11話~次の場所へ
空が茜色に染まり、段々と暗くなっていく頃。僕たち10人とゼルは村に戻ることができた。雰囲気からして、今日の戦果は上々だったみたい。慣れない集団行動には精神的に疲れたけど、初仕事成功の達成感で今の僕はとても清々しい気分だ。
「よーし、ご苦労さん。獲物はいつも通り解体所に運んでくれ。そしたら今日は解散だ。あと、カイル。今日は本当に助かった。こんなに戦果がいいのはいつぶりだろうな。もし可能なら、明日からもずっと頼みたいほどだ。本当によくやってくれた」
今回の狩のリーダー、ダズさんが僕に向き直り、感謝の言葉を言ってくれた。誰かに感謝されるなんて、いつぶりだろう。
「いやはや、本当にすごかったぜ。正直、あんたのこと侮ってたよ。謝らせてくれ、すまなかった。その年で冒険者ってのは大変だろう。もし俺に協力できることがあれば遠慮なく言ってくれ。できる限りの協力はさせてもらうぜ」
ダズさんに続き、バグラットさんもがこう言ってくれた。もちろん嬉しいんだけど、ここまでくるとなんだかむず痒い。
「何言ってんだよバグラット。カイルは剣に弓、さらに魔法までも使える凄腕冒険者だぞ。俺たちが協力できることなんざ、たかが知れてらぁ」
バグラットさんの言葉にザルバさんが茶々を入れ、3人の狩人が笑う。その笑顔は打算など全く入る余地のない、心から沸き上がってくるもののようだった。
「仲がいいんですね。そんな風に笑い合える人は、僕の故郷でもあまりいませんでした」
ドーサ村。僕の故郷。夢の為に去った場所。もちろん後悔は微塵もないけど、少しだけ。ほんの少しだけ、懐かしく思った。
「ハハハ!そりゃそうだ!この村に身を寄せあう前は、俺たち3人ともパラス共和国軍の同じ部隊にいたんだ。お互いに命を救った仲で、救われた仲でもある。この村に世話になるまでに色々あったが、俺たちの関係はなんらかわんねぇんだ」
命を預けあった仲、か。それなら、こんなにも互いに信頼しあっているのも当然なのかもしれない。
それにしてもパラス共和国か。デルランド様からは聞いた事のない国名だ。
「パラス共和国と言うのはどういう国なんですか?」
「お前さん、それを知らないでこの国に来たのか!?度胸があるんだか無謀なんだかわからないやつだな。
パラス共和国はビグジットって言うクソ野郎がめる国だ。ビグジットは自分に反対するものを全員殺して王になった男でな。最後は反乱まで起こしたんだ。そのせいでこの国はボロボロだ。全く、かつてのパディール帝国の面影はどこにも残ってない。あ、パディール帝国ってわかるか?」
パディール王国。その名前はデルランド様から教えていただいた。なんでも、300年前に当時最大の国家だったバランディル王国を打ち破り、最大の覇権国となったらしい。その後、なんとドル大森林にも軍を進めたみたいだ。これはデルランド様が防いだからドーサ村に影響はなかったんだけど、初めて聞いた時はとても驚いた。
「そうか、パディール帝国は知ってるのか。ま、今となっては過去の栄光だな」
その後しばらく仲のいい狩人3人と立ち話をした後、村長さんの家に戻った。
村長のガハルトさんは今日の狩の成果にとても喜んでくれて、夕食は少し多めに用意してくれた。ただ、ゼルが一口くれと言うのであげたから、あんまり変わらなかった。
――ちなみに、夕食は丸いパンに具がたっぷり入ったスープだった。デルランド様には申し訳ないけど、正直パンはここの村の方が美味しかった。肉も入った具沢山のスープはしっかりと味が出ていてとても美味しかった。
夕食の後はガハルトさんと報酬の話をした。今日の狩の成果はジャグラスが11匹、マロジラスが2匹だ。マロジラスと言うのは僕よりも少し小さいくらいの魔物だ。強力な突進攻撃をしてきて危険な魔物ではあったけど、攻撃を避けることはそんなに難しくなかった。
一応、僕の取り分としては魔物13匹分の素材の一部位になるけど、量が多すぎる。ジャグラスの一番小さい素材である灰色の角でも僕の手の平くらいの長さがあるから、これを13本も持つのは無理だ。
マロジラスの一番小さい部位は魔力との親和性が高い鋭い歯だけど、これも僕の手の平くらいの大きさがある。龍の姿のゼルなら余裕で運べるんだけど、流石にそれはできない。素材だけならラガドルの姿のゼルにも積めないことはないけど、他の荷物があるから無理だ。
そんな訳で、報酬につては意外と難航した。
結果、落とし所はジャグラスの角5本、マロジラスの歯1本を僕が受け取り、後はこれからの旅に必要な小物類、食料、そして情報と交換することになった。
この小物類、食料、情報のなかで僕が1番嬉しかったのは情報だ。これで、次の行き先が決まった。
簡単に纏めると、今僕がいるのはパラス共和国だ。これは狩人たちとの会話で確認済み。そしてこの国の東の山岳を超えた先にあるのがカルネリア王国。
カルネリア王国はパラス共和国の前身であるパディール帝国が崩壊した際に分裂した国家で、かつての領土を取り戻そうとしているパラス共和国とはかなり仲が悪いらしい。カルネリア王国は小さな国だけど、周囲を山岳に囲まれているためにパラス共和国も下手に手出しができないとか。
そしてカルネリア王国のさらに東にあるのがしこの周辺で最大の大きさを誇るバランディル王国だ。バランディル王国はここ数十年で人類以外の種族へ対する規制を次々と撤廃し、周辺国の中では多種族が多らしい。バランディル王国もカルネリア王国とはあんまり仲が良くないみたい。ただ、ガハルトさんは理由までは知らないと言っていた。
パラス共和国の北部国境に接する2国のうち、東側の国がヌリス商業国。この国はパラス共和国の北にある国だ。パラス共和国、カルネリア王国、バランディル王国に接しており、更に沿岸に位置しているために交易拠点として非常に発展している。そのため、この3国の品は全てこの国で揃うと言われているらしい。
そして北部国境の西半分と接する国がゴルザック帝国。この国はパラス共和国の前身、パディール帝国時代からの同盟国であり、共にノイス教と戦った。
パラス共和国の西にはノイス教の影響を強く受けた中小国がいくつも存在しており、実質、戦争状態にある。
ちなみに、ドル大森林はパラス共和国の南西に位置している。
そしてパラス共和国の南にはノイス教の総本山、ノイス神聖国がある。ノイス神聖国はこのパラス共和国の他にもバランディル王国とも接しており、両国ともに戦争状態にある。ただ、カルネリア王国とは内海を隔てているために直接国境は接していない。
つまり、次の目的地であるヌリス商業国に行く為にはパラス共和国を縦断する必要がある。ガハルトさんや狩人さんたちはパラス共和国を良く思っていないみたいだから不安だけど、実際に行って見ればまた違うかもしれない。この不安感もまた楽しみの一つだ。
翌朝。窓から差し込む優しい日の光で目が覚めた。翼で日の光を遮ってまだ寝続けようとするゼルを叩き起こし、昨晩のうちにまとめて置いた荷物を持ってガハルトさんへ挨拶をしに行く。
「おはよう、カイル。今日は出発の日だな。こんな小さい村にお前のような優秀な冒険者がきてくれた事、感謝する。おかげで村の肉の備蓄にかなりの余裕ができた」
「仕事ですからお互い様ですよ。それに出発の準備まで手伝ってもらいましたから。感謝するのは僕の方です」
「そうか。ならいいんだが。行き先はカリカットの街だったな。道なりに行けば5日ほどだが、カイルの足だともう少しかかるかもしれん。気をつけて行けよ」