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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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未知の体験

 





「唯織…目大丈夫なのかしら?」


「は、はい…シルヴィが作ってくれた氷で冷やしてるので問題ないです」


「…よゆー」


「そ、そう…まぁそこまで感動してくれたならよかったわ…」



 まるでお通夜の様に静かな特待生クラスの教室…それもそのはず、今まで無能で最弱だと思っていた透明の魔色を持つ唯織があんな魔法を使う事が出来るなんてシルヴィアとアリアを除いて誰も思っていなかったからだ。



 そんな当の本人、唯織は目を真っ赤に腫らして恥ずかしそうに席に座りながらシルヴィアが作ってくれた氷で目を冷やしていた。



「まぁ…これで入学初日を終了しようと思うのだけれど…」



 苦笑しつつ唯織から視線を外して教室を見渡すと…



「…何故理事長と校長は生徒の様に席に着いてるんです…?」



 生徒に交じってガイウスとテッタ関連の仕事を終えたミネアが生徒に交じって席に座っていた…。



「む…今日はもう終わりなのか…?」


「そうですか…是非講義を受けてみたかったのですが…」


「えーっとー……一応講義は明日からやるつもりだったんですが…」



 そう言いながら教室を見渡すとシャルロットが声を上げる。



「すみません、アリア先生…お時間があるなら講義をお願いしたいです…もし皆さんが帰るのであれば個人的にでも…」


「…ふぅん…まぁ大方唯織と私の戦闘に関して聞きたいって所でしょうけど…あなた達もそれでいいのかしら?」


「当たり前ですわ!!」


「はい、私も聞きたい事がありますから」


「ぼ、僕もです」


「まぁそうよねぇ。あなた達が今まで信じてたものが目の前で覆されたんだから気になるのはしょうがないわね。シルヴィ、唯織、あなた達はどうする?」


「…暇だから聞いてく」


「僕もやる事はありませんので…」


「…ふぅ、わかったわ。んじゃ、魔法の基本知識について講義するわ。私はあなた達用のノートを職員室に取りに行ったり教本を用意したりするから30分後にまた教室に戻ってきてちょうだい。お腹が空いたりしてるんだったらなんか買ってきて食べながら聞いてもいいわよ」



 お開きになるはずだった入学初日だったが目の前で常識が崩された生徒達とガイウス、ミネアの要望で講義が開かれる事になり、アリアは講義の準備をする為に教室を後にする。



「…ふん。シャル?何かお菓子でも買いに行きますわよ。学校の購買は今日はやってないでしょうし…」


「うん…」


「なら私もついて行きます」


「…」



 そう言ってメイリリーナ、シャルロット、リーチェもアリアに続く様に教室を出ていくとシルヴィアは教室を見渡し…



「…イオリ、いこ」


「え…?僕はお金もないし何も食べなくて『いいからいく』あっちょっまたこれ…?」



 空気の読めていない唯織を強引に引っ張って教室を出ていくと教室にはテッタとガイウス、ミネアの三人だけになる。



「…あ、あのガイウス理事長、ミネア校長…」


「む、どうしたテッタ君?」


「もうテッタ君を脅かす者はいませんよ?既に関係者は全員牢獄送りとなっていますので」


「そ、そうですか…ありがとうございます…」


「うむ。これで学園生活が楽しめるのならお安い御用だ。ミネア、儂らも何か口に入れるものを用意するとするか」


「そうですねガイウス理事長。ではテッタ君また後『ま、待ってください!』…?」


「あ、あの…!!」



 席を立って臨時講義の為に何かを買いに行こうとするガイウスとミネアを引き留めたテッタは自分の尻尾を力強く握りしめながら問う。



「何で…何で僕はお咎め無しなんですか…?」


「…なんだその事か。ミネア、後は頼む」


「わかりましたガイウス理事長。校門前に馬車をご用意しておりますのでご利用ください」


「うむ。ミネアの分も何か見繕ってくるぞ」



 そしてガイウスもそう言い残して教室の中にはテッタとミネアだけになる。



「…さて、何故テッタ君だけお咎め無しなのか…その理由でしたね?」


「…はい」


「確かにテッタ君自身にどんな事情があろうともテッタ君は犯罪に加担していたので同じく罪に問われるのが通りです」


「はい…」


「そして実際ガイウス様は犯罪を犯しているテッタ君とその関係者を全て捕まえる為に以前から動いていましたが…その時にテッタ君の事を調べたそうです」


「…アリア先生もそう言ってました…」


「はい。調べた結果、テッタ君は犯罪に無理やり加担させられていた…更には血統魔法も扱えるという事でガイウス理事長がテッタ君の保護と共に学園に入学させると言い出したのですよ」


「…」


「…まぁ、こういうありきたりな回答を聞きたいわけじゃないですよね」


「はい…」


「…そうですね」



 ここまで言うとミネアはテッタの頭に手を乗せて優しく撫でながら呟く。



「実はですね…私がテッタ君を学園に入れようと言ったんです」


「え…?ミネア校長がですか…?」


「はい。私も両親からテッタ君の様な扱いを受けていまして……私は幼いながらも弟を守る為に自分の手で()()()()()()()()


「っ!?」


「そして案の定捕まり…この部分は詳しく言えないのですが、色々あって今はガイウス様のメイド兼秘書、更にはレ・ラーウィス学園の校長という地位にいます。人生何があるか本当にわかりませんね」


「…」


「だから私はテッタ君に何もかも閉ざされていた頃の自分を重ねてしまった…と言うのが真相です。どうですか?拍子抜けですか?」


「…いえ、逆に納得出来ました」


「そうですか。…同じ過ちを犯した私ですら今こうしてここにいる…だからテッタ君にも私と同じ様に世界に羽ばたいてもらいたいと思ったのでガイウス様にお願いしたんです。もうテッタ君を縛る鎖はありません…私達が全て断ち切りました。これからは自由にテッタ君自身の人生を歩み、このレ・ラーウィス学園の生活を楽しんで自分の未来への道を見つけてくださいね」


「…はい!ありがとうございますミネア校長!」


「…では臨時講義が始まるまでこの教室でお話でもしていましょうか」


「はい!」



 ようやく自分の中に巣くっていたものが無くなったテッタは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに尻尾を揺らした…。





 ■





「さてと…今から臨時講義を始めるわよ~」


「「「「「「「「「……」」」」」」」」」


「あら?みんな元気ないわね?お腹に物を入れたから眠くなったのかしら?」


「あ、あのアリア先生…」


「ん?唯織、何かしら?」


「その格好…どうしたんですか…?」


「ああ、これね…」



 30分の準備期間を空けて教室に戻ってきたアリア先生の姿はスーツ姿の凛々しい格好ではなく、眼鏡に大き目のセーター、ロングスカートというとてもふわふわした格好をしていた。



「ずっとあの格好だと気が滅入るのよね…まぁ格好なんてどうでもいいでしょう?」


「そ、そうですか…」


「んじゃ…早速魔法の基本知識について語っていくけれど積極的に参加していれば加点、間違っても減点無し、ただし私に臨時講義を強請っといて積極性が無かったら大幅減点するから覚悟しなさい」



 そう言い切るとアリアは背後にあった黒板にサラサラと六角形の図形とその頂点に文字を書き、更に一本線とその両端に文字を書いて最後に六角形の真ん中に文字を一つ書き、手に持った細長い銀色の棒で差しながら口を開く。



「それじゃあまずリーナ、これは何かしら?」


「馬鹿にしてますの?各魔色の有利不利を現す魔色図ですわ」


「そうね。じゃあシャル、魔色は何色あるかしら?」


「赤、青、緑、茶、水、黄、白、黒、透明の九色です」


「いいわ。ならリーチェ、その色の属性を全て答えられるかしら?」


「はい。赤は火、青は水、緑は風、茶は土、水は氷、黄は雷、白は光、黒は闇、透明は無の属性です」


「いいわね。次はテッタ、この魔色に優劣を言ってちょうだい」


「は、はい。火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は土に弱く、土は風に弱く、風は氷に弱く、氷は火に弱くてその逆になればその属性に強くなります。例外として光と闇はお互いに強くお互いに弱く、六元素に対して優劣は発生しない。無属性は逆に全てに対して不利…でいいでしょうか?」


「上出来ね。ならせっかくなのでミネア校長」


「は、はい」


「魔色とは何なのか…簡単に説明してもらえます?」


「わかりました…魔色は基本一人一色、自分の持つ魔色以外の属性は使えないと言われてます。そして複数の魔色を持って生まれる人は貴族の方が多く、その理由は魔色の濃さだけで行われる魔色婚が理由の一つに挙げられています。そして魔色婚によって生まれてくる子が両親の魔色を受け継ぎ、更に複数の魔色を持つ人と魔色婚を行う事で更に複数の魔色を持つ可能性が高い…と言われております」


「ありがとうございます。次、ガイウス理事長。魔色婚の複数の魔色を持つ以外のメリットをご説明ください」


「うむ…血統魔法だな。これは魔色に関係なく特別な魔法なのだが…魔色婚を繰り返しているとその血統に現れると言われている。テッタ君の様に偶然血統魔法を授かる場合もあるが、基本血統魔法は貴族の魔法と呼ばれるぐらい使える者が少ないな」


「ありがとうございます。さてと…」



 今回答した重要な内容を全て黒板に書いていったアリアは笑みを浮かべながら唯織とシルヴィアを交互に見て口を開く。



「んじゃ唯織、もう一度問うわ。魔色は何色かしら?」


「赤、青、緑、茶、水、黄、白、黒、紫、透明の十色です」


「「「「「「む、紫!?」」」」」」


「そうね。んじゃシルヴィ、紫の属性は何かしら?」


「…空間属性」


「「「「「「く、空間属性!?」」」」」」


「んじゃその空間属性の優劣について唯織」


「空間属性は()()()()()()全てに対して優位です」


「「「「「「す、全てに優位!?」」」」」」


「よし、上出来ね」



 唯織とシルヴィア以外が驚きの声を上げているのを無視しながらアリアは紫、空間属性と黒板に書くと実演を始める。



「空間属性って言うのは空間を捻じ曲げたりするモノなんだけれど…例えばこうね」


「「「「「「!?」」」」」」」



 紫色の魔法陣を指を鳴らすだけで二つ作り出したアリアはその片方の魔法陣の中に腕を入れると数m離れた場所にあるもう片方の魔法陣からアリアの手が生える。



「こうやって一つの魔法陣を入り口として好きな所に出口の魔法陣を設置するとこういう事が出来るわ。これを応用するのが転移魔法なんだけれど…一度みんな立ってくれるかしら?」


「「「「「「…」」」」」」



 驚いている皆を立たせたアリアがもう一度指を鳴らすと…



「「「「「「っ!?」」」」」」


「こうやって一瞬で校庭に来ることも出来るし…」


「「「「「「っ!?」」」」」」


「こうやって一瞬で教室に戻る事も出来る…これが転移魔法よ」


「「「「「「……」」」」」」



 未知の体験をした六人はそのまま目を見開いて絶句してしまうがアリアは然も当然の様に授業を進めていく。



「この様にこの世界に存在する魔色は九色じゃなく十色。そして紫の魔色を持つ者はこの世界で確認されていない…いえ、違うわね。正確にはおとぎ話の勇者、私、シルヴィ、唯織の四人よ」


「「「「「「っ!?」」」」」」


「シルヴィ、唯織、二人とも空間収納で何か武器を出してみなさい」


「…ん」


「はい」



 そう言うと唯織とシルヴィアは何もない場所に手を伸ばし…唯織は詩織からもらった黒い剣、シルヴィアは黒い短剣を空間から引き抜いた。



「ちなみにリーチェと戦ってる時、私は血統魔法で剣を出してたわけじゃなく空間収納であたかも剣を創造した様に見せてただけよ」


「そ、そうだったんですか…!?でもなぜそんな回りくどい事を…!?」


「そりゃあんな観衆が居たのに大っぴらに出来るわけないじゃない」


「じゅ、十分手遅れな気がしますが…」


「いいのよそんな事は。…んで、この紫の魔色、空間属性が何故全てに優位かって言うと簡単に言ってしまえば空間を捻じ曲げて敵の攻撃を逸らしたり他の魔法より自由度が高いからよ。その分かなりの魔力を消費するから乱発は出来ないけれどね。二人とも仕舞っていいわよ」


「…ん」


「はい」



 リーチェからの正論を軽くあしらったアリアはパンパンと手を叩きながら笑みを浮かべる。



「んじゃ九色の魔色は実は十色だったっていう説明は一旦これで終了よ。次なんだけれど…みんなお待ちかねの透明の魔色についてみんなの認識を改めさせてもらうわ」



 アリアのその言葉に皆は息を飲みながらゆっくりと席に着き、じっとアリアを見つめる。



「それじゃあ唯織、前に出てちょうだい」


「え…?はい」


「みんなも既に見ていると思うけれど…唯織は透明の魔色なのに赤、緑、紫の魔色が扱えるし、()()()()()()()()()()()()。ちなみに私も全て扱えるわ」


「「「「「「ええええええ!?!?!?」」」」」」


「唯織、赤の魔色を起こしなさい」


「あ、はい…」



 そう言うと唯織は静かに目を閉じて自分の魔色が赤く染まるイメージを強く思い描き…



「これでいいですか?」


「「「「「「っ!?」」」」」」



 背後の黒板がぐちゃぐちゃに歪んで見える程の濃密な赤い靄が唯織の体から発せられ、皆は何度目かわからない絶句をした。



「いいわ。次は青」


「はい」


「次、緑」


「はい」


「茶」


「はい」


「黄、水、白、黒、紫…よし、もういいわよ唯織」


「わかりました…あ、アリア先生…?」


「ん?何かしら?」


「あの…みんなが…」


「…あら、みんな放心してんじゃない…少し休憩しましょうか」



 唯織が全ての魔色を扱える事に放心した皆は椅子の背もたれに力なく倒れ込んでいた…。

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