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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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色欲の女王

 





「ざっと見渡しただけで監視が20人…城外、城内を徘徊してる兵士を合わせたら60人弱…」



 アリアに頼まれた魔道具をシフォンが完成させるより少し時は遡り…リーナと別れ、王都の地下の存在を知ったユリは羽を羽ばたかせムーア王国の王城を空から見下ろしていた。



「蚊じゃ書類を捲ったり本棚から取り出したり出来ない…かと言って大型になると感づかれる…やっぱメイドに扮して潜入が一番よさそうっすね…この時間ならここには誰もいないはず…っと」



 ここに来るまでに姿を別人へと変えた事が正解だったと改めて感じたユリは夜空の暗さに紛れ城壁の内側、更に隅っこにある茶会の雰囲気にピッタリな花と木々で囲まれた白い透明な温室の傍に着地すると、素早く温室の中に誰かいないか確認する。



「明かりもついてないっすし誰もいなさそう…ん…?」



 明かりのついていない温室を見渡しその場を離れようとしたユリは温室の中に身動ぎ一つせず何もない真っ白の机に付き背景と同化している豪華なドレスを纏い、白い布で目を隠した紫髪の女性を見つけた。



(こんな時間にこんな所であの人何してんっすか…?全く身動きしないから置物かと思ったっすよ…でもドレスに眼帯っすか…ワンチャン、フローラさんだったりしないっすかね…)



 メイド服のポケットからメモ帳を取り出しドレスの女性の似顔絵をそっくり描き移していると耳たぶに付いたピアスから聞きなれた愛しい人の声が響く。



『ユリ?今何してるのかしら?』


『…今、王城に潜入中なんであんま声出せないっす』


『あら…通信切った方がいいかしら?』


『大丈夫っす。魔王様の声が聴ければそれだけ頑張れるっす』


『大げさね…私は今、酔いつぶれたクルエラを宿まで運んでるわ』


『そのまま送り狼しちゃダメっすよ?みんなにチクるっすからね?』


『しないわよ。そっちは何か進展あったかしら?』


『っすねぇ…スラムの人間を縄、糸って言って捕まえてる小悪党をとっちめてその縄と紐を集めてる奴の居所を探ってるっす。ちなみに地下にその縄と紐を保管する場所が二か所あるってところまでっすかね』


『…縄…糸…既に()…特に()()()()()は二つの可能性について感づいてたのかしら…きっともう始まってるわよね?』


『んー…素材集めの現場は見たっすけど、加工現場は見てないっすから断言は出来ないっす。でも、加工は既に始まってるってのがあたしの憶測っすね』


『なるほどね…限りなく黒に近いグレー…もし加工品とかを処理するなら絶対に私に言ってちょうだい。こんな事でユリの手を汚したくないわ』


『それはあたしも同じ事を言えるんっすけどね…』


『絶対にダメよ』


『………っす。とりあえず手に入れた情報は逐一流すっす。計画開始までの間は王城に潜入してると思うんで反応出来ない事もあると思うっすけど』


『わかったわ。無理だけはしないでちょうだいね』


『うっす』



 ………



「……はぁ、ほんっと自分はいい、あたし達はダメの鬼ルール…あたし達だって少しは魔王様の重荷を一緒に背負いたいんっすよ…困った魔王様っすね…」



 通信を切り、アリアに呆れ交じりのため息をついたユリは似顔絵を描き終え自分の指を牙に当て一滴の血を出すとまた真っ赤な蚊を飛ばした。



(さてと…じゃあそろそろ……っと、誰か来るっすね)



 物陰から出て王城に潜入しようとした時、早速飛ばした蚊の視界にこちらに向かってくる人物を見つけもう一度物陰に隠れると…



「…またここか、()()()()。王城とは言え、ここまで来るのにかなり歩かないといけないから自分の部屋に居て欲しいんだがな?」


「…別にいいでしょ…私にはここしかないんだから…」


(赤髪ロン毛の眼鏡…第二王子のテルナーツ…紫髪の眼帯女性がフローラさんっすか…)



 放った蚊から聞こえてくる声…複雑に編み込まれた長い赤髪に知性的に見える眼鏡をかけた男、第二王子のテルナーツ・ムーアと背景に紛れていた女性がフローラだという事がわかる。



「…チッ、仕事だ。さっさとこい」


「痛い…私はもう…」


「…何度言わせるんだ。お前は()()()()さえしていれば一生食うに困らず、欲しい物は何でも手に入るんだ。この生活を捨ててまた役に立たない冒険者に戻るつもりか?」


「……」


「お前の血統魔法に有用性を見出し、お前の生活を良いものにした俺に感謝すれど恨まれる筋合いはないと思うが?どうなんだ?」


「……」


「わかったらさっさとこい」


「っ…」


(うわーでたでた…典型的な押し付け俺様タイプ…普通ならお断り確定っすけど王族のあんなのに見つかってご愁傷様っすねぇ…)



 フローラの細い腕を強引に掴み引っ張るテルナーツに吐き気に似た不快感を感じたユリは眉を顰めるとフローラ達の後を追わず、蚊から聞こえてくる二人の会話に意識を向けながら警備が徘徊する王城の中へ…正確にはとある人物がいる場所へと向かう。



「今日は縄と糸、合わせて6()だ。それが終わればいつも通り好きにしていろ」


(6本…あたしが…違う違う、勝手に天罰下った奴が1なら他の5は別の所から集めたのかそれより前に集めたのか…今回の事に関わってる加工者と輸入者は全員計画のどさくさで処理しちゃった方がいいっすね…これはかなり骨が折れそうっす…)


「6…そんなに…」


「そんなにだと?それしかの間違いだろ?」


「………人の命を何だと思っているの…」


「…何度も同じ問答を何時まで続ければいい?国民が稼いだ金や育てた野菜や肉を盗み、あまつさえこの王都に無断で住み着いた害獣共に人の命などない。逆にその害獣共を駆除し、国民に安心を与え未来の発展の為にわざわざ世界を統べる事になる俺が有効活用してやってるんだ。未来の礎になれた事を喜んでもらいたいぐらいだ」


「…本当に人間の屑ね…うっ…」


「口には気を付けろ。お前も同じ穴の貉だという事を忘れるな」


(…フローラさんは自分から望んで参加してないって事がわかっただけよかったっすわ…って、外に出るわけじゃない…まさか王城から隠し通路でも伸ばしてんっすか?)



 平手で頬を赤く腫らしながらも歩幅も合わせる事のないテルナーツの後を追うフローラ…そして仕事で地下に行く為に外に出るのかと思いきや、食材がぎっしりと保管されている食糧庫らしき部屋に入る二人。



(流石に仕掛けが分からないと静かに開けれないっすからねぇ…しっかり見学させてもらうっすよ)



 そして予想が当たり野菜が詰められた木箱を乱暴に退かし部屋の隅の床に座り込んだテルナーツの行動を記録しようとポケットのメモ帳に手を伸ばした時…



「…そこの使用人」


(うあっちゃぁ…声かけられたっすか…しゃあなしっす)


「は、はひぅ!?」


「っ!?」



 前から来ていた巡回中の兵士に声を掛けられびっくりした演技をするとその声に驚いたのか兵士もびくりと身体を震わせた。



「す、済まない…驚かせるつもりはなかったんだが…」


「す、すみません…こちらこそ大きな声を出してしまって…ご、ご用件は何でしょうか、騎士様?」


「騎士様…いやなに、見かけない顔だと思って声をかけたんだが新人か?」


「はい、昨日からお使い頂いているシャーリィと言います」


「新人…()()()()()()()()()…」


「…?」


「いやなに、こちらの話だ。シャーリィ…ふむ…昨日と今日は俺が巡回していたが昼間に一度も会わなかったな?」


「そうですね…まだまだ使い物にならないと執事長のバートさんにご指摘頂きまして…」


「ああ…あの人は完璧主義だからな…初日から目を付けられるなんて気の毒だな」


「いえ…平民の私を使用人として使って頂けるだけありがたい事です」


「そうか。…ところでこんな時間にどうしたんだ?」


「お仕事についてわからない事があったのでバートさんに聞きに行こうと思いまして…でも…まだお城の中が広くて覚えきれてなくて…」


「なるほどな…一応執事長の部屋はこのまま真っ直ぐ進んで二つ目の部屋だ。そこまで連れて行こうか?」


「親切にありがとうございます。…ですが警備のお手を煩わせてしまうのでお気持ちだけ受け取っておきますね?」


「む…そうか…呼び止めて悪かった」


「いえ、巡回お疲れ様です」



 ユリの満面の笑みに顔を赤くした兵士は少し足取りが軽くなったように歩いていくがユリは内心舌打ちをしていた。



(…んあ~…仕掛け床の解除方法と二人を見逃しちゃったっす…まぁ、時間はまだあるっすしゆっくりとやるっすかねぇ…)



 本来の目的地である執事長バートという人物の部屋の扉を軽くノックすると如何にも堅物そうな声が響く。



「こんな時間に何事ですか?」


「夜分遅くに失礼致します。バート執事長、テルナーツ第二王子様から言伝を頂いておりますのでお伝えに参りました」


「ふむ…入ってください」



 扉からガチャリという音が鳴り、ドアノブが回る事を確認するとユリは自分の中にある()()()()()()()()を強く意識し…



「テルナーツ様からの言伝と…貴女、誰ですか?」


()()()()…『色欲の誘う腕(ラスト・フォールン)』)


「っ!?!?…うっ…」



 自分の影から伸びる触手の様な闇がバートに触れるとバートは目を見開きながら涎を垂らし、身体を痙攣させながら床に伸びてしまう。



「ふぅ、いっちょ上がりっすね」


「うっ!?ああああああっ!?」



 ズボンを濡らし痙攣するバートの手に触れると一際強く身体を跳ね上げ、細い針で指先を突き刺すと今度は喘ぎ声を漏らし始めるがユリは無視して自分の指先にも牙を当て一滴の血を出し、バートの指先に浮かんだ一滴の血を取り自分の血を混ぜ合わせるとバートの瞳が赤くなり嬌声がピタリとやんだ。



「…っと、これで()()()()()っす。バートさん、あたしの仮眷属になった気分はどうっすか?」


「…はい、最高の気分です」



 まるで絶対の忠誠を誓う騎士の様な振る舞いで片膝をついて首を垂れるとユリはバートが座っていた座り心地のいい椅子に腰を掛け窓から見える満月を見つめながら口を開く。



 そして…



「そっすか。んじゃ、命令するっす。まず一つ、仮契約が切れた時、あたしとの仮契約中の出来事の記憶を全て忘れるっす」


「かしこまりました」


「二つ、あたしの事をテルナーツの傍付きにするっす」


「お言葉ですが主様。テルナーツ第二王子は傍付きになった従者に夜伽を必ず命じられます。更にその行為はまるで玩具を扱うか如く…そのせいで何人もの者達がこの仕事を辞めておりますので承服致しかねます」


「うぇ…さっきの事はこれだったすか…んじゃ、フローラさん専属の傍付きにするっす」


「かしこまりました」


「三つ、王族に関する情報、貴族に関する情報、国に関する情報を知っている限り全てあたしに話すっす」


「かしこまりました。話が長くなる故、主様のお茶菓子等をご用意させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「いらないっす」


「かしこまりました。では…」



 ユリの王国の闇を暴く王城潜入が始まる…。

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