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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第五章 水姫と水都
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いつもと違う一日

 





 ムーア王国の出来事から四日後…唯織達はアリアの転移魔法でハプトセイル王国へと帰国していた。



 まずはターレアの国王即位とターニャの王妃即位の件だが、二人は学園を卒業する事無く中退し、アリアが二週間も寝ずに作った『虫でもなれる国王様(教科書)』に沿った演説をシフォンが作った魔道具、命名『映像機(ビジョン)』を利用し、国民へは教科書を利用したより住みやすい改善案を惜しげなく披露したおかげで最初にあった『残念王子』、『道楽王子』という不名誉な呼び名が『若き英雄王』という呼び名に変わり、不名誉が払しょくされただけではなく手放しで喜ばれ、ターレアを王と認めたくない、ハーフのドワーフなんかを王妃になんて可笑し過ぎると反感の声を上げた貴族達も、愛する王妃を侮辱されたと激怒した王が教科書の情報を元に詰めたおかげで皆が面白い様に黙り、手を揉みしだきながら歓迎した事で恙なく?終了し、今では教科書を元に国の運営を寝る間も惜しんで二人で協力しながら勉強している。(ちなみにアリアが渡した指輪は身体強化の魔法が付与されていたみたいでターニャ曰く「一生外せない誓いの輪」となっているらしい)



 次にターレアの仲間達だが、アーヴェントは学園に席を残しつつ主席として学園の規則改定や風紀の取り締まりをしつつ、ターレアの教科書通りに刷新された諜報部に入り、更にはターレアの右腕として恥じぬ様に祝勝会でアリアに土下座までして知恵を請い、()()()()()()()()()()アーヴェント専用の『イエスマンでもなれる腹黒参謀』という皮肉がふんだんに含まれたタイトルの教科書をもらい目の下にくまを作りながら勉強しているらしい。(ちなみに祝勝会に現れたエルリとルエリを精霊王、精霊女王と敬い甲斐甲斐しく世話を焼こうとして微妙な顔をされていたのは本人は気付いていない)



 キースは『巨躯の死龍』や化け物達と戦った時に自分に不甲斐ない気持ちがあったのか学園を中退し、強くなってターレアの牙になる為に武者修行をするとの事で冒険者になるらしく、今は拠点をムーア王国の王都リアスに移したトーマに弟子入りした…()()()()()()()()、実はリーチェとの特訓の時に垣間見えていたガルムとポトラに対する母性と強さに()()()らしく、隣どころか前を歩ける男になる為に男を磨いているらしい。(ちなみに祝勝会でリーチェと楽しく笑う唯織との関係にただならぬ気配を感じ、試合を申し込んで惨敗している)



 ルマはキースと違い、目標である獣王になるには知識と教養と力が必要と考えて学園に席を残しつつトーマに弟子入りをし、更に王としての在り方を勉強すべく王を間近で観察でき、支える事が出来る執事をすると言い出し、もし自分より獣王に相応しいテッタが名乗り出来た時に支えられる様に、もし自分より獣王に相応しいテッタ以外が名乗り出た場合は自分が獣王になるようにと自分の道を進む事に決めたらしい。(ちなみにキースと腹違いの兄弟だと言う事はキースが頑なに言わなかったが、ルマは出来心で「兄さん」と呼んだ時に耳がビクリと反応し、今まで見た事も無い心底焦った顔をしてた事で少し気付き始めていた)



 エルダは元々学園には未練はなく、すぐに腑抜けた騎士団を鍛え直すと言って中退し、1()()()()と言う模擬戦を騎士団相手に一日かけて行い、『巨躯の死龍』以上の絶望を叩きつきて丁寧に心を折り、『巨躯の死龍』戦での身を挺して王都を守った功績も相まって軍の全指揮権を預かるムーア王国の()()()()『白き守護竜』という呼び名でレイカと共に王国軍に所属する事になった。(ちなみに祝勝会で神龍とご対面したエルダは放心状態になり、自分の技の名前にもしたリンドヴルムことヴルムの気障ったらしさを目にした事で技の名前を変えようかと悩んでいるらしい)



 レイカはと言うと、エルダと同じく学園を中退してトーマが用意した一軒家に身を寄せてキリンと一緒に家族水入らずで暮らす事となり、親友であるエルダと共に王城で不甲斐なかった騎士団の教育と王都の治安を守る軍に所属し、ムーア王国の武の両翼『黒き鬼人』という呼び名で任される様になっていた。(ちなみに王国軍の踏まれたい、罵られたい、蔑まれたいランキング1位でエルダは赤面させたいランキング1位との事)



 シフォンは相変わらず学園長のままだが、時代を何世代もすっ飛ばしてしまった魔道具『映像機(ビジョン)』の開発の功績を称えられ、シフォン専用の魔道具開発の工房の贈与とムーア王国国家直属魔道具開発部門の脱退が認められて学園長の仕事を8割、学園長の仕事の息抜きで魔道具作りは2割(もちろん人の命は奪わない生活用の魔道具の開発のみ)とし、()()()()()()()()しつつ、その量産は父親と母親のシギルとフランが請け負うという過ごしやすい生活を手に入れていた。(ちなみに祝勝会では物作りという繋がりで唯織達の武器を作ったランと意気投合したようで、護身用のナイフを一本もらったみたいだったがアリアはため息を吐きながら「そのナイフは空間魔法が付与されてるから何でも切れるし、目視範囲なら何処にでも斬撃を飛ばせるから扱いと所持に注意してちょうだい」と釘を刺され青褪めていた)



 ちなみにSSSランク冒険者のトーマ、バルアドス、クルエラだが、トーマはムーア王国の王都リアスを拠点に、バルアドスとクルエラはハプトセイル王国の冒険者ギルドにしばらく厄介になるとの事で唯織達と一緒にハプトセイル王国に来ていた。



 そして『巨躯の死龍』と化け物達の世界の認識だが、魔王の復活の兆し、もしくは王国の破滅を目論んだ犯罪組織の企みとしてムーア王国とハプトセイル王国が合同で調査する事となっているが…主犯はアリアなので詳しい情報は計画に参加した者のみが知り、真実が明るみに出る事は一切出る事は無いだろう。



 で…語られていないティリアの姉のティアだが…



「あ、ティアさん。おはようございます」


「あ、イオリ君…おはよう」


「重そうですね…半分持ちますよ」


「ありがとう…でも()()が違うでしょ?私の荷物持ちをしてたら授業に遅れちゃわない?」



 ハルトリアス学園の制服ではなく、レ・ラーウィス学園の()()()調()()()()()()に身を包み、鞄に入らなかったのか難しそうな分厚い教材を両手いっぱいに持って登校していた。



「ああ、戦闘学科の特待生クラス…ハルトリアス学園でいう特級クラスはかなり自由なんです。担任がアリア先生とユリ先生ですしね…」


「ああ…」


「それにアリア先生は帰国してからすぐに国王様に召喚されたみたいで…ぶっちゃけ自主トレしかやる事が無いぐらい暇なんです」


「そうなんだね。…じゃあ、荷物持ちお願いしてもいい?」


「わかりました」



 制服が悲鳴を上げるぐらい膨らんでいる胸元の所為でバランスが悪かった教材の殆どを受け取り、ティリアに似た笑みを浮かべるティアに笑みを返した唯織は、二人で周囲から驚きの視線を浴びながら校門から伸びる長いレンガ道を歩き始める。



「実は僕、特待生クラスと闘技場の行き来ぐらいでこっちの道に行くの初めてなんですよね」


「えっ?二年間も通ってるのに?」



 少し進むと道を二つに分ける大きな噴水があり、いつもならこの分かれ道を左に進み白い校舎に向かうのだが、今回は右側を選び目的地である校舎の右側に向かっていく。



「ええ…人目に付くとまずい訓練とかは祝勝会をした所でしているのと、みんなには申し訳ないんですけど…僕が透明の魔色と言う事もあって学園の行事とかも殆ど不参加なんです」


「そう言う事…じゃあ、学園の事は私の方が知ってそうだね?」


「そうですね」



 レ・ラーウィス学園の校舎は本来一つの建物だが、校門から見て真ん中から左側が戦闘学科、右側が生産や政治等、様々な知識や技術を学ぶ学科、通称『座学学科』となっており、ティアが所属している座学学科は右側だった。



「と言う事はもうこの学園には慣れましたか?」


「うーん…やっぱり留学生って言うのと、水人族って言うので距離は取られてるかな…別に無視とか、罵倒されたりとかそう言うのは無いんだけど…やっぱり三年も通っていれば特定のグループとかが出来てるし、私以外の留学生はまだバタバタしてて来てないし、来たとしてもより戦闘学科に行くと思うしね…」


「では仲のいい人とかはまだ…?」


「そうだね…」



 左の道と隔てる様に生える街路樹の道を進み、「なかなかうまくいかないかな」と苦笑するティアはでも、と続ける。



「私がここに居る理由はムーア王国の()()()()()()為だからこんな所で躓くわけにもいかないし、落ち込んでたら気を利かせてティリアと居れる様にって送り出してくれたターレア…じゃなかった、国王様達に申し訳ないからね。それにまだ数日しか経ってないし、まだまだこれからだよ」


「…そうですね」


(うわ…みんなすごい見てる…)



 最初出会った時の少し陰のある雰囲気は今は無く、毎日が新しい事で満ちていて楽しみが尽きないと言った明るい笑みを浮かべるティアは周囲の視線を奪っていたが本人は気付いていなかった。



「そういえば、今は座学学科の寮に住んでいるんですよね?ティリアさんと同じ部屋でもよかったんじゃないですか?」


「んー…四六時中ずっと一緒に居てもねぇ…前まではティリアを探し出して守ってあげないと何て思ってたけど、私なんかよりずっと強いしね。もし一緒に住むのなら…お母さんも一緒に…かな」


「……」



 ティリアとティアのお母さん…ティリアから聞かされた話では子供を産む為だけに王城に囚われている、そしてアリアがティリア達のお母さんを救う為に計画を始めていると言う事は唯織達も知っていた。



「まぁ、何時になるかわからないけどね?」


「…割とすぐかも知れませんよ?」


「…そうなるといいね」



 気を遣わせてしまったとお互いに歯切れ悪く口を開いた時、



「あっ!?」



 注意が散漫だったティアが少し出っ張っていたレンガに足を引っかけてしまった。



「大丈夫ですか?」



 すかさず両手に持った教材を片手で持ち、空いたもう片方の手でティアの細い腰を唯織が抱いた事で転ぶことは無かったが…



「あ、ありがとうイオリくっ!?」



 胸が形を変える程に密着している身体、背伸びすれば合わせれそうな唇、男とは思えない少女らしい整った顔、赤い瞳で心配そうに見つめてくる目元…庇護欲を掻き立てる顔と頼り甲斐がある身体のギャップに脳がバグり、ティアの顔が一瞬で真っ赤になった。



「ああ…すみません、助ける為とはいえ身体を抱き寄せてしまって…何処か痛い所とかありますか?」


「あ…べ、別に問題はないけど……あ~…ティ………………無理ないなぁ…」


「ティリアさんですか?」


「な、何でも無いよ?…ふぅ、ありがとうイオリ君。おかげで大切な教材を傷つけなくて済んだ」



 身体が離れる瞬間、何で「あ…」なんて声を漏らしたんだろうと思いつつ、新品の教材が無事な事に胸を撫でおろしていると、唯織はんー…と唸ってから口を開く。



「次にアリア先生に会った時に空間収納が使えるブレスレットをもらえないか頼んでみますね?」


「ほんと!?…って、いいのかな…一応ティリアのお姉ちゃんだけど教え子じゃないし…少し甘えすぎだと思うんだけど…」


「アリア先生は優しいですからね。アーヴェントさんにも教科書を用意してたぐらいですし、この教材とティアさんが持っている()()()もアリア先生からですよね?」


「うん…本当に何から何までよくしてもらってるし、優しいのもわかってるけど何もかも完璧過ぎて少し怖くて近寄りがたいかな…」


「あ、あはは…」



 ティアが持つ分厚い教科書…タイトルは『口下手でもなれる外交官 友好国編』…しっかりとアリアの自作教科書だった。



「でも…これをもらったと言う事は一応教え子…って事でいいと思う?」


「いいと思いますよ?」


「んー…じゃあ、暇な時にイオリ君達の教室に行ってもいいと思う?」


「え?全然いいですよ?ティリアさんもいますし…あ、でも、僕達あんまり教室にいないかもですね…」


「あーそっか…んー…」


「…?」



 何かうんうんと唸りながら考えて小首を傾げるティアに釣られて唯織も小首を傾げると、パラパラと教科書を捲り…うんっと言って閉じた。



「友好国には駆け引きは必要なし。誠実さを持ち、互いの利益になるよう両者納得するまで話し合うのが必要」


「え?」


「イオリ君さっき今日は暇で自主トレをするぐらいしかないって言ってたよね?」


「ええ」


「じゃあ、今日のお昼休み、一緒に食堂でご飯食べない?さっき転びそうになったのを助けてもらったし、奢らせてよ」


「別にさっきのは気にしなくていいですよ?それに特待生はその辺り免除されてるので…」


「そっか…でも助けてもらったのに何も返さないのは私的にモヤモヤしちゃうんだよね。ダメ?」


「…そう言う事でしたら。でも、アリア先生の料理を食べた後だとその…食堂のご飯って…」



 一度だけテッタが買って来た食堂のご飯を一口食べさせてもらった時の事を思い出して微妙そうな表情を浮かべるが、ティアはえ?っと声を漏らす。



「確かにアリア先生の料理には敵わないと思うけど、普通に外で食べるより美味しいよ?」


「え?そうなんですか?」


「本当に学園の事殆ど知らないんだね…確か、ミネア校長が改善したはずだよ?」


「あはは…大体みんなはお昼になると学園に来る前に寮のメイドさん達が作ってくれたお弁当を食べるので…すみません…」



 数日しか学園に通っていないはずのティアから学園の事を教えてもらうという不甲斐なさで苦笑する事しか出来ず、もう少し学園の事を知らないとと思っていると考えを見透かした様にティアは提案する。



「実は座学学科って、戦闘学科みたいに危険な授業が殆ど無いから学園の生徒なら誰でも授業に参加出来るんだよね。よかったら今日一日私と授業受けてみない?」


「え、そうなんですか…?でも…流石に授業を突然受けても理解できるかどうか…」


「どうせ暇なんでしょ?それに…リーナちゃんとかシャルちゃん、アンジェちゃんとフリッカちゃん、リーチェちゃんも授業に出てたりするよ?」


「えっ!?!?そうなんですか!?」


「そ、そこまで驚く…?忘れてるかも知れないけど、王族と貴族だよ?その辺の教養は一番必要だと思うけど…」


「た、確かに…」


「あ、テッタ君も見るよ?」


「そ…そうなんですね…アリア先生は魔法とか戦闘技術だけじゃなくて、それこそ座学学科と同じぐらいの授業をしてくれているので十分かと思っていたんですが…」



 まさかアリアが居ない時も座学学科で授業を受けていたなんて…そういえば、偶に突発で出される学力テストで一位はずっとリーナで、次にシャルロット、テッタ、リーチェ、自分、ティリア、詩織という順番だったと思い出し、意識の違いを突きつけられた唯織は…



「…では、僕も座学学科で授業を受けてみます」


「じゃあ、教室まで案内してあげるね?」


「お願いします」



 外交官の卵であるティアの掌でコロコロと思い通りに転がされるのだった…。

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