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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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メイドと主

 





 王城に潜入した日から六日…ユリは日の光と温室の心地よさの中で全く動かないフローラの少し後ろに立っていた。



「フローラ様、お口に合いませんでしたか?」


「……」


「ではこちらのハーブティーはいかがでしょうか?私が調合したものでストレスの緩和に効果があります」


「……」


「こちらも気分でなければ鬼人族の方々が好んで飲まれている緑茶というものもございます」


「……」



 真っ白のテーブルには各地で愛飲されている紅茶やどこから仕入れたのかわからないお茶で溢れかえるがどれだけ声をかけても一言も喋らないフローラ…だが、そんな無駄にも思える時間が今のユリにはとてもありがたい時間だった。



(はぁ…頭パンクしそうだったっすけど今回の件に関わった事のある一般人2()4()3()()全員にマーキング終了したっす…後はバートが纏めてる筈の王家の汚職の数々と第一王子陣営と第二王子陣営の貴族の洗い出し、地下の現場の確認っすね…くぅ…生で魔王様の血飲みたいっす…さて…そろそろこの無口さんとも喋るっすか)



 王都リアスに放った蚊から流れてくる今日のご飯どうする?というどうでもいい会話から今日あの家に押し入る等全ての情報を遮断すると、真っ白のテーブルに置かれた大量のお茶を銀色のブレスレットの中に入れ、何にも反応を示さないフローラを必ず反応させるとっておきの物をテーブルの上に置いた。



「お茶ではなくお食事をご所望でしたか。こちら、魔王領内に生息しているドラゴンの尻尾肉でございます」


「…え?魔王領?ドラゴン?」


「やっとお声を聞かせてくださいましたか、フローラ様」


「あ…」


「お口をお開けくださいませ。とても美味しいですよ」


「ちょ、ちょっと…」



 しまったという風に口を手で押さえるフローラの手を優しく退かし一口サイズに切り分けた尻尾肉を口にねじ込むと…



「…っ!?お、美味しい…!?」


「後はご自分でお召し上がりになりますか?それとも食べさせましょうか?」


「……」


「ではこちらと一緒にお召し上がりください。交互に召し上がるとよりお肉のうまみが引き立ちます」



 ナイフとフォークを受け取り、目を覆っていた布を外し追加で出されたみずみずしい野菜サラダと一緒にゆっくりと口に運んでいく。



「いかがですか?」


「…とても美味しいわ」


「お褒め頂き恐悦至極でございます。隣、失礼致しますね」


「……」



 メイドのはずなのに主人の返答も聞かず隣に座るユリにキョトンとしながらも食べる手を止めないフローラはユリが飲んでいるものを見つめ少し頬を染めながら言う。



「…さっきのお茶を頂戴」


「どのお茶がよろしいでしょうか?私のおすすめとしましてはお肉が濃い味付けですので緑茶か麦茶、ウーロン茶がよろしいかと」


「麦…なら麦茶って言うのがいいわ」


「かしこまりました。こちら麦茶でございます」



 ティーカップではなく大き目のジョッキに麦茶を注ぐとフローラは…



「んっ…んっ!?んっ………ぷはっ…お、美味しい…飲んだことないわ…!」


「どうぞ、おかわりです」



 とても上品とは思えないジョッキを空に向けた一気飲みを披露し新たに注がれる麦茶を待ちつつガツガツと肉を貪っていき…ユリはポツリと呟く。



「それが本来のフローラっちの姿っすか」


「っ!?……そうよ、なんか文句ある?」



 いきなり話し方が変わったユリと自分が無意識に今までの食べ方をしている事に気付き一瞬手が止まるがそれでも肉を貪っていくフローラにクスリと笑みを浮かべ言う。



「んや、全然ないっすよ。冒険者なんて自由を体現した職に就いてたのにいきなりお姫様に仕立て上げられて礼儀作法を押し付けられちゃ我慢しっぱなしで窮屈で退屈で仕方なかったんじゃないっすか?」


「…もしかしてあなたも冒険者だったの?」


「そんなところっす。だからあたしがフローラっちの傍付きになったんじゃないっすかね」


「そうなのね…ずっと無視して悪かったわ…堅苦しいのが苦手で私もこんなだからボロを出さない様にするのに必死で…」


「全然いいっすよ、無視されてる時間も有効活用出来たっすし。流石に人前じゃあれっすけど、二人っきりの時はこんな感じの方がいいっすか?」


「ええ、その方が助かるわ」


「うっす。…でも実際、傍から見ればフローラっちって人生勝ち組じゃないっすか?命の危険が付きまとう冒険者から一気に一国のお姫様…成り上がりにしちゃ最上級っすよ?っと、お粗末様っす」



 ユリがそう言うとフローラは食べつくした皿に手を合わせドレスで窮屈なお腹を抱えながら空を見上げ諦めた様な声色で気持ちを吐き出していく。



「冒険者だった頃は食うものには困らなくてもお金も実力も足りない平民のDランク冒険者…いつかはなんかの依頼で命を落として誰の記憶にも残らず、人並みの幸せも無く死んでいくと思ってたのよ?それがひょんなことから王子様と結婚出来て王族になるなんて最高の人生じゃないって最初はそう思ったわ…」


「けど、現実はそんな夢物語じゃなかったんすね?」


「ええ…何もかも私が思い描いていた生活じゃなかった…これなら冒険者として何処かで野たれ死にした方が幸せだったわ…」


「まぁ、礼儀作法とか覚えるのってすっごい神経使うっすもんねぇ。食べ方一つチクチク小言を言われちゃぁそう感じるのもやむなしっすね」


「それだけじゃないわ…」


「他にはどんな事があるんっすか?」


「……」


(まっ、言うわけないっすよね。六日間、四六時中一緒に居たとしても話したのは今日が初めて…信頼関係なんてあるわけないし…でも、これで唯一気が許せる相手としてこれから関係を築いていけるっすね)


「まぁ、言い辛い事もあるっすよね。無理に言わなくていいっすよ」


「…色々気が利くのね?」


「ご主人様のご希望に沿うのがメイドっす。本当ならお酒でも煽って吐き出したいもんを聞いてあげたいっすけどね」


「…こんな関係じゃなく友達としてあなたと出会いたかったわ」


「きっとこんな関係じゃなかったら会わなかったすよ、あたし達は」


「…それもそうね。お互い冒険者じゃなくなったからここでこうして出会えたわけだし…」


「そうゆう事っす。てなわけで…」


「んぷっ!?じ、自分でやるわよ…」



 食べ終わった皿やグラスを片付けフローラの口の周りを綺麗にしたユリは恭しく頭を下げ…



「フローラ様、社交ダンスのレッスンのお時間となりました。お召替えのお時間もございますので一度自室へ参りましょう」


「…スイッチの切り替え早すぎない…?わかったわ…」



 やりたくないオーラを出しながら目に布を巻くフローラをレッスンへと連れていく…。



 ………



「で、これで情報は全部っすか?」


「は、はひ…あるひひゃま(主様)…」


「そっすか」



 書類を捲る音と湿り気を帯びた吐息…椅子に座り書類を読むユリに横顔を踏みつけられ顔を赤くしているバートという異様な光景の中、綺麗に纏められた情報を何度も読み返し頭に叩き込んでいく。



(なるほど…第一王子のアルニクスは頭を使うより軍を率先して率いて自分が前に行って力を誇示するタイプで、支持してくれてる貴族の傾向は国境付近を領地に持つ貴族…これは戦争になった際に戦地になりやすいから支持して王家からの増援をもらいやすくするとかそんなとこっすかね。そして第二王子のテルナーツ…こいつは徴税や政治にも関わっていて、地方貴族より王都内の貴族達から絶大な支持を受けていて地方貴族からの支持は一切なし、王都周辺の貴族からは支持あり…その理由は徴税で絞って肥やした資金を派閥貴族に横流ししてるから…そりゃ煽りを食らう地方貴族は金だけ毟ってく奴より力を見せつけたいだけの馬鹿の方がいいっすよね…)



 第一王子傘下、第二王子傘下と大見出しで括られている家名とその家が納めている領地を照らし合わせ傾向に当たりを付けると次のページで大きくため息を吐く。



(そりゃ…そっすよねぇ…実績も無けりゃ表に露出してる情報は道楽王子、残念王子のレッテル…第三王子は何の後ろ盾も無し…王位継承権があったとしても支持を得られていない時点で実質リタイア状態…この状況でこの国の王にするにはやっぱ魔王様の案でガツンとしかないっすか…)



 ターレアの現状に首を傾げ、どうにもならない現実に目を背けながら次のページを捲るとムーア王国の国王と王妃の情報がユリの目に飛び込んでくる。



(国王の名前はクルセント・ムーア。王妃はテルーシャ・ムーア。クルセントはかなり優秀で先代の国王が各国に負っていた莫大な負債を返済するだけではなく、ハプトセイル王国と友好を結ぶ足がかりを作った功績を認められ国王になった人物…それがここ最近はターレアが二つの血統魔法を発現させた事によって人が変わり、シフォンっち及びムーア王国国家直属魔道具開発部門所長、シギル・アンテリラと同じ直属魔法開発部門のフラン・アンテリラ、第一王子、第二王子を使ってその秘密を知る為に、特に第二王子を使ってかなりあくどい事もやっている…同様に王妃も血統魔法を二つ発現させたターレアを生んだ事で自分に特別な力、特別な才能があると感じて気に入った男達と身体を重ねて次の子供を作ろうとしている…そしてお金や宝石に目が無い…うーっわ…あの人攫いの計画、()()()()()なんすか…んで、それを第二王子がブラッシュアップして、明るみに出たらまずいのを国王がもみ消して…うわっ…ロイヤルナイツもその明るみに出たらまずいのをもみ消す為の組織だったんすか…えぐぅ…)


「よくやったっす」



 まさか国民の為に治安を守るはずの顔の見えないロイヤルナイツがターレアの首を絞める組織だったという事に吐き気を感じ書類を空間収納にしまうとバートの顔から足を退かした。



「お褒め頂き恐悦至極にございます…」


「…ターレアが王になる為には何が障害でどんな結末が一番丸いと思うっすか?」


「…やはり障害となるのはクルセント国王様、テルナーツ第二王子様かと。アルニクス第一王子様は国境付近の地方貴族には支持して頂いておりますがそれは戦争になって戦地となった時、優先的に援軍を送ってもらう為の支持であってお世辞にも国を治める器ではございません。テルーシャ王妃様に限っては堕落を貪るばかりで国営に一度も関わった事はございません。結末としてはクルセント様のお食事に微量な毒を盛り続け体調不良を起こさせ表舞台からの退場及び新国王の王妃となる方がいらっしゃれば同時にテルーシャ様も退場、その表舞台から退場するまでの間にターレア第三王子様に王としての器を国民に示して頂く。それと同時並行でテルナーツ様が行った汚職を第二王子傘下並び第一王子傘下の貴族へ噂という体を取りつつ、これ以上関わるとお家が無くなると言う不安と共にロイヤルナイツが動いているという旨を合わせて伝え、自然と手切れと信用を失わせる…アルニクス様に関しては地方は武力、王都周辺は賄賂での繋がり故、国境付近に盗賊被害を多発させ配備による資金の枯渇を促せば自然と両方を断てます」


「流石執事長だけあって丸く収める方法を熟知してるっすねぇ。予測でどれぐらいで出来ると思うっすか?」


「……7年…いえ、5年は掛かるかと」


「その間に国王と第二王子の企みは?」


「確実に成果を実らせているかと」


「それじゃ遅いっすね。そんな待ってたらターレアはバラバラになって魚の餌か犬の餌になってるっすわ」


「主様の希望としましてはターレア第三王子様を国王に置きたいと言う事でしょうか?」


「そっす。…でもまぁ、その話が聞けて良かったっすわ」


「さようでございますか。お力になれた様でなによりでございます」


「っし、んじゃあたしはフローラっちを迎えに行ってくるっすからまた情報が入ったら報告するっす」


「かしこまりました」



 執事長の部屋を出てオレンジ色の空を見つめたユリは…



()()()()()()()()()()()()()()()()()…)



 レッスンで疲れたであろうフローラの元へ向かう…。

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