08 大興奮
久々の大きな街への滞在なので、結構良いお宿にしてみました。
三階にある広いお部屋は、チーム五人が余裕でお泊まり可。
テラスからの街の眺めが見どころの、リラックス満点ルームです。
「鍛冶屋はどうだった」
との問いかけに、不敵に笑うノルシェ。
「作業場見学までさせていただいて、安心大満足でしたよっ」
ほう。
「日々の過酷な作業で鍛え抜かれた肉体の職人さんが、槌を振るうたびに飛び散る火花っ」
ほほう。
「熱気ムンムンやる気マンマンの職人さんから、飛び散る汗っ」
ほうほう。
「防火エプロンに収められた豊かな胸元に、吸い込まれるように流れ落ちる汗っ」
……
「我々冒険者は、ともすれば前衛職の鍛え抜かれた肉体にばかり目を奪われがちですがっ」
…………
「真に重要なのは職業ではなく、日々何を積み重ねてきたのかだということをこの目に焼き付けてきましたよっ」
つまり汗に濡れた豊かな胸元を目に焼き付けてきた、と。
「我が愛刀受け取りの際は、ぜひご一緒に作業場見学をっ」
「……それで仕上がりはいつ頃なのかな」
「親方は三日後に、と」
「楽しみだね」
そんな熱気ムンムンな場所に長時間いたのなら先に汗を流したほうが良かろうと、風呂場へノルシェを放り込む。
浴室から聞こえてくる何とも形容しがたい鼻歌に耳を奪われないようにしながら、
「シジミは作業場見学に行きたいのかな」
「シジミの未分類生命体的脳細胞は熱気ムンムンな場所は苦手なのであります、です」
「思考速度低下抑制のためにも涼しげプレイスの方がお好み、なの」
「もし暑いところで具合が悪くなったら、早めに言ってね」
「このちっちゃくて愛らしい肢体はおんぶでもお姫様抱っこでも両対応の両刀使いな小娘なの、です」
ちっちゃい言うなし。
「ただいまっ、お母さんたちっ」
「ただいまみんなって、聞いてよモノカッ。 マクラちゃん、ホントすごかったんだからっ」
何やら大興奮なふたり、ご帰還。