友達と家族
「「シフォン!!」」
「お父さん!お母さん!無事でよかったですです!!」
「んー…感動的な場面何だろうけどすっごく犯罪臭する絵面だなって詩織ちゃんは思うな…」
「そ、そうですわね…」
そっくりな二人の幼女と涙を流しながら抱き合う成人男性…詩織達は学園長室でアンテリラ一家に苦笑していた。
「…それよりシフォン学園長、ユートリア・アンテリラ前学園長はいいんですの?避難所にもいませんでしたが…」
「ああ…お祖母様は天寿を全うしているので問題ないですです」
「そうだったんですのね…無神経な事を言って申し訳ありませんわ」
「いいんですです。…っと、皆さんにもご紹介しますですです。こちらムーア王国国家直属魔道具開発部門所長のシギル・アンテリラ、私のお父さんですです」
「ぐすっ…リーナちゃん、シャルちゃん…ここまで連れてきてくれてありがとう…!」
「「は、はい…」」
研究に没頭していたのか少し伸びた黒髪にくっきりと残る目の下のくま、厚みのある眼鏡の奥には薄緑色の瞳、所々焦がしたりしたのか黒ずんだヨレヨレの白衣…シギル・アンテリラは涙で濡れた両手のままリーナとシャルロットの手をきつく握る。
「ちょっとお父さん…そんなびちゃびちゃな手で女の子の手を握っちゃダメですです…えっと、こちらがムーア王国国家直属魔法開発部門所長のフラン・アンテリラ、私のお母さんですです
「リーナちゃん、シャルちゃん、本当にありがとうねぇ…若いのにしっかりしてるのねぇ…はい、これハンカチよぉ」
「「ありがとうございます…」」
お尻まで伸びた紺色のツインテールにおっとりとした口調、シフォンとシギルとは違うおしゃれな眼鏡の奥にはシフォンと同じ金の瞳、折り目正しく清潔感があるぶかぶかの白衣…アンジェリカとフレデリカ程ではないが身長までシフォンにそっくりなフラン・アンテリラは二人にフリルがあしらわれたハンカチを渡して笑みを浮かべた。
「で、この子達はハプトセイル王国のレ・ラーウィス学園から留学に来てくれた子達ですです」
「由比ヶ浜 詩織だよん、よろしくねー」
「テッタです、よろしくお願いします」
「てぃ、ティリアです…よろしくお願いします…」
「アンジェリカ・ランルージュだ、よろしく頼む」
「フレデリカ・ランルージュ、よろしく」
「シャルロット・セドリックです、よろしくお願いします」
「リーチェ・ニルヴァーナです、よろしくお願いします」
「リーナですわ」
「リーナじゃなくてメイリリーナ・ハプトセイルでしょ?」
「ちょ、シャル…!」
「「は、ハプトセイル!?」」
「ほら…こうなるじゃありませんの…『偽天の女王』、『精神調律』」
他国の王女だと知らされ慌て始めたシギルとフランを強制的に落ち着かせたリーナは、学園長室の壁に映し出されている前線の状況を見つめていると、心配そうに表情を陰らせたシャルロットがリーナの足に自分の足をくっ付ける。
(ねぇ…みんなにあの事言う…?)
(…この為にわたくしの名前をわざと言ったんですのね)
(その状態の時にこうやって会話出来るの方はまだ私しか知らないからね。不自然じゃなかったでしょ?)
(そうですわね。…あの事を話すにしても今は関係ない方もいますし、無意味に不安を煽る必要はありませんわ)
(そっか…避難誘導も全部引き継いじゃったし、後は待機かな?)
(自然にこの状態にさせてくれたおかげでまた悪意に敏感になりましたが今は感じませんし…待機でも問題なさそうですが12番達が言っていた言葉が引っかかりますわ。だからそっちに備える為の待機がよさそうですわね)
(確か主命とかなんとか…この計画に乗じて何かが動いてるって事だよね?)
(ええ、それにあの時は色々焦りすぎて考えが至りませんでしたが、冷静に考えてみればあれ程の実力があってあれ程の悪意があるのにも関わらず、敵意を剥き出しに攻撃したわたくしは怪我の一つも無し…わたくしの考えが正しければあの人達はアリア先生の仲間…というより、主命という言葉から部下の可能性がありますわ)
(えっ!?…ってそうだよね…何で気付かなかったんだろ…なら、あの人達はアリア先生が殺さなくちゃいけないって思う程の犯罪を犯していたからそうした…シギルさんを記憶を消すだけで留めたのは本当に危害を加えるつもりも無いけど見られちゃったから仕方なく…か。それなら私達が攻撃されなかった事も辻褄が合うし、何も心配ないね!)
(いえ…懸念が一つありますわ)
(懸念…?)
(それがこの前線の映像ですわ)
(これ…?)
12番達の正体に何となくの当たりを付けた途端嵌っていく出来事のピース…それでもまだ一つだけ嵌らないピースを嵌める為に見つめていた映像を指差す。
(魔獣が弱すぎますわ)
(魔獣が弱い…?)
(今回の計画の主役はターレア第三王子…なのにターニャさん達だけで片付けたら計画が台無しですわ)
(確かに…)
(そして12番が去り際に言っていた呆気なくと言う言葉と68番と59番と呼ばれた人達との謎の会話…多分これはアリア先生も想定していない程にターニャさん達が強くなった事で計画が狂い始め、12番達がアリア先生を通さず、バレない様に計画の帳尻を勝手に合わせる為に何かをする可能性がありますわ)
(よくそこまで考え付くね…?)
(こんなのただの推理っぽく言った妄想、こじつけですわ。だからわたくしの妄想とこじつけが当たるのなら、異変は前線で起きる可能性が高いんですの)
(…今の言い回し、すごくアリア先生っぽいね?ちょっと意識した?)
(茶化すなら切りますわよ!?…まぁ、今は注意深くこの映像を見続けて変化にすぐ対応できる様、身構えておくのがわたくし達の最善ですわ)
(そうだね)
たった七人で化け物達に立ち向かう姿は人々に希望を与え始めたのか、歓喜の声で騒がしくなった王都の中でリーナ達はじっと状況を伺い始める…。
■
「12番、貴様の所為で絶対なる神のご計画を完遂出来なくなったぞ?この落とし前はどうつける?」
「確かに姿を見られたのは私の失態ですが、悪意なんていう不確かなもので見つけられるとここに居る皆が思いましたか?それに絶対なる神が手を出すなと仰った方々がいる状況…担当が別であれば1番、あなたが私と同じ立場にいたと思いますが?」
「見苦しい言い訳だ」
「言い訳ではありません。担当が違えば皆こうなると事実を述べているんです」
黒い礼服に身を包む黒髪の男性、1番と呼ばれる者とリーナ達の前に現れた金髪の男性、12番が言い合うのを楽し気に眺める70人もの人影…その中から継ぎ接ぎだらけの眼帯少女、59番が不機嫌そうに口を開く。
「あのさぁ…くだらない事を言い合ってる暇があるなら絶対なる神の為に少しでも早くご計画の軌道修正をするのが一番じゃないの?」
「59番、貴様は事の重大さに気付いていないのか?絶対なる神のご計画を12番の不手際で変更せざるを得なくなったんだぞ?わかっているのか?」
「私だって12番がもっと上手くやってればよかったって思うし、しくじった12番の肩を持つわけじゃないけど、実際12番のターゲットは手を出すなって仰っていた方々の馬車の御者で、目の前で殺すわけにはいかないから連れて行こうとしたら付いて来ちゃったんでしょ?」
「ええ、59番の言う通りです」
「だったら手が出せないから強引に引きはがす事も出来ないじゃん」
「だが、転移魔法でその御者だけを連れ去ればよかっただろう?」
「馬鹿なの?そんな事したら馬車が制御失って避難してる他の人も事故に巻き込むかも知れないし、中にいる方にも被害が出るでしょ?絶対なる神はターゲット以外も殺せって仰ってた?」
「ぐっ…」
「それに魔法を大っぴらに使用すれば教え子様方に勘付かれてもっと大変な事になるってそんな事も考えられないの?」
「59番…わかってくれますか」
「ぶっ殺したくなるから同調しないでくれる?」
「…」
「しかも12番を見つけたのは絶対なる神の教え子様方だし、私達の誰かと会ってたかも知れない。偶々それが12番に重なって起きただけじゃん。1番はいっつも頭硬いんだよ。絶対なる神も1番がかたっくるしすぎていつも微妙なお顔をされてる事に気付かないの?」
「な、何!?いつも微妙なお顔をされていらっしゃるのか…!?」
「うっざ…今度から絶対なる神にお目通りさせて頂く時は私がするから」
冷静な状況判断とカミングアウトで膝から崩れた1番に59番が止めを刺すと、59番と共にリーナ達の前に現れた地面に引きずる程伸びた赤黒い髪の男性、68番も口を開く。
「59番の言う通り、この状況は誰でも起きうる事態だった。だから今、ここで議論するのは別の題材…我々72柱全員の失態についてだ」
そう言うと周りで笑みを浮かべてた者達も神妙な面持ちに変わった。
「そうだな…絶対なる神はこう仰った。滅ぼすのではなく、死闘を演じられる魔獣が必要だと。だが、現実は我々が力量を見誤り、あの使い魔では死闘を演じられていない」
「ええ、ですので私は絶対なる神が仰った死闘を演じる為に殺した者達の肉塊を利用し、死闘を演じる事が出来る使い魔を作る必要があります」
「だが、そうなると魔獣が殺した様に工作しろと仰った絶対なる神のご計画を違える事になってしまう」
「だからと言って同じ素材で同じ使い魔を作ってもあの者達にあしらわれてお終いだ。この人間だった肉塊を使い、死闘を演じる事が出来る使い魔を作る必要があるんだ」
1番、12番、68番が失態の挽回について話し合い始めると周りにいた者達もああでもない、こうでもないと言い合いを始め…
「…本当に頭の固い奴ら。絶対なる神に包み隠さずご報告して、素直に罰を与えて頂いてご計画の修正をして頂ければいい事じゃん…」
「「「なっ!?それだけは!?」」」
『突然のご連絡申し訳ございません絶対なる神よ。72柱が一柱、オリアスでございます。ご報告させて頂きたい事がございます故、お時間を頂く事は出来ますでしょうか?』
59番…オリアスは声色を明るく素直に絶対なる神へ報告をし始めた…。
■
『…なるほどね、報告してくれて助かったわオリアス』
『はっ、勿体なきお言葉でございます』
『とりあえず死体を使う事は許可するわ。また何かあったら報告してちょうだい』
『かしこまりました、絶対なる神よ。…それとお言葉ですが絶対なる神よ、まだ我々の不手際に対する罰をお伺いしておりません。お聞かせ願えますでしょうか?』
『不手際に対する罰はこっちの不手際の所為もあるし無しにするわ。ただ…報告を渋ったオリアス以外は震えて期待しておきなさいって伝えておいてちょうだい』
『か…かしこまりました、その様に伝えておきます。失礼致しました』
………
「ったく、唯織とターレアが最初から計画通り動いていればこんな事にならなかったのに…って言うのは酷よね」
「そうじゃな。それに…唯織とターレアを王都まで送っておるのは千夏だしのぅ…」
「せっかくリーナ達が上手くやってるのにどうせこの方が盛り上がるからとか考えてんでしょうね…はぁぁぁ…」
「ま、ママ?はい、あーん」
「あーむっ…ん、美味しいわ、ファフニールが作ったのかしら?」
「うんっ!」
「大分腕を上げたわね?今度は和菓子とかを教えてあげるわ」
「うん!」
魔王領のログハウス…王都と前線の状況を映し出す黒い板を眺めつつ、身体の左側が不自由な事を理由に膝にファフニールを乗せてケーキを口に運ばせるアリア、ソファーに寝かせたクルエラ達を介抱するバハムートは主役達を送っているであろう千夏に頭を悩ませていた。
「そう言えばフェイナ達は何処にいるのかしら?」
「フェイナ達は物資調達、アジ・ダハーカ達は食料調達をまだしておる。わらわとファフニール、千夏はその仕分けと留守番じゃな」
「苦労かけるわね」
「ダフネリアンス王国での激務、あの時の復興に比べりゃこの程度苦労にも入らん」
「そうね…」
「ママ?ま、まだ食べる?」
「頂くわ。あーむっ…うん、何度食べても美味しいわ」
「えへへ…」
映し出されている映像とは真逆の平穏を楽しんでいるとソファーが軋む音が聞こえる。
「…んあ…おいらは何で寝て…」
「本当に鬼人族は頑丈ね。割と力を入れてぶっ飛ばしたのだけれど」
「ぶっ飛ばす…っ!?そうだ!白黒狼!!お前さんさっきのはずりぃだろ!?」
「っ…う、うるさい!し…静かにして…!ママ?あーん」
「あーむっ」
「…わ、わりぃな嬢ちゃん…って、ママ!?」
「ううはいはね…んっ、とりあえずそこ座って」
「あ、ああ…」
ソファーから身体を跳ね上げて詰め寄るトーマの剣幕にうんざりするアリアは、のんびりとケーキを口にしつつ空いてる席を指差してトーマを座らせる。
「とりあえず聞きたい事があるなら聞いてちょうだい」
「…ならまず、お前さんの左側についてさね。何なんだそれは?」
「何なのかしらねぇ?ファフ?」
「ねー?」
「おい…」
「余裕のない男はモテないわよ?てか、嫁と娘の事より私の事を聞くとかどうなのよ?」
「うるせぇ、いいから教えろ」
「…私の血統魔法みたいなものよ」
「そんな血統魔法見た事ないさね、本当はどうなんよ?」
「だから血統魔法みたいなものよ。あんただってこの世界全ての血統魔法を熟知してるわけじゃないでしょう?」
そう言うとしばらくじっとアリアの横顔と左側を見つめふぅっと息を吐き捨てるトーマ。
「…まぁいい、で?効果はなんさね?」
「悪魔を召喚する事が出来るわ」
「悪魔…なら、今レイカとキリンが戦ってるこの化け物共は悪魔だってのかい?」
「正確には召喚した悪魔達の使い魔よ」
「なるほどな…で?何でこんな事をやらかしちまったんだよ?」
「それはこれを見てちょうだい」
「おまっ…何処から出しやがった…?」
テーブルの上に大量の書類と写真が映された薄い板を置くと、トーマはゆっくりと書類と写真を確認し驚愕の表情を浮かべる。
「な…何なんだいこりゃぁ…!?」
「それがこの国の王族が秘密裏にやってた悪事よ」
「どうやってこんな情報と写真を…」
「ユリのおかげよ。それを見れば私が何でこんな事をしたかわかるでしょう?」
「…ターレアの為か?」
情報を食い入る様に見つめながら自分の答えを出すとアリアは眉を顰め、くだらないとばかりに吐き捨てる。
「ばっかじゃないの?私はよそ様の子供の為にこんな面倒くさい事しないわよ。唯織がターレアを助けて欲しいって言うからやったのよ」
「マジかい…他に方法は無かったんさね…?」
「ユリの報告と写真を見たでしょう?人間の結合にまで手を出してるのよ?もう何時でも本番に移行する事も出来る…時間も無けりゃ、こんな事を明るみに出して住民の信用を失墜させれば暴動どころじゃなくなるし、自ずと他国の耳にも入って血統魔法を複数持ちうる実験が他国でも始まる…『結合』の血統魔法を発現させてるフローラを巡って戦争だって始まるし、その戦火に巻き込まれて王国は滅ぶ…私が今やってる事以上に悲惨な事になるわよ?」
「……」
「…これでも何日も寝ずに考えたわ。それでもこれ以上に丸く収める解決方法が思いつかなかった…私だって他に方法があったらそうしたし、こんな事したくなかったわよ。でももう、綺麗事で終わる時期はとっくに過ぎてるの、あいつらはやりすぎたのよ」
「白黒狼…」
淡々と口を開くアリアの寝不足の横顔は…自分に怒る様に、自分の無力を突きつけられている様に歪んでいた。
「だからせめて王国の悪も王族や人を殺した悪も私に、あの子達には栄光だけを与えるのよ」
「…そんな自傷的な考えで本当にいいのかい?」
「それが私なのよ。今回の首謀者として王国に突き出してくれてもいいわよ?」
「………んや、言わねぇさ」
「そう」
「ママ?」
「あーむっ…」
聞きたい事を聞き終えたのか書類も薄い板もテーブルに戻し、もし自分が逆の立場だったらと考え込むトーマは小さく「うしっ」と手を叩く。
「クルエラとバルアドスにはおいらが上手く言っておいてやるさね」
「は?何でよ?」
「何でよって…またクルエラが暴走しちまうだろ?」
「暴走って…仮にそうなったとして、あんたに任せて安心できるわけないでしょう?」
「おいおいツレねぇなぁ…嬢ちゃんもそう思うよな?嬢ちゃんの母ちゃん少しツンツンしすぎじゃねぇか?」
「…?ママ、ツンツンじゃない、や、柔らかいよ?」
「そうよねぇ?」
「胸の話をしてるんじゃないさね…まぁ、任せときなってよ」
胸に顔を埋めるファフニールに項垂れつつもクルエラ達を任せとけと言うトーマだったが…
「「その必要はないわ」」
「なっ…気が付いたんか…?」
「あら、トーマとバルアドスはわかるけれどクルエラも頑丈なのねぇ」
ソファーから身体を起こしたクルエラとバルアドスもトーマの前に広げられている書類と写真の数々に目を通し…ふぅっと身体の力を抜いた。
「白黒狼、何で相談してくれなかったんだ?相談してくれていれば俺も協力していた」
「王族がスラムの犬猫、更に人間を使って最悪な実験をしてるから止めるのを手伝ってって言えばいいのかしら?そんな事を突然言ったって信じなかったでしょう?それにこんな事を言って反対されれば邪魔になるかもしれないじゃない」
「いや、白黒狼の言葉なら信用する」
「はぁ?なかなか都合のいい事言ってくれんじゃない?」
「そうよアリア、あなたは確かに隠し事はするけど嘘を吐くだなんて私達は思ってないわ。…この事実と時間が無いこの状況を見れば確かに今のアリアのやり方が一番効率的で的確だと私も思うし、さっきのトーマに言っていた事もその通りだと思う。…でも、相談してくれていれば私だってあなたの力になってターレア達を連れて旅をしたり、根本的な解決が出来なくても時間稼ぎぐらいは出来たわ。その間にあなたならどうにか出来たでしょう?」
「それじゃあクルエラの時間を使わせるじゃない。それにその方法じゃ最悪の場合、王族の誘拐犯として指名手配だってされる可能性があるわ。そんな事になったらあなたのやるべき事が出来なくなるでしょう?」
「そんなのアリアが心配する事じゃないわ。自分の事は自分でする…そこまであなたに面倒を見られる筋合いも無いし、庇護されるつもりもないわ」
「……」
最初はこんな計画に乗るはずがない、知れば邪魔をされる…そんな考えから突き放していたはずなのに、いつの間にか関わったら危ない目に合わせてしまうと考えていた事に口を噤むアリア…
「何でも一人で抱え込まないで…まぁ、ユリが居るから一人じゃないのかも知れないけど少しは私にも相談してちょうだい。…友達でしょう?」
「……」
いつかは別れる事になると分かっているのに友達と言われる度に痛みを訴える胸…心配そうに見つめてくるファフニールの頭を撫でると諦めた様に言葉を零す…。
「…わかったわ。今度からクルエラにも頼らせてもらうわ」
「おい、おいらも頼れよ」
「俺もだ」
「…はいはい、わかったわよ新人に負けた先輩方?」
「「ぐっ…」」
「それは私にも効くからやめてちょうだい…」
「そうだったわね」
全員の顔に笑みが浮かび、タイミングを計っていたバハムートがテーブルにお茶と菓子を並べ始めると…
「どうやらうまい事着地したようじゃな。やっぱり持つべきものは友達じゃのぅ?母上よ」
「そうね…」
「…な、え…?」
「そんな震えてどうしちまったんだよ黒龍?確かにおいらも娘だって聞いたときゃあ焦ったが震える程か…?」
「私も娘と聞いた時は驚いたけど震える程じゃなかった…あれ、待ってちょうだい…何か忘れてるような…」
「ん?何じゃ?わらわの顔に何かついておるのか?…あぁ、お主は龍じゃったな」
「「っ!?精霊!?えっ!?」」
バハムートに対する感想を述べ、お互い違う事を言い顔を見合わせた。
「クルエラは不正解、バルアドスが正解よ」
「うむ、わらわは神龍バハムート、母上の娘じゃ。ちなみに母上の膝の上にいるのも神龍ファフニールじゃぞ」
「「「っ!?」」」
「い、今はムゥとファフ…でしょ?ママ?」
「あーむっ」
「そうじゃったな」
余りの衝撃的な事実に完全に固まるクルエラ達…
「たっだいま~!あー!ケーキ!いいないいな!僕も食べたい!!」
「こ、これはママのっ!リトのは冷蔵庫!」
「わ~い!」
「ただいま~…あ、ママじゃーん、ケーキちょーだいー」
「リヴァのも冷蔵庫っ!」
「ちぇ~」
「む、母よ帰っていたのか」
「…」
「ああっ!?麗しの母君!!今日もより一層美しい!!」
「はいはい、みんなお帰りなさい。ファフが作ってくれたケーキを食べるならちゃんと手洗いうがいするのよ」
物資調達から帰ってきたヴリトラ達は一斉にキッチンへと向かい…
「ふぃ~大量大量~!あ、ちーちゃんいんじゃん!!」
「お兄ちゃんじゃん!」
「あらあら、帰ってくるならお茶を用意しておけばよかったですね」
「千弦様?お仕事は終わったんです?」
「フェイナ、フィオ、サリィ、ルノお帰り。絶賛仕事中よ」
「あ、千弦さん~!聞いてよ~!ルノったらまたガチガチに凍らせたんだよ!?私じゃなかったらあんなの溶かせないってー!」
「ちょ、フィー!余計な事言わなくていいから!」
「そういうフィーも炭になるまで何体も燃やしたでしょ!!ただいまアリア!」
「お帰り、フィー、ユリス」
「「わー!ちーちゃんがいるー!!」」
「エルリとルエリもお帰り」
フェイナ達も帰り賑やかになったログハウスに居心地の良さを感じながらアリアは固まっている三人に…
「紹介するわクルエラ、バルアドス、トーマ。私の家族よ」
自慢気に紹介するのだった…。




