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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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色に縛られた理由

 





「はいはい、みんな落ち着いたかしら?」



 軽く学級崩壊しかけている状況を軽くまとめるアリア、それをただ眺めてるだけの唯織とシルヴィア…。



「ど、どういう事なのだ…?何故イオリ君は他の魔色が扱えるのだ…?」


「そうですね…少し順序だてて説明した方が分かりやすいと思いますので少しだけお付き合いください」


「う、うむ…よろしく頼む」



 驚き過ぎて年相応に老けて見えるガイウスに苦笑しつつアリアは黒板に絵を描きながら話し始める。



「まずは魔法についてよ。魔法と言うのは自分の身体で作られる魔力を元に魔法という事象、火の玉を出したり氷の槍を出したりする技術の事を魔法と呼んでいるわ。そしてその魔法を使うのに必要な行為…それは魔力を起こす事と詠唱と言われてるけれどぶっちゃけ詠唱をする必要はないわ」


「詠唱…必要ないんですか…?」


「そうよシャル。例えば…」



 シャルロットが手を上げながら問うとアリアは指をパチンと鳴らして皆の姿を精巧に模した氷のフィギュアを皆の上に作り出す。



「どう?結構そっくりに作れたと思うけれど」


「す、すごい…私そっくり…」


「え、ええ…すごいですわ…」


「確かに…」


「え…?何で僕はすごく猫寄りなんですか…?」


「何となくよ何となく。まぁこんな感じで詠唱をする必要がないっていうのはわかったかしら?」


「…詠唱が必要ないというのはわかりましたが…ならどうやって魔法を発動させるんですか…?私達もアリア先生みたいに指を鳴らせば使えるんですか?」


「まぁ私が指を鳴らしてるのはただのかっこつけみたいなもんよ。例えばそうねぇ…ミネア校長、校長が持つ魔色を教えて頂いても?」


「え、私ですか…?水と黒です」


「わかりました。なら校長、黒の魔色を起こしながら私に向ってダークボルトを撃ってもらってもいいですか?」


「え?…わ、わかりました。闇よ、我が呼びかけに答え姿を現せ、リル・ダークボルト」


「ん」



 アリアに促されるまま戸惑いながらもミネアは黒の魔色を起こして詠唱すると掌から頭ぐらいの大きさの黒い玉が生まれ、そのままアリア目がけて発射されるがアリアはその黒い玉を握りつぶした。



「…ま、まさか握りつぶすとは…」


「まぁこれぐらいは…なら次、魔色を起こしながら()()()()()に詠唱して魔法を使ってみてもらっていいですか?」


「何も考えず…わかりました。闇よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ、リル・ダークボルト……?あ、あれ?闇よ、我が呼びかけに答え姿を現せ、リル・ダークボルト…?う、()()()()()…」


「なら次、ガイウス理事長も何も考えないで試してもらっていいですか?」


「うむ…光よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ、ニル・ホーリーボルト…儂も撃てん…」


「ありがとうございます」



 詠唱をしているのにも関わらず魔法が使えなかった事に驚いたガイウスとミネアはまじまじと自分の掌を見つめるが、アリアはそんな二人から視線を外してまた黒板に絵を描いていく。



「詠唱って言うのは所謂イメージを頭の中に思い起こさせる行為なのよ。詠唱を区切って考えると…『闇よ』これは自分が今から使う魔色のイメージ、『我が呼びかけに答えその姿を現せ』これは魔法を今から使うぞっていうイメージね。『リル・ダークボルト』これが最終的に自分がどう思い描いたのかを表してるわ。だからちゃんと明確にイメージさえ出来ていれば詠唱は必要ないのよ。…リーチェ」


「は、はい」


「あなた付与魔法しか使えないって言ってたけれど…私が今創り出したこの雷の槍を強くイメージしてみなさい」


「え…?ど、どうやって…?」


「ど、どうやって…?えーっと…雷が槍の形になる様に強くイメージするのよ。詠唱なしでやってみなさい」


「は、はぁ…」



 指を鳴らすだけで生み出されたアリアの雷の槍を訝しむ様に眺めたリーチェは静かに目を閉じて雷の槍を強くイメージすると…



「………こ、こう…ですか?」


「…リーチェ、目を閉じてたら意味ないじゃない…目を開けてみなさい」


「は、はい…っ!?で、出来てきゃぁ!?」



 雷の槍が歪ながらもリーチェの手に生み出されていたがあまりの驚きに思考を乱してしまいバチバチという音を残して破裂する様に姿を消してしまう。



「す、すごい…私付与魔法しか使えなかったのに…」


「これで分かったと思うけれど、詠唱って言うのはみんなのイメージを生み出す為に掛け声みたいなもんなのよ。今から走るぞって考えれば走る様に体が走る体勢を自ずととる様にね。だから頭で明確に思い浮かべる、イメージが出来ていれば詠唱は不要だわ。ちなみに血統魔法も同じよ?テッタはその感覚覚えているはずだけれど」


「そ、そういえば…あの時、友達が欲しいって考えただけなのに…」


「そうね。だからテッタの血統魔法はテッタが思い描いたイメージの通りに発動したってわけよ。ちなみに理事長の嘘が暴けるという血統魔法も詠唱を必要としませんよね?」


「…そういえばそうだな…儂の血統魔法、()()は人や物の真偽を看破する…人であれば変装や嘘、物であれば偽物か本物かがわかるのだが…相手の嘘を見抜くと強く思えば発動するな…」


「まぁ、今まで無意識に出来てた事だから疑問を持つのも難しいと思いますから…これから特待生クラスでは無詠唱という技術で魔法を使う特訓をしていくから発想力は豊かにしておくのよ?」



 今まで必要とされてきた詠唱を不必要だと証明したアリアは皆が必死にノートを取っているのを見つめ、皆のペンが止まったタイミングで黒板の絵を消して続きを語っていく。



「で、次に語るのは今回の本命…透明の魔色についてよ。皆が今まで信じてきた透明の魔色っていうのは攻撃魔法も防御魔法も使えない、この人を傷つける魔法が評価される世界では最も無能だと信じてきたはずだわ。でもその常識は唯織の手によって覆された…ちゃんと理解してるわよね?」


「「「「「「…」」」」」」



 唯織とシルヴィア以外の皆が真剣な表情を浮かべて頷くのを見たアリアは透明という文字を黒板に書いてそれを囲む様に各色を書いていく。



「透明の魔色は唯一色に染まってない色…だから唯織は自分の好きな様に自分の魔色を色付けする事が出来るのよ」


「な、何ですって!?そ、そんなのあり得ませんわ!?」



 アリアの言葉に声を荒げたメイリリーナは席を立ちあがりアリアを睨みつけるが…



「ありえない?リーナ、さっき唯織が全ての魔色を起こしたのを見たでしょ?何故自分の目を信じられないのかしら?」



 アリアもメイリリーナを睨みつけて言い放つ。



「っ…そ、それじゃあアリア先生はこう言いたいんですの…?わたくし達…()()()()()()()()()()()()()()()…!」


「悪いけれどそうよ。色が付いてしまったが故にその色の魔法しか使えない…それの何処が無能じゃないと言えるの?」


「っ…」


「何で私がわざわざ色付きのあんた達を無能呼ばわりしているのか…それはあんた達が無自覚で唯織の事を何も知らず、今まで透明の魔色を持って生まれた人達を迫害していたからよ。…どう?今まで唯織が、唯織以外の透明の魔色を持つ人達が感じていた嫌な気持ち、少しでも理解出来たかしら?」


「……」



 たった一回…たった一回無能と言われただけで傷ついたメイリリーナは何も言わずに席に着き、今まで透明の魔色は無能だと蔑んだ事のある者達も俯き黙る。



「…まぁ、少しきつめの言い方になったけれど別に私はあんた達の事を無能だなんてこれっぽっちも思ってないわ。あんた達にはあんた達だけの特色がある、十人十色なんだからそれでいいと思うわ。これで今まで蔑まれてきた唯織の気持ちが一欠けらでもわかったのならちゃんと終わったら頭下げてしっかり謝りなさい。いいわね?」


「「「「はい…」」」」


「んじゃこのまま説明を続けるけれど、透明の魔色は無色故に何色にもなれる…なら何故今まで透明の魔色が迫害されていたのか、それはおとぎ話の魔王が生きていた時代に遡るわ」



 そう言うとアリアは目を閉じまるでその光景を見てきたかの様に語り始める…。



「昔…()()()()()()()()()()()が生まれる前、()()()()()()()()()()()()人々は皆自由に魔法を使い生活を豊かにして平和に暮らしていたわ。…でも魔王ヴァルドグリーヴァが現れ平和だった世界は徐々に恐怖と絶望、殺戮と蹂躙に侵食されていったわ」



 ………



 魔王ヴァルドグリーヴァが誕生する前…世界(アルマ)には魔色と言う概念は無かった。



 アルマに生きる人々は種族問わず皆透明の魔色で血統魔法なども存在せず、争いも無く()()()()()()()()()()()()()()()()を発展させて平和に過ごしていた…が、ある日突然平和な世界に黒い雲がかかった…。



 黒い雲は徐々に大地を覆い隠し、人々に極寒の風と不作をもたらし、あらゆる病を広め、世界に不定形で歪な獣、死せる人が生者を求めて世界を彷徨い歩く…。



 黒い雲によって森は枯れ、大地は凍りひび割れ、川は一滴の雫すら残さず全て消え去り…生者だった者の達の亡骸が至る場所に積み上がり山を築く…。



 だが神々は生者に絶望と死を与え続けた世界に一つの希望を与える…。



「私がこの世界を救ってあげる!!こういう展開はいくつもラノベで見たことあるから!!」



 たった一人の少女が世界を救う為に絶望に、死に、運命に立ち向かった。



 その少女の後姿を見た人々は少女を神の使いだと、神人(しんじん)だと、争いを知らずただ死を待つことしか出来なかった人々は声を上げて小さな背中を追いかけた…。



 少女が奪われた家を、土地を、空を徐々に取り返し、人々は少女が取り返してくれた物を守る為に自分の身を守る術を少女から学び…()()()()



 少女は神に遣わされた神人…神人に人の身で追いすがるのは到底叶わないと考えた人々は…()()()()()()()()()()()()()



 赤は火に、青は水に、緑は風に、茶は土に、水は氷に、黄は雷に、紫は空間に、白は光に、黒は闇に…そうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 そして…少女と共に立ち上がり抗う術を手に入れた人々は魔王ヴァルドグリーヴァを世界から消し去り、もう一度世界に平和が訪れた…。



 人々はまた同じ災厄が降りかかる事を恐れて抗う術を磨き続けたが…それは長く続くことは無かった。



 少女と共に立ち上がった者は己の天寿を全うし、己が築き上げた抗う術を後世に託すがその全ては語り継がれず、魔王ヴァルドグリーヴァによって残された負の遺産によって徐々に失われていった…。



 そして人々は魔王ヴァルドグリーヴァが残した負の遺産…魔獣を駆逐する為にもう一度抗う術を求め、魔獣という負の遺産を歯牙にも欠けず屠れるようになるとその矛先を…己と同じ生者に向ける様になってしまった…。



 魔王ヴァルドグリーヴァという巨大悪を討ち滅ぼし、負の遺産も屠れる様になった人々はもっと人を傷つける力を、もっと人を簡単に殺せる力を、もっと大量に人を傷つける力を、もっと大量に人を殺せる力を求め…争いの果てに発展し、今に至る…。



 ………



「…これがこの世界の真相よ。より強大な魔法を求めて強い魔法を使える者との間に子を成し色を濃くする…唯一人が()()()()()()()に並び立てる方法を求め続けた結果がこの世界なの」



 アリアの口から語られた世界の真相…それはどの王国の書物にも記されていないはずの話…当然それを疑問に思う者は口を開く。



「…アリア先生、いいですか…?」


「何かしらリーチェ?」


「…何故そんな昔の話をアリア先生は知っているんですか…?」


「それは当の本人から聞いたからよ」



 教室全体が息を飲む様な張り詰めた空気が漂う。



「…と、当の本人…?どういう事ですか…?」


「…神人と言われた少女、勇者と言われた少女…唯織の師匠、由比ヶ浜 詩織から直接聞いたのよ」



 テッタの問いに答えたアリアは皆の視線が唯織に集まるのを感じながらゆっくりと目を閉じた…。

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