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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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包む両手は女神か死神か

 





「ここが運命の分かれ道です。覚悟してくださいターレア王子…遠ざけるだけで大切な物を守った気でいるその甘ったれた考えを正し、大切な物を本当の意味で守るのは簡単じゃないって事をアリア先生に代わって僕が教えてあげます」


「……」



 ここからが本番だと言いたげに笑みを浮かべる唯織に恐怖を感じ脚が震えそうになるターレアは恐怖から目を背ける様に俯き唯織から受け取ったトランプをシャッフルしていく…。



「では質問ですが…ターレア王子、あなたは本当にターニャさん達を大切だと思っていますか?」


「…当たり前だ」


『……』


「ターレア王子、あなたは血統魔法『運命』を使ってどうにか運命を変えようとしましたか?」


「したさ…」


『……』


「わかりました。…ターレア王子、もう自分だけの力じゃどうしようもないんですね?」


「…ああ」


『……』


「…誰かに助けを求めた事はありましたか?」


「いや…」


『……』


「そうですか。…では第六ラウンドです」



 トランプを受け取り巧みな手さばきでカードをカットしながら唯織は思う…。



(王族、第三王子という立場上助けを求める事が出来ない…保護したターニャさん達がどれだけ優秀で凄い血統魔法を持っていたとしても貴族でも何でもない…頼れる人が誰一人いない状況で悲惨な運命をたった一人で変え続けようとしていた…そして出した答えが巻き込まない様に遠ざける…か。もし僕がターレア王子と同じ立場だったら同じ事したかもしれない…でも、僕は僕だ。あの日、死ぬのを待っていた僕を救ってくれた師匠の様に…あの日、僕の世界を変えてくれたアリア先生の様に…あの日、僕を友達と言って傍に居てくれるテッタ達の様に…今度は僕が…)



 自分の手札にスペードのロイヤルストレートフラッシュが来る様に配置したトランプを配ろうとした時、



「…イオリ君、何故質問で二つ目の血統魔法について聞かなかった?」


「聞いてもよかったですが…どうやら二つ目の血統魔法がこのポーカーにおけるターレア王子のイカサマの種なんだろうと思ってましたので唯一の勝ち筋をすぐに潰すのではなく、拮抗した勝負で僕の情報もいくらか抜いてもらって知ってもらおうかと。…まぁ、ターレア王子がどんな人なのか知りたくなったって言った方が聞こえはいいですかね?」


「そうか…その余裕が命取りだ」


「僕を驚かせれるといいですね?では配ります」



 疑問に答え手札を配り終えるとターレアの魔力が膨れ上がり…次の瞬間、



(うん…()()()()スペードのロイヤルストレートフラッシュ…僕の予想が正しければ…っ!?…これは凄い…確かにシフォン学園長が最強の血統魔法って言うわけだ…)



 普通の人では見えない透明の魔色で付けた印でわかる伏せたままのロイヤルストレートフラッシュが目を閉じてすらいないのにノーハンドへと一瞬で変わり、ターレアの手札がロイヤルストレートフラッシュに変わっていた。



「…どうした?手札を開かないのか?」


「…はは、本当に凄いですね二つ目の血統魔法…『()()()()』ですか?」


「「「っ!?!?」」」



 アリアの左眼に宿る権能…時間の巻き戻しと同じ時間を操る血統魔法を持っていると確信した唯織は手札を伏せたまま一つずつ指を差して図柄を答えていく。



「今僕の手元にあるこの手札…ダイヤの3、ダイヤの4、ダイヤの5、スペードの7、クラブの2…これは僕がターレア王子に掴ませようとしたカードです。そして今、ターレア王子の手元には僕が手にするはずだったスペードのロイヤルストレートフラッシュがあるはずです。見せてもらってもいいですか?」


「っ!!」



 自分の手札を公開しターレアが持つ手札に手を伸ばした瞬間、またターレアの魔力が膨れ上がるが…



「それが『時間停止』発動の兆候ですね」


「っ!?な、何!?!?」



 その一言と共に唯織が指を鳴らすとターレアの膨れ上がった魔力が一瞬で霧散し、手に持っていた手札が落ち…唯織の宣言通りロイヤルストレートフラッシュが露わになった。



「…この勝負、僕の勝ちですね?」


「…どういう…事だ…何で…」


「驚かせてもらったお礼に少しだけネタ晴らしをしましょうか。このままだと皆さん納得いかないと思うので」



 完全に落ち込むターレア達の為に唯織は散らばったトランプを集めカットしながら語り始める。



「まずですが…ポーカーを開始する前、ターレア王子は『時間停止』を使ってターニャさんと自分だけを動かして作戦を共有して『万物創造』でこれと同じトランプを創り出し、僕や皆さんの取るカードの図柄を好きな物に変えれるようにした。アーヴェントさんも同じくターレア王子の『時間停止』で作戦を共有して見えないはずの精霊を召喚し、僕の手札とイカサマをしない様に監視させていた。…間違いないですよね?」


「ああ…最初からわかっていたのか…」


「これは『時間停止』だとわかってからの後付け…最初は何かしているんだろうとは思っていましたが何をしているのかはさっぱりでした。…僕達はアリア先生から相手の魔力の流れを読む為の特訓を受けています。本来であれば血統魔法の魔力は普通の魔法みたいに起こしても見えませんが、ターレア王子の『時間停止』は使う度に魔力をかなり起こさないといけないみたいなので不自然に魔力を起こし始めた時は注意深く観察していました。アーヴェントさんのイカサマに関してはその時にお伝えした通り、僕達は高位の精霊様に特訓してもらったり一緒にご飯を食べたりしていたので普通の人より親和性は高いと思います。…で、ターニャさんも不可解だと思われたようですが僕のロイヤルストレートフラッシュ…あれはターニャさんの『万物創造』を書き換えさせて頂きました」


「書き換え!?どういうことだよ!?」


「ターニャさんの『万物創造』を観察して図柄を変更する時の魔力の流れを読み取り、同じ様に魔力をトランプに流して僕の好きな図柄に書き換えたんです。本物のトランプじゃ出来ませんでしたが魔法で創られた物なら同じ様に魔力を流せば出来ますからね」


「そ…そんな事が出来んのかよ…あり得ねぇだろ…」


「自分の目が信じられないんですか?目の前で起きた事は現実、あり得たからその目で見る事が出来たんですよ」


「っ…」


「なら最後…どうして俺の二つ目の血統魔法が時間を止める魔法だとわかったんだ…?」


「それはですね…本物のトランプをシャッフルしている時に全てのカードに魔力を付与して裏向きのままでもわかる様に目印を付けていたんです。透明の魔色の魔力は血統魔法と同じ様に訓練を受けてない人であれば見る事も知覚する事も出来ません。そしてシャッフルやカットを利用して自分の手札にロイヤルストレートフラッシュが来る様に仕込み、ターレア王子にノーハンドの手を配る…その時、ターレア王子の魔力が膨れ上がり目を閉じていないのに僕の目印付きのロイヤルストレートフラッシュがターレア王子に、ターレア王子に配ったノーハンドが僕の手元にありました。本当は空間転移や瞬間移動の様な魔法かと思ったのですが僕の胸倉を掴み上げた時、空間の揺らぎや空気の揺らぎは一切感じ取れませんでした。…なら後は時間を止めているんじゃないかと推察しました」


「はは…くそっ…参った…俺達の負けだ…」


「そうですか…では最後に二つ質問します」



 シフォンの魔道具を握り素直に耳を傾けるターレアはきっと血統魔法や過去の事を聞かれるのだろうと項垂れるが…



「ターレア王子、アーヴェントさんやターニャさん達をレ・ラーウィス学園に転入させようとしていますが、本当は皆さんと離れ離れになるのが寂しくて怖いですか?」


「っ!?…何故血統魔法や過去の事を聞かない…?」


「いいから答えてください」


「…ああ、そうだよ…小さい時からずっと一緒に居たんだ…俺が中心になってギリギリ繋がっていた関係だとしても俺にはあんなクソみたいな国王よりも、金や宝石、地位や権力にしか目が無い王妃なんかよりも、王位継承の為に裏で貴族達に賄賂を渡して派閥を作り上げて王位を虎視眈々と狙い続けるアルニクスなんかよりも、アルニクスと同じ様に裏で汚い取引をし続けて…俺の命の恩人を道具の様に扱うあのテルナーツのクソ野郎なんかよりも…みんなの事が大切で本当の家族の様に思っている…」


『……』


「わかりました…では…」


「ぐっ!?」



 指を鳴らしターレアの隣に転移した唯織は俯き続けるターレアの顎を掴み目を覗き込みながら問う。



「助けて欲しいですか?」


「っ…お前に…何が出来るんだ…」


「平民で地位も権力もない僕一人じゃ人を殺し原因を排除する…力で物事を解決する事しか出来ません。…が、僕は一人じゃありません。心の底から信頼している先生達や姉さん、親友達がいます。僕が出来ない事はみんなが何とかしてくれます、必ず…絶対に。…だから聞かせてください、助けて欲しいですか?」


「……」



 男と言われなければ女と見間違う程整った顔を寄せられじっと覗き込む唯織の瞳はとても力強く…射貫かれたターレアは唯織の瞳に希望の光を見つけたのか瞳はゆらゆらと揺れ…



「お前になんか…助けられたくない…!」


『ビー!!』


「侵略者のお前らなんかに助けられたくない…!!」


『ビー!!』


「お前らなんかの手を借りるぐらいなら死んだ方がマシだ…!!!」


『ビー!!』


「俺はもう諦めたんだ…!!!!」


『ビー!!』


「希望なんかいらないんだ…!!!!!」


『ビー!!』


「俺は!!…もう…俺のせいで大切な人が死ぬのを…辛い顔をするのを見たくないんだよ…」


『……』


「だから…ターニャ達をお前達の所に…安全な所に行かせたいんだ…」


『……』


「…そうですか、わかりました」



 必死に堪えていた涙が零れ見栄を張り震えた言葉も全て否定され…顔をぐしゃぐしゃにしたターレアの手から魔道具を奪い唯織は言う。



「僕が可哀そうなターレア王子を助けてあげます」


『……』


「僕達が哀れなターレア王子を助けてあげます」


『……』


「ターレア王子が諦めてしまった物を僕達が取り戻してあげます」


『……』


「僕達がターレア王子の希望になってあげます」


『……』


「僕達がターレア王子に大切な人を守る術を、大切な人を笑顔にする方法を教えてあげます」


『……』



 そして唯織は魔道具を手放し両手で涙が伝うターレアの両頬を優しく包み込み…



「だから諦めてしまった大切な人達と一緒に居る幸せの未来の為に…僕達に助けを求めてみませんか?」


「っ!………ぐぞっ…ぐぞっ!!!!!………だずげでぐれ……!!!!」


「…はい、任せてください」



 凄惨な運命の鎖から解き放たれる為にターレアは女神と見紛う笑みを浮かべる唯織の制服を涙で濡らした…。

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