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第8話 破格の依頼

 男の存在に気にはなっていても直接切り出せずにいるローゼ。


 ルドルフが飲み物を用意しているので、話は一時中断されている。

 磨きたてのグラスにキウイジュースが注ぎ込まれる。


 色々考えるのは自分の性分ではないというように、実にストレートに決めた。


「もう一度アタシと勝負しろ! 手加減なしだ!」


 人差し指を突きつけ大男にいう。


「…………」


 尚も勝負を吹っかけ続けるローゼからは見えそうにない位置に、身を潜めたルドルフが小声でコルネリアに尋ねていた。


「一体どうしたっていうの?」


 いきなりの出来事についていけていないのが顔に表れていた。


 コルネリアは成り行きを簡単に説明することに。


 路地に入ったところでの金銭を賭けたストリートファイトにローゼが大男に負け――表向きにはローゼが勝利――再戦を希望していたこと、新しい武器を使うことで大男に負けないぐらい強くなろうと、ついさっき武器を購入したところだということを。


「ということなんです、ルドルフさん」

「なるほど……こりゃ弱ったね」


 弱ったと言われ今度はコルネリアが困惑する番だった。

 どうしてルドルフが困るのか、事の繋がりがわからなかったからだ。


「どういうことですか?」

「いやね、報酬がとびきりの依頼がうちに来たからネリアちゃんたちに知らせるつもりだったんだけど……、今回のリクエストは三人一組で受けるタイプでね。昔馴染みに二人と組んでくれないかお願いしてたところなんだよ」


 快く承諾してくれたけどね、と軽く笑うルドルフ。


 つり目で剥き出しの感情をぶつけているローゼをちらと見る。


「ルドルフ、この子にリクエストの説明をしてあげてくれ……。俺じゃ無理だ」


 匙を投げる大男にまたも血が上るローゼ。


「なんだとっ!」


 本当に殴りかかりそうなローゼに叱咤が飛んだ。


「ロージィ!! いい加減にしないと――」


 黄金色の見目麗しい髪が本当に逆立ち、目は据わり、両拳を開きローゼに見せつけている。魔法が使えないローゼにも魔力を放出しているのが見えた。


 これはヤバいと思わず正座になり畏まり平謝り。

 何とかコルネリアに機嫌を直してもらうことができ、ようやく本題に。


「ごほん。いくつか話すことがあるんだけれど、一つ目が今回は別のリビルドを仲介してのリクエストだということ。相手のリビルドからの要望は、三人一組で受けてほしいとのご要望だ」

「三人一組……」


 うわごとのように口に出たローゼ。昔いた仲間のことを思い出しかけたところへルドルフの説明は続く。


「二つ目はローゼには良い知らせだと思うんだけど、報酬は五百万ティアだね」

「五百万ティア!?」


 ローゼは思わずオウム返しをする。

 今まで受けたリクエストの中でもかなりの高額に入る部類で耳を疑った。


 今の根城が一週間三万ティアだから五分の一の百万ティアがあるだけでもベッドが二つある宿に鞍替えできてしまうし、半年以上滞在できる。


 その辺りの事情を知るルドルフが大急ぎでローゼとコルネリアに知らせようとしたところ、友人でもありビルダーでもある大男アロイスと偶然再会し、三人目になってもらえないか先に交渉をしておいたという。

 アロイスというのはビルダーでの通り名らしい。


 アロイスの取り分は二五〇万ティア、ローゼとコルネリアに二五〇万ティアの半分づつ。


 このリクエストを受けるだろうと見越してのルドルフの親切心だった。


 昨日、ローゼ達に紹介していた仕事も、既に別のビルダーに斡旋し直し済みだというから抜け目がない。


「ホテルも向こうが用意してくれるらしいし、良いリクエストじゃないかと思うけどね。ただ気がかりなのは……」

「何だよ、おっちゃん」

「詳しい内容はビルダーが来てから話すと言って聞かせてもらえなかったんだよね」

「なんだ、そんなことか。大方どっかの金持ちが世間体を気にしての依頼か何かじゃねーの? 確かに破格だとは思うけど今までになかったわけじゃないし」

「それならいいんだけどね……」


 こうして依頼主が不明だったりリクエスト内容が不鮮明なものがあるのも、取り立てて珍しいことでもない。


 ローゼ達も過去に何度もそういったリクエストを受けてきている。

 ただ、いつもならこんな報酬のおいしいリクエストを受けるかどうか悩んだりしないローゼなのだが、アロイスの存在が足踏みさせていた。


「ルドルフ、駄目そうなら別のパーティを見つけるから大丈夫だ。高額リクエストに食いついた輩が何組も募集しているそうだし、子供に危険な橋を渡らせることもないだろ」


 コルネリアとルドルフが小さく「あ」といったものの手遅れだった。


「……おっちゃん」


 ぎろりと音がしたような気にさせる目色のローゼが、低く吼える。


「アタシたちはこのリクエストを受ける! コルネリア、良いよね?」

「う、うん。私はロージィが良いなら……」

「よしっ! このリクエストでアタシらが子供じゃないことを見せつけてやる」


 アロイスに向かいまたも指を突きつけ堂々と宣言をした。


 こうして三人一組の期間限定のパーティが出来たのだった。


「足を引っ張らないでいてくれればそれでいい。お嬢さんは物わかりが良さそうだな?」

「リクエストの間、ご迷惑をおかけしないようがんばります」


 ぺこりと頭を下げるコルネリア。


「…………」


 無言で睨み付けることを返事とするローゼ。


 本当にパーティとして成り立つのか疑問過ぎる挨拶となったが、アロイスは特に気にしてはいないように見えた。


 アロイスは二人を人数合わせぐらいにしか思っていないのかもしれない。

 その認識が覆るかはローゼたちの働き次第だ。


「とりあえず今日はどこかでご飯でも食べて力をつけて、明日立つといいよ」


 空気を和らげようとしてくれているルドルフの発言に三者は同意するのだった。


「そうだ、おっちゃん。まずはどこへ向かえば良いんだ? 隣町のリビルドか?」

「ああ、その通りだよ」

「じゃあ歩いて行ける距離だな」


 ローゼとルドルフが話している間にその場を去ろうとするアロイス。


 ローゼではなくコルネリアがアロイスを止めた。


「ちょっと待ってください。明日の待ち合わせはどうしますか?」

「明朝ここが開く時間に、同じくここで待ち合わせでどうだ?」


 足を止め、そう答えるアロイスに


「わかりました、明日からしばらくよろしくお願いします」


 コルネリアは特に敵対心を抱いてはないようだ。


 ローゼも特に口を挟むでもなく、明日からの予定が決まった。



 初対面の人物を交えた三人一組での受注。

 内容のわからない報酬抜群のリクエスト。

 久々の隣町のリビルド。


 仕事と分かっていても、少しわくわくする気持ちが生まれそうな二人だった。

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