03 語り
連れてこられたのは街外れの小さな一軒家。
先生の隠れ家のひとつ、だそうだ。
「ここはメイジにも知られていない隠れ家でね、私以外の人を入れるのは初めてなので散らかりっぷりは勘弁してくれたまえ」
通されたのはさほど広くない部屋、乱雑に積まれた荷物の数々、壁の棚には色とりどりの薬瓶、床の木箱にもごちゃりと混ぜこぜの薬瓶。
部屋中央の小さなテーブルに、向かい合わせに腰掛けた。
「昔から人任せだったのでお茶には自信が無い。 喉を湿らせるのは、こんなので勘弁してくれたまえ」
出されたお茶は、しみじみと美味かった。
「良いお手前です」
「世辞でも嬉しいよ」
しばし無言で見つめ合う。
「済まんが、まずは私の話しを聞いてもらえるかな」
訥々と、語り出した。
あちらの世界での、幼き頃から知識を貪欲に求めた孤独な毎日
こちらに召喚されてからの、より一層の知識吸収の日々
自身の固有スキル『知識』の研鑽と暴走
大切な人との大切な生活、それを守れなかった後悔
逃亡生活がもたらしてくれた自由
聞いていた私は、なぜか、涙が止まらなかった。
語り終えた先生は、私が落ち着くまで待ってくれた。
「メイジのように、泣いている女の子の扱いには長けていないのでね」
「お見苦しいところを」
「いや、抱きしめて揉みくちゃにしたい欲望を我慢するので精一杯だよ」
ふたり、顔を見合わせて、少し微笑む。
「似ている、のでしょうね」
「そうだね、初めてモノカさんを診察した瞬間から、私も同じ想いだよ」
急病の私がベッドで診察されていた時のあられも無い姿を思い出してしまった。
「お見苦しいものを」
「それはひどいなモノカさん、こと体型に関しては心の底から分かり合える同志と思っていたのだがな」
いつもの漆黒のローブを脱いでいた先生のお胸に視線を向ける。
まるで鏡を見ているかのような、自分にとっては親の顔より見慣れた絶壁。
「誠に、申し訳ない」
心からの謝罪と共に下げた頭を、またもわしゃわしゃされた。
「そうやって可愛いところを見せつけられると本当に我慢出来なくなりそうなんだ」
「モノカさんには、もっと自身の魅力を抑える努力をして欲しいな」
「魅力、ですか」
冗談抜きで皆目見当がつかぬ。
「あの魅力的なパーティーメンバーがあれだけ慕ってくれる理由に、もしかして本当に気付いていないのかい」
それこそがまさに今の私の悩み、心をもやらせるものなのだ。
やはり、先生には、かなわない。