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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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ヤバい人達

 





「ティアさん…ここで合ってますか…?」



 実技棟…座学学科から繋がる渡り廊下を渡った先、薬学や調理を行う教室が並んでいるのを()()()眺めた唯織は目の前にあるボロボロの小屋を見つめた。



「うん…地図だとこの小屋なんだけど…」


「なんか…特待生の待遇とは思えないね…」



 ティアは何度も地図を見直し、ティリアは特待生なのに実技棟の教室よりも遥かに環境が悪い事に首を傾げていると、その小屋の扉から真っ赤な大きなリボンが現れた。



「お待ちしてました!ティア先輩!イオリ先輩!ティリア先輩!ようこそあーくし達の工房へ!」


「「っ!?」」



 太陽の様な笑みを浮かべるシリカの格好は制服ではなく、上は胸を潰すサラシと脇腹部分が大きく開いた白のタンクトップ、下は耐火性に優れてそうな分厚く裾広がりの焦げたズボン、腰には鍛冶道具が吊るされていて歩く度に鉄の音が響き、鉄板が仕込まれているのかあまり曲がらない頑丈そうな靴…上半身から溢れる滝の様な汗も相まって少女としてあまりにもあられもない状態だったが、



「あ、はい。遅れてすみま『『見ちゃダメ!!』』がっ!?」



 唯織がシリカの格好を特に気にせず、遅れた事を詫びようとするとティリアとティアは息の合った動きで唯織の目を塞ぎ首を捻った…。



「し、シリカ!!はしたないでしょ!?」


「ええ!?あーくし鍛冶師ですよ!?これが本来の姿ですよ!?」


「そ、そうだよシリカちゃん!何か上に羽織って…って、ご、ごめんなさいイオリ君!なんか首から変な音しませんでしたか!?」


「だ…だいじょ…ぶ…」



 鍛冶師の格好に文句を付ける二人に抗議するシリカ…早く捻っている首を自由にして欲しいと思う唯織…早くもわちゃわちゃし始めたが、唇を尖らせたシリカが上着を羽織った事で落ち着きを取り戻した。



「汗で気持ち悪いです…うう…と、とりあえず入ってください」



 促されて小屋の中に入ると足が折れそうな木のテーブルと椅子、外からも見えていたひび割れ曇る窓ガラス、空の木箱が部屋の隅に積まれていて何の変哲もないボロ小屋だとわかる。



「…ここが工房なんですか?」


「ど、何処向いてるんですか?イオリ先輩…」


「すみません…まだ首が戻らなくて…」


「うう…ごめんなさいイオリ君…」


「ティリアやりすぎ…でもここが工房なの?シリカ」



 ふっふっふと笑みを漏らし、勿体付ける様に移動したシリカは徐に足を振り上げ…



「いえ、工房はこの下です!」


「あがっ!?」


「「イオリ君っ!?」」


「あああっ!?ご、ごめんなさいイオリ先輩!!!」



 勢いよく振り下ろされた事で床の一部が捲れ上がり、工房への道を開くのと同時に唯織の顎を床板が強かに打ちつけられた…。



「だ、大丈夫です…今ので首も元に戻りました…」


「そ、そうですか…とりあえず下にどうぞ!!」


「わかり『私達が先に降りるからね?』…そうですね、流石に首を後ろに折られたら死にますので…」



 スカートを覗けば蹴る…そんな目力のティアが明かりが確保されている地下に先に降り、次にティリア、イオリ、戸締りの為に最後に降りるシリカ…



「…ねぇ、ティリア?」


「何?お姉ちゃん」


「その…インナーから見える下着…ちょっと際どくない…?」


「お、お姉ちゃん!?!?!?」



 戦闘で激しく動くティリア達の為にアリアがスカートの内側にインナーがある造りの制服に仕立ててたのだが、真下からじっと見ればその隙間からチラチラと見えてしまう下着にティアが苦言を漏らした。



「こ、ここここ…これはユリ先生が!ユリ先生が下着はいいのを付けないとって!!ユリ先生が選んだの!!!イオリ君ち、違うんです!!!いつもはこの下着じゃないんです!!!信じてください!!!」


「あのー、ティリア先輩、ティア先輩?あーくしの格好に文句を言ったのにお二人はイオリ先輩の前で下着談義ですか?そっちの方がマズくないですか?」


「…い、妹があまりにも衝撃的な下着を付けてたからつい…」


「お、お姉ちゃん!!!!!!」


「あ、あはは…」



 下着談義も終わり、ようやく下に着いたのかティアの靴がコツ…と靴音を鳴らし、皆も靴音を鳴らすと目の前に広がるのは木造の家を想起させる光景で、廊下の左右に三つずつの扉、その廊下の奥に一つの扉があった。



「すごい…学園にこんな場所が…」


「あーくし達の工房は左の一番奥の扉です!あ…一応耳塞いでおいてください!」



 そう言って扉に手を掛けて皆が耳を塞いでいる事を確認するとシリカが扉を開き…



「「「っ!?!?」」」



 まず唯織達を迎えたのは金槌で硬質な物を連続で叩く金属音。



「お姉ちゃん!イオリ先輩達連れて来たよ!!」



 次に迎えたのは身体をじりじりと焦がし、沸騰させようとする熱の塊だった。



「あぁ!?何!?聞こえないんだけど!!」


「だーかーらー!!連れて来たってー!!」


「もう少し待ってくれ!!!」



 一度目の金槌の音が消える前に振り下ろしているのか一向に鳴り止む事の無い音に耳を庇いながらエルブランド姉妹の工房に入ると、唯織達の目に映るのは夥しい量の鍛冶道具と作品達だった。



「すごい…」



 壁は水色、床は青、天井は緑に光る魔法陣が刻まれ、部屋の左右には鏡写しの様に火を灯すレンガ造りの炉と様々な形状の金床、水が入った木のバケツには水をかける為の杓が刺さり、車輪が付いた小型のカートには金槌と火鋏が大きさ順に並ぶ物、火を絶やさない為の石炭袋が乗る物があり、そのカートに囲まれる様に汗だくでうっすらと笑みを浮かべながら火の花を咲かせ続けるさらし姿のシエラ…その姿は正しくドワーフにも負けぬ情熱を注ぐ職人の姿だった。



「先輩達!!そろそろ音には慣れましたか!?」


「…うん!!僕はもう大丈夫!!」


「私も大丈夫だけど…!!」


「熱が…!!」


「わかった!!ちょっと待ってね!!」



 鉄を溶かす炉の近くは熱と冷気に弱い水人族には殺人的な空間で、苦痛で表情を歪ませているティリアとティアを見た唯織は指を鳴らし、水と氷の薄い膜で包むと途端に二人の表情が和らぐ。



「…ありがとうイオリ君!!」


「ありがとうございます!!」



 お礼を言ってくれる二人に笑みを返すといつの間にかシリカは上着を脱ぎ捨ててシエラの相槌へと入っており、言葉を交わさずとも息の合った動きで一つの作品を作り上げていく姿は唯織達の視線を釘付けにしていた。



「―――――!!!!!」



 金槌の音に混じって何かが聞こえた気がしたが、今の唯織達はエルブランド姉妹の虜…



「―――――!!!!―――――!!!!!!!!!!」



 その後も雑音が混じっていたが、気にせず次々に咲く火花を見つめていると二つの人影がシリカとシエラに近づき…



「「うるっさい!!!!!!!!!!!」」


「「ふぎゃん!?!?」」


「「「っ!?」」」



 緑の制服を着た薄桃色の髪の少女と鈍色の髪の少女がシリカとシエラの頭を殴り二人の視界に火花を散らした…。



「馬鹿姉妹!!いっつも言ってるでしょーが!!!鍛冶するならちゃんと扉閉めろっつーの!!!」


「がんがんうるさい!!!こっちは徹夜なの!!!殺す気!?!?」


「ってーなぁ!!あーしはちゃんと閉めたぞ!!」


「開いてたからこうやって殴ったんでしょ!?」


「あ!あーくしが閉め忘れました!!」


「「こらシリカああああああ!!」」


「い、痛いです!痛いです!!」



 殺人的な熱を発する炉の前で二人の少女がシリカの頬を引っ張り、シエラはそれを意に介さず汗を拭っているあたりこれが彼女達の日常なのかと茫然に見つめていると、二人の少女がこちらをジロリと睨みつけた。



「「……」」


「は、はじめまして…」


「うぅ…」


「…何でここに黒服の女が二人もいんの?」



 そう言うのは薄桃色の髪の少女…生気を失い充血している青い瞳、黒いヘアバンドでおでこを剥き出しにして目の下のくまをくっきり残した少女が唯織とティリアを訝し気に見つめ、



「白服ぅぅぅ…?」


「…何処見てるの?顔はもっと上なんだけど」


「…ガルルルルル!!」


「ちょっ!?何!?」



 ティアの胸を睨みつける鈍色の髪の少女…顔の半分を占拠する大きく分厚い眼鏡、その奥には髪色と同じ鈍色の瞳、コンプレックスだったのか自分の胸を何度か触り、獣人族でもないのに唸り声をあげてティアの胸を鷲掴みした…。



「ちょっと()()()()()()!自分よりティア先輩の胸の方が大きいからってもごうとしないで!それに()()()()()!イオリ先輩は男だよ!そんな格好でいいの!?」


「「…え?」」



 シリカに羽交い絞めにされた少女…アーデと呼ばれる少女と唯織とティリアを見ていた少女…ククと呼ばれた少女の視線が唯織に集まり、頭から足まで視線を動かし…ズボンを見た瞬間、



「「いきゃあああああああああああああああ!?!?」」


「えっ!?」



 絹を裂く様な悲鳴を上げて工房から逃げ…



「ふぅ…あ、イオリ先輩、逃げたのは気にしないでください。すぐに戻って来るので」


「え…?」



 すぐ戻って来るというシリカの言葉に逃げられたショックも忘れていると…



「や~ん!!早く言ってよシリカ~!!ククちゃんはね?座学学科薬学部門二年特待生のククル・テスタロッサって言うの~!!よろしくね~!!え~い!!」


「えっ!?」


「「なっ!?」」



 薄桃色の髪の少女クク…ククル・テスタロッサが瞳に星を宿しながら完全別人の姿に変身して現れると猫撫で声で唯織の腕に飛びつき…



「私は座学学科料理部門二年特待生のアデル・カルシュテイン。寂しいの、抱きしめて…?」


「ええええっ!?」



 鈍色の髪の少女アーデ…アデル・カルシュテインが眼鏡を外し同じく完全別人の姿で唯織の腕を自分で動かして身体を抱かせると瞳を潤ませて懇願する様な悲しげな声を出した…。



「あー、悪いイオリ。ククとアーデは最近家の人からいい人を見つけなければお見合いをさせるって言われて躍起になってるんだよ。まぁ…ここまで積極的に絡んでるのは初めて見たけどね。とりあえず適当にあしらってくれていいし、あーしの作業も終わったから一旦休憩部屋で落ち着いて話そっか」


「ねぇねぇ?お菓子は何が好き?ククはね~?」


「え、ちょ…」


「もっと強く抱きしめて?」


「ちょっ…!?」



 シエラが工房を出ていき、逃げ出そうとしたら怪我をさせてしまうと心配する唯織の両腕を逃がさないとばかりにガッチリとキメているククルとアデルも工房を出ていき…



「ティリア…だ、大丈夫…?」


「てぃ、ティリア先輩…?」


「ふ…ふふふ…あはっ…お姉ちゃん、シリカちゃん…楽しいお話になりそうだね?」


「「ひっ!?」」



 満面の笑みなのに首元にナイフ…否、首に手をかけられていると錯覚を起こす程の殺気を当てられ、工房の熱とは関係なく噴き出した冷や汗を拭いながらティアとシリカもティリアについて行った…。



「なんか…無性にイライラしてきたんだけど…二人ぐらい殺したくなってきたなぁ…」


「ええ…私もです…」


「「「「こわっ…」」」」


「…イオリさん…無事でいてくださいまし…」



 リーナはティリアの魔力が非常に暴れているのを感じ、どうか学園内で殺人が起きないで欲しいと強く願う…。

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