故に同じ場所にいるのは当たり前だろう!!」



 だんだん熱の入って来た三者の口撃はやむ事が無く…



「だったら授業参観だ!!授業参観をさせ『黙れアルフ!!イルリカ!!ガイウス!!我は今、セリル・ニルヴァーナ男爵の言葉を聞きたいのだ!!!!!!』……」



 円卓に拳を叩きつけ怒声を上げた…。



「……其方も何か意見があるのか?セリル・ニルヴァーナ男爵」


「はっ…私もアリア殿は信頼のおける人物である事を押させて頂きたく存じます…」


「ふむ…その意は?」


「…アリア殿の教え子である娘のリーチェからアリア殿の人となりを聞いております。彼女は教師としても、人としても、武人としても尊敬できる人物であると。…そして私自身、彼女の授業を受けた身でございますが、彼女の知識と力は我々の叡智と武力を集結したとしても敵うものではございません。そんな彼女は私に言いました…『私の大切にしている者達の為だけに力を振るう。それを邪魔したり傷つける奴がいるなら国王であろうが誰でも容赦しない』と。そう言う彼女をもし、我々が刺激をしてしまえば我々が知らぬ未知の知恵や技術、武術に至る全てを持ち合わせている国益とも呼べる彼女を…その国益を齎す彼女が育てる生徒、彼女と匹敵する可能性がある生徒達というこの国の未来を失う可能性があります。ですので私もアリア殿の身柄を保証し、この国に長く留まって頂けるよう手を出さない事を具申させて頂きます」


「なるほどな…」



 リーチェの父親、セリル・ニルヴァーナの身内贔屓だけではない国益を交えた発言はイヴィルタ、イヴィルタの隣に居るメルクリア、アルフ、イルリカ、ガイウス、ミネアの脳裏にアリアを思い浮かべさせているとアリアを知らない他の貴族は顔を真っ赤にして声を荒げた。



「ふ…不敬だぞ!!我々の力と知恵があの女一人に敵わないと申すか!?これだから平民上がりの貴族は!!」


「いくら娘が教えを乞うてるからといえ身内贔屓が過ぎる物言い!それにセドリック公爵、ランルージュ公爵も同様でございます!!目が曇っているとしか言いようがありません!!」


「陛下であれ容赦しないと断言する者をこの国においている時点で王権が揺るぎますし、陛下の身の安全が!!即刻あの者を国外追放…否、他国に渡りハプトセイル王国に刃を向ける前に処刑すべきです!!」



 言い方はともかくイヴィルタやメルクリアの身の安全や国を思う者もいれば貴族としての体裁や見栄、威厳を尊重する者…それに反論する少数のガイウス達の擁護が混ざりあり、言い争いが苛烈を極めていくと…



「へ、陛下…お耳を…」


「む……っ!?…はぁ…通してくれ…」


「はっ!」



 慌てた兵士から耳打ちされた事柄に目を見開き、時計を見て、諦めと申し訳なさで重苦しく息を吐き捨てると扉が開いた。



「イヴィルタ・ハプトセイル国王陛下、メルクリア・ハプトセイル王妃陛下、並びに皆々様、国議中に参上しました事申し訳ございません。アトラス海王国へ向かわれるお時間を過ぎてもお姿がお見えになりませんでしたので僭越ながらお迎えに上がりました」



 兵士が開けた扉から現れる黒の軍服に身を包む四人の美女…アリア、ユリ、擬人化した神獣フェンリル、神鳥フェニックスが一糸乱れぬ所作で胸に手を当て傅く姿は一種の絵画を見ている様な美しさで会場が一瞬で静まり返る…が、



「う、うむ…諸君、聞いての通り我らはアトラス海王国へ向かわねばならぬ。詳しい事はまた帰国してからだ」


「お…お待ちください陛下!まだ我々はアトラス海王国と国交を交わす事に反対でございます!」


「そ、そうです陛下!!その女の素性の件も何もかも解決しておりません!」



 まだ何も解決していないと席を立ったイヴィルタとメルクリアを引き留める面々が声を上げ、その声にアリアはイヴィルタを見つめた。



「…?私の素性を明かしてはいないのでしょうか?」


「何がお主の琴線に触れるかわからぬからな…SSSランク冒険者の教師としか言っておらん…」


「…それは余計な心労をおかけして申し訳ございません。でしたらこの場は私に任せて頂いてもよろしいでしょうか?」


「…うむ、頼む」



 疲れを表情に出すイヴィルタに頭を下げて敵意の視線と好意の視線を向けてくる円卓に笑みも浮かべず近づくとんんっと咳払いし胸を張った。



「ガイウス・セドリック公爵様が統括していらっしゃるレ・ラーウィス学園の戦闘学科、特待生クラス二年、三年の教鞭を取らせて頂いているアリアと申します。世間ではSSSランク冒険者『白黒狼(はっこくろう)のアリア』と言われておりますが、冒険者の資格はただ教え子に世界を見せる為に通行手形として取得したものでして、本業はれっきとした教師でございます」


「っ!この場で我々を謀るか!?ただの教師如きがSSSランク冒険者になる事は不可能だ!なのにSSSランク冒険者になった理由は通行手形としてだと!?馬鹿も休み休み言え!!!」


「謀るつもりも馬鹿を言っているつもりも一切ございません、全て真実でございます。…時に()()()()()()()()()()()()、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「っ!?な…何故私の名を…」


「平民の身である私に高貴な皆々様方がお名乗り頂けるとは思いませんでしたので、失礼が無いようお名前を存じ上げているだけでございます」



 まさかアリアの口から王都に居を置いていない自領に住む貴族の名が出た事にこの場にいる皆が目を見開くと、アリアはここぞとばかりに円卓を囲む面々に視線を飛ばした。



「もちろんオルグリナ・ドリュア子爵様だけではなく、この国議に出席されていらっしゃる皆々様方、出席されていらっしゃらない皆々様方のお名前も存じておりますれば…統治されていらっしゃる()()()()()()()()()()()()()()なのか、()()()()()()()()()()()()()()()()しかと存じて上げております」



 更に続くアリアの何でも知っている、何でも見透かしているぞと釘を刺す言葉…イヴィルタがアトラス海王国に出向く事とアリアを危険だとする反対の旗を掲げた者達は顔色を青く、アリアを知る者達は痛快そうな笑みを浮かべていた。



「……さて、時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()オルグリナ・ドリュア子爵様が治めていらっしゃる領民の方々の様に平民の身なれどご質問させて頂く事は叶いますでしょうか?」


「……何だ」



 領民の言葉を聞いた事のないオルグリナはアリアの皮肉たっぷりの言葉で他領の貴族、ましてや王族が居る前で質問に答える事を強制された事に眉を立てるが…すぐにその眉は下がる事になる。



「まず、私の自己紹介をした際に嘘だ、謀りだと仰っておりましたがどの様な事実があって私を糾弾されたのでしょうか?」


「…ただの教師がSSSランク冒険者に、通行手形の代わりに上り詰める等誰が聞いても虚偽だとわかるだろう」


「ならその証明はどの様にすればよいのでしょうか?ガイウス・セドリック公爵様には血統魔法『看破』という虚実を見破る力がございますが、ガイウス・セドリック公爵様にその証明をして頂ければご納得頂けるのでしょうか?」


「ぐっ…」


「儂はアリア殿が虚言を吐いているとは思えん、無論儂の血統魔法を以てしてもだ。だが、どれだけアリア殿が虚言を吐いていないと潔白を証明した所で儂はアリア殿を支持しておる。故に両者が虚言を吐いていると勘ぐられるだろうな」


「誠実公正を体現されていらっしゃるガイウス・セドリック公爵様が私の事を支持して頂けているのはこの身に有り余る光栄にございます」


「私もアリア殿を支持している」


「私もよ?」


「わ、私もです!」


「身に余る光栄でございます、アルフ・ランルージュ公爵様、イルリカ・ランルージュ公爵様、セリル・ニルヴァーナ男爵様。…ですが、オルグリナ・ドリュア子爵様並びこの国議に参加されていらっしゃる皆々様方は私を信用するべきではないとされておりますので、どの様な手段を講じれば信用を頂けるのかお教え願えますでしょうか?オルグリナ・ドリュア子爵様?」


「……」



 今までイヴィルタの臣下として爵位をもらっていた者達は素性のわからないぽっと出のアリアにいい気持ちを抱くのは到底無理…だからアリアは唯織達を待たせているという()()()()()をどうにか隠しながらも押し黙る者達に()()()()()()()()()



「武力を見せればご納得頂けますか?知力を見せればご納得頂けますか?財力でしょうか?権力でしょうか?それとも…()()()()()()()()()()()()()()()()()()をこの場で明らかにさせればご納得頂けますか?」



 さっさと終わらせる為にゾッとする様な悪辣な笑みを浮かべ、心当たりのある者達に恐怖を植え付ける事にした。



「…何?どういう事だアリア?」


「イヴィルタ・ハプトセイル国王陛下、実はですね?今、私を糾弾されていらっしゃるオルグリナ・ドリュア子爵様は『ま、待て!!待ってくれ!!』…陛下との会話を遮らざる負えない何かがおありで?」


「…どうなんだ?オルグリナ・ドリュア子爵?」


「それは…」



 本当に秘密を知られているかも知れないという恐怖で背信と取られかねない行動を起こしたオルグリナは身体を震わせて押し黙ってしまう…。



「…アトラス海王国との国交を拒んでいらっしゃる()()()()()()()()()()()()()、あなた様はアトラス海王国と国交を結ぶ事になれば自ずとアトラス海王国との国境付近である自領が水人族との交易地点になる事を恐れていらっしゃいますね?」


「…当たり前だろう。教師である其方が水人族の血統魔法を知らぬわけではないだろ?」


「ええ、『精神支配』はとても怖い血統魔法ですが…()()()()()()()()()()()()?」


「…どういう意味だ」


「しらを切るおつもりですね?では、オルグリナ・ドリュア子爵とカーヴィン・コルネリオ侯爵様には()()()()になって頂きます」



 そう言って胸元に手を忍ばせて空間収納から取り出した書類をイヴィルタとガイウス、アルフに手渡すと皆が表情を歪めて怒りを露わにした。



「どういう事だカーヴィン!!貴様…!!アトラス海王国から亡命してきた者達を不当に扱っておったな!?」


「っ!?へ、陛下!!お待ちください!!その様な事実はございません!!」


「ならこれはどういう事なのだ!!!!!」



 叩きつけられた書類に書かれている内容…それはアトラス海王国の政策に嫌気が差し、異種族も受け入れるハプトセイルの庇護下に加わりたいと助けを求めてきた眉目秀麗な水人族に、魔法が使えなくなる囚人用の枷を付けて奴隷の様に扱っていた証拠の数々と、水人族の血統魔法を利用した王家簒奪の計画内容が記されており、それを見た者達も同様に顔を青褪めさせていく…。



「な……何故……」


「この書類は虚偽ではない…して、カーヴィン・コルネリオ侯爵…否、カーヴィンもその事実を認めておる」


「なっ…こ、こんなの陰謀だ!!ガイウス・セドリック公爵!!貴様はこの女に買収されている!!」


「もしガイウスがアリア殿に買収されていたとしよう。だが、それがどうした?」


「は…?はぁ…?何を言っているのですかアルフ・ランルージュ公爵!!」


「火のない所に煙は立たぬという言葉を知っているか?ガイウスが嘘をついていたとしても、買収されていたとしてもこの王国を簒奪しようとする黒い噂が立っている時点で貴様は咎人だ。そしてこの王国の不利益を齎す貴様とその不利益を事前に止めたアリア殿…イヴィルタ陛下の忠実な臣であればどちらを信じるか明らかだろう。それに、貴様を捕えたのち、領内を改めれば白か黒かハッキリする。白だというのなら大人しくしていろ」


「…ぐうううう!!」



 追い詰められ憎しみの籠った視線をアリアに向けたカーヴィンは隠し持っていた短剣を抜いて窓ガラスに向かって走り始め、窓を突き破ってこの場からの逃走を図ろうとするが、



「…ミネア」


「はっ!」


「お待ちくださいガイウス様、ミネア様。ここは私が」


「…やれ」


「はっ」


「…へぁ?」



 アリアが窓に駆けだしているカーヴィンの両手足を見つめながら人差し指を横にスライドさせるとカーヴィンが床に倒れ、間抜けな声が聞こえた瞬間、



「っ!?ぎゃあああああああああ!?!?」



 自分の身体から両手足が離れている事に気付き、自分の身体から噴き出す血に塗れながら絶叫する…。



「ああああああああ!?ああああああああああ!!俺の足が!?手が!?足があああああああああ!!!」


「ご安心くださいカーヴィン・コルネリオ侯爵様。死にはしませんし、死なせるつもりは毛頭ございません。今まで屈辱と痛みを受けた名も知らぬ水人族の方々の為にもあなた様は生きて水人族の方々が受けた屈辱と痛みを受け続けるのですから」


「ああああああああっ!?ああああああああ……あ、あれ…?ぐっ!?」



 懐から真っ赤なポーションを取り出し両手足を再生させると皆が目を落とさんばかりに目を見開くが、アリアは即座に首を締めあげて意識を奪い、次の見せしめ対象であるオルグリナに悪辣な笑みを浮かべる。



「次にオルグリナ・ドリュア子爵様」


「ひっひぃぃ!?!?」


「あなた様は入学したばかりのご子息、オルマン・ドリュア子爵様がガイウス・セドリック公爵様の孫娘であり私の教え子でもあるシャルロット・セドリック公爵令嬢に決闘を挑み負けたのち、イグニスが組織した犯罪組織『スナッチ』に加入してしまい現在では王城の地下牢に収監されていらっしゃるようで?」


「…ま、待ってくれ…」


「そしてここにおりますカーヴィン・コルネリオ侯爵様が国王になった暁には右腕として親子共々取り立ててもらうという未来の褒章に目が眩み、徴税として領民を締め付け私兵の強化をされていらっしゃるとか?」


「ち、違う…そんな事は…」


「もうよいオルマン、アリア殿のこの書類に全て書いてある。…ガイウス?」


「…オルマンも同様真実を認めております」


「そうか…アルフ、イルリカ、この後すぐにカーヴィンとオルマンが治めていた領地へ赴き調査を行え。ガイウス、アルフとイルリカの手助けをしてやれ」


「「「はっ」」」



 たった数枚の紙で侯爵と子爵を追い込み、二大公爵と王族まで動かしてしまうアリアに背信の心得が無い者達にも恐怖を植え付けたアリアは、悪辣な笑みを仕舞い真剣な表情でこちらを見ている貴族達を見つめ宣言する。



「皆々様方、これは脅迫ではなく見せしめでございます。この意味の違いはお分かり頂けますか?」



 皆が息を呑む音が響く…()()()()()()()()()()と脅すのではなく、()()()()()()と言い切るアリア…



「もし、私が大切にしている者達に危害を加えたり、私の邪魔をするのであれば相手が誰であろうと容赦は致しません。それさえ違えないで頂けるのであれば私はこの国の益になる事はすれど、陥れるつもりも無ければ貴方方に危害を加えるつもりもございません。…そして私は皆々様方の事を何時でも見ておりますれば…私がいる限り謀はお止めになった方がよろしいかと」



 臆せず監視している事を伝え、何か事を起こせばすぐにイヴィルタに筒抜けになるぞと止めを刺した。



「ではイヴィルタ・ハプトセイル国王陛下、メルクリア・ハプトセイル王妃陛下、アトラス海王国との会談に向かいましょう。ガイウス・セドリック公爵様、アルフ・ランルージュ公爵様、イルリカ・ランルージュ公爵様、後はお願い致します。セリル・ニルヴァーナ男爵様、またニーチェ・ニルヴァーナ男爵夫人様と私の授業を見に来て頂けると幸いでございます。失礼致します」



 笑みを浮かべているランルージュ家、セドリック家、ニルヴァーナ家の面々に頭を下げ、イヴィルタとメルクリアを連れて部屋を出たアリアは苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべて吐き捨てた。



「ったく…イライラさせんじゃないわよ…」


「す、すまぬアリア殿…」


「ごめんなさいアリアさん…」


「っ…」



 体裁を保つ為にいつもの姿を取っている所為で苛立ちが募るアリアに遅れる原因となったイヴィルタとメルクリアは申し訳なさそうに謝るが、アリアは自分の口を押え自分が何を口走ったのかわからない程苛立ってる事に驚いていた。



「…いえ、イヴィルタ陛下とメルクリア陛下に怒っているわけではなく……すみません、馬車に着くまで口を慎みます。ユリ、お願い」



 そう言うとアリアは空間収納から鼻から下を隠す見た事の無い黒い仮面を付けて目を伏せながら歩き、少し困った表情をしたユリがアリアと視線を切る様にイヴィルタとメルクリアの前を歩き口を開く。



「すみません両陛下…アリアはメイリリーナ王女殿下が女王になった時の政治的弾丸を減らされた事に対して苛立っているだけでございます…決して両陛下に対してではございませんので…」


「む…政治的弾丸…?」


「まさか…カーヴィンとオルグリナ以外にも何か…?」


「ええ…まぁ…貴族階級ともあれば清廉潔白の方の方が珍しいかと…ですが、先程の二家よりは可愛らしいもので、陛下の政策のここがダメだ、もっとこうしないととかの愚痴であったり、些細な額の金銭を懐に蓄えていたり、妾にせずに女遊びだったりとか、領民に対してだったりとか…」


「…それを我々には教えてくれぬのか?」


「申し訳ございませんがそれは出来かねます。この様な事を伏せていた理由としまして、順番が前後してしまいましたがアトラス海王国に向かう際に国境であるカーヴィン侯爵国境領へ赴き、実際に証拠をメイリリーナ王女殿下に発見してもらい、そこに偶々、偶然いらっしゃった両陛下へ事の顛末を報告するという流れを画策しておりました。そうする事によって悪事を暴いたメイリリーナ王女殿下が女王になった際、貴族階級への牽制、不正不誠実を許さない女王として民への信頼に繋がると思い伏せさせて頂いていた次第です。…既にアリアから聞いて頂いているとは思いますが、メイリリーナ王女殿下は今…女王になるか否かの狭間で揺れております。出来れば私達もメイリリーナ王女殿下にはこの国の女王になって頂きたいのですが…何分誘惑の多い年頃故にこの様に少しずつでも民を守るという自覚を芽生えさせようかと…」


「…本当に何もかも生徒の…大切なものの為にしか動かぬのだな、アリア殿達は。家臣でないのが本当に口惜しい」


「そう言って頂けるとアリアに仕えている身としては光栄でございます」


「ユリ?仕えてるじゃなくて嫁でしょう?間違えないでちょうだい」


「…うっす」



 口を慎むと言ってもどうしても訂正したかったのかアリアが口を挟み、ユリが頬を染めながらはにかむとイヴィルタもメルクリアもクスリと笑みを浮かべ…



「ですので…今、私達が持っている政治的弾丸はメイリリーナ王女殿下の為の物ですのでご協力は出来かねます」


「相わかった。娘の為にそこまでしてくれるのであればもう何も言わぬ」


「ええ…不甲斐ない私達の代わりに娘の事をここまで考えてしてくれて…本当にありがとうございます」


「ええ、私達は教師ですから。…さ、馬車へ急ぎましょう」



 教師達は笑みを浮かべて教え子の元へ向かう…。

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