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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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業と犠牲

 





「で…?トーマは何が目的なのよ?」


「目的て…おいらはただ飯を食いに来ただけさね」


「ぶっ殺されたいのかしら?」



 豊穣の宴亭(ハーベスト)の外…窓からリーナ達が楽しく食事をしている姿を見つつアリアとトーマは飲み物を片手に喋っていた。



「おいおい白黒狼…そんな短気じゃ貰い手が無くなるぞ?」


「ハッ…私には既に素晴らしくて勿体ない程の嫁が19人いるわよ」


「ほ~ん…は?嫁!?19人!?!?」


「言っといてなんだけれど私の事なんてどうでもいいのよ。…目的を言いなさい。言わなきゃもう私は戻るわよ?」


「お前さんに嫁がいる事も19人もいる事にも驚きなんだが…まぁ…なんだ?あのまま顔を合わせなくなるのも精霊女王が可哀そうだからな…白黒狼と落ち着いて話す時間を作ってやりたかったんさね」


「ふぅん…そういう気遣いは出来るのね?でも悪いわね、ムラサメの事も詳しく聞きたかったのだけれど悠長にお喋りする事は出来ないわ」


「何でさね?」


「やる事があんのよ。だからあんた達に構ってる時間はないの」


「じゃあ、おいら達も手伝ってやろうか?」


「手伝うって言うのならさっさとこの国を出て行って欲しいぐらいだわ」


「何だいそれ…それじゃあ手伝えないさね」


「邪魔をしないという手伝いが出来るわ。私がやろうとしている事を知ったらあんた達は絶対に邪魔をするもの」


「……何かヤバい事でもやろうってのかい?」


「…どうでもいいじゃない。言っておくけれど、もし邪魔をするって言うのなら私はあんた達を容赦なく叩きのめす…それが嫌ならこの国からすぐに出る事ね」



 そう言うとアリアは外から窓を開け…



「あなた達?そろそろいい時間だから宿屋に行くわよ?払いは全て百鬼トーマ様が払ってくれるわ。エルダ、レイカ、ルマ、あなた達は少し一人で考えを纏めておいて、ティアは私達についてきなさい。バルアドス、クルエラ?そう言う事だから私達は行くわね」


「ういーっす!みんな行くっすよー!」



 ティアとリーナ達を連れ豊穣の宴亭を後にし…



「ったく…白黒狼は相変わらずさなぁ…」


「全員の飲食代のお会計、締めて金貨60枚です」


「は、はぁっ!?…お、おいらまだ飲み物一杯しか飲んどらんのに…」



 トーマは高く積み上げられた皿と店員から提示された金額に項垂れたのだった…。





 ■





「な…何この馬車…?何でこんなに広いの…?お風呂…?寝室…?私の部屋より豪華…」


「ティアはしばらくティリアと同じ部屋を使ってちょうだい。いいわよねティリア?」


「は、はい!お姉ちゃんこっちだよ!」



 夕暮れ時…馬車に戻り各々の部屋でひと時の休息を取る中、アリアはユリと一緒に自分達の部屋でシフォンに渡した計画書を見返していた。



「…我ながら恐ろしい事考えるわねぇ…」


「ん~…っすねぇ…でもこれが一番効果的っす」


「そうなのよねぇ…本来実績って言うのは小さな成功を積み重ねて得る物…でもターレアはシフォンみたいに魔道具を作れて国民の生活を豊かに出来るわけでもないし、何かのコンクールで金賞を取ったとか学園の成績がトップだったとか国にとって利益にならない実績なんて意味を成さないわ。それに私達はずっとこの国に居るわけでもないし時間が限られてる。国民全員をターレアの味方につける程の誰も無視や蔑ろに出来ない最高の実績という名の劇薬…国を救う英雄、救世主、いるだけで希望や未来を抱ける人物だと一回の出来事で認めてもらう必要があるわ。極力被害は少なくなる様に務めるけれど…こんな方法しか思いつかない自分が恨めしいわ…」


「逆に魔王様しかこんなパワープレイ出来ないっすけどねぇ…てゆーか、魔王様があの王子の為にこんな事する必要あるんっすか?」


「…唯織にお願いされたのよ」


「成程っす、魔王様はそういうのに弱いっすもんね」


「全くよねぇ…」


「まっ、そこもいいとこっすよ魔王様」



 計画書を閉じ、二人して堅苦しいスーツを脱ぎ捨てユリは黒のタンクトップにホットパンツ、アリアは背中に布が一切ないシンプルな黒のホルターネックロングワンピースという格好に着替え真っ赤なティーセットで優雅に紅茶に口を付けていると…



「アリア先生いますか?」


「…ん、入っていいわよ唯織」


「失礼します」



 ささやかなノックと共に唯織が部屋に現れ、二人の煽情的な姿に顔を赤らめる事なくアリアが指差す椅子へと腰を下ろした。



「…で?どんな感じだったのかしら?」


「そうですね…話を聞いた限り、僕なんかより壮絶な過去を持っていました…あ、ありがとうございます」


「ふぅん…僕なんかよりねぇ…」



 自分の過去とターレアの過去を比較し暗い表情をする唯織に真っ赤なティーカップを渡すとアリアはため息交じりに呟く。



「あのねぇ唯織?他人の過去に同情したりするのは勝手だけれど、自分の過去と比較するのは間違っているわ」


「え…?」


「当時の感情に優劣なんて存在しないのよ。唯織はその時人生のどん底を味わっているのに他の人からその程度で人生のどん底を感じたの?自分はこんな過去を背負ってるからまだまだじゃんとかって言われたらムカつくでしょう?」


「それは……はい…」


「今回はたまたまターレアの過去が自分より壮絶だって感じたみたいだけれど、もしそれが唯織にとって何も感じない過去なら僕なんかより全然大した事ないって言うのかしら?」


「…今、アリア先生に言われなければ言わずとも心の中で思っていたかも知れません…」


「その人にとって人生のどん底って違うのよ。私なら仲間や嫁達、バハムートやフェンリル、今のあなた達の誰かに嫌われた時点で人生のどん底を感じるわ」


「あたしはアリアっちにガチめの説教されたら人生のどん底を感じるっすねぇ…」


「…とまぁ感じ方は人それぞれ、だから他人の過去を自分の過去と比較するのは無しよ。他者を貶めてまで自己肯定をするな、他者を尊重してまで自己否定をするな…唯織は唯織、他人は他人、自分を重ねて寄り添ったとしても他人になりきるな…わかったかしら?」


「…はい」


「よし、じゃあターレアの過去について聞きましょうか」


「わかりました、実は…」



 アリアの言葉を胸に刺し、雑念を振り払う様に頭を振った唯織は紅茶に口を付けついさっき聞いたターレアの過去をアリアとユリに語っていく…。



 ………



「……という感じでした」


「…はぁ、なかなかねぇ…何でこの世界はこうも業に溢れてるのかしら…」


「っすねぇ~…」


「ええ…」



 窓から差し込む光が無くなった時間…ターレアの過去を唯織から聞いたアリアとユリは同じ様に眉間を揉み解していた…。



「でもまぁ、私と唯織が絡んでいれば運命を変えれるっていうのは好都合ね。もし確定事項なら無理やり運命を捻じ曲げるつもりでいたからよかったわ」


「相変わらず無茶苦茶ですね…」


「唯織が無茶苦茶なお願いをするからでしょう?」


「あはは…すみません…」


「ただまぁ…唯織の話を聞いた今、()()()()が一人いるわね…」


「フローラって人っすね…血統魔法『結合』…性別も体格も違う身体を問題なく一つに結合させるならもしかしたらっすけど、異なる血液型でも問題なく結合させちゃう可能性があるっす」


「ええ…最悪の場合、生まれてくる赤子じゃなくてもそこら辺の大人の腕とか脚とか切り落として別人のを付け替えちゃえば血統魔法が二つ三つ…最悪両手足落とせば五つも発現させられる可能性もあるわ」


「もっと最悪な事は既に血統魔法を二つ持つ人間が造れるか実験してる場合っす。もしそんな事をしてるんなら情報を抹消する為に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も視野に入れないとっすよ」


「み…皆殺し…ですか…」


「そうよ…だから私達もターレアも覚悟を決めないといけない…これが綺麗事だけじゃ済まない王国の闇の深さよ」


「……」



 一人を助ける為に大勢を犠牲にする…守るより救う方が多くの犠牲を伴う事を知った唯織は自分がどれだけ軽率にアリアの優しさに付け込み助けを求めてしまったのかと恥じ…



「大丈夫よ唯織。色々言ったけれど私がいる間は頼りなさい。風情はないけれど私は異世界人でいつかいなくなるわけだしここでどれだけ恨まれようが関係ないわ。それに私は無色の無能だって嫌われる唯織よりも忌み嫌われる全人類の敵、魔王よ?汚れ役だろうが何だろうが全て高笑いでもして引き受けてあげるわ」


「っ…本当にすみませんでした…僕が軽率にお願いなんかしなければ…」


「…私はあそこで唯織のお願いを聞いた事を後悔なんてしていないわ。だって私は自分の全てを賭ける価値を唯織達に見出しているんだもの。だから唯織は今回の事を教訓として生かしてこれから先、私がいなくなった後に同じ様な事が起きたら本当に自分の全てを賭けて助ける価値があるかどうか、本当に後悔しないかどうかを見極めなさい。…まぁ、こんな国一つ変えてしまう様な出来事なんて早々起きないと思うけれどね?」


「………はい」


「…ほんっとアリアっちは罪な女っすねぇ…」



 アリアの優しく響く声と頭を安心感を与える様に撫でてくれる手に堕落してしまいそうな、何でも頼りたくなって依存してしまいそうな、この人になら何もかもを捧げてもいいと思えてしまう形容し難い気持ちに微睡みながらも自分の意思を保ち力強く呟いた…。



「それじゃあシフォンが魔道具を作り終える数日から数週間までの間に二人には色々仕込みをしてもらうわ。まずはユリだけれど王族関連の情報を危なくない範囲で調べてちょうだい」


「ういっす!」


「唯織はターレアの特訓相手…いえ、極限まで追い込んで成長を促してちょうだい」


「はい、わかりました」


「ただし、王国側にはバレない様にやるのよ?これが特訓をする際の不可視化と遮音、衝撃遮断の結界が張れる魔道具だから任せたわ」


「相変わらず凄いですね…ありがとうございます」



 手のひらサイズの四角い魔道具を空間収納に入れ真っ赤なティーカップに手を伸ばした時、



「じゃあそう言う事だから二人ともたの『待ってくださいまし、その話に混ぜてくださいな』…随分と気配を消すのが上手くなったのね?いつから聞いてたのかしら?」


「り、リーナ!?」



 リーナ達がアリアの部屋の扉を乱暴に開き雪崩の様に押し込みかけてきた。



「イオリさんが帰ってきた辺りからですわ」


「いおりんご飯の時いなかったし~?帰ってきたらそそくさと胡桃ちゃんの部屋に入って行っちゃうし~?何か隠し事してるのバレバレだし~?詩織ちゃんレーダーは正確だし~?」


「胡桃ちゃんじゃなくてアリア先生って呼びなさい…ったく、ユリは気付いてたのかしら?」


「え?…あ~…うっす!」


「…はぁ…言いなさいよ…呼び方を変えた時点で気付くべきだったわ…」


「いやぁ~…のけ者にされたらリーナっち達が怒るのは目に見えてたっすから…」


「まぁ…そうだけれども…」


「もちろん混ぜてくれますわよね?可愛い教え子のお願いですものね?」



 ユリの言う通りだと皆が無言で頷き真剣な眼差しを浮かべ…



「…計画を話してあげるからこれからやる事に納得出来るのなら手伝ってもらうわ。話が長くなると思うからみんな椅子を持ってらっしゃい…」



 アリアはまた自分を曲げて項垂れるのだった…。

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