2話~古龍の想い
短めなので2話更新です
我は1000年間、この地にて人間を守護してきた。
今でも勇者と呼ばれていたあの男のことはよく覚えている。明るい茶色の髪をした長身のあの男。男はアレンと名乗り、腰には聖剣と呼ばれた幅広の剣を帯びていた。
そして、いつもその傍にいた吸い込まれるほど深く、綺麗で、長い黒髪をしたあの女。彼女は聖女と呼ばれていた。
我がアレンと手合わせした後、我らの傷を癒してくれたのはその女だった。あれほど見事に癒しの魔法を使う人間はそういない。我も遥か以前に2人見ただけだ。
人魔対戦後、魔王を討ったというアレンは我にかの聖女を見守って欲しいと言ってきた。
我には悠久の時がある。であれば、一時の間程度、友の想い人の面倒くらい見てやろうと思った。
その後、当人達は直ぐに死んだ。我以外の生き物とはそんなものだ。
思えば、この時点で人間の守護など終えても良かった。だが、あの時の我はそんな考えなど塵ほども浮かばなかったのだ。
我自身で思っていたよりも、アレンへの友誼は深いものだったのだろう。
そして平穏なまま時は過ぎる。
当時、我の縄張りには数匹の竜種がいた。以前は気に留めてもいなかったが、この者たちの助けがあれば、人間たちは安全に暮らすことができる。ふとそう思い浮かんだ。
我はかの者たちに加護を与え、我の系譜の龍種とした。そして、人間たちと共に生きるように言ったのだ。
人間も、龍も、時が経つにつれて増えていった。
それを見て、我は消えてしまったアレンが未だそこに在り、増えるたびにその存在が大きくなっていく気がして嬉しくなった。
我は平穏に暮らす彼らを見ていて楽しかった。
だが、それではいけないのだと我は知った。
彼らの住む平原は四方を自然の要害に囲まれていたが、東に広がるドル大森林を焼きながら外の人間の軍隊が進んできたのだ。
我はアレンとの友誼に応えその者達を焼き尽くした。
今はそれで良い。もう暫くの間もそれでいいだろう。だが、我がこの地を離れた時、かの者達は突然に外の人間達の脅威に晒されるのだ。それも、彼らとは比べる事も出来ないほど大量の。
彼らには変革が必要だ。外の人間達に対抗できるだけの、我に頼らない力がいる。
幸いにも、この地から湧き出るマナはそこに住む生き物を強くする。
外の人間よりも多くのマナを体内に持て、体がマナによく馴染んでいる。強力な魔法を扱うことが出来るだろう。
だが、その魔法を教えるものがいない。彼らが使える魔法は小さな傷を治せる程度の癒しの魔法だけだ。我も人間の使う魔法はトンと知らない。
ここには、外の世界を知る者が必要だ。
外の世界の知識は彼らを大きく助けるだろう。
だが、どうすれば良いのか。
彼らは外の世界に興味がなく、平穏な日々を過ごす事こそを望んでいる。
我は、彼らに何かを強制する気は無い。我の役割はかの者達の守護である。
だが、今のままではいけない事も事実である。
我はどうすれば良いのか、全く分からなかった。