8話~ゼルの魔法
「お、おおお、おいゼル。み、見えたぞ。外の人間の村だ!」
ドル大深林に入ってから20日。デルランド様からは15日程でドル大深林を抜ける事が出来るだろうと言われていたから、5日分程余計に時間がかかった事になる。
と言うのも、ヨムツァルガと言う大型の蛇型魔物に見つかりかけたからだ。ヨムツァルガは地上におけるドル大深林の生態系の頂点に位置する魔物で、高い隠密、探知能力を持っている。途中まで順調だった分、油断して痕跡を見逃してしまった。
だけど、何とかここまで来た。
(おおー!やったなカイル!くぁ〜、ここまで全く空を飛べなくてストレス溜まってたんだ。森を抜けたんなら、これでもう遠慮なく飛べるってもんだぜ!)
ドル大深林にはアークウィルと言う強力な飛行型魔物がいたために、危険すぎてゼルは全く空を飛ぶ事ができなかったのだ。
しかし、大深林を抜けたところで自由に空を飛べる様になるかはまた別問題な訳で。
「ゼル、デルランド様から言われた事をもう忘れたのかい。人目のある所で飛ぶのはダメだ」
ゼルが僕についてきてくれた理由は自由に飛ぶため。それを制限しなくてはいけないことは心苦しいけど、こればかりは譲れない。デルランド様からも厳しく言われていることだしね。
(おいおいカイル、オレ様だってバカじゃないんだぜ。そんなことは知ってるさ。デルランド様が俺に教えてくれた魔法の中にはこんな物だってあるんだ。見てろよ)
ゼルはそれだけ言うと目と口を閉じた。静かなゼルは珍しい。そして真剣な表情をしているのはもっと珍しい。なんだかゼルじゃないみたいだ。
そしてゼルが押し黙ってから10秒ほど。徐々に全身が光りだす。そのまま光がゼルの全身を球形に覆うと次第に光は小さくなり、再度形作る。
小さくなった光が晴れると、4足の手足と全身を覆う鱗、そして長い尻尾というリザルガ種のような特徴を持った生物が現れた。でも、翼もあるし色も変だ。
「ゼル、なんだよな?そんなこともできたのか。正直、見直したよ。すごいな、魔法ってやつは」
僕の2倍以上あったゼルは、今では僕の半分ほどの大きさしかない。
(そうだろう、そうだろう。オレだってやればできるんだぜ。これは龍魔法の1つだ。デルランド様がこれが出来るようにならないと村からは出さないなんて言うもんだから、そらもう必死に頑張ったんだぜ)
ゼルは得意げに胸をそらし、自慢する。普段だったら無視するに限るんだけど、これは本当に驚きだ。
「背中に翼があるけど、飛べるのかい?それに、姿形が変えられるのなら人間の格好にもなれるの?」
(当然飛べるぜ!でも、このサイズだと力が弱くてあんまり高く飛ぶと風に流されちまうんだ。それと、人間になることはまだ無理だな。龍の姿に似ている種ならなんとかなるんだけど、人間は2足歩行だから難しいんだ。それに人間になったら空を飛べないじゃないか。身体能力は変化した後の姿によって変わるからな。ただ、魔法は今ままで通り使えるぞ。まあ、この魔法を使いながら別の魔法を使うのは今の俺には殆ど無理だ。せいぜいがこの念話の魔法だけだ。)
「へぇ〜、そうなのか。それで、その生き物はなんなんだ?リザルガ種みたいだけど羽根生えてるし、鱗は若干赤っぽいしで僕の知ってるのとは違うみたいだけど」
(これはサラガドルっていう魔物だぜ。本来はここよりもっと熱い地方に住んでるらしいけどな。使用魔法は口から吐ける炎の息吹きと鱗での硬化魔法。そして最大の特徴は人の使役魔法で使役できる数少ない魔物の1つだってことだ。だから、カイルが俺を連れていてもそんなに目立たないはずだぜ)
確かに、デルランド様から使い魔を連れている冒険者もいると教えていただいた事がある。大きさも僕の身長の半分くらいだし、竜の姿でいるよりはずっとマシだ。
「なるほど。ゼルは僕の使い魔で、僕は冒険者たね。よし、それなら変に目立つこともなさそうだ。じゃあ、とっとと行こうか!いよいよ、待ちに待った光景がみられるんだから!」