常識外の存在
「っ!?あの子な、何をしたんですの!?」
「じ、地面から何かを引っ張り出してそれに火の付与魔法をかけて振ったら剣になった…!?」
茶色の魔色を持っていないメイリリーナとリーチェはアリアの黄金の剣に対抗する様に地面から剣を作ったシルヴィアに驚きの声を上げるが茶色の魔色を持っているテッタとシャルロットは別の意味で驚きを露わにした。
「あ、あれは…小人族の血統魔法ですか!?」
「し、シルヴィアさんは小人族の血が入ってないはずだから違うと思う…!でもあんな精巧な土魔法見た事ない…!小人族の血統魔法って言われても納得出来ちゃう…!」
シルヴィア自身は何気なく作り出した剣…それは小人族のみが使える血統魔法と引けを取らない程完璧に作り出された物の様に四人の目に映っていた。
「「「「……」」」」
それをただの土魔法と火魔法、氷魔法で作り上げてしまったシルヴィアの姿を見つめた四人は…
「「「「消えたっ!?」」」」
瞬きもせずに見つめていたのにも関わらず土埃も起こさずに姿を消したシルヴィアを探した瞬間、気を抜いてしまえば吹き飛ばされてしまいそうな風が四人を襲う。
「「「「きゃあああぁぁ!!!」」」」
「…すごい…」
離れていてもこれだけの衝撃を放った二人…シルヴィアとアリアを静かに見つめていた唯織は小さく声を漏らした…。
■
「へぇ…!!だいぶ剣の扱いが上手くなったんじゃないかしら!?前はただ棒を振るう様に使ってたものね!?」
「…めっちゃ練習したっ!」
剣がぶつかり合う度に凄まじい衝撃と音を生み出すシルヴィアとアリアの斬り合い…その速度は徐々に上がっていき一瞬で10合、20合と剣がぶつかり合う回数を増やしていく。
「でも悪いけれど単なる斬り合いじゃ私に傷なんかつけらんないわよ!?」
「…そんなの知ってる!だからその円から押し出す!!」
「それも無理だわ!!」
「…それも知ってる!…今のままなら…ね!」
「何か秘策でもあるのかしら!?」
「…単純にごり押すだけ!!」
「ハッ!ならさっさとごり押してみなさい!!」
「…ならお望み通り!!」
凶悪な笑みを浮かべながら斬り結ぶシルヴィアとアリア…だが、シルヴィアは強烈な一撃を振るってわざと強烈な衝撃を生み出し、反動を利用しながら地面に手をついて滑る様にアリアから距離を取ると…
「…さっき言ったよね?剣は魔法で作っていいって!」
「…?っ!?ま、まさか!?」
滑りながら手をついた部分から特大の金属塊を生み出して校庭から抜き放ったシルヴィアは真っ黒の片手剣を作った要領で金属塊に炎を何度も何度も纏わせてドロドロに溶かし、巨大な剣の形を作り出して凍らせ…
「…ふふん。名付けて魔王殺し」
氷の鞘を砕くとまるで神話の巨人が持つ様な真っ黒の特大大剣が姿を現し、シルヴィアは両手でしっかり持ち上げながら満足そうに鼻を鳴らす。
「ちょ、ちょっとシルヴィ!?流石にそれはやり過ぎじゃないかしら!?それに名前が不吉よ!?」
「…これぐらいが丁度いいのだ。いくよ?アリア先生」
魔王殺しを空に向けて掲げ…
「ちょっとタイム!ストップ!!それは不味いわ!!!校庭が割れるわよ!?!?」
「…後で直せば問題なし。せーーーー…」
魔王殺しを後ろに振りかぶり…
「シルヴィ!?話を聞きなさいよこの馬鹿!!何はしゃいでん『のっ!!!』っ!?バカバカバカ!!」
魔王殺しをアリア目がけて振り下ろした。
「あぐっ!?!?!?!?うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!!!!」
超重量の魔王殺しを両手で横に持った黄金の剣の腹で受け止めたアリアは全身にかかる重さに女性らしからぬ声を上げ…
「ほんっとうに馬鹿!!シルヴィ!!!!あんた減点だから覚悟しなさいよ!?!?」
「…ほらほらアリア先生踏ん張って?校庭が割れちゃうよ?」
「誰の…せいだと…思ってんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
そしてアリアは足元に描いた円がだいぶ前にある事に気付いて敗北を感じながら時間をかけてゆっくりと魔王殺しを校庭に降ろした…。
■
「…シルヴィすごい…あんな剣…僕だったら振れるかな…?」
「ちょ、ちょ!?え!?い、イオリ君!?何でそんなに落ち着いているんですか!?」
「え…?」
戦い終わったシルヴィアがアリアに怒られている姿を見つめていた唯織はシャルロットの大声を聞いて反射的に声を漏らした。
「え…?じゃないですよ!?何なんですか今のは!?」
「え、えっとぉ…」
「そ、そうですわよ!!いったいシルヴィアさんは何なんですの!?」
「あんな剣技見た事ありません…というか見えませんでした…何なんですかあれは…」
「あ、アリア先生も凄いけどシルヴィアさんも凄かった…イオリ君…何かわかる…?」
「っ…」
今までこんな風に話しかけてくれる人が居なかったのに特待生クラスに入ってからたった数時間…こうまで変わるものなのかと皆の気迫に気圧されながらも唯織は今の戦いで理解した部分を呟いていく。
「…えっと、まず最初にシルヴィは地面から剣を作りましたよね?あれは僕とシルヴィの師匠の得意技なんですが…土の中に金属が含まれてるのは知っていますか…?」
「つ、土の中に金属…?どういう事なんですか…?掘っても金属なんて出てきませんよね?金属って鉱山にあるんじゃないんですか…?」
「いえ、実はあるんですシャルロット・セドリックさん。土の中にも本当に微量…目でも見えない程微量なんですが金属や金属と同じ様な成分って言うのが含まれているんです。それをシルヴィは土魔法でその成分だけを吸いだして手元で固めたんです」
「え…?え…?ど、どうしてそんな事が出来るんですか…?それにその成分?って言うのは目に見えない程小さいんですよね…?」
「どうしてそんな事が出来ると言われましても魔法で集めたんですよ…その目に見えない物を魔法で…」
「…?…?…?り、理解できません…」
「そうですよね…僕も最初、師匠から教えてもらった時は理解できませんでした…えっと、それでですね?その集めた金属を炎で熱した理由はわかりますよね?」
「…それぐらいは誰でもわかります。金属は熱すると溶け、様々な形に加工できる…ですよね?」
「はい、そうですリーチェ・ニルヴァーナさん。…なら、今リーチェ・ニルヴァーナさんが腰に吊るしている剣はどの様に作られるかご存じですか?」
「ええ、自分の剣を打って頂いた時にその工程を見させて頂きました」
「なら鍛冶師の方々が剣を打つ際…熱した金属を何度も金槌で打ち付け、水につけて熱を取り、また熱するか…その意味はご存じですか?」
「…そ、その方が硬くなるから…ですよね?」
「はい。ですがシルヴィの作った剣は何度も金槌で叩いたりしていませんでしたよね?」
「た、確かに…」
「実は剣を作る時、熱して金槌で打ち付けて冷ましてという工程は金属に含まれている不純物を叩いて飛ばすという理由で行われているんです。そしてそれを何度も繰り返していくと刃こぼれのしにくい強固な剣が出来上がるんですが…シルヴィの場合は地中から剣を作り出す為に必要な成分だけを抜き取ってるので金槌で打ち付けて不純物を飛ばすという作業がいらないんです」
「な、なるほど…」
「次に剣の土台になる金属に炎を纏わせた理由なのですが…剣の成形と剣自身の強度を高める為に纏わせていたんです。先程リーチェ・ニルヴァーナさんが言った通り、金属は高熱で熱すれば溶けて形が変わるんですが…ドロドロだと全く使い物になりませんよね。だから最後に水で金属を冷やす工程を氷で行い強度を高め、あれだけの衝撃を生み出すアリア先生の剣と互角に打ち合える剣をあの数秒で作り出したんです」
「…そ、そんな神の様な事が…」
「そして最後の巨大な大剣…あれも同じ様に作られているはずです。…あの剣、さっきテッタさんが動かしていたゴーレムに持たせたら強そうですよね…」
「げ、原理は何となくわかりましたわ!!ですが全てが規格外ですわよ!!あんな魔法、見た事も聞いたこともありませんわ!!それに何なんですのあの身体能力は!?あの子もアリア先生もおかしいですわよね!?」
「そ、そんな事を言われましても…師匠の弟子、師匠のお友達だったらあれぐらいなのかと…すみませんメイリリーナ・ハプトセイルさん…僕にはそれぐらいしかわかりません。きっとあの剣を作るのにも様々な技術や工夫が施されているはずなんですが…」
「…い、イオリ君すごい…」
「そ、そうですか…?ありがとうございますテッタさん…」
わかる限りの事を伝えきれた唯織はほっと胸を撫で下ろし、次は自分の番かと意気込もうとした時…
「あ、あの…イオリ君…聞き間違えたのかわかりませんが…シオリさんの弟子、シオリさんのお友達だったらあれぐらいなのかとと聞こえたのですが…」
少し怯えた様にシャルロットが呟いた。
「え…?あ、はい…その様に言いましたが…どうしましたか?シャルロット・セドリックさん」
「…イオリさんはさっきのシルヴィアさんとアリア先生の戦いを見てどう思ったのですか?」
「…師匠に鍛えられた時の事を思い出して楽しそうだなと思いましたが…」
「た、楽しそう!?!?」
「え、ええ…どう見てもシルヴィとアリア先生は遊んでいましたし…」
「っ!?」
明らかに常識外の戦い…それを見て楽しそう、遊んでいたと言う唯織にシャルロットは自分とは明らかに住んでいる世界が違うのだと理解してしまう。
「…?どうしましたか…?何か気に障る様な事でも言ってしまいました…か…?」
「い、いえ…何でもありません…て、テスト頑張ってくださいね…」
「っ!?…は、はい…頑張ります…!」
師匠や師匠の友人達であるガイウスやミネア、アリア先生やシルヴィア以外から初めて頑張ってくださいと言われた唯織は少し心臓が早くなった感覚を覚えながらアリア先生に頭を殴られて頭を擦っているシルヴィアとアリアの元へと駆けだした。
「常識外の存在…ですか…」
シャルロットの小さな呟きは興奮しているクラスメイトの声でかき消された…。
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「…本気で殴った…痛い…」
「当たり前でしょ!?何はしゃいでんのよ!?あんまり目立つと王様とかに目付けられんでしょ!?目立って王様とかに呼び出し食らうのは嫌よ!?」
「…逃げればいい」
「馬鹿じゃないの!?シルヴィは学生、私は教師!!逃げれるわけないでしょ!?」
「…んじゃお願い、もし呼び出されたら私の代わりに何とかして」
「…ぐぬぬぬ…!!わかったわよ!!後あの剣ちゃんと処理しなさいよ!?私やらないからね!?」
「…ケチ」
実技テストが終わった後、シルヴィアの頭に本気の拳を落としたアリアは遠くから駆け寄ってくる唯織を見つめ…
「…どうすんの?どこまでやればいいのよ?」
「…みんなにイオリの凄さを教えたいからとにかく派手に…かな」
「…はぁ、わかったわ…シルヴィがあんな剣作らなければ簡単だったのに…」
「…ん、頑張ってね」
「はいはい、任せておきなさい」
この世界の常識を壊す準備を始めた…。




