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龍と少年  作者: 陽伊路
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7話~冒険の始まり

 鳥のさえずり、木が風に揺れる音、そして肌を撫でる風の感覚。

 ここはドーサ村の東にあるドル大森林。

 勿論、初めて来る場所だ。

 首が痛くなるほど見上げなければ木の頂上は見えず、僕とゼルのいる木の下にまでは日の光が殆ど差し込まない。

 驚く事に、この森で最も高い木は何とデルランド様の身長よりも高いそうだ。

 足元に茂る植物1つとっても、見たことのない未知の世界が広がっている。

 グルグルと木に巻きついていたり、ピンク色の小さな実をつけていたり、丸い形の葉っぱをしている草。

 1つの幹から5本も枝分かれし、それが絡み合って再び1本になっていたり、手の平程の筒の様な葉が垂れ下がっていたり、まるで幹の様に硬い葉っぱをつけている木。

 そして足元に転がる僕の身長程もありそうな枯葉。

 未知の世界を目指した僕だけど、自分で思っていた以上に未知と言うものは身近に存在していたんだ。


「ゼル、今のうちにちゃんと言っておく。ありがとうな。付いてきてくれて。正直に言うと、ゼルがいてくれて本当に心強いよ」


 未知への憧憬。それは僕がずっと抱いてきたものだけど、やっぱり1人は寂しい。


(なに、オレもドーサ村を出たかったんだ。カイルこそ、オレに付き合ってくれて助かったぜ)


 目を輝かせてたから嫌々というわけじゃない事は分かっていたけど、こうして言葉にされると嬉しくて、どこかむず痒くなる。


「ところでゼル、君は何でドーサ村を出たかったんだい?」


(ああ、カイルには言ってなかったよな。と言っても、大した理由はないぜ。ただ単に、オレはもっと広い空を飛びたかったんだ。それにドーサ村周辺は強い魔物が多くてのびのびと飛ぶ事も出来ないからな。それでデルランド様に相談したらこうなったんだ)

(カイルこそ、何か理由でもあるのか?)


「僕の場合は外の世界を見たかったからだけど、そうだね。ゼルには話しておくよ。

 僕が外の世界へ行きたいと思う様になったのは、僕の父さんが原因なんだ」


(カイルの父親か。そう言えば、オレは会った事ないな)


「それはそうさ。僕の父さんはとっくに死んじゃったからね。僕もあまり覚えてないんだ。でも、1つだけはっきりと覚えてる事がある。

 僕は幼い頃、父さんに龍に乗せて貰った事があるんだ。その時の景色は圧巻だったよ。今まで全てだと思っていた村は点にしか見えなくて、平原は端が見えないほど広かった。

 父さんは狩人だったから、飛びながら平原について色々教えてくれたんだよ。あそこにはこんな魔物がいる、こっちにはこんな植物が生えているって。

 それで僕は聞いたんだ。平原の向こうの森には何があるの、森の向こうはどういう風になってるのって。

 そしたら父さんは、分からない。じゃあ2人で考えてみようって言ったんだ。それからは、僕と父さんでアレコレ想像を膨らませてどこまでも旅をした。竜が沢山いる土地、歩く植物がいる土地、地面が空に浮かんでいる土地、とてつもなく巨大な魔物の背中に村がある土地、それはもう沢山考えたよ。

 でもやっぱり、本当のところは分からない。龍から降りて父さんはとても満足そうな表情を浮かべていたけど、僕だけはまだ遠くの土地を幻視しながら空想の空を飛んでいたんだ。

 僕が外の世界を見てみたいと考える様になったのは、多分この後からだ。

 でも何分、幼い頃の記憶だからね。もしかしたらもっと前から外の世界に興味があって、これはキッカケの1つなのかもしれない。

 でも、僕は今だってあの時の空を飛んでいる気がするんだ」


(ふーん、じゃあ、今はそれを確かめるための旅って訳だ。

 ところで話変わるんだけど)


「なに?」


(ハラ減った)


「ハァー。全く、ゼルは。今の話の流れでそれかよ」


(だから言っただろ。話変わるけどって。それにオレは龍だからな。人間より大食いなんだよ)


 確かに、龍は人間より体がでかいだけに大食いだ。でもー


「大食いって、朝食は一緒に食べただろ。

 ーまあいいや。じゃあ何か探そうか」


 どっちにしろ、今朝で食料は食べ尽くしてしまったんだ。魔物を狩る必要がある。

 森での狩は、僕がゼルの隠れている場所まで魔物を誘き出し、ゼルが仕留めるというのが定番の流れになる。

 生い茂る木が視界を遮るために空から魔物を見つける事は難しい。それにゼルはいくら龍とはいえまだ子供だ。森に生息する飛行型魔物には子龍では勝てない物もいる。空は危険だ。

 幸い、地上は障害物には困らないからゼルが身を隠す場所は多い。これなら、足の速い魔物でも取り逃がす事はまずない。


 食べられそうな魔物を探して30分。木の上に魔物を見つけた。青色の四足獣だ。体長は、えーと、デルランド様に教えてもらった単位だと大体2メルくらいかな。脚がとても太い。特に後ろ足。

 あの魔物の魔法はきっと、速く走ったり高くジャンプするものだ。

 ん?、背中に傷がある。あの魔物、防御力は高くないみたいだ。これなら、僕の持ってる弓でも十分に傷を負わせられるだろう。大きさも十分にある。1匹でゼルも満足できる。

 よし、あいつに決めた。

 あいつはきっと足が速い。十分に距離を取ろう。それに木登りは得意そうだ。木に登る意味はなさそうだ。

 射る場所はあと30メル前進にしよう。そこならあの魔物に矢が届く。


 音がならないように、ゆっくり、慎重に進む。

 ーよし、ここでいいか。

 弓に矢をつがえ、引き絞る。

 もう手が震える事もない。


 今までの様に狙い、そして射る。

 矢は風を切り、狙い通りに後ろ足の付け根に刺さった。

 《グルゥゥゥゥッッ》

 矢は狙い通りに飛び、命中した。

 後はゼルの隠れている場所まで走るだけだ。もう何度も繰り返してきたこの狩のやり方は、今日も成果をもたらしてくれるだろう。

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