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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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ダメ出しと護衛

 





「…ふぅ~…終わりましたね」


「疲れました…んっ…」


「ん~っ…ふぅ、お疲れ様」



 疲れからか、はたまた理解が十分じゃないのか天井を仰ぎながら声を漏らす先輩達の後姿を見つつ、唯織、ティリア、ティアの三人も身体を解していた。



「どうしますか?このままエルブランドさん達の所に向かいます?」


「んー…出来れば一回寮に帰って荷物を置きたいけど…」


「…あ、そうだった…お姉ちゃんこれ」



 何かを思い出した様にジャケットの裏を弄ったティリアは唯織達が付けているブレスレットとイヤリングを取り出した。



「…?ブレスレット…と、イヤリングって事はこれ…」


「うん。今日の朝、私の部屋に置いてあって、アリア先生の置手紙にお姉ちゃんに渡しておいてって書いてあったから今日寮に行こうと思ってたんだけどすっかり忘れてた…ブレスレットは空間収納が使えて、イヤリングは教え子の証なんだって」


「僕が言うまでも無かったですね?」


「うん…二人ともありがとうね」



 これ以上教え子を増やすつもりはないと言っていたのにこの様子じゃまだまだ増えそうだと唯織は笑みを浮かべ、エルブランド姉妹にもらった地図を見つめた。



「実技棟…そんなものもあったんですね?」


「…わ、私も初めて知りました…」


「…ねぇ、二人とも本当にこの学園の生徒なの…?知らなすぎじゃない…?戦闘学科の生徒ってみんなそんな感じなの…?」


「「あ、あはは…」」



 学園の事を全く知らない二人に呆れるティアだったが、唯織の手にある地図をチラッと見ると教材を他の生徒に見られない様に空間収納に仕舞い、よし、と手を叩く。



「私が案内するからついて来て」



 たった数日でレ・ラーウィス学園の先輩と化したティアの後ろをついて行く後輩達は他愛のない会話をしつつ、黒制服故の奇異の視線に晒されながら目的地へと向かい始める…。





 ■





『連日にも及ぶ会談、並びに迅速な支援手配、感謝致します。イヴィルタ・ハプトセイル殿』


『ウチ…わ、私、ターニャ・ムーアからも感謝を。イヴィルタ・ハプトセイル殿』


「うむ。今後とも良き友好関係を結べればと思う。ターレア・ムーア殿、ターニャ・ムーア殿。そして…この様な魔道具を開発した稀代の天才シフォン・アンテリラ」


『は、はい!』



清潔感溢れる赤いカーテンが閉め切られた薄暗い一室、高級であれど落ち着いた装飾が施された調度品の数々、テーブルの上には散乱した書類の数々と真っ黒のコーヒーが注がれたティーカップ、更にシフォンが作った『映像機(ビジョン)』一式…ターレア・ムーア国王とターニャ・ムーア王妃の姿が映し出された映像に口癖も忘れ、薄水色のドレスを纏ったシフォン・アンテリラが現れ、イヴィルタ・ハプトセイル国王は小さく笑みを浮かべる。



「国家間の情報のやり取りを誤差も行き違いもなく、尚且つ内密に、迅速に伝達出来るこの魔道具…『映像機(ビジョン)』は時代を大きく変える大発明だ。既にターレア・ムーア殿からも褒美を受け取っているとは思うが、友好国の我々もその恩恵に預かっている。ささやかではあるが、支援物資の中に魔道具の開発に役立ちそうな希少な素材を数点褒美として入れておいた。有効活用してくれたまえ」


『っ!?か、感謝致しますイヴィルタ・ハプトセイル国王陛下!』


『私からももう一度感謝を。…ただ…』


「わかっている。引き抜きたくて褒美を送るわけではない。…ただ、ターレア・ムーア殿に愛想を尽かせてしまったらハプトセイル王国は歓迎しようではないか」


『も、勿体ないお言葉でございます…!……ですが申し訳ございません。私の忠誠はターレア国王、並びにターニャ王妃に捧げております』



興奮と驚き塗れのシフォンだったが、スッと目を細めて断言する姿にイヴィルタは少しばかり目を見開いてすぐに笑みを浮かべた。



「…うむ、良き忠義だ。ターレア・ムーア殿、シフォン・アンテリラ、試す様な真似をしてすまない。これからのムーア王国の発展は目覚ましいものになりそうだ」


『…愛想を尽かされない国王として頑張ります。…それと、アリアさん』


「………はっ、ターレア・ムーア国王陛下」



軽口を言い合い皆が笑みを浮かべて会談終了…とはならず、イヴィルタの後ろに無言で控えていたアリアの名前を呼ぶと少し反応が遅れて『映像機(ビジョン)』の前で跪き、ターレア達だけではなく隣にいるイヴィルタも驚きに目を見開いた。



『や、やめてくださいアリアさん…貴女方のおかげで()()は全てを変えて頂き、救われたのです。頭をお上げください…()()()()にして頂けると…』


「…あら、そう。なら言わせてもらうけれど…」



ターレアに普段通りにと言われたアリアはゆっくりと立ち、映像に映るターレアとターニャを睨みつけて口を開く。



「いくら人となりを知っていたとしても、いくら友好国だったとしても今はまだ()()()()であり、内密であっても()()()。俺達?普段通り?気を緩めるのは早いと思うのだけれど?私の教科書にはそう書かれてたのかしら?」


『っ…す、すみません…』


「それにターニャ」


『は、はい!』


「何時までも平民気分で居たらターレアに迷惑がかかるのよ?言葉遣いも所作も王妃らしく完璧に振舞いなさい。あんたはもう誰がどう見ても王妃なんだからしっかりしなさい」


『す、すみません…』



国を預かる国王と王妃としてのダメ出しを遠慮なくすると、隣にいたイヴィルタがククク…と声を漏らす。



「いやはや…まさか我々だけではなくターレア殿達もアリア殿に頭が上がらないとは…お互い精進せねばな?」


『我々…と仰ると、イヴィルタ殿もですか?』


「ああ、それはもうこってりとな。今度会談の場ではなく、ただのイヴィルタとターレアとしてアリア殿に叱られた話でもしようではないか。王としての心構えも教えよう」


『…そうですね、是非お願いします。…アリア殿、今回の助力感謝する。何か困った事があったら遠慮なく頼ってくれて構わない。王城の者にもそう言い含めておこう』


『…私からも感謝を。またムーア王国に訪れる際にはシオリ・ユイガハマを含め皆を歓迎します』


「…感謝致します、ターレア・ムーア国王陛下、ターニャ・ムーア王妃陛下」



もう一度跪きイヴィルタの後ろに控えると一言二言言葉を交わした後に映像が消え、アリアは閉め切っていたカーテンを開き太陽の光を部屋に入れた。



「…長い間拘束して済まなかった。おかげでムーア王国との立ち位置の確認が迅速に出来た。アリア殿にも褒美を…と言いたいが、何か希望するものは?」



黒い眼鏡を外し日の光で目元を辛そうに解すハプトセイル王国現国王イヴィルタ・ハプトセイルと()()()()()()()()()()()()()()()()()()アリアはソファーに腰を下ろしコーヒーに口を付けた。



「では…私の目的の為に色々してくださった事を褒美として受け取っておきます」


「……そうか。明日には()()()()()()()に向かおうと思う」


「そうですね、私達も準備をしたいと思います」


(これでムーア王国の後始末は済んだし、ついでに私の国の仕事も終わったし…ようやくこの計画を実行できそうね…それにしてもやっぱり()()()()する…)



 無性にイラつくアリアの視界に広がるのは半透明の板の壁…この世界とは別の情報、アリアが本来いるべき世界の情報が所狭しと重なって見える半透明の板を瞳の動きだけで整理し、新たに現れたこの世界の情報が映された半透明の板に膝の上に置いた指を動かして今回の計画を全て文字にして打ち込んでいた。



「…?辺りを見回してどうしたのだ?」


「……ああ、いえ、私も流石に目が疲れたので目の体操をしていました」


「そうか…?」


「ええ」



 明らかに何かを堪えながら挙動不審に瞳を動かすアリアに小首を傾げるイヴィルタだったが、アリアは目をぎゅっと閉じて気持ちの切り替えと視界を埋めていた情報を全て消すと、神妙な面持ちのイヴィルタが視界に入った。



「それでその…………」


「……リーナの事でしょうか?」


「……」



 コーヒーに口を付けてカップで表情を隠しているが、そこには国王としての仕事を終えるまでずっと我慢していたであろう娘を心配する父親がいた。



「では、ここからは国王と平民ではなく、教え子の親御と教師としてお話します。……お母様も聞きますか?」


「なぬ…?」



 ここにはいない母親の話題を出すと部屋の外から何者かが驚いた気配を感じ、ゆっくりと扉が開くとばつの悪そうな表情をしたハプトセイル王国現王妃メルクリア・ハプトセイルが姿を現した。



「気付いてましたか…丁度私の方の公務が終わったので入ろうとした時にリーナの名前が聞こえて…盗み聞きをするような真似をして申し訳ありません…」


「いえ、最初からお二人にお話しするつもりだったので何も問題ありませんよ。私が言うのも変ですが、どうぞお座りください」


「ええ」



 城の主であるメルクリアを対面に座らせると空間収納から自分達が飲んでいるコーヒーのセットを取り出し話し始める。



「では…まずですが、リーナは確実に女王としての器を完成させつつあります」


「……不甲斐ない我々の代わりに育ててくれて本当に感謝する」


「本当に感謝を…」


「それが教師の務めですので。…そして同時にリーナはまだ自分が女王となるべきか決めあぐねています」


「「……」」


「ですが…ムーア王国の一件と、ターレア・ムーア国王陛下のおかげか、今のリーナの見据えている未来は女王に向いていると思います。そして、それに呼応する様にシャルもリーナを支える事に重きを置き、アンジェとフリッカ、リーチェもリーナが女王に相応しいと支える事をよしとしています。爵位を持たない唯織、詩織、テッタ、ティリアもかけがえのない友人として支えてくれるかと」


「そうか…素敵な友達に囲まれているんだな…」


「その…資格が無いのはわかってます…でも…」


「リーナがお二方をどう思っているか…ですか?」


「「…」」


「そうですね…申し訳ありませんが、やはりまだ…なんせ幼い頃の出来事ですし、いくら操られていたからと言ってもそう簡単に心の傷が癒える事はありません」


「そう…よね…」


「……」



 今にでも泣き出しそうなメルクリア…悲痛な面持ちでメルクリアに肩を貸すイヴィルタ…やはり一国の王である前に親なのだと思わせてくれる二人に不謹慎ながらも笑みを浮かべたアリアはんんっと咳ばらいをする。



「なので、今回の計画を必ず成功させてまずは王と王妃の姿を未来の女王に見せましょう。そうすれば少なからずリーナの関心を得られるはずですから」


「…そうだな。必ず成功させよう」


「…ええ!必ず!」


「そうですね」



 思春期の娘の気を引きたい親バカか、と微笑ましく思いながら…話題に出た心残りである事を問う。



「それはそうと…息子…()()()()の方はどうですか?」



 そう言うとまさかアリアの口からその名前が出てくるとは思わなかったのか、軽く目を見開きながらも二人は笑みを浮かべていた。



「…最近はリーナに謝りたいと言っているな」


「へぇ…それは意外ですね?」


「あの子は元々リーナの事を可愛がってたから…血統魔法とこの世界の在り方の所為で歪んでしまっただけで…」


「今の我々ならこの世界の在り方が間違っている事もわかる。強すぎる魔法、稀有過ぎる血統魔法は神の祝福と同時に人の考えと在り方を歪ませ、惑わせる呪い…人は欲に弱い故に過ちを起こし繰り返す…世知辛いものだ…」


「そうですね…その過ちを繰り返さない為に国王が国と民を導き、教師が子を導く…お互い頑張りましょう」


「なら…アリア殿に教えられた我々はアリア殿の息子と娘か?」


「っ!?」



 一瞬でも想像してしまったアリアは即座に頭を振って想像を打ち消してコーヒーで気持ちを落ち着かせ…



「…不敬ですけどゾッとするので勘弁してください…私にはもう娘と息子がたくさんいますし、それに…()()()()()()()()()()()()()もいますので…」


「へぇ、息子さんと娘さんがいらっしゃるのね?…え?ちょっと待ってちょうだい…!?」


「ま、まさか…アリア殿……赤子が腹におるのか…?」


「っ!?ゲホッ!?ゴホッ!?」



 盛大にむせ散らかした…。



「ち…違います…故郷で待ってくれている嫁達のお腹にですよ…」


「…え?嫁…?…女性よね?」


「…まぁ、釣られて話してしまった私の不注意ですし、お見せしますよ」


「「っ!?」」



 穴が開いてしまう程にアリアの身体をジロジロと見つめるメルクリアに苦笑しつつ、自分のもう一つの身体をイメージすると眩い光が部屋を満たした。



「…これが僕の本当の姿ですよ、イヴィルタ様、メルクリア様」


「えっ!?縮んだ!?」


「縮んだって…」



 後ろ髪が長く顔にかかる部分は普通の白黒のウルフカット、白黒の狼耳、翡翠の瞳、後ろからチラッと見える白黒の狼尻尾、唯織に似た少女らしい顔に身長は150㎝程度…本来の姿に戻ったアリアは自国の軍服姿でたははと苦笑する。



「それがアリア殿の本来の姿なのか…それにしてもイオリ君といい、少女と見紛うな…」


「イオリ君を見ていて思っていたけれど…男性が可愛いなんて反則ね…」


「そう見える様に努力してますからね。…っと、娘、息子の話で思ったのですが、今回の計画における護衛はどうされる予定ですか?」


「む?…むぅ…そうだな…道中の山賊にも備え、寝ずの番を無理なく行え、移動にも支障が出ない人数…100名ばかり用意したが…」


「100…まぁ妥当な人数ですが…」


「む?もう少し多い方がいいか?」


「いえ…100だと移動している最中の食料や水の問題もあるので、出来れば数名に抑えたいんですよね」


「数名…か…」



 アリアの言っている事は確かに正しい…食料と水を運べば移動が遅くなるし、100人もの人数で移動すればすぐに枯渇、その度に領土内に点在する近場の村々から徴収するのも体裁が悪くなるし、何より領民の食料と水が無くなる…だが、国王と王妃の護衛を数名なんて…と考えていると、アリアは笑みを浮かべる。



「もしよければ僕の娘を護衛にするとかどうですか?」


「何?アリア殿の娘か?」


「ええ、おいで、フェリル、ニクス」



 パチンパチンと指を二度鳴らすと、白い魔法陣と赤い魔法陣がアリアの後ろに現れ、その魔法陣から二人の姿が現れる。



「お呼びですか?お母様」



 淡く光るお尻まで伸びた跳ねている真っ白の髪、意思の籠った狼を想起させる金の瞳、鍛え引き締まった四肢を見せつける袖なしのへそ出しパーカーとホットパンツ姿のフェンリルが尻尾をぶんぶんと振り、



「お母様?何かありましたの?」



 燃え滾る真っ赤な長髪、気高さと金色の炎が宿る金の瞳、処女雪の様に綺麗な背中を大胆に露出した炎の揺らめきにも見える赤いドレスを身に纏うフェニックスは座ったアリアに後ろからしな垂れかかった。



「む…転移魔法…?」


「違いますよ。召喚魔法です」


「「っ!?」」



 アリアが転移魔法を使える事は知っていたが、まさか希少な魔法の中でも更に希少と呼ばれる召喚魔法を指を鳴らすだけで行使するアリアに目を落とさんばかりに見開く二人…



「どうですか?僕の娘達、神獣フェンリルと神鳥フェニックスを護衛にしませんか?」



 そんな二人にアリアはとんでもない提案を持ちかけた…。

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