前夜
「ううう~…頭が~…身体が~…」
「よくこんな短時間で作り上げたわね?もう少しかかると思ってたわ」
「はいぃ…こんな高度な魔道具…どうやったら思いつくんですです…?」
「さぁ?先人は本当に偉大よね」
「こ、この魔道具に先人がいるんですです…?」
唯織の努力が垣間見える小綺麗な学園長室…丸い小型の魔道具が八つ、大きなレンズが付いた大型の魔道具が八つ乗ったテーブルに突っ伏すシフォンとその魔道具を隅々まで確かめるアリア。
「ちょっと試して見てもいいかしら?」
「スルーですです…?まぁ…問題ないはずですです。確かめて見てください」
小型の魔道具を一つ手に取り魔力を流し込みながらボタンを押すと…
「…問題なく映ってるわね」
小型の魔道具がアリアの周りに浮かび、大型の魔道具から光が漏れアリアの姿をでかでかと空間に映し出した。
「大変だったのはその小型のカメラを浮かす事とその映像をこの投影機に受信させる事でした…でもでも、こんな魔道具を何に使うつもりなんですです?」
「ターレア達が戦ってる姿を王都にいる人達に見せる為よ。ボロボロになりながら王都を守る主人公…感動間違いなしだわ」
「み…見世物にするんですです…?」
「そうよ。口でどれだけ懇切丁寧に凄い事をしたのか、どれだけ必死になって偉業を成し遂げたのか説明したって分かりっこないわ。失敗は絶対に許されない一発限りの作戦…それを誰が見ても『功績』とわからせるには実際に見せて人の頭と目に焼き付ける必要があるのよ」
「一理ありますが…」
「それにこの魔道具にはそれ以外の使い道があるのよ。今後、ターレアがこの国の国王として君臨するのに尚更必要になってくるわ」
「ふむふむ…何か考えがあるんですです?」
「あるわよ。でもそれを今は説明するつもりはないわ。とりあえず明日…今日の昼には計画を始めるわ。もう後戻りは出来ないわよ?覚悟はいいかしら?」
「…はいですです」
「いいわ。なら付いてきてちょうだい」
「っ!?…って、イオリ君も使えるならアリアさんも使えますよね…」
シフォンの魔道具を空間収納に仕舞い驚くシフォンを連れて部屋を出るとアリアは耳に手を当てユリを思い浮かべる。
『ユリ、シフォンの魔道具が完成したみたいだわ』
「え?いきなり独り言ですです?」
「ちょっと静かにしてちょうだい」
「あ、はいですです…」
人差し指を立てて小首を傾げるシフォンに静かにしてもらうとユリの声と聞き覚えの無い声がピアスから響く。
『突然何言ってるんだって思うかもしれないっすけど…聞いてもいいっすか?』
『…?何?』
(ユリとは別の声…?この声がフローラっていう人かしら…?)
『フローラっちはこの人生に後悔はあるっすか?』
『…たくさんあるわ』
『…その中にターレア王子を救った事は含まれてるっすか?』
『っ!?何でしっ…そうよね…ここまで一緒に居れば嫌でも耳に入るわよね…ターレア君を救った事に後悔はないわ。ただ…一緒にいた女の子を救えなかった事は今でも悔やむわ…』
『フローラっちは優しいっすね…よかったっす。もし…もしも生まれ変われるとしたら何になりたいっすか?』
(まさか…ユリ…)
『また…冒険者になりたいわ』
『どんな冒険者っすか?』
『…SSSランクの冒険者になって誰にも縛られず自分の好きな様に生きて自由に…あわよくば素敵な旦那さんを捕まえたいわ』
『SSSランク冒険者っすか…なかなか高望みするっすね?それにフローラっちに釣り合う男がいるっすか?』
『夢は大きくでしょう?』
『っすね…っと、出来たっす』
『…?このネックレスは?』
『お守りっす。どんな事があっても絶対に外さないでくださいっすね』
(ネックレス…確定ね)
『…わかったわ』
『それと…あたしの事を信じてくださいっす』
『…?』
『さっ、行ってくるっすよ』
『え、ええ…』
ユリがあのネックレスを渡す程の人物なのかと少し思案していると今度こそユリがアリアに話しかける。
『…ちゃんと聞こえてたっすか?』
『ええ、ユリがそこまで肩入れする人物なのね?』
『っす』
(私達と一緒に居てかなり変わったとは言え、魔族のユリが私達関連以外のただの人間に興味を持つとはね…)
『…わかったわ、何とかしてあげるわ』
『助かるっす』
『すぐこっちに戻ってこれるのかしら?』
『今すぐには無理っす。でも出来るだけ早くそっちには行くっす』
(これは言っても止まらないわね…こっちもまだ手が離せないし…はぁ、仕方ないわね…)
『…無理するんじゃないわよ』
『あいっす』
これからユリが何をするのか察したアリアはユリとの通信を切り眉間を揉み解しているとずっと黙っていたシフォンが目をキラキラと輝かせながら服の裾を引っ張っていた。
「も、もしかしてそのピアスは遠距離の人と会話できる魔道具なんですです!?」
「…ええ、流石にこの魔道具の作り方は教えないわよ?」
「そんなそんな!?教えて欲しいですです!!その魔道具があればこの世界はもっと進化するですです!」
「あのねぇ…確かにシフォンの言う通りこの魔道具があれば遠方とのやり取りに時間がかからなくて人伝や手紙の情報のすれ違いや誤情報、改ざんによる被害が減ると思うわ。それに商人達が持っていれば盗賊達が待ち伏せしている場所を共有し合ったりして安全に国家間を移動する事も、お互いが持っている在庫の管理で商品が腐らなくなるかも知れない…でもそれを盗賊や犯罪者に奪われたらどうするのかしら?今度は綿密に練られた計画で私達を襲ってくるわよ?」
「うっ…」
「それに何度も私の設計図通りに魔道具を作ってて天才のプライドが許すのかしら?」
「……」
「わかったのなら私に頼らずシフォンの手で作り上げなさい。今回作ってもらった魔道具にこの通信機のヒントはあるわ」
「わかったですです…」
頬を膨らませて渋々引き下がったシフォンに苦笑いしつつ校舎を出ると学園の敷地内に置きっぱなしの馬車まで移動すると…
「…?馬車の中で何するんですです?」
「これから見る事は他言無用よ?まぁ…見たものを言った所で誰も信じちゃくれないでしょうし、魔道具を弄りすぎて頭がおかしくなったって思われると思うけれど…って、ユリ?随分早かったわね?」
「うっす、遅れてすんませんアリアっち」
(この臭い…)
「…シフォン、先に馬車の中に入っててちょうだい」
「は、はぁ…わかりました…っ!?な、何なんですですこの馬車!?!?」
いつも通りの格好に戻った苦笑いのユリが馬車の物陰から現れ、獣人族の嗅覚じゃなきゃ嗅ぎ取れない程薄い微かなユリと自分以外の血の臭いに眉を顰めるとシフォンを馬車の中に入れユリを見つめた。
「ユリ?」
「…やっぱり気付いたっすか?出来るだけ自然に臭い消してたんっすけど…」
「獣人の鼻を誤魔化すなら本人の鼻を潰しなさい。…で?何か言う事があるんじゃないのかしら?」
「すんません…約束守れなかったっす…」
「…何人やったのよ?」
「マーキング済みの見張り25人、暗殺者11人…実験体にされてた人達50人弱…っすね…」
「この短時間で…実験体にされてた人達はユリに殺して欲しいとでも言ったのかしら?」
「…っす」
「そう…ならその事に関しては何も言わないわ、よくやったわね」
「あざっす…」
「でも前者に関しては違うわ。私、言ったわよね?こんな事でユリの手を汚したくないって。何か言い訳があるのかしら?」
「無いっす…本当に申し訳ないっす…」
「……」
いつも快活すぎるユリが項垂れ怒られるのを待っているとアリアは視線を逸らしふぅっと息を吐いた。
「まぁ、私がユリ達の手を汚したくないと思うのと同じでユリも私の手を汚したくないって思ってしてくれたんでしょう?」
「…でも約束を破ったのは変わりないっす」
「遅れるって言った時点で察してたわ。…ちゃんとお風呂に入って臭いを落としておいてちょうだいね?夜一緒に寝る時に私達以外の血の臭いがしてたらたまんないわ」
「…怒んないんすか?」
「私の為にしてくれた事でしょう?なら怒るわけないわ。ただ…約束を破った罰として今日は生で飲むのは禁止ね」
「……うっす」
「それじゃお風呂にでも入って少し休憩してきなさい。私は今回の計画の最終調整をするから後で来てちょうだい」
「…わかったっす!」
空間収納から取り出した自分の血が入った瓶を渡すとユリの表情が少し明るくなり…馬車の中に一緒に入ると馬車をキラキラとした目で探索しているシフォンにもう一度ふぅっと息を吐く。
「ふぉぉぉぉぉぉ!?!?こ、これは空間を拡張しているんですです!?それにキッチンにお風呂!!トイレまで!?寝室まであるんですです!?!?こんな高級旅館を凌駕する馬車があるんですです!?!?」
「…あんまり荒らさないでちょうだいよ?」
「ふぉぉぉぉぉぉ………!!!」
「じゃあ、あたしは先にお湯頂くっすよ?」
「あれならシフォンも連れてってちょうだい。騒がしくて仕方ないわ…」
「ういっす。アリアっちは何するんすか?」
「特訓してる子達の為にご飯を食べさせるわ。ユリも早めに上がって来てちょうだいね」
「了解っす!…ほらシフォンっち行くっすよ」
「ふぁあああああああ…!?!?」
唯織の体調管理がバッチリだったのか深夜でも子供以上にはしゃぐシフォンを引きずってお風呂に向かっていくユリを見送り、新しく設置した真っ白の扉を開くと真っ白な空間に九つの扉、その扉の上には黒く薄い板が掛けられシフォンの魔道具と同じで部屋の中の様子が映し出されていた。
「…んー…及第点…たった二週間でこれなら花丸なのかしらね…唯織達なら二週間でもっと形になるのに…っと、ダメね身内贔屓は…唯織達は土台から私が育てたわけだし…忙しくて見てあげれなかったからティア達がどれくらいの成長速度か詳しくわからないわね…」
全員の訓練状況を黒表紙に書き込んでいると一つの扉が開き、そこから汗をタオルで拭いながら飲み物を飲む声が掠れ気味のリーナが現れた。
「こほっ…あ、アリア先生」
「お疲れ様、リーナ。あんまり喉を酷使しない方がいいわよ?」
「ちゃんとわかってますわ。少し喉がくっ付く感じがしましたので今日はもう終えた所ですわ」
「ふぅん…ちゃんとわかってるならいいわ。少し喉を見せなさい」
「口の中を見られるのは恥ずかしいんですのよ…?」
「いいから見せなさい。また指を突っ込むわよ?」
「わかりましたわ…あ~…」
「んー…ちゃんといいタイミングで止めたみたいね。テーブルの上に喉にいい飲み物を置いておいたから汗を流すついでにお風呂で飲みなさい。後、ご飯も用意するからあんまり長風呂はしないでちょうだい」
「何処までも用意周到ですわね…ありがとうございますわ。…後、今日ぐらいはちゃんと寝てくださいまし」
「…」
喉の調子を見せアリアに寝るようにと言いながら部屋を出ていくリーナ…そしてその数分後に別の扉が開き今度は適度に汗をかいたリーチェと全身青痣だらけで顔面に至ってはボコボコになった汗だくのキース、すっかり小綺麗になったガルムとポトラが現れた。
「結局最終日まで私に一撃も当てられないとは…これで他の方より劣っていたら私の訓練が疑われるじゃないですか」
「うっせぇ…遠慮なしにボコスカ殴ってくれやがって…」
「「あ!!アリアせんせー!!!」」
「っと、ガルムとポトラはいつも元気ね。リーチェ達は随分と気合を入れてやってたみたいね?」
「ええ、ようやく私の魔力も戻ってきたので試しがてらに」
「チッ…っ…」
「試しでボコられるなんてツイてないわねキース。ほら、折れた腕と傷を治してあげるわ」
「あら、折れてたんですか?気付かなかったですね」
「テメェ…折れた所をわざわざ狙ってただろうが…すまねぇ…あ…ありがとう…」
「ちゃんとお礼言える様になったのね?いい成長だわ」
ボロボロのキースに回復魔法をかけると小声でアリアに礼を言うとガルムとポトラがアリアの服を引っ張りキラキラした目で主張し始める。
「アリアせんせー!見て!」
「ぼ、僕も!!」
んんん!と唸りながらガルムとポトラが魔力を起こすと二人は身体に風と雷を纏い始めアリアは目を丸くした。
「「どう!?凄い!?」」
「あら、凄いわね…もう付与魔法を使える様になったのかしら?小さい子は本当に物覚えいいわね…」
「「えへへ!やったー!!」」
「私もキースも付与魔法しか使っていないのでほぼ私達の魔法を見て覚えたみたいです」
「将来有望じゃない。でも余り他の人に詠唱無しで魔法を見せちゃダメよ?本当に危ない時以外は詠唱をちゃんとするのよ?」
「「はーい!!」」
「よし…リーチェとキースもお風呂に入って来なさい。ガルム、ポトラ?ちゃんとキースに洗ってもらうのよ?ご飯を用意しておくわ」
「わかりました」
「ああ…行くぞガルム、ポトラ」
「「うん!!」」
「後…アリア先生、今日ぐらいは寝てくださいね?」
「…」
お風呂に入りに行くリーチェ達を見送り次に扉を開け姿を現したのは汗もかかず涼しい顔をしているアンジェリカと両腕に酷い火傷を負ったアーヴェント、心配そうにしているイフリート、サラマンダーだった。
「む…アリア教諭、訓練の様子を見ていたのか?」
「ええ。とりあえずアーヴェント、痛むでしょうからその両腕を治しちゃうわ」
「申し訳ないアリア殿…」
肌色の部分が無い程に焼け焦げた両手を元通りに癒し、アーヴェントの後ろにいるイフリートと肩にいるサラマンダーを見つめると怯える様に姿を消した。
「やっぱりまだ私の事が怖いみたいね?」
「あ、ああ…何で怖がっているのか聞いても答えてくれず…嫌な思いをさせて申し訳ない…」
「別にいいわよ。それよりもう問題なく会話出来る様になったのかしら?」
「まだハッキリと聞こえるわけじゃないが今までよりは大分」
「そう、ならお風呂に入って来なさい。上がるまでにご飯を用意しておくわ」
「何から何まで本当にありがとう…このお礼は必ずさせてもらう」
「だったら何が何でも計画を成功させなさい」
「…ああ」
アリアの言葉を聞き部屋を出ていくアーヴェント…だが、アンジェリカはアリアの顔をじっと見てため息を吐いた。
「…アリア教諭、化粧で隠しているつもりだと思うが目の下のくまが隠れていないぞ?ちゃんと寝ているのか?」
「…ふぅ、リーナとリーチェにも言われたわ。ユリも戻ってきた事だし今日はちゃんと寝るわ」
「そうか、ならいいんだ。教えを乞う身で生意気を言って済まない。私もお風呂に入るとするか」
「ちょっと待ってちょうだい。アーヴェントは何分なら使えるのかしら?」
「ふむ…私の見立てだと問題なく扱えるのは3分。無茶をすれば5分…と言った所だな」
「やっぱり種族的な問題ね…助かったわ」
「では今度こそお風呂に入ってくる」
「ええ、ご飯も用意しておくわ。………教え子に心配されるなんて私もまだまだね…うわ…本当に隠れてないわね…」
アンジェリカも部屋を出ていき手鏡で自分の目元を確認していると次は汗だくのテッタとルマが扉から姿を現した。
「茶の魔色ってこういう自然が何もない場所だとかなり扱い辛いからいい特訓になったでしょ?」
「ふぅっ…はぁ…ああ…ハード過ぎるがな…」
「お疲れ様ねテッタ、ルマ」
「あ、アリア先生もお疲れ様です」
「アリア教諭…この様な場所を貸してもらいほん『ったく、何度お礼を言えば気が済むのよ?感謝してるならちゃんと成果を見せなさい』…わかった…」
「わかったならさっさとお風呂で汗を流してきなさい。テッタは少し待ってちょうだい」
「わかった…先に行っているぞテッタ」
「うん、僕も後からいくよ」
「さて…テッタ?」
「っ…」
顔を合わせる度に律儀にお礼を言ってくるルマの言葉を遮りお風呂に行かせるとアリアは徐にテッタの腕と脚を触り…テッタは痛みをこらえる様に表情を歪ませた。
「…少し無理をし過ぎよ。あなたはまだフェイナみたいに身体が出来上がってないんだから真正面から攻撃を受け続けてたら身体が持たないわ」
「はい…」
「憧れるのはとてもいい事だけれど同じ様にする必要はないわ。テッタはテッタのやり方で皆を守ってあげなさい」
「…はい!」
「じゃあお風呂に入って汗を流してきなさい。ご飯も用意しておくわ。寝る時は身体の痛い所にこれを貼って寝るのよ?」
「わかりました!」
「全く…切り替えの早さまでフェイナに似てきたわね…」
教え子に大切な人の姿を重ねクスリと笑みを浮かべると次の扉が開くと、両手足から冷気を放ちずぶ濡れのせいか歯が噛み合わないティリアと全身に目に見える程の電気を纏い髪が爆発的に広がったティアが姿を現した。
「これは酷い…お疲れ様ねティリア、ティア」
「あ…アリアせん…せい…」
「し…しひれへふ…ふひは…」
「アーヴェントもそうだけど…やっぱり種族的な問題は一朝一夕で克服するのは難しそうね…キースが雷のエンチャントが出来るのは水人族と森人族みたいに身体への反動が無いからだし…何時までも魔道具に頼ってたら魔道具が無くなった時こうなるし…ふぅむ…ん?」
ティリアとティアの頭に手を乗せ元通りに癒すとティアの上着の内に見覚えのあるナイフが見えた。
「そのナイフ…」
「ご、ごめんなさいアリア先生…私よりお姉ちゃんが持ってた方がいいと思って…」
「別にいいわよ。ティリアにあげたものだしそれをどう使うかはティリア次第だわ」
「せっかくティリアがくれたのに上手く使えなくてすみません…」
「そのカトレアは氷と雷に対して耐性を得るだけで普通のナイフとなんら変わりないわ。それに今まで銃を使って戦ってたのにいきなりナイフで戦うのは難しいのだし気を落とす事はないわよ」
「氷…え?ティリア…このナイフは雷に対して耐性があるとしか言ってなかったよね…?ならさっきの手足…カトレアを持ってれば…」
「…いいの。お姉ちゃんはお姉ちゃんの守りたいものの為に頑張ってる。だから私もそれを助けるだけだから」
「…ごめんティリア…」
「…」
「そこはありがとうって言ってあげなさい。助けになりたかったのに謝られたら自分が余計な事をしちゃったって思うでしょう?」
「…ありがとうティリア」
「うん!」
「それじゃあ二人ともお風呂に入って来なさい。ご飯を用意しておくわ」
「「はい!」」
「あ…後、アリア先生寝てくださいね…?」
「…わかってるわ」
鞘に収まったカトレアを大事そうに握り二人して部屋を出ていき数分後…扉から大人姿の詩織が完全にダウンしているターニャを背負って出てきた。
「んあー胡桃ちゃんじゃん。目の下のくまやばいよ?」
「アリア先生って呼びなさいよったく…もう耳タコになるぐらい散々言われたわ…」
「この姿の時ぐらい良くないー?で?どんくらい寝てないの?」
「別にどのくらいでもいいでしょう?」
「よくないよくない。で?で?胡桃ちゃんはどのくらい寝てないのかなぁ?」
「…唯織がターレアを助けたいって言った日から寝てないわよ」
「…え?それって二週間丸まる寝てないって事!?」
「やる事が山ほどあるのよ。寝てる暇なんてないわ」
「ん…ター…レア…?」
「ほら、大声出すから恋するお姫様が起きたわよ?」
「どっちかというとターレアって言葉に反応したと思うけどね…ほら、ポーション」
「す…まねぇ…んくっ…んくっ…ぷはっ!」
詩織の大声か、アリアのターレアという言葉のどちらかに反応して起きたターニャはフラフラな状態で立ち詩織からポーションをもらい身体能力を補うネックレスを創るとアリアはそのネックレスをまじまじと見つめる。
「にしても詩織から聞いてたけれど…なかなか厄介な体質ね?」
「ああ…」
「別に呪いが掛けられているわけでもないし…まぁ、一目見ただけじゃ流石にわからないわね。とりあえず二人ともお風呂に入って来なさい」
「あ~い」
「わかった」
ターニャの不思議なまでの虚弱体質に両手を上げたアリアは二人をお風呂に行かせ、空間収納から小さな鉱石を取り出しぎゅっと握りしめると次の扉からとても身軽な格好をした汗だくのフレデリカとエルダが現れる。
「お疲れ様ねフリッカ、エルダ」
「ん、アリア教諭もお疲れの様子」
「む…確かに目の下のくま…」
「もう耳タコよ…ちゃんと寝るわ。それより訓練の方は…その様子だと完璧の様ね?」
「ん、バッチリ」
「ああ」
やり遂げた表情を浮かべてたフレデリカとエルダに問うとエルダは徐に片脚を抱き、綺麗なI字バランスを披露した。
「ど、どうだろうか?」
「軸もブレていない凄い綺麗なI字バランス…というより…何か雰囲気変わったわね?」
「…?そうだろうか?」
「ええ、フリッカと同じ不思議ちゃんな感じだわ」
「不思議…ちゃん…だと…?」
「脳筋から不思議ちゃんに成長」
「私は脳筋でも不思議ちゃんでもない!!」
「まぁ…前より今の方が取っ付き易そうだしいいんじゃないかしら?とりあえず二人ともお風呂に入って来なさい。ご飯は用意しておくわ」
「ん!エルダいこ」
「むぅ…」
自分の雰囲気が変わった事に納得がいかないエルダを連れてフレデリカが部屋を出ていき、鉱石を握りしめていた手を開き小さな輪っかになっている事を確認するとそのまま空間収納に戻し最後の扉が開くのを待った。
「はぁぁ~…疲れたわぁ…」
「わざわざ胸元を開いて扇がないでください…」
「お疲れ様ねシャル、レイカ…今はキリンかしら?」
いつもは下ろしている髪を一つに結び汗を拭うシャルロットと胸元を開けさせ乱暴にシャツとスカートで火照った身体を仰ぐレイカが扉から姿を現すと、シャルロットはアリアの顔を見て目の下のくまに気付くが…
「アリア先生…目のし『ちゃんと寝るわよ…心配かけてごめんなさいね』…ならいいんですけど…」
もうやめてとばかりに制止するとレイカはやれやれといった声色でアリアに問う。
「キリンでもレイカでもどっちでもいいわよぉ。…にしても、こんなハードな事を教え子にいつもさせてるの?アリアちゃんは見た目通りドS?」
「私の可愛い教え子に挑発かましてくれたあなたの旦那をぐっちゃぐちゃに噛み殺したい程ドSよ?」
「それはレイカが悲しむからやめてちょうだいね…」
「あら?あなたは悲しまないのかしら?幸せそうに腕を組んで『だあああ!!何で知ってるのよ!?!?』…何故かしらね?」
「ホント、ドSだわぁ…」
特大のカウンターをもらい顔を真っ赤にするキリンだったがいきなり目元が億劫そうに変わると赤かった顔も元の色に戻る。
「キリン…照れてる…」
「レイカね?特訓はどうだったかしら?」
「頭…凄い使う…魔法と身体…同時に操るシャル…すごい…」
「それをキリンの力を借りられずに出来る様になったら一人前ね。めげずに精進なさい」
「うん…」
「それじゃあシャル、レイカを連れてお風呂に入って来なさい。ご飯を用意しておくわ」
「わかりました。…行きますか」
「うん……アリアちゃん、今度はワタシがあなたの顔を真っ赤にしてあげるから覚悟してなさい?」
「はいはい、頑張ってちょうだいね」
そして最後のシャルロットとレイカが部屋を出るとアリアは眠さで霞む目を擦りながら誰も入っていなかった空室の部屋を一瞥し…
「さて…今回の主人公達はどうしてるのかしらね…」
ここにはいない主人公達の事を考えながら大量の料理を作り始める…。
■
「…あークソ…身体は無傷なのに痛んでる気がしやがる…」
「ああ…俺も無傷なのに両腕がまだヒリつく感じがする…」
「俺も歩く度に軋む…身体がバキバキだ…テッタは大丈夫なのか?」
「僕?…んー、流石に筋肉痛だけど別に大丈夫かな?」
「オメェ…本当にハーフの黒猫か?頑丈過ぎんだろ…」
「お風呂気持ちいい~…」
「気持ちいい~…」
訓練を終えた男達…キース、アーヴェント、ルマ、テッタ、ガルム、ポトラは広すぎる湯船に浸かり自分達の身体を労わっていた。
「つーかよぉ…アリアって教師は何モンなんだよ?普通あり得ねぇだろ」
「え?何が?」
「何がって…オメェも大概ぶっ飛んでんな…こんな馬車持ってる事もだし、あの回復魔法にあんな凶暴な女が言葉だけで付き従ってる事もだよ」
「凶暴な女って…ユリ先生って呼ばないとまた殺されかけるよ?」
「…そのユリって女を言葉だけで止めてただろ?何モンなんだよ」
「何モンって言われても…僕達の先生でSSSランク冒険者でイオリと同じ透明の魔色を持っていて勇者様の友達だけど…そう言う事が聞きたいわけじゃないでしょ?」
「たりめぇだろ」
「俺も気になっていた。森人族しか知らない微精霊の事…更には精霊と言葉を交わす事だったり森人族が知らない事まで知っている…何者なんだ?アリア殿は」
「俺も気になるな…あの人は謎だ。どんな人なんだ?」
「んー…一言で言えば魔王かな?」
「「「は…?」」」
「魔法の王様で魔王だよ。魔法の知識や扱いに関してはこの世界の何処を探しても敵う人はいないと思うよ」
(まっ、魔王どころか魔神様だけど信じないだろうし、何に関しても敵う人なんてこの世界じゃシオリかイオリぐらいだろうし適当にはぐらかさないと…)
「…ケッ、紛らわしい言い方すんじゃねぇよ」
「魔法の王で魔王か…言い得て妙だな。だから俺にあんな精霊魔法を教えてくれたのか…」
「…なら同じ透明の魔色のイオリ・ユイガハマも魔王の素質があると言う事か?」
「あー…確かにイオリなら魔王って言っても納得出来るね。イオリのとっておきはまさに魔王って感じだから」
「…で?その魔王様はここに来ねぇのか?流れ的にくんだろ?」
「イオリは多分来ないよ?僕、未だにイオリと一緒にお風呂入った事ないし…多分まだターレア王子と訓練してるんじゃないかな?」
「「「…」」」
唯織は来ない、ターレアはまだ訓練しているというテッタの何気ない言葉にキース達は口を噤み…
「ワリィ、用事できたわ。ガルムとポトラを頼んだぞ」
「俺も少し外の空気を吸ってくる」
「のぼせたみたいだ…俺も少し外を歩いてくる」
「…」
一斉に立ち上がりお風呂場から出ていこうとするが…
「ダメに決まってるじゃん」
「「「っ!?」」」
「「お~!!!!テッタにーちゃん凄い凄い!!」」
「でしょ?」
湯船に溜まっていた淡い緑色の湯が意思を持った様に手の形を作ると出ていこうとするキース達を鷲掴みにして湯船に引き戻した。
「…っぷはっ!?…テメェ、何しやがんだ?アァ?」
「別に凄んだってビビんないよ?大して怖くもないし、虚勢を張ってるみたいだから誰彼構わずそうやって突っかかるのやめたら?」
「…久々にブチ切れたぜ…表に出ろこのクソねごぼぼぼぼあっ!?!?」
「はいはい…」
突っかかってくるキースをもう一度掴み湯船の中に引きずり込むとルマは目を丸くしてテッタに問う。
「テッタ…茶の魔色しか持っていないんじゃないのか…?」
「僕は茶の魔色しか持ってないよ?これは血統魔法で操ってるんだよ」
「血統魔法…そう言えばテッタの血統魔法って何だ?獣化じゃないんだろう?」
「僕の血統魔法は『生命』。ありとあらゆる物に命を吹き込む事が出来る血統魔法だよ」
「「っ!?」」
「「??」」
未だに溺れているキースを無視してテッタの血統魔法を聞いたルマとアーヴェントはその血統魔法がどれだけ凄い魔法なのか、どれほど恐ろしい魔法なのかを瞬時に悟り、いまいちわかっていないガルムとポトラは小首を傾げるだけだった。
「…神の魔法じゃないか…」
「ああ…ありとあらゆる物に生命を宿す事が出来る…それはもちろん…」
「アーヴェントが思ってる通り死体も含まれるよ」
「「…」」
「ぶはぁっ!?て、テメェ!!オレを殺す気か!?」
「殺すつもりならそのまま沈めてるよ…まぁ、僕はもう道を踏み外すつもりも無いから悪用なんてしないけどね」
「…流石だなテッタ。やっぱりお前が獣王に相応しいと思う…」
「やめてよ…僕はそんなのになる気なんてないよルマ」
「…その力がテッタに宿ってよかったと俺も思う。どうか今の言葉を違えないでいてくれ…」
「わかってる。僕はこの力を仲間の為だけにしか使わないよ」
「ハァ…?何の話だ?」
「僕の血統魔法の話だよ」
「アァ?どんな血統魔法なんだよ?」
「教えない」
「っ!…テメェ…!」
からかうテッタに乗せられるキース、ターレアを凌ぐテッタの神の御業とも言える血統魔法に畏怖と、その血統魔法を悪用しないという高潔な精神に感服しているとガラガラと音を立ててお風呂場の扉が開き…
「相すみませんがボーイズトークはそろそろ終了よ。さっさと揺れてるそれを隠してご飯を食べに来なさい。ご飯を食べてる時に計画の段取りを話すわ。以上」
「「「「っ!?!?」」」」
「「はーい!アリアせんせー!」」
ガルムとポトラ以外の男達は顔を真っ赤にして内股になった…。
■
「ふあぁぁぁぁぁ…ここは天国ですです…?」
「っすねぇ…より取り見取り…全員美味そうっす…」
「え…?美味そう…?」
「何でもないっすよ」
「そうですですか…」
(あー…天国ですです…)
(あー…生で血飲みてぇっす…)
湯船に浸かるユリとシフォン…シフォンは全てが魔道具で構成されている馬車を天国だと言うが、ユリはアリアの血をワインと言い張りながら口を付け目の前に広がる髪や身体を洗う女子達のうなじと背中に天国を見ていた…。
「ふぅ…失礼しますわよ」
そして身体を洗い終わったリーナが黄色い液体が入ったボトルを持って湯船に入るとユリはリーナの身体をまじまじと見つめると隣に行き口を開く。
「…?何ですの?」
「リーナっち結構育ってきたっすね?」
「…何言ってるんですの?」
「胸から腰にかけてのラインがいい感じっす!」
「馬鹿な事言わないでくださいまし。そんなスタイルをした人に言われても嬉しくありませんわ…んくっ…すっぱ…」
「まぁ、あたしに敵うスタイルの持ち主はあたしの上司かアリアっちぐらいっすからね~」
「上司…?ユリ先生は誰かの部下なんですの?」
「っすよ。『傲慢』の部下っす」
「傲慢…?なかなか物騒な名前ですわね…」
「っす。あたしが活動する部署の名前は『七つの大罪』っつうんっすけど、そこには『傲慢』以外にも大罪担当がいるんすよ。名前は物騒っすけど犯罪の取り締まりと治安維持活動の部署っすけどね?ちなみにあたしは『色欲』担当っす」
「名は体を表すとはこの事ですわね…」
(ユリ先生は吸血鬼とサキュバスのハーフで色欲と言う事は傲慢は純血の吸血鬼…?なら他の大罪は同僚で吸血鬼と何かのハーフ…疑ってはいませんが本当に多種多様な魔族との共存を実現しているんですのね…わたくしもそんな王になりたいですわ…)
周りに聞こえない様に小声で話していると身体を洗い終えたリーチェとティリア、ティアの三人が湯船に浸かった。
「ふむふむ…ティリアっちはまだまだ成長中っすか…将来楽しみっすね?」
「あ、あまり大きくなると腕の動きが制限されるのでもう成長しなくていいです…」
「リーチェっちも大分育ったっすね?」
「…まぁ、ティリア程ではないですがそうですね…前よりかは…」
「そしてティアっち…これは水人族の血統魔法が影響してんっすかね?ティリアっちと同じぐらいあるじゃないっすか」
「そ、そうなんですかね…?」
「水人族は自分の容姿や匂い、声、仕草を武器に精神支配を掛けるっすからねぇ…いい武器持ってるっすよ!」
「あ、ありがとうございます…」
ティリア以外はユリに言われても…と微妙な表情を浮かべるがティアは表情を改め反対側で溶ける様に浮かぶシフォンを見つめた。
「シフォン学園長がここにいらっしゃると言う事は…」
「っす。明日、つーか今日、この王都は魔獣に襲われるっす」
「……私…ちゃんと守れるでしょうか…」
「な、何言ってるのお姉ちゃん!その為に頑張ってきたんでしょ!?お姉ちゃんは一人じゃないよ!」
「そうですわね。わたくしは皆さんとの特訓には参加していませんが努力しているのは見ていましたわ。一人で背負いきれないものも信頼出来る誰かに預けるだけでびっくりする程気持ちが軽くなりますわ」
「そうですね。別に一人で守り切れなくても私が稽古を付けた駄犬も微力になるでしょうし、他の人もいます。全て一人で背負う必要はないです」
「ひゅ~!一人で突っ走ってたお姫様二人は言う事に重みがあるっすねー!」
「茶化さないでくださいまし…」
「うっ…」
ユリの言葉にリーナとティリアが顔を赤くすると後ろから身体を洗い終えたアンジェリカとフレデリカが湯船に浸からずに身体を見せつける様にポーズを取りながら口を開く。
「まぁ、人事を尽くして天命を待つではないが私達は自分達で考え出来る事を全力でやり、間違いなくやれる事を一生懸命やってきたんだ。それでも手が届かないのであれば誰かに寄りかかればいい。それがティアが欲していた仲間という奴だろう?どうだろうかユリ教諭?」
「胸はティリアっちとティアっちの方が大きいっすけどやっぱ成長期の一年の差はデカいっすね!引き締まった無駄のない身体に出る所は出てて引っ込む所はしっかり引っ込んでてエロイっす!」
「ティアは少しエルダの脳筋を見習った方がいい。やる事はやった、不測の事態はその時考えて柔軟に対応する。不測の事態に備えておくのは大事だけどその不測の事態は突拍子も無く備えられないから不測の事態って言う。だから不測の事態に心を折るんじゃなくどうにかする為に仲間が必要で大事。違う?どう?ユリ教諭」
「全てを共有してるからっすかスタイルも狂い無いっすしいいポーズっすね!エロいっす!男ならいちころっす!」
「そうだろうそうだろう!」
「私達完璧双子。お姉さんの余裕ってやつ」
「…凄くいい事を言ってくれたはずのに何だろうこの感じ…」
「まぁ…慣れてくださいまし…」
恥ずかしげも無く身体を披露し湯船に浸かるとタオルで身体を隠したエルダがひっそりと湯船に浸かろうとするが…
「あ、エルダっち湯船にタオル付けちゃダメっすよ!」
「なっ…きゃあ!?」
「おほー!つんつんなのに乙女な悲鳴っすねー!身体もエロイっすしいいっすねー!」
ユリにタオルを奪われ女性らしい身体を隠す為に湯船に飛び込むエルダ…。
「おー、脳筋なのに身体はぷるんぷるん?」
「おまっ…!女なんだから当たり前だろ!?」
「それをあそこで浮いているシフォン学園長の目を見て同じ言葉を言えるか?」
「ふあああ…極楽なんですですぅ…」
「ぐっ…」
完全にアンジェリカとフレデリカの玩具にされているエルダは恥ずかしさで口元まで湯船に浸かり、豊穣の宴亭以来まともに言葉を交わしていないティアはそんなエルダの隣に移動しポツリと呟く…。
「エルダ…まさかあなたもこの計画に参加してるとは思わなかった…」
「…それはこっちのセリフだ」
「そうだね…今回の計画…頑張ろうね」
「…そうだな、仲間の為に頑張ろう」
そう言って拳を合わせようとした時、二人の隣にターニャとレイカが座り二人も拳を突き出した。
「私も…頑張る…仲間の為…」
「…ウチはターレアを見捨ててレ・ラーウィス学園に行こうとしたお前らを今すぐ許す事は出来ねぇ。…でも今回はお前らの力が必要だからな…仕方なく今は許してやる…」
一度はバラバラになった仲間達が一つの目標の為に拳を合わし数時間後に始まる計画に思考を回していると…
「ふぅむ…レイカっちもなかなかいい物持ってるっすね…」
「ん…キリンも私の身体…いいって言ってた…」
「ターニャっちは…うん…シフォンっちと同じ層に需要あるっす!」
「ウチを可哀そうな眼で見んじゃねぇ!!」
「そーだよユリちゃん。ターニャはもう成長しないんだから…なむなむ…」
「なむっす…」
「お、お前も変わんねーだろシオリ!!」
ユリがターニャとレイカの身体を品定めし、ようやく洗い終えた詩織もターニャをからかいながらゆっくりと湯船に浸かりぷかぷかと浮き始める。
「んー私はばいんばいんになる事が約束されてるしね~…」
「ぐぬぬ…!」
「んー?でもあれって魔法を使った姿っすよね?普通に成長したらああならない可能性もあるんじゃないっすか?」
「えっ!?そうなの!?」
「さぁ?わかんないっすけど…後7年の間にこの身長と体系からあそこ迄成長するとは思えないっすけど…」
「…ま、まぁ、魔法使えばあの身体だし?別に問題ないっしょ!」
「詩織っちがそれでいいならいいっすけどね?飾らない美しさってのもあるんっすよ?」
「うぐぐ…!」
「ハッ!ようこそこちら側へ!!」
「勝手にそっちにカテゴライズするな!!」
「ふぅむ…大きさ的にあたしが一番大きいっすけどあたしを抜いたら…ティリアっち=ティアっち>レイカっち=エルダっち>アンジェっち=フリッカっち>リーチェっち>リーナっち>シャルっち>>>>>詩織っち=ターニャっち=シフォンっちっすね。リーチェっちもリーナっちもシャルっちも大分成長しちゃったすからね…驚異の格差社会っす!」
「「ぐぬぬ…!!」」
「ふあぁ…お胸なんて無くていいんですです…動き辛いし肩凝っちゃうですです…私はこれ以上肩凝り増やしたくないですです…」
「これが大人…合法ロリのシフォンっちの一人勝ちっすね!」
「いえいですです…」
体系の事や魔法の事、訓練の事や計画の事に話の花を咲かせ男達の中で誰が一番気になるかという一番楽しくなりそうな話が始まる時…お風呂場の扉からコンコンとノックが響く。
「相すみませんがそろそろご飯だから上がってちょうだい。ご飯を食べながら計画の流れを伝えるわ」
「おっとぉ…お楽しみはまたいつかっすね。んじゃ、計画を成功させる為に一杯食うっすかー!」
何人かは助かったと安堵し、何人かは話が聞けなかったと不満そうにし…そんな女子達も訓練で疲れた身体はご飯を求めてお腹を鳴らすのだった…。




