4話~問答
あの日から、僕はデルランド様と共に生活する事になった。
デルランド様はドーラおばさんよりも博識で、外の世界について色々な事を教えてくれる。
僕は今まで経験したことのないほど多くのことを知った。今までで最も幸せな生活だと胸を張って言える。
「ん・・・。朝だ!」
差し込む光に僕は飛び起きると、僕は自分の朝食の準備をする。
今日の朝食は昨日僕が狩ったバリアン・ボアという平原にいる魔物の肉と、デルランド様からもらったパンだ。
外の世界ではこのパンが主流の食べ物らしい。そのまま食べても美味しくないけど、肉にはいつも食べていた芋よりもよく合ってとっても美味しい。でも、パンを作るのは芋よりも手がかかるんだ。
何度かデルランド様に言われて作ったけど、デルランド様が出してくれるパンとは比べるべくもなかった。
「ごちそうさまでした」
パンにバリアン・ボアの肉を挟んだだけだけど、僕はこの味が気に入っている。
朝食も食べ終わり、もうデルランド様が来る頃だ。デルランド様はまだ暗いうちに起きて、魔物を食べに行っている。毎日食事をする必要は無いみたいだけど、見回りも兼ねてそうしてるらしい。
「ちゃんと起きていたな、カイル。では、今日も始めるとしよう。
まずは今まで我が教えてきた内容を覚えているか、試させてもらう」
デルランド様は時たま、こうして僕がちゃんと覚えているか確認してくる。普段気を抜いている訳ではないけど、この確認があるからいつも真剣に聞く必要がある。
「まずは、人の国で使われている様々な物と交換できる物は何だ」
これは簡単
「お金です。価値が低い物から順に銅貨、銀貨、金貨、ミスリル貨で、銅貨、銀貨はそれぞれ100枚で銀貨、金貨と。金貨は10枚でミスリル貨と等価です。それと、銀貨、金貨には価値が半分の半銀貨、半金貨があります」
「そうだ。では、パン1つの値段はいくらだ」
これは引っ掛け問題だ。
「だいたいは銅貨1枚です。ですが、その年のパンの原料の収穫量が少なければ値段は上がり、多ければ下がります」
「ふむ、よく聞いていたようだな。
では、魔法について。外の国では魔法をどの様に扱っているか」
「はい、魔法は支配者の象徴とされています。国を運営している者である貴族は皆魔法を使うための魔力を持っていて、魔力が無ければ貴族として認められません。
そして親が魔力を持つ場合、子は魔力を持つ事が多いです。
それと、貴族ではない平民と呼ばれる人たちの中にも稀に魔力を持つ人がいます。
平民が魔力を持っていると分かれば、その地を治める貴族に申し出なければなりません。
そして、魔力を持つ平民は軍人になったり、土地を放浪して魔物を倒し、金を稼ぐ冒険者になる事が多いです」
「そうだ。付け加えるなら、お前も魔力を持っているという事だ。それも、外の人間よりも多くの魔力をな。人間の国へ行く時は、魔力の扱いをくれぐれも間違えるなよ」
デルランド様は何度も魔力について教えてくれる。そしてその度にいつもこう言うんだ。無駄な事を嫌うデルランド様がこんなにも繰り返すんだ。きっと、本当に大事なことなんだと思う。
「次は魔物についてだ。魔獣と魔物の違いは知っているな」
「はい。魔獣は魔物よりも小さい事が多いです。そして僕たち人間の様に様々な物を食べて生きています。僅かに魔法を使える魔獣もいます。
魔物は体が大きく、魔力を食べると言われています。そして強力な魔法を使い、知恵を持つ魔物もいます。
でも魔獣とただの獣との差は曖昧で、明確に分けることはできません」
これはドーサ村で学んだ知識だ。小さい頃から教えられているから、間違えることはない。
「そうだ。魔獣よりも魔物の方がより強いと言える。では、外の人間はこの魔物にどう対処している」
「はい、魔物には専門とする冒険者が複数人で対処します。それと、魔導具と呼ばれる誰でも魔法を使える道具を使う事もあります。でも、倒す事が難しい魔物もいて、そういった魔物たちはその地を治める貴族を中心とした軍で対処します」
「そうだ。貴族にとって、土地は財産だ。魔物を独力で討伐できないとなれば、貴族としての立場を失う事になる」
「では、魔道具についてだ。魔力のない人間でも使える便利な道具だが、欠点もある。それはなんだ」
「はい、魔道具はパンがたっくさん買えるぐらい高いです。それに込められてる魔力が無くなると、もう一度込めるまで使えません。あと、魔法使いが魔法を使うよりも弱いです」
「よし。この村には魔導具はないから見せてやる事はできないが、実際に見たら注意しておけ。数あるものでもないがな」
「確認はここまでにしよう。今日は、人が扱う以外の魔法についてだ」
「まず、魔法は種族毎に異なる。これは、生き物の構造が種族によって異なるからだ。例えば鳥が飛ぶ方法、そして魔物や我が飛ぶ方法は全く違うし、人はそもそも飛ぶ事が出来ない。魔法は種族ごとに最適な形でしか発動出来ないのだ。
他にも、種族によって得意とする魔法は異なる。
魔物は大きな魔力を持ち、強力な魔法を行使できる一方でその種類や発動可能部位が制限されている。
人間は魔力によって多くの事象を発生させる事が出来、更に全身にくまなく魔力が通っているために全身で魔法発動が可能だ。
しかし魔力を持っている者は極一部であり、その量も大したことはない。ただその分、細かい魔力操作は得意だがな。
そして我だ。我は大量の魔力を保有している。そして創造の魔法を扱う事が出来る。前にも言ったが、カイルが食べているパンは我が創り出しているものだ。
しかし、我は強大な魔力を持つが故に細かい操作がまず不可能だ。この村に魔導具がない理由はこれだ。
カイル、魔法はその生物の特徴に根付いている事が多い。未知の魔物に出会った時は、行動や形姿をよく観察してみる事だ。
そして残念ながら、我は人の使う魔法はトンと知らない。よって教えることはできないのだ。すまないな」
デルランド様は魔法の話題をする度に人間の魔法を知らない事を謝ってくる。
この村にはちょっとした癒しの魔法を使える人しかいないんだから、知らなくて当然だと思うんだけどな。それに、デルランド様は人間の魔法は知らなくても魔物の魔法はよく知っている。
知らなかった事を知れるなら、それが人のものだろうが魔物のものだろうがなんでも構わないのだ。