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御迎祭

年が明ける。

日の出の鐘が鳴れば、新年の祭事が始まる。



カウティスは、早朝に起こされ、入浴して身体を清めた。

去年までは、眠くてなかなか起きられなかったが、早朝鍛錬をするようになった今では、苦もなく起きられる。

御迎祭用の衣装に着替える時、袖を通しながら、ふいに水の精霊の言葉を思い出した。


『男前だな』


思わず赤面して咳払いする。

侍女のユリナが不思議そうな顔をした。




日の出の鐘が鳴る。

月が太陽に替わり、太陽神を迎え入れる御迎祭が行われる。


太陽神に仕える男司祭と神官によって祭事は行われた。

王と王妃が祈りを捧げる。

王女と王子達も、昨夜と同じように参加する。


祭壇には、太陽神への供物と共に、銀盆に火が焚かれてある。

火の精霊を祀る物だ。

御迎祭で火の精霊が祀られるのは、ネイクーン王国だけだという。

カウティスは祭壇を見つめ、改めて、この国が火の国なのだと感じた。



祭事が滞りなく進み、祝詞奏上の後は王城の前庭が一部開放された。

王族は民に姿を見せ、新年を祝う。

華やかな音楽と共に、料理や酒が振る舞われ、王城の大広間では大掛かりな宴も開かれた。

御迎祭は日の入りの鐘までだが、新年の祝いは5日間続く。

城下でも、その期間は賑やかな祭りムードだ。





祝いの一日はあっという間に過ぎる。


夕の鐘が鳴って半刻ほど経ち、御迎祭が終わりに近付くと、花火が打ち上がった。

光の魔術で作り上げた物だ。

魔術士館の魔術士達が、王城の上から放つと、色とりどりの花火が夜空に散る。




王は、滞りなく今日の祭事が終えられる事に安堵しながら、空を見上げる。

フレイアが側に来て微笑んだ。

「今年もここで皆と花火が見られて、嬉しいですわ」

「私もだ」

王は娘の肩を優しく叩く。


エルノートは、フルブレスカ魔法皇国の皇立学園に、もうすぐ共に入学する貴族の子息や子女と話している。

カウティスとセイジェは、バルコニーで花火を見上げている。

そしてその近くで、エレイシア王妃と側妃マレリィが、楽しそうに談笑していた。



フレイアが二人を見て言う。

「王妃様と母上は、相変わらず仲がよろしいですね」

「あの二人は、皇立学園に在学中からああだった」

王が侍従からグラスを受け取って、口をつける。

フレイアも続けて受け取った。

「そうなのですか?」

「ああ。マレリィを側妃とした時、二人の関係が変わるのではないかと危惧したものだが、全く以て杞憂だった」

空になったグラスを侍従に渡し、王は口を歪める。

「美女二人が、私を巡って火花を散らす様が見られると期待したのだが、残念だった」

「まあ!」

フレイアが呆れた顔をして父を見上げる。

冗談だ、と王が子供のような笑顔を見せた。




色合いの変わった花火が上がって、歓声が上がる。

「…皇立学園に入学して、色々な方と出会いました」

フレイアが花火を見上げて話し始めた。

「加護を持った方が二人おりました。二人共、薄いオーラのような魔力を、全身に帯びているのです」

魔導素質の高いフレイアには、そう映るらしい。

「国に帰ってきてカウティスを見た時、同じように見えました」

「それで加護を得ていると思ったのだな?」

フレイアは頷く。

王は軽く手を振り、侍従達を下げる。

「てすが、既にそこから間違っていたのかも…」

フレイアの言葉に、王は眉を寄せる。


フレイアは黒髪の先を指で遊びながら、どのように話せば良いか暫く考えた。

「この前、執務室で水の精霊は言いました」



『そなた等王族は皆、私の契約の(あるじ)となることで、“自国に枯れない水源を得る”という加護を生まれ持って得ている』



「つまり、我々王族が一人でもこの国にいる限り、ネイクーン王国の水源は枯れないのです。それが水の精霊の加護であり、契約がある限り、王族は皆、加護を得ていることになります」

「我々は、既に加護持ちであると?」

王はフレイアを改めて見つめる。

フレイアは小さく頷いて、持ったままだったグラスを置いた。


「人間は自ら精霊と契約を交わせないので、生まれ持ってでなければ、加護を持つことはできません」

精霊は気まぐれで、時折どういう理由か、人間の腹の中にいる赤子を気に入り、加護を与える。

その子が、生まれ持って加護を持つ人間だ。

「ですがネイクーン王国では、大昔に竜人族によって結ばれた契約で、王族は皆“自国に枯れない水源を得る”という加護を、持って生まれてくるのでは」



庭園でお茶会をした時、エルノートが言った。


『国益である水の精霊との契約は、“王族”が(あるじ)です。それこそが、既に我々王族全員が、水の精霊から加護を得ているようなものでしょう』


正に、そういうことなのだと思う。



王は愕然とした。

精霊の加護を持つ者は、どの国でも国に三人いるかいないかと言われ、加護持ちだと分かれば、国によっては保護される程重要視されている。

その加護持ちが、ネイクーン王国では王族全て、ということになる。

王は額に手をやり、目を閉じた。


「我が国は、かなり特殊なのだな…」

王は、ドサリと椅子に腰を下ろした。

改めて、加護を得ているという事実を考える。

この国に生まれて、当然のように受けていた水の精霊の加護が、あり得ない程の恵みだったと感じた。


この恩恵(加護)を、必ず守り、受け継いでいかなければならない。

これは王族としての責務だ。



ここで、王はふと思い出した。

漆黒の瞳で王を見つめる、フレイアを見上げる。

「では、そなたが見たカウティスの魔力とは何だ?」

加護を受けているネイクーン王族は、今まで皆そのような魔力を帯びてなかった。


腹の中で、精霊に加護を与えられて生まれた子にはあり、カウティス以外のネイクーン王族にはない。

オーラのように全身に帯びた魔力。


フレイアは赤い唇を一度引き結ぶ。

そして、息を吸って一息に言った。


「精霊の“情”ではないかと」





カウティスは宴の場を抜け出して、庭園の泉に来た。

この後は、大人達が宴に興じるだけだ。

休む前に、少しだけここに来たかった。

泉の中央で小さな噴水が上がり、いつも通りサラサラと水音がしている。


赤と黄色の大きな花火が上がる。

キラキラと輝きながら、小さな光が流れていく。

「…セルフィーネと見たかったな」

上を向いて呟いた時、泉でピシャンと小さな音がした。

カウティスが振り返る。

いつも水の精霊が立ち上がる辺りに、小さく波紋が出来ていた。


『国内の目は閉じない』


水の精霊はそう言っていた。

「そうか、そなたも見ていたか」

カウティスは、微笑んで夜空を見上げる。



最後に、一際大きな花火が上がった。

日の入りの鐘が鳴り、御迎祭が終わった。






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