制約
「ついてきてるかぁ!?テメェの鈍足じゃムリかぁ!?」
「俺が本気を出せばお前を置き去りに出来る!逆についてこれるか!?」
「ハッ!!だったらギアを上げるぜ!!」
先陣を切るキースとルマ…十分開いていた化け物達との距離を地面を駆け上がる様に身を伏せて詰めるキースは手足を獣化させ、地面を削る様に両手を下げるとそこから炎が上がり、地面を蹴りつける度にボッ、ボッと炎が生まれる。
「行くぜ…!『炎壊狼』!!」
「ギュアアアアアアアア!!!!」
炎を纏い爆発的な加速を得るとキースはこちらを捕食するとばかりに大きく裂けた口を目一杯広げた化け物の口に飛び込み…
「―――――!?!?」
「ウラァァ!!!どうだ火加減は!!残り359!!」
そのまま化け物の身体を貫き全身を燃やすと化け物の絶叫が響くが、キースはすぐさま近くの化け物に飛びついて爪と蹴りで化け物を燃やしていく。
「やるなキース!!だが俺も負けていない!!!…グルアアアアアアアアア!!!」
果敢に飛び込むキースに口角を上げるとルマは両の拳を打ち付け、3m程の体躯に獣化をすると徐に跳躍し…
「『獣牙鳥葬』!!!」
「「「―――――!!!」」」
組んだ両手で地面を殴りつけると10の棘が生え、そのうちの三本が化け物の股下から脳天まで突き抜け串刺しになると内側から破裂する様に更なる棘が突き抜けた。
「俺は一気に三体だ!!この勝負は俺の勝ちだなキース!!」
「吹いてろ筋肉達磨!!だが上出来じゃねぇか!!足場にすんぜ!!」
化け物が貫かれていない棘を壁に見立てて隙間に居る化け物に縦横無視の連撃を叩き込み、ルマが仕留めそこなった残り四体を燃やし尽くす。
「これでオレぁ五体だ!!抜いてみやがれ!!」
「チッ!グルアアアアアアアアア!!」
………
「あいつらこの状況で競ってるのか?馬鹿馬鹿しい…」
突撃する二人の横を抜ける化け物達に両手足を竜化させたエルダはゆったりとした繋ぎ目の無い流れる動作で白炎を吐き、両足で無造作に繰り出される触手や飛んでくる黒い塊をステップでもする様に避け、両手で近づく化け物を吹き飛ばし時には足の様に身体を逆さにして舞っていた。
「化け物達が左右から抜けてるんだが…それにあんな乱暴な戦い方で魔力と体力が持つのか?」
フレデリカとの訓練の成果で柔らかく、無駄なく身体を動かして無理に退治せず体力も魔力も温存しているエルダは突撃している二人がいつバテてもいい様に中間で位置取りしていると…
「頭を下げなさいエルダちゃん!!…『怨嗟断頭』!!」
「むっ!?」
後ろからレイカの声が聞こえ咄嗟に上体を仰け反らせるとさっきまで首があった位置に黒い何かが横一線に通り抜けた。
「モタモタしてると全部ワタシが食い散らかしちゃうわよぉ?今ので四体…案外見掛け倒しなのかしらねぇ?」
「危ないな全く…」
両断された化け物の身体が横に滑ると切り口から黒い炎が上がり、分れた身体が灰になっていくのを眺めるレイカの額には白い鬼の角ではなく黒い炎で形成された二本の角が生え、肩に担いだ斧は黒い靄に包まれ棚引いていた。
「それがお前達の新しい技か」
「火と闇の混合魔法『怨嗟』よ。まだまだレイカに発動してもらわないとぼっ立ちで放つしか無理だけどぉ…というより、動きは見違えたけど地味ね?エルダちゃんは新しい技とかないのぉ?」
「無くはないが…」
「なら見せなさいよぉ。見せ場なく終わっちゃうわよ?」
「し、仕方ないな…よく見ておけ」
少しご機嫌気味に揺れるエルダの尻尾を見ない振りをしているとエルダは自分の手に白炎をふっと吹きかけ握り込むと…
「『輝白竜の迅尾!!!』
「「「ギャッ―――――」」」
こちらに飛び掛かってきた三体目掛けて腕を何度か勢いよく振り抜くとまだ距離があるにも関わらず、パンパンという乾いた音と共に化け物達の身体が白い炎を吹き出しながらブロック状にバラバラと崩れ落ちた。
「どうだ?これが火と風と光、血統魔法の混合魔法…私の新しい技だ」
「鞭…?の先端に細い刃が付いてるわね?ドラゴンの鱗かしらぁ?…あら?」
「こんな事も出来るぞ」
エルダの手に握られている先端に刃を付けた真っ白の鱗鞭をじっと見つめると白鱗鞭が解け、今度は人差し指と中指に爪を模したアーマーリングとして形を作り腕を振りかぶると…
「『輝白竜の爪刃!!!』
勢いよく振り下ろされ、先程よりも遠くに居た二体の化け物の身体が縦に分かれると白い炎に焼かれパラパラと灰へ変わっていく。
「あんな遠距離…すごいわね?」
「今は二本しか満足に操れないが、いつか全ての指で操れるようになればフレデリカの様な素早い奴も拘束できる。…っと、あいつら…!」
指先から垂れる二本の白鱗鞭を握り込み、一本に戻すとキースとルマの後ろから襲い掛かろうとしている化け物に向かって白鱗鞭を…
「…流石だな。これは後ろを見なくて済みそうだ」
「そうね、ワタシ達は左右から抜けてきた化け物の対処に専念しましょ。どっちが多くフォロー出来るか勝負よ!」
「全く…受けて立つ!」
振るう事なく、雷の魔力弾と炎の矢の遠距離攻撃を受け灰になる化け物を横目に余裕を感じたエルダとレイカも競い合うように化け物を屠り始める。
………
「…キース達の暴れっぷりを見ているとどうやらあの化け物達は見掛け倒しみたいだな」
「そうだね。でも…」
「余りにも手ごたえが無さ過ぎるか?」
「うん…このままじゃターレアが来る前に私達が倒し切っちゃうと思うんだけど…もしかしてまだ隠れてたりする?」
「………樹の声を聞いたが隠れている奴はいないそうだ」
門の前に聳え立つ分厚い鉄の壁の上で弓と魔道銃を構えるアーヴェントとティアはどんどん減っていく化け物達に違和感を感じているとターニャが口を開く。
「まだ計画は始まったばかりだ、どれだけ楽勝だったとしても気は緩めんじゃねぇ。こちとら王族まで犠牲にしてんだ…絶対にしくじれねぇんだよ」
「そうだな……それよりターニャはさっきから何をしてるんだ?」
「うん…私もずっと気になってた…」
「見てわかんないのか?絵を描いてんだよ」
「いや…それは見ればわかるんだが、何で今描いてるんだ…?」
「これがウチの新しい魔法だからだよ」
「凄く上手いけど…ターニャの新しい魔法は絵が関係するの?」
大き目の画板に24色の色鉛筆、色々な形の定規に双眼鏡…ターニャを知らない者が今の光景を見たらお絵描きをする子供だと口を揃えて言うだろうが、ターニャの描く絵は自分から見た戦場を写真と見紛うレベルで描いていた。
「ああ、まさか物作りで設計図を描いてたりしてたのがこんな形で生きるとは思わなかったけどな。そしてこれが…ウチの新しい『万物創造』だ」
「「っ!?!?」」
そう言ってせっかく描き上げた戦場の絵を台無しにするギザギザの黒い線を描き込むと犇めき合う化け物達の足元が割れボロボロと落下していく。
「何なんだこの魔法…!」
「す、すごい……こんなの神の御業と変わらない…」
「そんな大それたもんじゃねぇよ。制約も厳しいし魔力も結構使っちまう…まぁ、ウチが動ける分の魔力を残して後二回は使えっけど…大体100体ぐらい落ちたか?あいつらも落ちてねぇみたいだな」
「制約…?」
何やら文句を言っているキースとルマと割れ目に落ちた化け物達が這い上がってくるのを双眼鏡で確認し、絵をビリビリに破り捨てるとパックリと開いていた地面の割れ目が綺麗さっぱりと消えさり登り切れなかった化け物は潰れ、中途半端に身体を出していた化け物は千切れて灰となっていく。
「ウチの『万物創造』は命あるものを創造したり元からある物を作り変えたりすんのは出来ねぇ」
「ああ、前に教えてもらったから知ってるが…地面を割っただろう?言ってしまえば地面や木、建物何かも元からあるものだ。制約が解けたと言う事ならわかるがさっきは制約が厳しいと言ったじゃないか」
「ちゃんと説明してやるから慌てんなアーヴェント。だからその制約を取っ払う為に新たな制約を設けたんだよ」
「制約を取っ払う為に制約…?その新しい制約がさっきの絵って事?」
「そうだ。魔力を込めながら自分の手で絵を描き上げっとその絵はウチが一から作った創作物になる。そしてその創作物に納めた範囲なら地面を割ろうが星を降らせようが修正って事で命以外は創造出来るっつーわけだ。…まぁ、偉そうに説明してっけどこの魔法はシオリとの特訓の最中に偶然の出来た魔法なんだけどな」
「なるほど…制約と言うのは自身の手で絵を創作物として完成させる事か…確かに素早い戦闘では一切使えないが、この状況には適している魔法だな」
「まぁな。後は絵を破けば創作物は無くなって修正も無かった事になる…が、その修正中に起きた事は覆らねぇ。もし星を降らせる修正をすれば化け物共は一瞬で跡形も無く潰せるが近くの森もこの国もウチらもぺしゃんこ、被害は破いて星が降らなかった事にしてもぺしゃんこのままっつーわけだ」
「だから周りに被害が少ない地割れだったんだね。…地割れも相当被害大きいと思うけど…」
「穴掘って埋めただけだ。いわゆる落とし穴だよ落とし穴」
「「……」」
薄水色の液体が入ったガラス瓶に口を付け地割れをただの落とし穴と言い張るターニャに目を丸くするアーヴェントとティリア…制約があれど途轍もない事をやってのけた仲間を頼もしく思いながらかなり数が少なくなった化け物達を魔道銃と弓で撃ち抜いていると、王都からパチンという澄んだ音と安心感と聞き覚えのある声が聞こえる。
『民よ、安心なさい』
「……この声、あのお姫様か?」
「メイリリーナ第一王女の声だな」
「何か凄く落ち着く…何だろうこの感じ…」
「この国の王女でもねぇのに何が民だよ…お前の民はハプトセイルに居るっつーの」
「違いないが彼女は紛れもなく王の素質を持っている…こう言っては何だがターレアじゃきっと同じ状況になった時、ハプトセイルの民を安心させる事が出来ないだろう」
「…まぁな。だからウチらが仲間として支えて英雄にしてやんだろ」
「そうだな、俺も英雄の右腕として支えるつもりだ」
「私はそこまで大層な志は無いけど…仲間として支えるつもりだよ」
自然と伸ばしていた三人の拳がぶつかり顔に微笑みが浮かび…
「っしゃ、ウチは万が一の為に絵を何枚か描いとくからあいつらが漏らした奴を頼むぜ」
「ああ、任せてくれ」
「これは私の特訓の成果は見せれないかもね」
「俺もだ」
王都から聞こえ始めた僅かな歓声を背に数少ない化け物達を油断なく迎え撃っていく…。




