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第2話 上空1万メートルの攻防

 8機のジェットヘリは高度50,000フィ-ト(約15,000m)を超える高度に達し時速600kmで飛んでいる。通常、ジェットヘリの限界値というのは、高度は40,000フィート(約12,000m)、速度は時速400km前後である。それを考慮すると、通常考えつかない高高度と速度で飛行しているのが分かる。そして、それが可能と言うのは、最新鋭ジェットヘリのなせる技なのであった。


 間もなく戦闘が始まるというのに、全くと言っていい程緊張感が感じられないヘリの中の兵士達。極度の緊張で逆にハイになる場合もあるというが、それなのであろう。


 すると、通信兵の一人が機器の操作中に突然慌てだす。機器を操作する手が忙しく動いているのを、周りの兵士が見逃す筈もない。兵士達は突然沈黙する。


「小隊長、テリ-中隊長から無線が入ってます」


 通信兵は無線機の回線を切り替える操作をする。しばし沈黙する小隊長と呼ばれた男を、兵士達が注目していた。ヘリの中は兵士達の熱気で若干蒸せている感じであるが、汗をかくほどではない。しかし、緊張の為かその兵士達の顔には、一筋の汗が流れていた。


「わかりました」


 通信を終えた小隊長の顔が険しくなった。


「我々アーチィ小隊は、先発隊として左翼にレベル0(標高0mつまり地表のこと)に展開する」


「もっ、もう、出んのかい」


「中隊長が、そろそろ追っ手が来るって言ってんだ」


 その言葉を聞いて、機内が慌ただしくなった、兵士の顔が更に真剣になる。機内は緊迫状態になった。


「よし! 全員降下準備、急げ!」


 その言葉と同時に、兵士は一斉にヘルメットの装着を行う。鎧の様な装甲を身につけている為、兵士が動作する度に擦れる金属音がする。その装甲は、特殊な金属と樹脂で出来ていると見られ、見た感じ程重くはない。しかし、銃火器を含め、総重量20kgを身に着け空中戦を行うには、やはり相当の訓練と筋力トレ-ニングが必要であったと思われる。


 ヘリの後部デッキでガコンと大きな音がしたかと思うと、その左右が少しずつスライドを始めた。降下用のハッチが開き始めたのだ。


 ハッチが開くと、機内の気圧の差で空気の流入出が激しく起こる、その様子は、機内に台風でも来たかの様である。機内の気圧は低下し気温は-60℃まで一気に低下する。兵士達は装備を再点検すると、降下アダプターを、降下装置にセットする。しかし、寒さの為か、その手つきはぎこちない。


 ハッチから真っ青な空と真っ白な雲を見おろす事が出来る。兵士達は、自分達がこれから降下する”下”を見つめていた。


「セット」


「フォール、ナウッ! ゴー、ゴー、ゴー!」


 その、掛け声と共に、兵士達は機敏に降下して行く。ヘリからは、ディセントフォースの列が、バンカン砲の薬莢の如く続いた。25名全員が降下を完了するのに、10秒と掛からなかった。


 最後の兵がヘリから飛び出すのを確認したヘリのクルーが兵士へ向けて右親指を立てて健闘を祈った。


 彼らは、自由落下をしていた。加速度 9.8m をじっくり体験する事が出来るのは、フォ-ルする時ぐらいであろう。だが、言葉で言う程自由度はない。


 高度50,000フィ-トからの長い落下は、加速度と、それに伴い激しい風圧を受ける、さらに兵士は、高度による氷点下から常温への急激な温度変化と、気圧変化に遭遇する。


 それを、彼らの着ているディセントス-ツがコンピュ-タ制御で保護しているのであった。しかし、いくらス-ツで彼らの身体が保護されているとは言え、この長時間の落下に一般人ならとっくに気を失っているであろう。


 地表が近づくにつれ、先頭の兵士が仲間に着地の合図を送っていた。そして地表500m程の地点まで落ちた頃に、腰にあるダイヤルを上下にゆっくり調整する。


 するとバックユニットから、安定翼とノズルが展開し、ジェットが噴射した。バックユニットに張り付いた氷の細かな粒が一瞬舞い、太陽光がキラキラと反射する。


 落下速度はみるみる減速し、やがて地表付近まで来ると静止する。そして腰のダイヤルを今度は左右に調整し地表近くを滑る様に移動していった。


*-------------------------------------------------------------*


 既に、後方部隊は、戦闘を開始していた。相手はディセントフォース、イエロースネークであった。ヘリはこれを予測していたのである。ディセントフォ-スの上昇限界高度40,000フィート(約12,000m)を上回る高度を飛行していたのであった。


 ディセントフォース同士の戦いが始まったのである。その名の通り、ホワイトキャッツは白、イエロースネークは黄、白黄入り乱れての、高度1万メートルの空中戦とも白兵戦ともいえる戦闘が始まった。


 上空でミサイルとガトリング弾の閃光が連続して何度も華やいでいた。その戦火の下、森の中を進む何名かのホワイトキャッツ隊がいた。先発隊のアーチィ小隊であった。


「D.F(ディセントフォース)同士の戦いか、あまり良い気はせんな」


「おい、オレ達の戦闘命令はまだなのか?」


「まだ隊長からの命令はない、後方から援護するって、言ってたが……」


「はさみ打ちか……」


 攻撃部隊であるホワイトキャッツだ、銃火器の装備が上回っている。イエロースネーク隊は20分もしないうちに壊滅状態となっていた。当然、ホワイトキャッツの勝利、と言う所だったが……


 新手が現れた……ディセントフォース最強部隊ブラックフォックスだった。その名の如く、全身黒1色の対ゲリラ用攻撃部隊である。


「オレ達の相手はアレだとさ」


「ブラックフォックスが相手か、文句無しだ」


「よーし、いくぞ!」


 腰のダイヤルを目いっぱい手前へと回し、ジェットノズルの噴射を強くする。アーチィ小隊は、一瞬で上空に舞い上がった。広大な空には障害物はない、あるのは白い雲のみだ。


 ホワイトキャッツの下からの不意をついた攻撃に、ブラックフォックスの一人にガトリング弾が貫通し、大爆発を起こし砕け散る。


 続いて届く数発の超小型ミサイル。それを、後方飛行しながら揺さぶりをかけ、すんなりとミサイルを打ち落とすブラックフォックス。単調ではあるが、確実にこなすその回避行動は、最強部隊を名乗るだけのことはある。


 双方の間を飛び交うミサイル……白い残煙が何本も一斉に交差し、ミサイルが軌跡を残しながら、まるで生き物のように勢い良く伸びて行く。


 巧みにそれをかわすブラックフォックスに、ホワイトキャッツの、ガトリングポッドが唸る。標的を逃したミサイルが迷走する中、ガトリング弾の赤い閃光が、何度も何度も雲の中に吸い込まれて行った。


 雲の中を、流れるようにブラックフォックスは回避運動を繰り返す、ホワイトキャッツのこれでもかという攻めにも耐えていた。


 ”ボウヤ”の戦闘振りは特に凄かった。他の仲間はなんとか渡り合っている程度だが、既に8機、いや8人殺っていた。その戦い振りを見ていた”ほろ酔い”の兵士が何か思い出したようだ。


「……あ、思い出した……アイツ……ジャックベレー隊だ……」


 思わずそう呟いた、いや、叫んでいたがほろ酔いの為そう聞こえた。日頃、彼の言葉を無視していた他の兵士達も、さすがにこの時ばかりはそうはいかなかったのか、驚きを見せていた。


「なんだって……」

「ジャックベレーって、あの特殊遂行部隊の?」


「まさか……」


「お、おい、いったいどういうことだ……」


「だって、お前、あれは1年前に全滅した筈だぞ……」


「生き残りがいるって噂、あれは、本当だったのか?」


 アーチィ小隊全員が無線で全てを聞いており、思い思いに言葉を発していた。この戦闘中の思いがけない情報に兵士達は困惑を隠せないでいたようだ。だが、決して戦闘を疎かにはしてはいなかった。彼らの本能がそうさせているようだった。


「おい、ボウヤ……なんだってそんな事黙ってたんだよ」


「済まない、言う必要は無いと思った」


「ちきしょう、戦闘から戻ったらその話を聞かせろよ」


「ああ……生き延びたらね……」


 ……しかし……

 ホワイトキャッツの戦況は優勢であるように見えていたのだが、やがて、補給が受けられない状況になると戦況は一気に深刻な状況へと変わっていくのである。


「このやろう! 切りがねぇや」


「ダメだ、弾がない! 補給を!」


 弾薬確認の為にガトリングポッドの残弾メータを確認するホワイトキャッツ隊の兵士。そこへ、ブラックフォックス隊のガトリングポッドの閃光が走る。


「くそやられた、落下傘降下衛生兵(パラディック)っ!」


「馬鹿な、弾薬は無駄使いするな!」


「弾薬がねぇ、ヘリを1機こっちへよこせ!」


「了解!」


「こちらキャッツ3、ホワイト3応答してくれ」


「キャッツ4どこだ、ヘリを回せ!なんだって!聞こえん!」


「馬鹿やろう!上に出るな!熱誘導探知弾(追っかけ)突かれる(殺られるぞ)!」


「奴ら、熱誘導レ-ダ-撹乱(パニック)も使ってやがる!ミサイルは使えんぞ!」


 ホワイトキャッツ隊の無線からは、混乱した状況が流れ続けていた。そして、ホワイトキャッツ隊は一人一人数を減らして行ったのである。しかし、”ボウヤ”の戦い振りは違っていた。無線の内容に眉をひそませながらも、彼はまだ戦っていた。


「15機目……次16機目! よーしこっちだ、そら! 引っかかった!」


 元ジャックベレー隊員の彼は、バック飛行しながら8の字を描くようにミサイルやガトリング弾を回避しつつ、敵へと攻撃をかけていた。その戦法はミサイルの誘導システムなど全く考慮に入れない戦法で、彼らの習性を全て把握した上での戦法のように思える程である。


 熱線追跡機能のあるミサイルを射って相手に回避をさせる、そしてその回避方向にガトリング弾を3発程放つ戦法だ。ブラックフォックス隊が撹乱装置を持っているとはいえ、弾丸を撹乱する事は出来ない。


 ミサイルに気を取られている隙をつかれ、あのブラックフォックスでさえ逃げきる事は出来ない。だが、回避方向を察知し2,3発の弾丸で相手を撃破する芸当は、常人でできる筈もない。彼の勘と経験によるものだ。


「20機目……次21機目! 畜生! まだいやがる」


 あまりにも、追っ手の数が多く武器の性能差にも悩まされる。8機飛んでいたヘリは既に5機落とされていた。


 元ジャックベレー隊員の彼1人が、敵を次々倒している。その彼ですらその残弾数は限界に来ていた。ガトリングポッドの残弾メータが赤く警告を発している。彼の残弾もついに0となった。それを冷ややかな目で確認はするのだが、特に対策を施す様子もない。


 やがて、最後のミサイルを放った後、弾丸の切れたガトリングポッドを捨て去ると、腰からナイフを抜き格闘戦へと戦法を移行するのであった。


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