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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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ヤバい姉妹

 





「…と言う事で、鐘も鳴りましたし午前中の授業は終了とします」



 鐘の音がレ・ラーウィス学園に響くと教師は教室を去り、皆の疲れが籠った重苦しいため息が教室に充満した。



「…どうだった?」


「……簡単に言うならアリア先生はさっくりこう言う事が起きてこうなるって言う結論を重視する感じで、あの方はこういう結論に至るまでこういう事があって、何でそうなったかと言うと…みたいな感じで過程を重視した深堀りって言うんですかね…アリア先生は要点を纏めながら例え話を交えてわかりやすく教えてくれるのでわかりやすいんですが、やはり座学学科だと難しい言葉もあったり、専門用語?みたいなのもいっぱいだったので少し理解するのに時間がかかりそうな授業でした」


「言い回しは正確を求めるから少しは難しい言葉が出てくるけど…まぁ専門家だしね。アリア先生は戦闘学科の先生だし、逆にこういう内容を誰でも理解出来るようにかみ砕いて説明出来るっていう事はしっかり理解してないと出来ない事だと思う。万人受けするのはアリア先生、玄人受けするのは専門家って感じかな」


「なるほど…ありがとうございます、ティアさん」



 聞いた事のない用語や単語が出てくればそっと教えてくれたり、少し首を傾げればわかりやすく例えを出してくれたティアに感謝すると、座学学科三年生の白制服の中に一人だけ混じった戦闘学科二年生の黒制服の話題が聞こえてくる。



「ねぇ…あの子って確か透明の魔色の…」


「戦闘学科二年特待生の死神…同学年を一人で全員ボコボコにしたって噂の後輩だよ…」


「しかも隣の人って突然ムーア王国から転入してきた留学生のティアさんだよね…?ていうか、何で二年生の、それも戦闘学科の特待生が一緒に授業受けてたの…?」


「…もしかして彼女?」


 ………


「…有名人なんだね?」


「悪い意味で…ですかね…」


「んー…悪気って言うか悪意みたいなのは感じないけど…まぁ、()()()じゃなくて黒制服だから珍しいんだろうね」


「緑制服…?」


「…それも知らないの?」


「は、はい…」


「…とりあえず食堂に向かおう?歩きながら説明するよ」



 ひそひそと話す人達の視線から逃れる様に唯織と一緒に教室を後にしたティアは、転入の時にもらった手帳型の資料を唯織に見せる為に肩を寄せつつ緑制服について説明し始める。



「あのね?緑制服って言うのは、()()()()()()()()に与えられる制服なの」


「座学学科の特待生…」


「…」



 寄せられた資料を覗き込む唯織…綺麗な長髪から香水とは違う優しくていい匂いを男が出していると言う事にまた脳がバグりそうになるティアだったが、んんっと咳払いをして注目してくる生徒を無視して続ける。



「でね?この緑制服には戦闘学科の黒制服と違って()()()に分けられてるの」


「二種類ですか?」


「うん。黒服は強ければなれる…これ一択なんだけど、知識を求められる分野は二ヶ月に一度あるテストでどの分野でもいいから上位三名に入る事。技術が求められる分野は才能を示す事が出来ればなれるんだよ。待遇は戦闘学科と同じで数は緑制服の方が多いんだよ」


「なるほど…」


「ちなみに知識分野の緑制服は胸の所に本を象ったバッチが付けられてて、技術分野はその技術の象徴を象ったバッチが付けられてるの。鍛冶なら槌、薬剤ならフラスコとかね?」


「へぇ…なかなか複雑ですね…」



 知識で特待生になるか、技術で特待生になるか、ただ強ければなれる戦闘学科の特待生とは違う戦いで毎日しのぎを削り合っているのかと辺りを見渡すと、白制服が八割、緑制服が二割の感覚で見つかる。



「ティアさんも緑制服を狙うんですか?」


「んー…実は私が転入したタイミングが丁度テスト終わりで、次参加するなら丸まる二ヶ月後かな?まぁ、この学園に席を置いてるわけだし狙うには狙うよ」


「なるほど…頑張ってくださいね?」


「うん」



 笑みを浮かべるティア…突然の転入と言う事で同じ学年の生徒であれば誰もがティアを知っているが、皆が知っているのはいつも真面目そうな無表情でただ淡々と授業を受けて誰かと話している姿も見せない取っ付きにくい存在だったが、楽しそうに話し、笑みを浮かべるその姿に誰もが廊下で足を止めて視線を奪われていたが…唯織とティアは異変に気付く。



「ぐへ…ぐへへぇ…じゅる…」


「「…?」」



 後方やや下…正確には唯織の真後ろ、お尻の辺りから生暖かく湿り気を帯びた笑い声が聞こえた。



「この何もかもを吸い込んでしまう漆黒…最高の手触りに隠された戦いの傷…見た事のない材質の刀身…使い手の好みにバッチリと合わされた持ち手…何より美しい…!!」


「っ!?ど、どなたですか!?」



 唯織の後ろ腰に斜めに吊るされた魔王の剣をただならぬ気配で触っていた少女から二人して瞬時に距離を取ると、その少女はトレードマークのリボンを揺らしながらニカッと太陽の様な笑みを浮かべる。



「これは失礼!あーくしは座学学科鍛冶部門一年特待生のシリカ・エルブランドって言います!以後お見知りおきをです!!イオリ・ユイガハマ先輩!ティア先輩!!」



 150㎝あるかないかという低身長、肩まで伸びた丸みを帯びる金の髪と特徴的な兎の耳を思わせる突き立った大きな赤いリボン、瞳はピンクで優し気な目元、小ぶりな唇からは白い八重歯を覗かせ、白いシャツから透けるサラシは胸を押しつぶし、肘まで袖を捲った腕は切り傷と火傷だらけでお世辞にも美しいとは言えない最高の職人の腕、特待生である証の槌を象ったバッチを胸に付けて上着を腰に巻き付けるという周りの生徒を見ても異質と呼べるシリカ・エルブランドは両手を唯織とティアに差し出していた。



「シリカ・エルブランドさん…は、初めまして」


「初めまして…」


「はい!イオリ先輩!ティア先輩!…っ!ちょっと失礼します!」


「えっ!?」



 先程のただならぬ気配は嘘だったかのように二人の手を握りぶんぶんと振るうと、次はチラッと見えた唯織のジャケットの裏に仕舞われたトレーフルに目を付け、犯罪者顔負けの手つきで胸元からトレーフルを奪った。



「っ!す、すごい!?これイロカネを使ってるんですか!?何処の何方に鍛えてもらったんです!?」


「えっと…それは担任のア『っ!?しかもこれはイロカネシリーズの中で最も加工しにくい…いえ!加工出来ないとまで言われているクロイロカネじゃないですか!?このクロイロカネを加工出来るなんて神です!!鍛冶神です!!』…」


「すごい…!すごいすごい!すごいですよこれ!!これ程凄いナイフは王家の宝物庫にだってきっとないですよ!!使い手の要望にバッチリと応えたであろう持ち手に、使い手を絶対に守ると言う意思がこのナイフには込められています!!!ふぁー!!!生きててよかったー!!!!」


「……返してもらわなくていいの…?」


「…悪い人じゃ無さそうですし…今取り上げたらまずい気がします…」


「「……」」



 質問をしておきながらトレーフルの神がかり的な出来栄えに自分の世界から帰ってこないシリカを廊下で眺めていると…



「こらシリカ!!何やってんの!!」


「ふぎゃん!!」


((あ…絶対お姉さんだ…))



 シリカと頭二つ違う身長、髪はシリカと同じ金色だが長さは背中まで伸びていて髪をシリカと同じ特徴的な赤いリボンで一つに纏めたポニーテール、瞳の色は同じで優し気な目元のシリカとは対立する意思の強そうな目元、白いシャツから透けるサラシはシリカ以上に窮屈そうで、捲られた袖から見える腕はシリカより職人の腕、胸元にはシリカと同じバッチが付いている事から拳骨を頭に下ろした人物がシリカの姉だと悟った…。



「だっておねーちゃん…このナイフ凄いんだよ?」


「そうやって命を預ける武器を無遠慮に弄るな!!」


「ふぐっ!?」



 もう一度シリカの頭に拳骨を落とした姉は涙目のシリカからトレーフルをひったくり、あまりの出来栄えに目を見開きながらもしっかりと唯織の前に差し出した。



「あーしは見てわかる通り、座学学科鍛冶部門二年特待生、シエラ・エルブランド。あーしの妹がごめんな?」


「いえ…戦闘学科二年特待生の由比ヶ浜 唯織です…」


「私は座学学科三年のティア、学部は知識系全部。よろしく」


「イオリ…?ティア…?まさか同学年全員を半殺しにした死神とムーア王国のハルトリアス学園から転入してきたっていう噂の先輩か?」


「半殺し…あはは…」


「やっぱり噂になってるんだ…」


「まぁ、よろしくな!」



「もっと鬼の様にごつい奴かと思ってた…」と呟きながら唯織の顔を見つめ、シリカと同じ様にニカッと太陽の笑みを浮かべて両手を差し出してくるあたり、本当に姉妹なんだなと思いながら握手すると…



「…何だこれ…おい…嘘だろ…?」


「…え?」


「………」


「うわっ!?!?」



 シエラは目を見開き血走った眼で唯織を見つめ、突然雰囲気が変わった事にたじろぐとシリカ顔負けの手つきで唯織のジャケットを脱がした。



「お、おい…おいおいおい…何だよこれ…何の冗談だよこれ…!!」


「ど、どう『どうしたもこうしたもない!!何でこの制服にクロイロカネが使われてんだ!?』…」


「クロイロカネを糸に加工する…?頭が吹っ飛んでるだろ…?あり得ないだろこんなの…!!どこの誰が作ったんだ!?」


「た、担任のア『っ!?はぁ!?しかもこれはクロイロカネだけじゃない…ドラゴンの鱗…!?嘘だろ!?ドラゴンの鱗まで糸に加工してこれを作ったのか!?』…」


「あり得なさすぎるだろ!?国宝級…いや、世界の宝だぞこれ!?」


「ね!?ね!?凄いよねおねーちゃん!!」


「ああ!!こんなのを見て触れるなんて生きててよかった…!!!」


((あ…凄い似てる…))



 廊下のど真ん中で唯織から装備を剥ぎ取って大興奮するエルブランド姉妹…傍から見ていた生徒達は関わってはいけないと目線を外すが、耳だけはしっかりとこちらを伺っていた。



「なあイオリ!!ちょっと今からあーしらの工房に来いよ!!話を聞かせてくれ!!」


「あーくし達の工房にごあんなーい!!」


「あ、ちょっと…!っ!?」



 余りの出来事に唯織の両腕を引っ張って連れて行こうとするエルブランド姉妹にティアが怒ろうとした時、ティアだけがギリギリ視認出来る速さで唯織はジャケットと何時の間にかシリカの手にあったトレーフルを奪い去り声を上げた。



「ちょ、ちょっと待ってください!今からティアさんと食堂でご飯を食べるので無理です!」


「何時の間に……わかった、じゃあ飯を食った後ならどうだ?」


「無理です。今日一日はティアさんと一緒に授業を受ける約束をしてるので」


「じゃあ放課後はどうですか?」


「放課後は…」



 そう言ってティアを一瞥すると、「放課後までは約束してないしね…」と呟きながら苦笑していたが…



「ティアさんと一緒なら行ってもいいです」


「え?」



 まさかの一言に声を漏らすが、エルブランド姉妹は二人そろってニカっと笑みを浮かべた。



「ああ、問題ないよ。先輩もそれでいい?」


「あ…うん…別にいいけど…」


「やったー!じゃあご飯も一緒でいいですか?ティア先輩!」


「あ~…うん…いいよ」


「よし!じゃあ行こうぜイオリ、先輩!」


「いきましょー!イオリ先輩!ティア先輩!」


「…まぁ、ティアさんがいいのであれば…」



 ティアの許可も出て食堂に向かうエルブランド姉妹について行きながら「本当によかったんですか?」と問うと、ティアは…



「まぁ、今日が最後ってわけじゃないし…それに、放課後に一緒ならって言ってくれたのは私の為でしょ?」


「…含みが無かったと言えば嘘になります。僕は一人の寂しさと辛さは人一倍知っているので…少しでもそうならない様にと…迷惑でしたか?」


「ううん、ありがとねイオリ君。おかげで学園生活が楽しくなりそう」


「…よかったです」



 ティリアが唯織に惚れるのも仕方ないと笑みを浮かべ、ぐずぐずしてたらもらっちゃうからね?と思うのだった…。

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