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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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王都襲撃

 





「…のぅ、千夏?そろそろあ奴らを止めた方がいいんじゃないかのぅ…明日は例の計画なんじゃろう?支障が出ぬか?」


「別に問題ないでしょう。唯織君は馬鹿ではないですし、特訓の疲れが残ってて失敗しましたなんて千弦さんの顔に泥を塗るような事はしませんよ。…何より自分の我がままがこの事態を引き起こしたと言っても過言ではありませんから自分なりに責任を持って行動していますしね」


「そうなんじゃが…」



 魔王領の草原…目の前で特訓をしている唯織とターレアを見届ける千夏とバハムート…普通に特訓しているのであればバハムートは止めずに静観していたのだが…



「もう1()8()()()()()じゃぞ?身体は癒せてもターレアの精神がきついんじゃないかのぅ…それに唯織はああいう人を痛めつける事にトラウマがあるんじゃろ…?ほんに大丈夫なのかのぅ…」



 青々と茂る草がターレアの血で赤い絨毯へと変わり果て、その上で踊る様に剣を交え続ける唯織とターレアの精神力に感服するのと同時に危うさを感じていた。



「唯織君達の特訓をしていた時なら私も口出しをしていましたが今回に関して私達は協力してくれと言われていない部外者です。止める道理も叱る道理もありません。唯一協力出来る事と言えば特訓以外の身の回りの世話を一緒に暮らしてたという名目でしてあげる事ぐらいですよ」


「むぅ…何とも歯がゆいのぅ…」


「ふぅ…だったら誰かと契約して助けてあげればいいのでは?」


「転生前の詩織ならいざ知らず、わらわ達と契約出来る才能は唯織がギリギリあるかないか、器に関しては唯織ですら持っておらん。仮に契約出来たとしてもわらわ達の力に押しつぶされて廃人になるか数日で死ぬ…わかっておるじゃろ?」


「ええ、ちゃんとわかってますよ?道理を無視して手を貸したいようでしたので提案しただけです」


「ほんにお主は…母上以外どうでもいいんじゃな…」


「そんな血も涙もない人みたいに言わないでください。私が道理が無いと言っているのにうじうじ言っているあなたに意地悪をしてるだけです」


「手厳しいのぅ…」


「さ、少しでも手助けしたいのなら特訓を終えた唯織君達が美味しいご飯を食べれる様に中に戻りましょう」


「そうじゃな…」



 後ろ髪を引かれる思いで危うい二人から視線を切ったバハムートは面白そうで色んな物を入れる千夏に料理を作らせまいとエプロンを装備しログハウスへと入る…。



 ………



「う…らああああぁぁぁぁ!!!」


「はぁぁっ!!」



 唯織とターレアの咆哮と途切れる事のない剣撃の音…一心不乱に、しかし素早く正確に重い一撃を繰り出し続けるターレアの剣は最初に見た煌びやかで頼りない剣ではなく、刃がギザギザに欠け、自分の血と汗で濡れ錆び付いたボロボロな剣…どれだけ唯織に及ばなくても戦い続けるターレアを映し出す鏡の様な剣になっていた。



「まだ…まだだあああああ!!!」



 ターレアが一振りすれば唯織は迎え撃つ一振りとターレアの身体を的確に斬り裂く一撃を返すが、ターレアはもう身体を斬り裂かれて大量の血が流れても痛みに表情を歪める事なく一秒で20合もの連撃を繰り出していく…が、唯織はこのままじゃダメだと感じていた。



(長時間動き続ける体力も付いた。剣技も良くなった。痛みを恐れる事も無い。何より心が折れなくなった。でも……もう時間か…)


(くそ!!こっちが一撃入れようとすると弾いてこっちに一撃入れてくる!!絶対に一泡吹かせてやる…!!!)


「何が何でも一撃入れる!!!」


「熱くなり過ぎです!!」


「ぐあっ!?」



 右の袈裟斬りを下からの掬い上げる様な斬り上げでターレアの剣を迎え撃つとパキンという硬質な音を響かせて折れ、体勢が崩れたターレアの喉に唯織の回し蹴りが突き刺さり赤い絨毯の上に倒れた…。



「げほっ…ぐっ…」


「ターレア王子…何度も言っていますが熱くなり過ぎです。もう少し冷静になってください」


「お…俺は冷静だ…ごほっ…もう一回…やるぞ…!!」


「…その折れた剣でですか?」


「は…?折れ…?…てる…」


「それに下を見てください。これは全部ターレア王子の血ですよ?気付いてましたか?」


「なっ…」


「気付いてなかったんですね。これでも熱くなり過ぎてない、冷静だって言い張るつもりですか?」


「…すまない」



 汚れる事も気にせず赤い絨毯の上で力を抜いて大の字で寝そべるとターレアは折れてしまった剣を見つめポツリと呟く。



「俺は…強くなれたか…?」


「ええ、剣技はもちろん薄かった魔色も魔法を使い続けたおかげで濃くなってきてますし、体力も付いて心も折れなくなりました…が、見てわかる通り熱くなって周りが見えずがむしゃらになっている所為で自分の身を守る事を忘れています。僕は斬った傍から治していますが相手はそんな事しません。何度も言っていますが自分の身を守る緊張感と冷静さだけは絶対に忘れないでください」


「ああ…」


「後、剣技だけに集中しすぎて魔法が疎かになっています。僕だって剣技と魔法を両方こなすのは苦手ですがけん制や相手の隙には使う様にしてます。本当に冷静になってください」


「手厳しいな…わかった…」


「後ですね?ターレア王子はいつも右からの袈裟斬りの時…」



 ………



「…わかりましたか?」


「あ…ああ…」


(俺は本当に強くなったのか…?)


「それとですね…あ……」



 長時間に渡る唯織のダメ出し…聞けば聞くほどに自分は強くなれたのか自信を無くしていくターレアだったが唯織は暗かった空がいつの間にか明るくなっている事に気付き冷や汗をかき始める…。



「す、すみませんターレア王子…!」


「…?どうしたんだ?」


「時間が…!」


「時間…?何の事だ?」


「何って計画…あっ!?そ、そういえば僕…ターレア王子に計画の事話しましたか…!?」


「は…?計画って何の事だ?」


「っ!?ま、まずい…!!特訓に気を取られ過ぎて何も説明してない…!」


「お、落ち着け…俺に冷静さを説いてた奴が冷静さを失ってどうするんだ…?」


「そ、そうですね…」


(やばい…やばいやばいやばい…!確かムゥさんが言うには今日の昼から計画開始だって…身体を休める時間…ご飯…計画も話さなきゃ…やばいどうしよう…!!)



 ターレアの特訓にのめり込んでいたせいで時間どころか重要な計画の内容すら話していない事に気付き、自分らしくないミスに頭が滅茶苦茶になっていると…



「これ、唯織。少しは落ち着くんじゃ」


「っ!?ムゥさん!?」


「ムゥ…さん?アリアさんでは…ないのか?」



 アリアを真っ黒にした瓜二つのバハムートが唯織の頭に網籠を置き、赤い絨毯を隠す様にシートを広げていく。



「なんじゃお主…わらわ達に気付いておらなんだ?」


「わ、わらわ…?」


「その様子じゃほんに周りが見えておらんかったのじゃな。わらわはムゥ、お主が言うアリアの娘じゃ」


「む、娘!?」


「まぁ、今はそんな事どうでもいいんじゃ。唯織、とりあえずその飯を食べながら落ち着いて計画を話せばよい。今はまだ朝の7時、計画開始まで5時間もある」


「は…はい…すみませんムゥさん…」


「よい。飯を食ったら身体を洗える様風呂を入れておく。味わいつつ急いで食うんじゃぞ」


「ありがとうございます…」


「ムゥさん、本当にありがとうございます」



 ご飯の準備を終え手をひらひらとさせながら去っていくバハムートに本当に感謝しながら網籠を開けると暖かく香ばしい肉尽くしの料理が大量に現れ二人は腹の虫を鳴らし…



「…たーへひゃおうひ(ターレア王子)はへははら(食べながら)ひいてふははい(聞いてください)


はへ(待て)はひほふっへるは(何を言っているか)わはらん(わからん)ほひふいてふれ(落ち着いてくれ)



 行儀が悪いと知っていても本能には抗えずリスの様に頬張りながら計画について話し始めた…。



「お優しいですね?」


「何、学校に遅刻しそうな子らのケツを蹴っただけじゃ。これは道理じゃろ?」


「そうですね、道理です。…千弦さん?」





 ■





「…わかったわ。…ったく」


「その様子だとイレギュラー発生っすか?」



 計画開始まで残り2時間…王都を見渡せる時計台の屋根、そこでは千夏から通信をもらったアリアとユリがシフォンが作ったレンズの付いた大型の魔道具を取り付けていた。



「ちょっと唯織が抜けてただけで何も問題はないわ。皆歳に似合わずしっかりしてるからつい忘れちゃうけれどまだ15にもなってない子供なのよね…っと、これで最後ね…あくっ…」


「っす。…やっぱ寝足りないっすか?」


「計画に支障は出さないわ。…まぁ、全て終わったらがっつり寝かせてもらうけれど」


「そうしてくださいっす。その後はあたしが全部やっとくっす…っと、そろそろ時間っすからちょっと行って来るっす」


「わかったわ。私もそろそろ準備し始めるわ」


「うっす。…ここまでやったんっすからきっちり成功させるっすよ」


「当たり前よ」



 拳を合わせユリは王城側に身体を落とし、アリアは王都に出入りする唯一の門に向けて身体を落とし二人は屋根を伝って姿を消す…。



 ………



「さてさて…ちゃっちゃか済ませちゃうっすよ」



 髪と身体を撫でつけまたメイドのシャーリィに扮したユリは上空から王城に侵入し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付く。



(この感じ…()()()()()()()()()が見つかったっすね)



 自室のベッドに寝かせていたフローラの死体が見つかったのだと仮定して不自然にならない様にバートが待つ執事長室まで急ぎ足で向かうと…



「っ!?シャーリィか!?」


(この人…一番最初にあたしに声かけてきた騎士っすか…)


「申し訳ございません…!今とても急いでまして…!」


「ま、待ってくれ!」


「ちょっ!?」



 王城に潜入した時に声をかけてきた兵士に腕を掴まれ行く手を阻まれるとそのまま近くの部屋に引きずり込まれてしまう。



「シャーリィ…今、君がフローラ様を殺した犯人じゃないかと城中の使用人達が噂をしているんだ…君が犯人なのか…?」


「…」


「答えてくれシャーリィ…」


「…もし、私がその犯人だったらどうするんですか…?」


「…っ!」


「…えっ!?」



 腕を掴んでいる手と声を震わせ…そうあって欲しくないと思いながらも意を決したのか兵士は顔をあげてユリを抱きしめた。



「もし君がフローラ様を殺したんだったら…一緒に何処かに逃げよう!!」


「え、ちょ…な、何でそうなるんすか…?」



 突拍子も無く抱きしめられ、更には一緒に逃げようなんて言ってくる事に流石に動揺したユリは素で聞き返すと兵士は自分の思いの丈をぶちまける。



「あの日、月の光に照らされていたシャーリィはとても美しかった…一目惚れだ!!君の為なら俺は何だってする!殺していないのなら俺も一緒にシャーリィの身の潔白を証明する!もし殺したのなら俺がシャーリィを守る!金も溜めていたから逃走資金もある!だから一緒に逃げよう!!」


「……」



 一目惚れ…碌に会話もしていないのにまさか惚れられてるとは思わなかったユリはこの人の人生を狂わせまいと兵士の頬を両手で包み笑みを浮かべた。



「嬉しい事を言ってくれるっすね。でも一緒に逃げる事は出来ないんすよ」


「っ…もしかして自首する…のか…?」


「しないっす。…今度はこんな悪い女に引っかからない様にするんっすよ?」


「え…?ぐっ…」



 兵士の首に爪を刺し、一滴の血を手に乗せて自分の血と混ぜ合わせると兵士の身体から力が抜け、黒かった髪を撫でつけ茶髪に変えると虚ろな眼の兵士に命令する。



「主様…何なりとご命令を」


「自分の中からシャーリィという人物の記憶を消すっす。そして今後悪い女に引っかからない様に気を付けるっす」


「かしこまりました。……あれ…?俺…何を…はっ!?そ、そうだ!フローラ様!!」



 血相を変えて部屋を出ていき慌ただしく蠢く人混みに消える兵士を見届けるとユリは執事長室まで急ぎ扉に手を掛けた。



「さてと…悪い女はもっと悪い事をするっすかね」



 何の抵抗も無くガチャリと音を立てて開く扉…その先には手足を縛られ猿轡までされている筋骨隆々な赤髪の男性と赤髪赤髭で王冠を頭に乗せた男性、金髪でごてごてした装飾品をこれでもかと身に着けている女性、こちらに首を垂れるバートとテルナーツがいた。



「主様、ご予定通り現国王クルセント・ムーア及び現王妃テルーシャ・ムーア、第一王子アルニクス・ムーアの三名を主様の前に」


「ご案内の際、少々暴れましたので縛らせて頂きました」


「よくやったっす。テルナーツとバートは表の騒ぎの鎮静、それが終わったら計画開始まで待機、計画が始まったら最後に命令した事を実行するっす」


「「かしこまりました、主様」」



 ユリに傅く二人を目を見開きながら見つめる三人は扉に鍵がかかる音を聞いてビクリと身体を震わせるが何も抵抗できずただただユリを憎しみの籠った視線で睨みつけるしか出来ない…。



「…ではではお三方、突然こんな事になって驚いてるかも知れないっすけど…どうしてこんな事になっているか身に覚えがある人はいるっすか?」



 そう問いかけても首も振らずただただ睨みつけてくる三人だったがプチッ…という小さな音が鳴り…



「逆賊め!!!!」


「遅いっす」


「「っ!?」」



 自慢の肉体で縄を千切った第一王子のアルニクスが右ストレートをユリに放つが、ユリはその右ストレートを首を傾けるだけで躱し、左の掌底でアルニクスの肘を逆に折り、左肩と右の手刀を使って前腕をへし折るだけではなく膝に蹴りを入れて逆に折った…。



「っ!?うあああああああああああ!?!?う、腕が!?!?脚がああああ!?」


「あたしはあんたらに忠誠を誓った覚えもないんで逆賊って言われる筋合い無いっすわ。にしてもこんな筋肉達磨を縄だけで縛るとかなってないっすね…ちょっと黙るっす」


「ごあっ!?」



 叫ぶアルニクスの口に靴のヒールを突っ込み少しでも奥に踏み込めば喉を踏み抜ける様にすると三人は怯えた様にユリを見つめ始める。



「うんうん、素直な事が一番っす。その猿轡を外してあげるっすからさっきの質問に答えるっすよ」



 指を鳴らし血のナイフで猿轡を切ると国王のクルセントと王妃のテルーシャは歯の根が合わないのかたどたどしくユリの質問に答え始めた。



「他…他国の回し者…か…?」


「わ、私は何もしてないわ…!」


「ふむふむ…他国の回し者が送られてくるような事をしてたんっすか?」


「…何も」


「嘘1っすね」


「っ―――――!?!?」


「「っ!?」」



 無事だったアルニクスの左肘を踏み砕き痛みに藻掻き苦しむ姿を見せつけるとテルーシャが半狂乱になり始める。



「く、くくくくくクルセント!?あ、あああ、ああなた!?なにを、なにをしたのよぉぉぉ!?!?」


「あらま…ビビりすぎて頭いっちゃったっすか?」


「クルセント!?クルセントクルセント!!は、はやく!?わ、わわわ…私を早く助けなさいよ!?!?」


「…あんたうっさいっすわ」


「っ!?ひぐっ!?」



 天井から血の縄を垂らし、テルーシャの首に引っ掛けると足先がギリギリ床に触れる高さまで吊り上げて強制的に黙らせるとようやくクルセントは震える声を出す…。



「た…ターレアの…血統魔法…の…事か…?」


「そうっす。随分と楽しそうな事をしてたみたいっすね?」


「…」


「スラムに住む国民をバラしてフローラっちの血統魔法で事故に会った時のターレアを再現して血統魔法を二つ持つ人間が造れるかの実験…調べは付いてんっすよ、首謀者さん」


「ち、違う!!我ではない!!あれはテルナー『かんけーねぇっす。誰の発案だろうがそれに関わった時点でテメェもこの馬鹿もそこの女も、王族だろうが貴族だろうが子供も女も一般人も全員詰んでんすよ』…」


「つーか、この期に及んで息子を売るとかマジっすか?もう一人の息子がこんな姿になってんのに自分の事ばっかとか王妃揃って終わってるっすわ。最悪隠居って形で殺さず表舞台から退場してもらおうかとも思ったっすけど慈悲はいらねぇっすね」


「うっ!?」



 血のナイフを首に投げつけ三人の皮膚を浅く切ると自分の血と混ぜ合わせ…



「「「…ご命令を、主様」」」


「クルセント・ムーア、お前はいつでも冒険者ギルドに王都を襲う魔獣を討伐するクエストと、王都の住民の避難誘導や安全確保クエストの発注準備をして王自ら前線に立ち戦死するっす。但しクエスト受注の強制は無し、自分の命と金を天秤にかける奴だけ戦場に立たせるっす」


「かしこまりました、主様」


「アルニクス・ムーア、お前はこれから起きる戦闘の最前線で命を捨てる覚悟がある兵士を連れてクルセント・ムーア共々華々しく散るっす。但し命を捨てる覚悟が出来ず少しでも尻込みする奴は強制せず王都の住民の安全確保をさせるっす」


「かしこまりました、主様」


「テルーシャ・ムーア、お前も最後ぐらい国民の為にクルセント・ムーアの隣に立って死んどいてくださいっす」


「かしこまりました、主様」


「…ふぅ、この計画におけるあたしの仕事は終わったっす。後は()()()()()()()をするっすか」



 個人的な仕事を始める為に騒がしい王城に紛れた…。





 ■





「これからトーマはどうするの?」


「そうさなぁ…レイカがハルトリアス学園を卒業するまではここを拠点にして、卒業後はレイカの意思を聞いてそれに沿うのも…とは思ってるさね」


「…すっかり父親ね?アリアとユリも冒険者を続けるかわからないし…SSSランク冒険者は私達だけになるわね」


「おいおい、引退するとは決まってないさね。レイカが冒険者になって旅したいってんならおいらも冒険者を続けるって」


「だが、レイカについていくのなら実質引退の様なものだろ?」


「…まぁ…そうなんのかねぇ…」



 立ち込める酒と鉄と獣の臭い、がなる様な喧噪、順番待ちで苛立ちを露わにする人、革袋の重さに一喜一憂する人…冒険者ギルドの隅の席に腰を下ろし酒を煽るトーマとバルアドス、果実水を飲むクルエラがいた。



「ただでさえ少ないSSSランクの冒険者が二人か…白黒狼の教え子は殆ど貴族だからな…SSSランク冒険者になる可能性があるのはイオリ、シオリ、テッタ…後はティリアか?」


「あの嬢ちゃん…リーナは絶対にSSSランクの冒険者になれんのになぁ…勿体ない所じゃないさね…」


「ティリアちゃんはティアと姉妹なら一応王族でしょ…ターレア達は後一年私達が教えてれば私達でAランクに推薦してSSランクぐらいまでは育てれたのに…って、今日って確か学園休みでしょう?レイカがいるのにこんな所で朝からお酒を煽ってていいの?」


「それがなぁ…白黒狼んとこの桃髪の嬢ちゃん、シャルって子と特訓するっていつも深夜になんないと帰ってこんのよなぁ…しかも今日はおいらがここに来るまでまだ帰って来てなかったさね」


「夜遊び朝帰りとか不良になるかも知れないわよ?アリアの所にはユリがいるんだから」


「う…むぅ…キリンもいるから問題ないと思うんだがなぁ…」


「ああ見えて鮮血嬢はしっかりしてるからそこは問題ないだろう。悪影響があるなら白黒狼が止めてるはずだ」


「それもそうね…さて、私はそろそろ馬車の時間だから行くわ」


「ん、次は何処に行くんさね?」


「アトラス海王国辺りで海水浴でもしてから私もハプトセイル王国に行くわ」


「白黒狼の追っかけかい?」


「ち、違うわよ…それじゃあね」


「なら俺もハプトセイル王国に向かうとする…またな、トーマ」


「おう、またどっかで会ったら酒でも飲もうさね」



 次の旅先を決めて席を立つ三人…冒険者ギルドの押戸を押して外に出ようとした時、



「っ!?!?な、何…!?せ、精霊があ、暴れてる!?」


「…何だ…この言い様も無い不快感…」


「…多分こういうこったろう…」


『敵襲ー!!!!敵襲だー!!!!!見た事ない魔獣の大群が攻めてきたぞー!!!!!』



 けたたましい鐘の音と敵襲という言葉が王都リアス中に鳴り響き…



「…敵襲…見た事ない魔獣…こりゃあ、次の旅は一旦お預けさねご両人」


「そうみたいだな…幸いにもここにはクルエラがいる。多数戦は問題ないだろう」


「……」


「「…クルエラ?」」



 声をかけても反応を返さないクルエラを見つめると元から白い顔を更に白くし…



「…嘘……こんなの……こんなの何かの間違いよ……」


「どうしたんさね?何があった?」


「あ…アリアが……」


「白黒狼…?…っ!?ま、まさか…」


「…そう言う事かい白黒狼……精霊女王!黒龍!いくぞ!」


「行くって当てはあるのか!?」


「精霊女王が精霊か樹から聞いたから白黒狼の名前が出てきたんだろ!?さっさと案内するんさね精霊女王!!」


「わ、わかったわ…!」



 何かの間違いであって欲しいと祈りながらアリア(黒幕)の元へ向かう…。

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