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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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自分を賭して

 





「ご、ごめんなさいアリア…私…こんなつもりじゃ…」


「…俺からも済まない白黒狼…」



 全身から冷や汗を垂らし、震えそうになる身体を必死に押さえるクルエラとバルアドス…SSSランクの冒険者が叱られている子供の様になっている原因は…



「………」



 ただただ無言で馬車に揺られながら自分達の間に座る人物…トーマを睨みつけ死そのものと錯覚する程の濃密な殺気を剥き出しにしたアリアの所為だった。



「お、おい嬢ちゃん…白黒狼を宥めちゃくんねぇか…?」


「決闘が終わった後、息があるといいですわね。…わたくしも」


「しゃ…洒落になんないさね…」



 トーマの提案で周囲に被害が出ても問題ない様に王都の外…凶暴で強力な魔獣が出るBランク冒険者以上じゃないと立ち入る事が出来ない砂地…唯織と詩織がティリアの兄代わりであったウォルビスの呪いを解く為にバジリスクの血を求め訪れたハプトセイル王国とムーア王国を挟む様に存在するカラ砂漠へと向かっていた。



「な、なぁ白黒狼?ちょ『殺す』…ちょっと待ってくれって…おいら達はただ手伝いたいだけ『八つ裂きにする』…」


「あ、アリア先生…」


「…どうしたのかしら?」


「その…勝手な事をして申し訳ありませんわ…」



 トーマが口を開けば呪詛の様な言葉が溢れ、隣のリーナが口を開けば殺気は無くなりいつも通りに戻るアリア…0か100という極端で幼稚な子供だと言われても仕方ないアリアに怯えながら謝ると笑みを浮かべた。



「別にいいわよ。計画がこいつらに邪魔されようがリーナ達が我がままを言おうがいくらでも私が修正するもの。それよりもリーナが唯織達だけじゃなく私の為にも怒った事にびっくりよ?いつからそんなに尊敬されてたのかしら?」


「…勢いで言っただけですわ」


「あらそう?私はついでだったって事ね?」


「…本当に意地が悪いですわね…」



 頭を撫でても顔を赤くしなかったのにトマトの様に顔を真っ赤にしたリーナはそっぽを向きながらトーマに視線を向け…



「…どうやらわたくしは死なずに済みそうですわ。ご愁傷様ですわね」


「うぐっ…」



 勝ち誇った笑みを浮かべた…。



「…さて、着いたみたいね」



 決闘の地に着いた事を知らせる様に幻想馬のシロとクロが嘶き、先導する様にアリアが馬車を降りると皆が降り…そこには夕日に照らされ仄かに赤身のある砂しかない地が視界いっぱいに広がっていた。



「シロ、クロ、ご苦労様ね」


「シロ、クロ、ありがとうございますわ」



 アリアとリーナのお礼に勇ましく嘶くと巻き込まれない様に馬車を引きながら入り口に待機し、皆はザクザクという足音を鳴らしながら奥へと進んでいく。



「…リーナ、アドバイスは必要かしら?」


「欲しい…と言いたい所ですが、これはアリア先生の制止を振り切ってわたくしが勝手に始めた事ですわ。これぐらいわたくしの力だけで乗り越えて見せますわ」


「そう…なら先生としてのアドバイスじゃなく、SSSランク冒険者のアリアとして言わせてもらうわ。()()()()()()()()()()()()。そして相手はイグニスなんかより遥かに強くて()()()()()()()()()()()()()()()()()…意味、わかるわよね?」


「……わかりましたわ」


「…よし、頑張りなさい」



 さっきまでの優しい表情を消してただ心配そうに、でも視線や声色はとても厳しいアリアの言葉に生唾を飲み込み…



「…さて、嬢ちゃん。決闘っつっても別に命まで取ろうとは思ってないし、本気を出すつもりも無いさね。明らかにおいらの方が格上…それはわかってるだろう?」


「ええ、世界で五人しかいないSSSランク冒険者でこと戦闘に関しては全種族の中で卓越した鬼人族…人間族のわたくしなんてひよっこだと思ってるんですのよね?」


「そうさね。いくら白黒狼の教えがあったってたった二年ぽっちでSSSランクの冒険者に匹敵する実力がつくんなら今頃SSSランク冒険者で溢れかえってる。だからハンデとしておいらは魔法を使わずに肉体とこの金剛だけで戦ってやんよ」


「…別にハンデなんていりませんわよ?13歳の子供に見っとも無く負けた時の言い訳が欲しいんですの?」


「…言うねぇ嬢ちゃん。甘やかされて伸びきったその鼻っ柱、一度叩き折って現実を見せてやんよ」



 トーマが極太の棍棒、金剛を抜くと肌を針で突き刺すような圧が襲うがリーナはゆっくりと腰に下げたエーデルワイスを抜き…



「…本気を出してないとは言え、()()()()()()なんですのね?これならアリア先生との訓練の方が死に近い気がしますわ」


「ぬかせ」



 不敵に笑みを浮かべエーデルワイスに魔力を流して火と風を纏わせ…



「では…決闘の立ち合い人は私、アリアが務めさせてもらうわ。リーナがこの決闘に勝利すれば仲間を侮辱した事を謝罪させ、今回の一件に一切関わらない事をトーマ達に誓わせる。…間違いないわね?」


「問題ありませんわ」


「トーマが勝利した際、今回の一件について情報を開示すると共にその計画に加わる…間違いないわね?」


「大体それで間違っちゃないが…白黒狼、おいらが勝ったら精霊女王と仲直りするってのも追加してくんねぇか?」


「仲直りって…別に仲違いしたわけじゃないけれど私が間違ってたって謝ればいいのね?」


「そこまで言っちゃないが…まぁ、それで前みたいにバカ言い合える雰囲気になるならいいさね」


「わかったわ。…両者構え」


「「…」」



 アリアがゆっくりと上げている手を視界の端に納めるとスッと目を細め…



「リーナ対トーマの決闘…開始!!」


「いきますわよ!!!!!!!」


「なにっ!?」



 声と同時に振り下ろされたアリアの手を見るや否や、エーデルワイスをトーマに向けると天まで届きそうな紅蓮の柱が足元から無詠唱で放たれ爆ぜた…。



 ………



(…初手けん制で火と風の複合で創った爆破魔法…建物や木がある場所じゃ使えませんがここなら存分に使えますわ…)



 撒き散らされた砂塵の中、爆心地にいるはずのトーマを見据えつつ油断なく構えるリーナ。



(命のやり取りのプロ…アリア先生が先生と言う立場からじゃなく、同じプロとして忠告する程の相手ですわ…よくて掠り傷…最悪無傷か今頃この視界最悪の中で私の位置を探ってるはずですわ…)



 相手はSSランク冒険者…アリアと同格の相手と対峙しているのにも関わらず怯える事も無く冷静に備えていると…



「……ここっ!!くっ!?」


「っ!?嘘やろ!?」



 砂塵に不確かな揺らぎを見つけ、頑丈なエーデルワイスを振るとすぐ傍まで息も存在も消して近づいてきていたトーマの金剛とぶつかるが膂力差の反動でゴロゴロと砂の上を転がっていく。



(危なかったですわ…エーデルワイスは…刃こぼれ一つなし…とんでもない剣ですわね…これなら盾としても使え…くっ…エーデルワイスが大丈夫でもわたくしの腕の方が持ちませんわね…)



 右腕に心臓があるんじゃないかと思う程ドクドクと痛む右腕に回復魔法をかけつつ次の攻撃に備えていると突然強烈な風が吹き砂塵が晴れた。



「いやぁ~…驚いたさね。まさかあの一撃を防ぐたぁ…おいらも腕が痺れちまった」


「…魔法は使わないんじゃないんですの?」


「んや、ただこうやって…振りかぶっただけさね!」


「っ!?」



 ただ金剛を振っただけなのに立っていられない程の突風が吹き、砂と一緒に吹き飛ばされると…



「これは防げんだろう!?」


「なっ…あがっ!?」



 吹き飛ぶ事を想定して先回りしていたトーマの丸太の様な脚から繰り出された蹴りが脇腹を強かに打ち据え骨が砕ける音が響いた…。



(い、痛い…痛い痛い痛い…ただの蹴りなのに…エーデルワイスを差し込んでいたのに…これで本気じゃない…?ふざけんなですわ…)



「あらまぁ…まさか決めに行った蹴りも防がれるとは恐れ入った…だが、中途半端に防いじまったから激痛だろう?降参したらどうだい?」


「うっ…うぐっ…げほっ…こんな蹴り…アリア先生のと比べて…痛くも痒くもありませんわ…」


「…強がんなや嬢ちゃん。口から血ぃ吐いてんだ。素直に降参しときな。その状態で立って次喰らっちまったら死ぬぞ?」


「…」



(手も足も出ない…傷も治らない…流石に降参すべき…………)



 どれだけ強がって会話を伸ばしても自分が使える回復魔法の許容を超えた大怪我が治るわけもなく…悔しさと痛みの涙で滲む視界のまま吹き飛ばされて近づいたアリアの表情を見たリーナは…



「リーナ」



(…そうですわよね…まだ…わたくしはやれますわ…!)



「…マジかい」



 こんなもんじゃないでしょう?とでも言いたげで、心配なんて一切していない、自分を信じてくれている表情に萎えかけた気持ちを奮い立たせ、エーデルワイスで身体を支えながら立ち上がった。



「たった一発で…降参出来る程…ごほっ…軟な鍛え方…されてませんのよ…」


「…おい白黒狼。止めてやんないのかい?」


「リーナが自分を賭して高みに上ろうとしてんのよ?何で止める必要があるのかしら?」


「おいおい…おいおい白黒狼…そうやって無茶な期待をかけたら子供は無理して潰れちまう…大切な生徒なんだろう?意地張ってないで止めて『トーマ、あんたにリーナの何が分かるって言うの?』…」


「元々リーナはこの程度で折れる程軟な子じゃないわ。あんたの物差しでリーナの事を語ってんじゃないわよ」


「……ええ、そうです…わ…げほっ…」


「…そうかい。死んでも恨むなや」



 何を言っても無駄だと悟ったトーマは満身創痍のリーナを次の一撃で確実に仕留めようとしているのか全身の筋肉が膨れ上がっていく。



「…アリア先生…今から()()()()()()を使い…ますわ…もし…大変な事になったりしたら…何とかしてくださいまし…」


「…ええ、いいわよ。リーナが納得するまで思う存分やんなさい」


「ありがとう…ございますわ…後…髪を纏めてくださいまし…血と砂で鬱陶しいですわ…」


「わかったわ」



 アリアに髪を纏めてもらい、口の中に溢れる血を吐き捨てたリーナはエーデルワイスを鞘に納めると両耳に手を当て、アリアに匹敵する程の濃密で膨大な魔力を纏わせ…



「行きますわよ…世界に響け…!『偽天の女王(フィス・リーナ)』!!」


「「「「っ!?!?」」」」



 光で出来た天使の輪と羽を顕現させた…。

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