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第9話 始まりの朝

 コルネリアはいつもより早い時間に目が覚めた。

 といっても魔法屋に行くことにした日に比べたら全然だったが。


 窓を開けっ放しでまた寝てしまったらしく窓枠に小鳥が止まっていた。

 コルネリアがソファから起き上がると飛んでいってしまった。

 小鳥を目で追うと太陽のまぶしさに目が眩んだ。


 嘘みたいに青い空。いい日になりそうな高揚感が生まれる。


 ローゼはというとまだ眠りの中。しっかりと布団を被って静かに眠っている。

 初めて同じ部屋に泊まることになった時、寝相の良さに驚いたのは懐かしい思い出だった。

 てっきり服装も乱れていびきでもかきながら寝ると思ったのにと。


 アインタウゼントを外しジャケットを脱いだだけの姿でローゼは眠る。

 いつでもリビルドの要請があれば動けるようにとビルダー稼業を始めた頃からの習慣らしかった。


 コルネリアも倣ってすぐ動ける格好で寝るようになった。

 魔法が使えない状態になることが怖くリーベは装備したまま、胸元を護るベルトだけを外して。

 その姿はたわわな胸が見えそうで危うい姿なのだが本人のコルネリアは気づいていない。


 ローゼを起こすのは後で良いだろうと先に身支度をすることにした。


 特殊繊維で創られたワンピースに皺はつかないのだが、裾を引っ張り整える。

 胸元にベルトをあてがい装備し、申しわけ程度に置かれたドレッサーで腰まである金色の髪をとかす。


 ソファ横の小さなテーブルに置いていた二つのバッグを手に取り道具類を――魔法屋に行った後、リクエスト用にと他の店に立ち寄り買った品々を――確認する。


 ローゼは俊敏に戦えることを優先する為、必要最低限の道具しか持たない。

 その分、コルネリアがしっかりしないとと、いつの間にか道具類の管理はコルネリアの分担となっていた。


 ローゼの革製のバッグを手に取り中身を確認する。


「やっぱり追加してない」


 足りなくなっていたリクエストで消費した小瓶や特製の紐、非常時の簡易食料(いつ食べたんだろう)を補充すると元の位置に戻しておいた。


 あまり色々と詰め込むとローゼは「動きづらい!」と怒るので、補填はすぐに済む。


 コルネリアは腰に身につけられるようになっている、銀蒼竜の鱗で出来たバッグを手に取る。


 床に座り、並べた道具を一つずつ確認しながら入れていく。


 アンダーマインを捕らえリビルドに運びやすくする――錬金術師が作り上げているという――魔法の小瓶を十個、中瓶を五個、大瓶を三個。


 この瓶はとてもポピュラーなものでビルダーなら誰もが持っているという品物。


 詳しい仕組みは製造者しか知らないが、間違ってアンダーマイン以外の人やモンスターを閉じこめてしまわないようアンダーマインしか捕まえることが出来ないように言霊を仕掛けることができる。


 支給品の専用コネクトを持つビルダーなら、コネクトにかけられた魔法の力で誰でも捕獲する相手を認識させる言霊を吹き込めた。

 なので間違って他の人ごと瓶に詰めてしまうことは無いようになっているのだ。


 大きさや色によって捕まえられる数や対応するアンダーマインが違う。

 赤はモンスター用、青は人間のアンダーマイン用という風に。

 大抵は小瓶で用は済む。


 コルネリアが聞いた話だと瓶の素材はありふれたガラス製らしく、魔法や言霊などで強度を上げているとか何とか。


 錬金術師の話が好きなコルネリアはそれ以上の話をねだったのだが企業秘密と別の話にシフトされてしまったとか。

 違う話も面白かったらしく、それはそれで有意義だったと思うコルネリアだ。


 次に確かめたのが、特製の紐より太めの魔法ロープ。

 さまざまな用途に使える為、重宝する。


 アンダーマインの動きを封じるのに使用するも良し、足場の悪い山でのリクエストの時には命綱になり、目印に使うのでもいい。


 ローゼは魔法がかけられている細いワイヤーやビルダー特製の紐を好んで使う。

 軽くて丈夫な上、持っててもかさばりにくいから「邪魔にならなくて戦いやすい」といっていた。


 アンダーマインを捕まえることしか考えていないので、様々な用途に使えなくても問題ではないらしい。


 そして簡易食料。

 日帰りかその街の宿泊施設に泊まることが通常なのだが、仕方がなく野宿をすることもままある為、いつも持ち歩いている。

 簡易食料は味の当たり外れが大きく、二人はいつもおっかなびっくり食べるのだが表には出さない。


 ライト類や簡単な攻撃魔法がこめられたクリスタルも一応準備しておく。

 魔法が使えなくなった時の為にだ。系統も色々あるが氷や火の属性のものを選んでいた。

 補助品としかとらえていないのでコルネリアの魔法力をカバーするクリスタルを基準としている。


 確認していた道具類を全部入れられるように強力な言霊がかかっているバッグが、一番凄いアイテムなのではないかとコルネリアは疑っていて、いつか知り合いの言霊の作り手である錬金術師に聞いてみようと思っている。


 何よりもコルネリアにとって一番重要なのは魔法を使うのに必要である特殊な宝玉のついたリーベだ。


 宝玉は手の甲の真ん中についている。

 宝玉に魔力を短期間溜めておくことが出来、魔法に応じて溜めた魔力を使う。


 ショートカット機能も備わっていて、指を一本宝玉に触れると指一本の場合に使えるよう登録した魔法が発動する(魔力が足りない場合発動しない)。

 指一本から四本まで対応している。宝玉に触れ使いたい魔法をイメージして使うことももちろん可能だ。

 簡単に持ち歩ける呪文書といってもいい。

 これがなければ簡単な魔法さえ唱えることができなくなってしまう。


 リーベには魔法を増幅する言霊も付加されている。


 格闘に向かないコルネリアにとっては命に関わる問題であり、このグローブを外すのは風呂の時ぐらいだった。

 その時はリーベから銀のリングを外し装備することにしている。

 宝玉のついていないリングだけでもほんの少しの威力だが魔法が使えるからだ。

 宝玉の影響を受け、リングに言霊がちょっとだけ残っているからだと考えている。


「そうだ。昨日の魔法、ショートカットに登録しておこうかな」


 親指を折り四本の指だけで宝玉に触れ、プリズムの魔法を思い浮かべる。

 静電気のような感触が指に伝わる、宝玉は一瞬碧に色を変え、また元の紅へと戻った。


「うん、いい感じ♪」


 リーベには魔法マニアのコルネリアがインストールした多種多様な魔法が入れられている。

 にも関わらず、いつもインストールしたばかりの魔法か使い慣れた威力のある魔法ばかり選んでしまう。

 ショートカットに登録した魔法の発動時間が速いのが理由かもしれない。


 コルネリアは新しい魔法を試すのが楽しみで仕方ないといった様子でリーベを撫でる。

 中指に填る銀のリングが指に触れると気持ちが引き締まる感じがした。


 まだまだ約束の時間には早い。

 ローゼを起こさないようにそっと少しだけ外に出てくることにした。


 階段を下りるが一階に誰の姿も見つけられなかった。裏方にいたりで朝の準備で忙しいのかもしれない。


 長年使い続け湿気を吸って育った木の扉はすんなりとは開かない。

 足の先で下の方を押しながらにするといい、というコツを伝授してくれたのは誰だったけと考えながら押す。


 外はやっぱり初夏にふさわしい青空と熱気。

 胸一杯に朝の空気を取り込もうと両手を広げ顔を上げた、ちょっと間抜けな姿をしたまま固まった。それこそ呼吸するのも忘れて。

 

 視線の先にアロイスがいた。


「おはよう、お嬢さん」

「え、あ、おはようございます、アロイスさん」


 慌てて佇まいを直し、頭を下げた。


 歴戦を潜り抜けてきた熊といった体格に似合った茶色のアーミースタイル。

 短く刈り上げた銀髪に光りを宿さない――しかしどこか猛然とした――銀の瞳。

 ビルダーというより軍人のような出で立ち。


「お嬢さんに聞きたいことがあってな」

「なんでしょう?」

「もう一人のお嬢さんは何であんなに怒っているんだ?」


 そんなことを気にして聞きに来てくれたのかと、アロイスに対して感じていたイメージが書き換わっていく。信頼を寄せてもいいのかなとコルネリアは考える。


 多分ルドルフか誰かからこのホテルを聞いたのだろうと思った。

 随分前からこのホテルを拠点としているのだから、ヌルの人達にとっては周知の事実のはずだ。


 それより正直に応えるべきか悩むコルネリア。

 話すとローゼを怒らせそうな気もするし、別に話しちゃっても問題ないような気もしている。


 考慮した後、ローゼには内緒でと付け加え話すことに決めた。


「ローゼはアロイスさんに手加減をされたことと弱いと思われたことに腹を立てているみたいでした」

「手加減? ああ、あの腕相撲のことか。参ったね、中々鋭いじゃないかあのお嬢さんは。確かにそんな声が聞こえた気がするよ」


 簡単に認めてしまうアロイス。


 益々悪い人ではないのではと思うコルネリアにこう続けた。


「謎が解けて助かったよ、感謝する」

「どういたしまして」


 ふと広場の時計を見るとリビルドが開く時間が迫っていた。


「あ、そろそろローゼを起こしてこないと。またあとでリビルドでお会いできるのを楽しみにしています。では、失礼します」

「ああ」


 丁寧にお辞儀をするとひらりとホテルに戻って行った。




 額に手を当て空を仰ぐと、自然と口元が緩み、思わず思考が声に出た。


「本当に手加減に気づいていたとはね。しかも弱いと思ったことまで見抜くのか……あのお嬢さんは」

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