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龍と少年  作者: 陽伊路
7/14

6話~1年間

 朝食を食べ終え何時ものようにデルランド様が来るのを待ってたけど、今日はちょっと遅い。

 時たま、今日みたいに遅くなる時がある。この場合、まず間違いなく子龍達に問題が起きているんだ。デルランド様は人間の扱う魔法は知らないけど

 、当然、龍の魔法は誰よりもよく知っている。

 必然、子龍達への指導は厳しいものとなる。さらに龍達は1週間に1度程度しか眠らない事がこれに拍車をかけている。らしい。ゼルから聞いたことだから本当のところはよくわからないけどね。


 ともかく、今は僕の出来る事をやっているしかない。デルランド様のお話を思い返したり、身の回りのものを整理したり。

 遅れるとはいえ、1時間も遅れることはないはずだ。


<><><><><><><><><><>


 すぐ外から、バサバサと翼を羽ばたかせる音が聞こえてきた。デルランド様だ。でももう一つ、デルランド様のたてる音に隠れて小さな羽ばたく音も聞こえる。きっとゼルだ。もしかすると、今日は朝から狩をするのかも知れない。


「おはようございます、デルランド様」


「おはよう、カイル。少し遅れた。すまない」


(よっ、カイル。おはよう)


 やっぱり、小さな羽音はゼルだったようだ。


「やあゼル、おはよう」


「カイルよ。まずは素直に祝おう。お前は今日で11の誕生日を迎えた。おめでとう」


 そうだ、そう言えば今日は僕の誕生日だったんだ。


「デルランド様、ありがとうございます!」


 でも、今は今日が自分の誕生日である事よりも、デルランド様がそれを自ら祝ってくれた事がこの上なく嬉しい。


「そしてカイル、今日はお前が我の巣に来てから1年が経った日でもある」


 そうか。僕は10歳の誕生日からデルランド様と一緒に生活しているから、もう1年になるんだ。正確には明日で1年だけど、ここに来た時の事はまだ鮮明に覚えてる。何もかもが新鮮で、そして何よりデルランド様が直ぐそばにいると言う感動で、当初の目的を忘れてしまうくらいはしゃいでいた。


「1年前、我はお前に言ったな。我が外に出て行けると判断するか、お前が諦めて村に戻りたいと言うまでは帰さない、と。今日、もう一度、そして最後に尋ねよう。カイル、お前はまだ外の世界へ行きたいと願うか。我は外の世界についてこの1年間、教えてきた。それを知って尚、お前の好奇心、探究心は満足しないか」


 デルランド様は1年前の時のように真剣な表情で僕に尋ねた。そこには、やはり1年前と何ら変わらない圧倒的なまでの威圧感が漂っている。

 僕は今日までの1年を振り返る。

 デルランド様に連れられて初めてここに来た日。

 初めて外の世界について教えてもらった日。

 初めて魔物と対峙し、それを狩った日。

 僕の頭に次々と色々な風景が浮かんでくる。

 何も知らなかった外の世界。パズルのピースが1つづつ埋まるかのようにその未知の世界についての知識を得る度、更なるピースが欲しくなった。今では、去年とは比べるべくもないほどそのパズルは埋まっている。

 でも、いくら知識を得ても、僕の未知への憧憬は全く陰らなかった。むしろ、今尚ドンドン強くなっている。それは、僕の中にある村への想いを覆い隠していた。


「デルランド様。この1年、僕の面倒を見てくださり、本当にありがとうございました。

 デルランド様が僕の事を想ってくださる事、本当に感謝します。

 でも、デルランド様が僕に多くの知識を与えてくださる度、僕の中にある未知への憧憬は深まるばかりです。例えもう2度とこの地へ戻る事が叶わなかったとしても、僕の想いは1年前と変わりません。

 僕は、僕の知らない世界を見に行きたいです!」


 デルランド様はやはり、1年前に初めて僕の願いを聞いた時のように僕の顔をジッと見つめてきた。でも、その表情は1年前とはどこか異なっているように感じた。


「ーーよかろう。我はこの村の守護者。その村人の願いは出来る限り叶える。では、明朝平原の端まで送ろう。そこからは自力で行くがよい。山脈、大森林、大湖、沼地。どこから出て行くか、きちんと考えておく事だ。

 それと、ゼルディギアスを連れて行け。こいつもお前に似て、ここは狭いと言う。

 互いに慣れ親しんでいる仲だ。問題はないだろう。我も、こいつが独り立ち出来るよう教育したつもりだ」


 ゼルも一緒に、か。狩をする時は大抵ゼルと一緒だったし、それ以外でも共に過ごす時間は多かった。デルランド様はあえてそうしているんだろうと思っていたからあまり驚きはないし、僕としては嬉しい。好奇心が勝るとは言え、1人では寂しい事もあるだろう。

 でも、ゼルはどう思っているんだろう。龍達は皆、村人達と同じく安定した、平穏な暮らしを望んでいる。ゼルの本意でない事は、僕はしたくない。


「ゼルはー」


 言いかけて、僕はゼルに聞くのがバカらしくなった。ゼルはもう満面の笑みで瞼を大きく開き、そして目をキラキラと輝かせていた。少しでも目を離せば勝手に飛んで行ってしまいそうだ。


「デルランド様、ありがとうございます。ではその、今日は何をするのでしょうか」


 まさか今までの知識の総確認でもやるのだろうか。そして失敗すればもう1年とか。

 自分で聞いておいて、少し怖くなってきた。


「カイル、お前が自分の夢を追い求めるのはいい事だ。だが、お前の身を案じている者を忘れてはいけないぞ。明朝、迎えに行く。それまでの間、村の者達と別れを済ませておくがいい」


 デルランド様に言われた途端、イリス母さんの顔が浮かんできた。そしてミリムとドーラおばさん。

 これが最後の機会かも知れないと思うと急に懐かしく、直ぐにでも会いたくなった。

 やっぱり、デルランド様は優しい。僕がドーサ村のみんなのことが恋しくなるのを見越していたんだ。


「はい!ありがとうございます!」


 僕はデルランド様にそう答え、ゼルに飛び乗って村へ向かった。

 ゼルもいつもより早く飛んでくれる。

 これが皆んなと会える最後になるかも知れない。

 未知への憧れとは別に、今日は思いっきり皆んなと楽しく過ごそう。そして明日、未練なく新たな旅立ちを迎えるんだ!


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