02 先生
黒井チェル先生は、私と同じ召喚脱落者。
いや、先生の場合は脱落者ではなく逃亡者であろう。
その類い稀な医術能力を国に求められて力を尽くしてきた先生。
本意では無い使われ方をした力が先生を罪人としてしまうが、国は彼女を守ってはくれなかった。
結局、流浪の闇医者となった先生は、追われる身でありながら神出鬼没の活躍で医療行為に従事している。
「その後、経過はどうだい」
ごたごた続きで前回の治療の経過診察が先延ばしになってしまい、ようやく今日会うことが出来た。
「先生の治療のおかげで、仲間たちとの絆はより一層のものとなりました」
「それは何より」
相変わらず先生の表情は分かりにくいが、安堵してくれているようではある。
あの治療法自体は正直いかがなものかと思うが、結果を見れば最善手であったのだろう。
やはり蛇の道は蛇、いかな無茶振りだろうとも専門家には逆らえぬ。
「今日はデートのお誘いと言うわけではなさそうだね」
心を見透かされるとはまさに今の状況。
「分かりますか」
「厄介な心配事を抱えている風でも無し、私との逢瀬を楽しんでいる風でも無し、あえて言うなら心がざわついているといった風情、かな」
「参りました」
この人には敵わないなと頭を下げると、髪の毛をわしゃわしゃされた。
「もし良かったら、私の家でゆっくり話でも聞こうか」
是非も無し。