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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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待ち伏せと後悔

 





 ハルトリアス学園の廊下…まだ説明会に大勢の生徒がいるからか疎らにしかいない生徒達の視線を受けながら学園の外を目指すアリアとリーナ。



「時々思ってましたがアリア先生?耳に手を当てて独り言を言いますわよね?何をしてるんですの?」


「あぁそういえば言ってなかったわね?魔道具を使ってユリと連絡を取ってたのよ」


「…そんな魔道具が世に出回れば生活や流通が活発化しますけど、犯罪や戦争に応用したら大変な事になりますわね…」


「一瞬でメリットとデメリットを考えるなんて凄いわね?」


「どんな便利な物でも扱い方を誤れば最悪な物になる。切れ味のいい包丁は料理の質を上げるのと同時に人を殺す武器にもなる…ちゃんと覚えてますわ」


「本当にあなた達は優秀ねぇ…」


「…別に今更人前で恥ずかしがりませんわよ?」


「…本当に成長したのねぇ…」



 徐に撫でつけても恥ずかしがらず澄まし顔のリーナに成長を感じつつ、小脇に抱えた黒表紙で今後の流れを確認しながら歩いていると…校門前で待ち伏せしていたトーマがクルエラとバルアドスを連れて声をかけてきた。



「おー、いたいた。白黒狼?今時間いいさね?」


「…はぁ、何の用なのよ?私達は忙しいのだけれど?」


「カリカリしなさんなって。…昨日言ってた用事ってのをおいら達も手伝ってやりたくてな?」


「だから『おいら達はSSSランク冒険者だぞ?そこら辺の奴より頼りになると思うぞ?』…まぁ、そうね?そこら辺の奴らよりは頼りになるかも知れないけれど、私が頼りしてるのはこの子達よ。ぶっちゃけあんた達より頼りになるわ」


「辛辣だなぁ…」


「じゃあそう言う事だからとっととこの国を出る準備をしときなさい。行くわよリーナ」


「は、はぁ…」



 全く相手にするつもりのないアリア…アリアの守りたい者とそれ以外の者でこれ程までに対応に天と地ほどの差があるのかと感じつつ、自分はアリアの生徒で本当によかったと微妙な表情を浮かべながら後ろをついて行くと…



「なら、おいら達がその嬢ちゃんに試合でも何でもいいから勝って、嬢ちゃんより役に立つって証明したら手伝わせてくれるかい?」


「え?」


「…は?」



 トーマの口から足を止める言葉が吐き出された。



「だってそう言う事だろ?白黒狼はおいら達より役に立つから嬢ちゃん達を選ぶって言ったんだ。ならおいら達が嬢ちゃんより役に立つってわかってくれりゃあ、白黒狼も文句ないだろう?」


「…何でそうなるのよ?普通、私との勝負に勝ったらって言うべきじゃないのかしら?」


「いやいや、白黒狼と勝負するって言ったって足を止めるわけないさね。それに…白黒狼の自慢の嬢ちゃん達なんだろう?なら別にいいじゃんかよ」


「そうよ、私が育てたリーナ達は自慢の教え子よ。でもそれとこれとは話が別…昨日みたいに試合でもないのに大事な教え子を戦わせるなんて話にならないわ。行きま『流石においら達も舐められっぱなしは性に合わんから言わせてもらうが、昨日は私が教えてきた生徒なら誰でも勝てるって信じているから構わないわってー言ってたのに逃げるんか?しょっぱいなぁ…』…」


「…」


「白黒狼が自慢の生徒だって言うから昨日の試合をしっかり見てたが…()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「…」


「ちと、可愛さが有り余った所為か身内贔屓が過ぎる過大評価じゃねーかな?いつから白黒狼は目が節穴になったんさね?そんな事もちゃんと教えてやんねーで格下ばかりを相手させて上には上がいるって事を教えないたぁ…白黒狼は教え子達に嫌われるのをビビッてるのかい?そんなんで教師が務まるんさね?」


「………気にしなくていいわよリーナ。私はあなた達が凄いって事をちゃんと知っているわ…」



 意地の悪い笑みを浮かべながら吐き出される言葉…大切なリーナ達が必死に積み上げてきた結果を馬鹿にする様な言葉も許せない…でもここはハルトリアス学園の真ん前、手を出せば嫌でも注目され唯織のお願いであるターレアを救う為の計画に支障が出る…そんな思いから今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい気持ちを必死に抑え声が震えるアリア…。



「こいつらに構わず今は私達のやるべき事をやりましょう…行くわよリーナ。…?リーナ?」


「……」


「っ!?り、リーナ!?」



 だが、リーナはアリアに手を引かれてもその場を動かず…更にはアリアの手を振り払いずかずかとトーマの目の前へ行き…



「わたくしの事をどれだけ悪く言おうがわたくし自身どうでもいいですわ。ですが心が折れそうな辛い特訓を折れずに一緒にこなして強くなったシャル達の結果をおいらからしたら別にですって…?わたくしが…わたくし達が尊敬するアリア先生が身内贔屓ですって…?過大評価?目が節穴?ビビッてる…?シャル達とアリア先生を侮辱する言葉!撤回してくださいまし!!」


「なんだ嬢ちゃん?王族の権力でも使うかい?おお怖い怖い…だがなぁ~…おいらはお嬢ちゃんみたいに温い場所で生きてねーし、SSSランクの冒険者なんよ。何処でも生きていけるから一つの国を出禁にされようが、全部の国から出禁にされようが痛くも痒くもないさね。軍隊を連れてきてもおいらには無駄だぜ?返り討ちにしちまうからな」


「そんな格好の悪い事なんてしませんわ!私は真正面からあなたをぶちのめしますわ!」


「「「っ!?」」」



 黒い手袋をトーマの顔面に叩きつけた事にアリアだけではなく後ろにいたバルアドスとクルエラも驚愕の表情を浮かべ…



「決闘ですわ!ビビッて逃げるなんて無様な姿を見せないでくださいまし!」


「…いいぜ嬢ちゃん。やろうや決闘」



 睨み殺す勢いのリーナと凄惨な笑みのトーマの決闘が始まる…。





 ■





「うう…何でここがこうなるんですです…?理解不能ですです…」



 昼なのにカーテンも閉め切りカチャカチャと何かを弄る音が響く薄暗い学園長室…そこには目の下に黒い隈を作りぼさぼさの髪の毛を更にぼさぼさにする様に頭を掻きむしるシフォンがいた。



「うー…眠い…眠い…コーヒー…ああっ…もう…最悪ですです…」



 アリアに渡された魔道具の設計図を全く理解出来ず、寝ずに作り続けた失敗作とコーヒーの跡がこびりついたカップを机から落とし諦めた様にソファーに身体を沈ませ睡魔に身を任せようとするとノックの音が響く。



「シフォン・アンテリラ学園長、いらっしゃいますか?」


「……」


「すみません、勝手に入らせて頂きます」


「…ええ…?」



 極限状態の億劫さから居留守を決め込もうとしたのに遠慮なく扉が開かれた事に眉を顰め身体を起こすと…



「え…イオリ君ですです…?」


「はい…って、昨日より酷い荒れようですね…」



 赤を基調としたハルトリアス学園の女子制服を肌を見せない様に着て黒いタイツを履いた困惑顔の唯織がいた。



「どうしたん…ですです…?ターレア君の…特訓じゃ…?」


「今はお昼休憩で僕が作ったお弁当を泣きながら一人で食べてますよ」


「泣きながら…ですです…?」


「ええ、『運命』で先が見えてしまう所為で諦め癖がついてるのでその意識を変えるのに()()厳しくしたらどうやら数時間で心が折れたみたいです」


「なるほどですです………何でイオリ君はここにいるんですです…?」


「シフォン学園長のお世話をする為に来たんですよ」


「お世話ですです…?」


「はい、アリア先生がきっと寝ずに作業しているから世話をしてあげてちょうだいと言っていたのでお部屋の掃除や食事の用意をしようかと」


「そうなんでうっ!?目がっ!?目がああああああああ!!!!」



 閉め切ったカーテンと窓を勢いよく開くとキラキラと埃が舞いシフォンの絶叫が響く…。



「うわっ…凄い埃だ。これは水拭きも必要そうですね…」


「っ!?」



 シフォンの絶叫を無視して指を鳴らし、床に散らばった書類やら本、魔道具、更には本棚に置かれてあった本やシフォンが座っていたソファー含め家具も全て唯織の空間収納に仕舞われると人差し指をクルクルと回し、そよ風が部屋の埃や臭いを全て窓から外へと追い出されていく。



「すーっ…ふぅ、埃も臭いも大丈夫ですね。次は…」


「え…?え…?」



 目の前であり得ない事が起きて驚きのあまり語彙力を失ったシフォンをよそ目にパンパンと手を鳴らすと唯織の周囲に多数の水球が生まれ遠慮なしに部屋中にぶちまけられ、空間収納から取り出した雑巾がひとりでに動き部屋中を拭き掃除していく。



「そういえば僕の魔法を見せるのは初めてでしたよね?この魔法は本来相手の武器を奪う為に僕が創った魔法なんですが、僕の第二の師匠が手の届かない物を取ったりするのに便利そうって言ってくれたおかげで考え付いた魔法なんです」


「っ!?」



 天井、壁、床と全て拭き上げ明らかに部屋の明るさが三段階ぐらい上がった事に小さく頷くと空間収納に仕舞ったテーブルとソファーを取り出し丁寧に磨き、床でへたり込む放心状態のシフォンを抱き上げソファーに座らせると空間収納から暖かい彩鮮やかなお弁当とハーブティーを取り出しテーブルに用意した。



「アリア先生ほど美味しくは作れませんがお弁当もあるのでよかったら食べてください。飲み物は眠りの質が良くなる様にハーブティーにさせてもらいました」


「えええ…?あ…美味しそう…あ…美味し…」



 埃臭かった部屋だったのに一瞬で新築の様な美しさに変わり、美味しそうな匂いが部屋を充満した事でシフォンの頭は今まで起きた事を理解するのを辞め、お腹の悲鳴に従う様にパクパクとお弁当を食べ始めた。



「それはよかったです。多分碌にご飯を食べてないと思ったので胃がびっくりしない様に消化にいい物にしておきました。これから本や書類等を整理するんですが、僕に見られたらまずい書類があると思うので中身は見ないで纏めちゃうので後で抜けが無いか確認してください」


「わ、わかったですです…」



 空間収納から大きな空の本棚を取り出し全て丁寧に拭き上げ本をジャンル別に分け、乱雑になった書類を一つに纏めると新品の様に輝く作業机に置き、シフォンが作った魔道具を綺麗に並べ、最後の仕上げにティーカップや汚れた服等全てを水球に入れて洗い…



「…こんな感じですかね」


「ひゅ…ひゅほひ…!」



 ものの数分でゴミ部屋だったシフォンの部屋が清潔感溢れる学園長室へと姿を変え…



「後は…」


「ま、まだあるんですです…?あ、ごちそうさまですです…とてもおいしかったですです…」


「お粗末様です。とりあえず服や下着は今洗っているのでシフォン学園長はそこに作った簡易お風呂に入ってください」


「え!?下着も洗ってるんですです!?」


「いいからお風呂に入ってください。流石に臭いますよ」


「ううっ!?…うう…」



 昨日会ったばかりの年下の男の子に下着を洗われ臭うと言われ…顔を真っ赤にしたシフォンは部屋の隅に指を鳴らすだけで作られた簡易お風呂に詰め込まれるのだった…。



 ………



「あのあの…さっきまで色々動転してて気づかなかったんですですけど…」


「何ですか?」


「何で女子制服を着て私の髪を乾かしてるんですです…?」



 お風呂から上がり、女の子らしい匂いを纏ったシフォン…そしてもはや癖になったとしか言えない完璧な手つきで暖かい風を魔法で生み出しシフォンの長い髪を整える唯織…。



「この格好はレ・ラーウィス学園の制服だと目立つと思ったので着替えました。髪に関してはし…姉さんに似てるからですかね?…姉さんはいつも僕に髪を乾かしてとか言ってきたりしてたんですが最近は全くそう言う事もないですし…癖と言うか…落ち着く?感じですね」


「そうなんですですね…それはそうと…詠唱も無しでも魔法って使えるんですです…?」


「ええ。実は言うと僕だけじゃなくアリア先生やリーナ達も無詠唱で魔法を使えますよ。まぁ、無詠唱を隠していたのはそれが知れ渡った時、戦争の激化や犯罪に悪用される可能性があるので念の為に詠唱してますが」


「確かに…でも何でそんな大変な事をさらりと私に教えてくれたんですです…?」


「…昨日、人の命を奪う魔道具は作りたくないと言っていたからというのもありますが、今はターレア王子を救う為に一緒に頑張る仲間ですから」


「……」



 話の流れでつい口から出てしまった言葉…本当か嘘かわからないたった一言を聞き逃さず、自分を信じて事実を伝えてくれた唯織…



「もし…あの言葉が嘘だったらどうするんですです?私が本当は悪い人だったらどうするんですです?少し不用心じゃないですです?」



 盲目的に人を信じるお人好しなら今後必ず痛い目を見ると思ったシフォンは忠告のつもりで唯織にそう問うが、唯織はシフォンの髪を弄る手を止めずクスリと笑みを浮かべた。



「本当に悪い人はそんな事言わないですよ。僕が誰でも信じるお人好しに思えたから忠告のつもりで言ってくれたんですか?」


「…別にそんなつもりじゃないですです…」


「そうですか?…まぁ、シフォン学園長のあの言葉を嘘だと感じなかった理由は目ですかね」


「目…?」


「はい。あの言葉を言った時の目…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様なとても悲しそうな目をしていました。だから僕はそんな目をするシフォン学園長は本当にターレア王子の事を心配しているんだと思ってアリア先生に無理を言ったんです」


「そんな目…してました?」


「ええ、人を見る目を養えとアリア先生にきつく言われましたから人を見る目は普通の人よりいいと思いますよ?」


「…」



 目を見ただけでその人が分かるなんてそんなはず無い…そう言おうとしたシフォンだったがそんな言葉は出てこず、心地のいい風と手つきの所為で忘れかけていた睡魔が襲いつい口が緩み…



「すごいですです…イオリ君が言った通り、私は昔…婚約者を自分の作った魔道具で殺してるんですです…」


「…そうなんですか?」


「ですです…バルドス神聖帝国がムーア王国の領土を奪おうと攻め込んで来た戦争の際…私が作った魔道具がバルドス神聖帝国の侵略を阻む大活躍…したんですです…でも…バルドス神聖帝国は諦めず何度も何度も攻め込んで…遂に私が作った魔道具が限界を迎え…もう使えないからって言ったんです…でも…その時の指揮官があれがないとって…私は止めたんです…でも…無理やり使って…婚約者がいた部隊ごと……ごめんなさい…私がもっと…許して…リュイン……」


「………おやすみなさい」



 涙を流し、許してと言いながらソファーに横たわるシフォンに毛布を掛けた唯織は涙を拭い部屋を暗くしてターレアの元へ戻るのだった…。

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