ナイスアシスト×2
「死神と留学生と…何でエルブランド姉妹が…?」
「てか、死神初めて見た…」
………
「…ごめんねイオリ君、こんなジロジロ見られてたら食べ辛いよね…」
「いえ、大丈夫ですよ」
学園初の留学生と同学年全てを一人で叩きのめした戦闘学科の死神が二人でいるだけでも話題の種になるが、
「素直に言っちゃえばあーしも入学した時は透明の魔色とかって見下したりしちゃったけどさ、今じゃ恐れはあっても蔑みとかそう言うのは無いと思うよ?あの授業を受けた奴らはね」
「そうですよイオリ先輩!あーくしもそう思ってましたけど、今更イオリ先輩を馬鹿にする人はいないです!何も知らない新入生とかは透明の魔色だ~ってバカにしそうですけど、今この学園にいる人はもれなくイオリ先輩を畏怖の対象として見てますよ!」
「そ、そうなんだ…」
そこに座学学科の特待生の中でも一際目立つエルブランド姉妹が同じテーブルについている事は目を疑う光景として十分だった。
「あーくし、何度かイオリ先輩に会いに戦闘学科まで行きましたけどいつもいないですよね?普段何してるんですか?」
「んー、基本は学園の外で訓練してるかな。他のみんなも大体そうだと思うけど…」
「そうなんですね!あ、イオリ先輩のハンバーグ一口ください!そこまで届かないので食べさせてください!あー…」
「あ、あはは…はい」
「んー!やっぱハンバーグ美味しい!ミネア校長とアーデちゃんに感謝です!私のミートソースも一口どうぞ!」
「あ、ありがとう…」
対面に座ったシリカにハンバーグを食べさせ、お返しにミートソースをもらうだけで男子生徒からの視線が突き刺さるのを感じる唯織…。
「シリカは見た目通りだから他意はないんだ。我慢してくれイオリ」
「慣れてるので大丈夫ですよ。…あ、ティアさん、飲み物取って来ますよ」
「ん、ありがとうイオリ君」
「イオリ先輩!あーくしのもお願いします!」
「ならあーしのも」
「わかりました」
空になった飲み物を注ぎに唯織が席を立つと、シエラが申し訳なさそうな表情を浮かべて対面のティアに口を開く。
「その…先輩、すいませんでした」
「え?いきなりどうしたの?」
「いやぁ…流れで一緒にご飯行く事になったけど、よくよく考えてみたら彼氏との時間を邪魔したっていうか…」
「別に私達付き合ってないよ?」
「え?そうなの?お似合いだったから付き合ってると思ってた…」
「んー…まぁ、誰も手を出さないならもらっちゃおうとは思ってるけど、イオリ君は絶対倍率高いからなぁ…修羅場の10個や20個は覚悟しないといけないね」
「見かけによらず意外と肉食じゃん先輩…」
見た目通り大人びているシエラと生々しい話を交わし、笑みを浮かべ合っていると…
「あれ?お姉ちゃん?と…お、お友達…?」
「「っ!?」」
「あ、ティリア。ティリアもご飯?私がずれるからここ座って」
「う、うん…」
その身体の何処に……入るのかと思う程の山盛りのご飯が三つ、ハンバーグが六枚重ね、焼き肉が三人前乗った大きなお盆を持ったティリアが現れ、エルブランド姉妹は目を見開いたまま絶句する。
「今日はそれだけなの?」
「うん、ちょっとだけダイエットしようかなって…」
「「そ、それだけ…?」」
「っ…ね、ねぇ…お姉ちゃん…」
この姉妹の感覚は何処かおかしいと見抜いたエルブランド姉妹…顔を赤くしながらきょろきょろとするティリアはテーブルの下でティアの袖を引っ張っていた。
「ああ、ティリアの前がシエラ・エルブランド、座学学科の特待生二年で、その隣がシリカ・エルブランド、座学学科の特待生一年だよ」
「よっ…よろしくお願い…します…戦闘学科…二年…です…」
「ティリアは人見知りが凄くて…許してあげて?」
「う、うん…ティリア先輩!よろしくお願いします!」
「あ、ああ、あーしもよろしく」
自己紹介を終えて少しは気が和らいだのか小さく笑みを浮かべて「頂きます」と言うと美味しそうに黙々と山に手を付け始めた。
「にしても…あーしが言うのもなんだけど、凄い似てるね?」
「まぁ、姉妹だしね」
「ティア先輩もティリア先輩みたいにいつもはいっぱい食べるんですか!?」
「私はそんなに食べないよ?ティリアはいっぱい動くからこれぐらい食べないと動けないんだよね?」
「う、うん。あ、朝からさっきまで走ってたから…」
「へぇ?ダイエットで今まで走ってるとか根性すごいんだね。いつも何処を走ってるの?あーしらもスタイル維持するのに毎日走ってるけど全然見た事ないんだよね。いいルートとかあるの?」
「が、外壁…の上…」
「…え?どこ?」
「お、王都の外壁…いつも10週…今日は……15週…」
「「……」」
王都の外壁の上を15週…戦闘学科の規格外さに度肝を抜かれたエルブランド姉妹はティリアの認識を守りたくなる少女から、少女の皮を被った化け物だと認識を改めていた…。
「皆さんお待たせしま…ティリアさんも来たんだね?」
「っ!?い、イオリさん!?」
「……はは~ん、そう言う事ね先輩?」
「そう言う事」
そして唯織の姿を見た途端に顔を真っ赤にしたティリアを見て何かを察したシエラはティアとしたり顔になっていた。
「ティリアさんは今日の放課後って何か予定あったりする?」
「え、えっと、自主トレだけで何も予定は…」
「そっか。実は放課後にシエラさんとシリカさんの工房にティアさんと行くんだけど、ティリアさんもどう?」
「っ!い、いきます!」
「シエラさん、シリカさん、ティリアさんもいいですか?」
「ああ、問題ないよ」
「歓迎です!ティリア先輩!」
他の人がいるとしても唯織から誘われたと言う事実に嬉しさを隠し切れないティリア…そんなティリアを見たシリカは「ん?」と小首を傾げた。
「気になったんですけど…何でイオリ先輩はティリア先輩の事までさん付けなんです?あーくし達やティア先輩ならまだわかりますけど、同じクラスなんですよね?」
「っ!?」
突然の疑問にティリアは目を見開き、唯織はあー…と気まずそうな笑みを浮かべた。
「なかなかさん付けを止めるきっかけが無くて…」
「なら今からさん付けを止めてみたらいいんじゃないですか?」
「…!…!…!」
さん付けしなくていいと自分から言い出せなかったティリアは今が好機だとばかりにシリカに無言の頷きをした。
「…んー…じゃあ…えっと…ティリア…?」
「は、はい!…い、イオリ君…っ――――――!!!」
恥ずかしそうにさん付け無しで呼ばれたティリアも勇気を出して君付けで呼ぶと、顔を真っ赤にして照れ隠しの様に山の料理を食べ始める…。
「偶にはいいアシストするじゃんシリカ」
「うん、ナイスアシストだったよシリカ」
「…?…?」
ただ疑問を述べただけで褒められたシリカは更に頭に?を浮かべるが、次はシエラが疑問に思った事を問う。
「興味本位で聞くんだけどさ、イオリ達のクラスで誰が一番強いの?噂だとさ、三年のランルージュ元生徒会長、風紀委員長姉妹もイオリ達の担任が教える事になったんでしょ?やっぱりランルージュ姉妹が強いの?それとも入学式の後に馬鹿でかい剣を振ったっていうシルヴィア?って子?」
「あー…んー…みんなそれぞれに特化してるので一概に誰が一番強いって決めにくいですけど…まず、魔法は確実にシルヴィア…今は由比ヶ浜 詩織って名前で、僕の姉さんだと思います。次にシャルとリーナが来るかなと…」
「へぇ…お姉ちゃんがいる事にもびっくりだけど、あの五色の王女様より凄いんだ?確かイグニス・ハプトセイルとの決闘の時に凄い魔法使ってたから王女様だと思ってた」
「次に近接戦闘は…絶対にティリアですね」
「えっ!?そ、そうなの?イオリよりも強いの?」
「僕なんか試合開始一秒で一撃で気絶させられましたからね…」
「「……」」
同学年を一人で叩きのめした唯織を一撃で沈めるティリア…顔を赤くしてご飯を食べる少女の評価がエルブランド姉妹の中で少女の皮を被った化け物から化け物へと昇格した。
「その次にリーチェは確実ですし…速度に関してはリーチェが一番、テッタは防御に関しては一番、アンジェさんとフリッカさんは二人揃ったら一番厄介ですね。シャルとリーナは一撃重視、広域殲滅、長時間の戦闘に関しては一番だと思います」
「ふーん…じゃあイオリは?」
「僕ですか?…んー……強いて言えば回復…ですかね?」
「「……」」
一人で何百人も半殺しにするバーサークヒーラーがいるもんかと心の中で思うエルブランド姉妹…ここで話を聞いててもよくわからないし、百聞は一見に如かずと思考を切り替えた二人は食べ終わったお盆を持って立ち上がった。
「まぁ…いいや。とりあえずあーしらは食い終わったし、今日一日ここに居るから授業終わったら来てよ。また後でね」
「ごちそうさまでした!頼みたい事があるので絶対に来てくださいね!ティア先輩!イオリ先輩!ティリア先輩!」
「頼みたい事…わかりました。ではまた後で」
そう言ってノートの端を千切って作られたであろう可愛らしい文字付きの地図をテーブルに置いて食堂を後にするエルブランド姉妹を見送り…
「ご、ごちそうさまでした…」
「…じゃあ、ティリアも一緒に授業受ける?」
「え?」
新しい仲間を連れてティア達も午後の授業に挑む…。
■
「はあああぁぁぁ!!」
「やあああぁぁぁ!!」
細剣と槍が響かせる硬質な音に気合の籠った声を混ぜるリーナとシャルロット。
「…シッ!!!」
まるで雑念を払う様に線を描いた紙を宙に放っては線をなぞる様に斬り捨てるリーチェ。
「くっ…先を読まれているな…!」
「野生の感…恐るべし…!」
「全然捕まらない…!!シオリも手伝ってよ!?」
植物の蔦を伸ばして妖精達を捕まえようとするテッタと、意思のある植物から逃れ続けるアンジェリカとフレデリカ。
「うーん…んっ…う~ん……」
さっきから唸るばかりで全然テッタに協力しない詩織は自主トレを闘技場で行っていた。
「な~んかさぁ…さっきから詩織ちゃんレーダーに引っかかるんだよねぇ…」
「またイオリに誰か近づいてる時に反応するレーダーの事…?それより連携の練習中なんだから手伝ってよ…」
「うーん……」
確度の高い詩織ちゃんレーダーは今日も正常機能していたが、テッタはそんな事より手伝って欲しいと心の底から思っていた…。
「…ふぅ、それよりティリアとイオリさんは来ないんですのね」
「ふぃ…確かに二人いないよね?」
「そうですね…ユイ君に打ち込みの相手、ティリアには体裁きの確認をしてもらいたかったのですが…」
汗を拭いながら飲み物を飲むリーナとシャルロット、リーチェがこの場にいるはずだった二人の名前を上げると、植物の蔦に捕まらなかった妖精の姉がそういえばと口を開く。
「朝、イオリとティアは一緒に座学学科の者達が通る道を歩いていたな」
「えっ!?何で早く言わないの!?てか声かけろし!」
「っ!そうですよ!何で声をかけなかったんですか!?」
「…?別に荷物を運んであげてただけ。声かける程でもなかった。過保護」
「むぅ…なら今はティアと居る…?いやでもこの反応は…まだほかにもいる気がする…」
「そのレーダーに居場所特定機能とかないんですか?早く実装してください」
ぶつぶつ呟く詩織と無茶な事を言うリーチェに全員苦笑するしかなかった…。
「と言う事はティリアはティアさんのとこにいる可能性があるよね?」
「………そうですわね。あまり覗き見みたいで気が進みませんが、テッタさんの言う通りイオリさんはティアさんとティリアと一緒にいますわね」
「「何処!?」」
不本意ながら『共鳴接続』で一緒に居る事を特定すると、詩織とリーチェが即座にリーナに飛びつくが、リーナは…
「流石に怖いですわ…少しぐらいイオリさんの好きにさせてあげてくださいまし…」
「「ぐぬぬ…」」
重苦しいため息を吐いて心の中で「色々頑張ってくださいまし…」と唯織にエールを送った…。




