12話~先へ
カリカットの街を目指して歩き出してから3日。一昨日3匹のジャグラスを仕留めてから全く魔物や魔獣を見ていない。丸1日ただ歩いただけなのは、ドーサ村を出てから初めての経験だった。ドル大森林は確かに危険地帯だったと言うことを今になってようやく実感できた。ここから先は今まで以上に進みやすくなるに違いない。
ただ、実は問題もある。それは食料だ。ここまでの道中毎日のように魔物に襲われていたから、そこから糧を得ることができた。でも、ここから先はそうも行かない。となると、僕はともかく大量の食料を必要とするゼルの食事を確保することが難しくなるのだ。ガハルトさんが言うにはカリカットの街まであと2日。正直、かなりギリギリだ。
(カイル、何か食いたい)
「ゼル、食いもんがない。とりあえず、ガハルトさんのとこで貰ったこれを食べてくれ」
最後の1かけらだった燻製肉をゼルにあげる。パンはまだ残っているんだけど、ゼルはパンは食べない。
「ゼル、こうなったら仕方がない。飛んでいこう」
ここまでの道中人気がないとは言え、ゼルには魔法でラガドルの姿になってもらっている。この道をどの程度の人が通るのか、全くわからないためだ。でも、もうそうも言っていられない。
(よっしゃ、任せとけ!人の足で2日の道のりなら昼までにたどり着いてみせるぜ)
飛べると分かった瞬間、ゼルは急に元気を取り戻した。僕の思ってた以上に飛べないことがストレスだったみたい。ちょっと罪悪感を覚える。
「ゼル、頼んだ。でも、無理はしないでよ。魔物の数が減ってきているとは言っても、完全にいない訳じゃないはずだ。もしかすると、強力な飛行型魔物がいるかもしれないんだから」
(へーきへーき!もしいても絶対に追いつかせないぜ!安心して乗ってろ!)
う、こんな風に調子に乗っている時のゼルって、何するか分かんないから怖いんだよね。でも、まあいいか。たまにはゼルの好きなようにさせてみよう。恐怖もあるけど、何するかわからないからこその面白さもあって、僕はこんなゼルの性格が好きだったりする。
(じゃ、行くぜ!ちゃんとつかまてろよ)
僕が背中に乗ったことを確認すると、ゼルは一気に速度を上げ地面を疾走する。周囲の景色が流れるように後ろに過ぎ去り、あまりの振動にゼルに捕まってる手が痛くなり始めたところで一気に翼を動かし、フワリと宙に浮いた。全ての荷物と僕自身を乗せたゼルは重さを感じないかのように力強く翼を羽ばたかせ、どんどん高度を上げて行く。ドル大森林だと強力な飛行型魔物であるアークウィルがいたから、あまり高いところは飛べなかった。もしかすると、ここまで高い場所を飛ぶのはゼルにとっても初めてなのかもしれない。のびびと、自由に空を翔けるゼルはとても生き生きとしていた。
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地面一帯に青く生い茂る背の高い植物。その中心で異彩な存在感を放つ石壁と、それに囲まれた多くの家屋。さらにその中心に聳え立つ巨大な石の建造物。
「――これは、人が作ったのか……?」
数多の生き物が生きる森よりも狭い。遥か大空へ手を伸ばす山々よりも低い。でも、この景色は。この光景が訴えかけるこの圧倒的な迫力は。今まで見てきたどんな森よりも、山よりも、僕の心を圧倒する。
(――おいカイル。すげぇな、アレ)
「ああ。すごいな、ゼル」
あれが、街。どんな言葉を並べても、どれだけ立派に描いても、この光景を完全に人に伝える伝えることはできないに違いない。
僕とゼルは、吹き付ける風の寒さも忘れてこの景色に囚われ続けた。