5話~狩
お読みいただきありがとうございます。前日投稿した4話についてですが、修正前のバーションを投稿してしまいました。修正内容はお金につてです。
銅貨100枚=半銀貨2枚=銀貨1枚、銀貨100枚=半金貨2枚=金貨1枚、金貨10枚=ミスリル貨1枚、となります。
修正箇所は半銀貨、半金貨の追加とミスリル貨の価値を10分の1にした点です。
既にお読みいただいた方には混乱させる事をしてしまい、申し訳ありませんでした。
音を立てないよう、草むらをかき分けてゆっくり慎重に進む。
今日の獲物は平原にいるジャリア・ロポスと呼ばれる魔物だ。
ジャリア・ロポスはバリアン・ボアの3倍で、草食性。ただし、気性はかなり荒い。魔法は硬化魔法。弱点は腹と喉。体色が緑色だから、見落とさないようによく気をつける。
ゼルと探していた時はこの辺にいたはずだけど・・・。
ーいた。体色は目立たないけど、大きい分思ったよりも見つけやすいな。
周囲に他の魔物の気配はなし。ゼルはもう待機している筈だ。慎重に、慎重に。
弓を取り出し、足の付け根を狙う。
ギリリ弓が軋む音を立て、心臓の鼓動が更に速くなる。
草を食むジャリア・ロポスに気づかれた気配はない。
大丈夫だ。まだ気づかれてない。慎重に、慎重にだ。
そのままゆっくりと弓を引きしぼる。
眼が目標のみを写し、肌に触れる草の葉の感覚もない。
一瞬の静寂。
そして風切り音。
それに続くジャリア・ロポスの叫び声。
命中したという確かな手応えを感じつつ直ぐに身を翻し、一気に駆けだす。
《ガァァァァァ!》
身のすくむような叫び声を背中に受ける。
追って来ている。正確に命中した矢はジャリア・ロポスの移動速度を削ぎ、僕との距離は縮まらない。
作戦がうまくいった事、矢が狙い通り命中した事、そして今全力で走っている事で心臓はドキドキと必死さをアピールしてくる。
数分で目当ての場所にまで移動できた。周囲には背の高い草木がなく、見晴らしがいい。ここなら直ぐに見つけられる筈だ。
10秒ほどでジャリア・ロポスが現れた。口から涎を垂らし、ギロギロした目で僕を睨む。
そして次の瞬間、一気に突進してきた。同時に頭部が紫色に淡く光り、魔法を使った事がわかる。ジャリア・ロポスの硬化魔法は発動できる範囲が広い代わりにバリアン・ボアほどの強度はない。
だけど、それで人の子供を1人吹き飛ばすくらいは簡単だ。
このままなら10秒もしないで僕は吹き飛ばされるだろう。
でも、僕にはもう見えた。ゼルの方が速い。
突進するジャリア・ロポスの背後から、それよりも圧倒的に速く動く黒い影。
それが翼を広げ、首を伸ばし、ジャリア・ロポスの背に噛み付いた。
《グギィァァァ》
背を噛まれた事でジャリア・ロポスは今までで最も大きい声で叫び、暴れ出す。次いで背が淡く光り、硬化魔法が発動した。しかし、既に牙は突き刺さって全く抜けない。
ジャリア・ロポスの目にはもう僕の姿は映っていなかった。
僕は腰から短剣を取り出し、走り出す。
暴れるジャリア・ロポスの喉に短剣を突き入れ、そのまま喉を削ぎ落とした。
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力尽きたジャリア・ロポスが倒れ、辺りはようやく静かになった。
「ゼル、背中に噛み付いても暴れるだけじゃないか!」
ゼルというのはこの龍の名前だ。デルランド様の加護を受けた竜種で、ただの竜よりも賢く、力も強い、すごい存在らしい。でも、僕は龍種しか見た事がないからよく分からない。この辺にはもう竜種はいないんだ。
ちなみにゼルというのは所謂、愛称だ。本名が長いからゼルと呼んでいる。まだ子龍だけど、それでも僕の2〜3倍の大きさがある。
本名はゼルギディアス。如何にもな名前で初めて名前を聞いた時は幼くてもさすが龍種だと威厳を感じた。村にいた龍達は皆、僕達子供に優しくしてくれつつも威厳をもった近寄り難い存在だったからだ。
でも、そんな最初の想いは直ぐに綺麗サッパリと消え去った。
それから、僕はゼルギディアスではなくてゼルと呼ぶことにした。だってこいつにゼルギディアスなんて名前は全く似合わない。
(目測を間違えたんだよ、カイル。オレだってもう一回首に噛み付こうとはしたんだけど、牙が抜けなくてさ。カイルだって最初に見つけたバリアン・ボアを撃ち損だんだし、お相子って事にしてくれよ)
頭の中に声がする。ゼルは口じゃなくて、魔法で喋っている。龍の口じゃ人の言葉は発音できないらしい。それでデルランド様は村にいる龍に念話の魔法を授けて下さったそうだ。
「僕が撃ち損じたのは、君が変な所を飛んだせいで影がバリアンボアに気づかれたからじゃないか!デルランド様に言いつけてやる」
(ワァワァ、悪かった。オレが全部悪い。このジャリア・ロポスの一番いいとこはカイルにやるから、デルランド様にだけは言わないでくれ、頼むよ!)
ゼルはお調子もので、注意散漫なんだ。獲物を追ってる最中でも綺麗な色の鳥が飛んでたとか言って狩のことなんて頭から消えちゃう。
いざ狩をしても今回みたいに変な所に噛み付いて僕に危険が降りかかることもしょっちゅうだし、終いにはそれをデルランド様に黙っててくれとまで言うんだ。
まったく、たかが肉くらいで・・・
「全部?」
(うぐっ、も、もちろん全部!)
「失敗は誰にでもあるからね。しょうがない、しょうがない」
たかが肉。されど肉。
ジャリア・ロポスの外皮の下に薄く付いている肉はそれはもう絶品なんだ。切り分けるのは難しいけど、それだけの価値はある。それにジャリア・ロポスはなかなか狩れない獲物だ。
普段はバリアン・ボアばかりだから、尚更美味しく感じるのかもしれない。
僕はルンルン気分でジャリア・ロポスの解体を始めた。
まずはゼルが木にジャリア・ロポスを引っ掛けて、魔法で血抜きをする。
その後で僕が内臓を取り出し、デルランド様の巣に持ち帰りやすいように切り分けるんだ。
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ジャリア・ロポスを仕留めてから1時間。切り分けられた肉はゼルに吊り下げられて風に揺れている。
(カイルゥ。こいつ、かなり重いよ。こんなに重いと俺、疲れちゃう。落としちゃうかも。美味い物が食えるなら頑張れそうなんだけど)
ゼルが媚びるように言ってくる。
「ゼルは満足に獲物を仕留めるどころか運ぶ事さえも出来ないのか・・・。これを知ったらデルランド様なんていうかな」
(ヒ〜、冗談だ、冗談!俺メチャクチャ元気!さあ飛ばすぞぉ!)
ゼル、僕は前回君に例の美味い部位を全部食われてしまった事を忘れてないからな。せっかく綺麗に切り出したと思ったらいつのまにか全て無くなっていた。
近くに魔物でも来たのかと思ってゼルに急いで確認したら、ゼルは肉片がついた口で「肉は魔物が食った」なんて言うんだ。恨むなら、その時の魔物を恨むんだな!
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10の誕生日。それはもう1年近くも前のはずなのに昨日の事のように感じられる。デルランド様の巣で生活し、様々な知識を与えてもらい、そして狩の術を学んだ。
僕は胸を張って、この1年間全力で努力したと言える。
最近、デルランド様は僕に新しい事を教えてくれるのではなく、今まで学んだ事を確認する事に終始している。
もしかすると、デルランド様は遂に村の外に出る事を許して下さるのかもしれない。
そう思うと、僕は興奮を抑えられなかった。