第6話 武器屋
その頃のローゼはというと、行きつけの武器屋に来ていた。
ここは裏通り。
ロープや工具にミニバッグなどが籠に詰められ店の前に並んでいる。
見た目はただのありふれた雑貨店にしか見えない店構えだが、中に入るや否や、壁には剣や刀やライフルが並び、ショーケースには様々な種類の武器が詰まっていた。
開店して間もないからか聞こえてくるのは一人のこんな大声。
「――そうなんだよ! だからグローブ型の何か強い武器、二十万ティアぐらいでない? なんならナックルでもいいからさ」
「二十万ティアねぇ、そんなに使ってあんたネリアちゃんに怒られてもしらないよ?」
武器屋の親父が意気がるローゼを一応注意する。
コルネリアは浪費したローゼだけじゃなく店主にも説教をしたことがあるのだ。
巻き添えはごめんだとばかりにいいはするが聞くとも思ってはいない。
「大丈夫、半分はへそくりだし、今日はコルネリアも買い物なんだ。……それよりこの店にはアタシを満足させる武器、あるんでしょ?」
艶やかに言い放ち、にやりと音がしそうなほど口角を上げる。青い目が猫の目に似た輝きを見せる。
ふふっと満更でもない様子で笑い返す武器屋。
「実は昨日入荷したばかりの良い武器があるんだけど、それがあんたが今まさに求めるグローブ型なんだよね」
またふふっと笑みをこぼす店主。
どうやら良い品を入手できたことを誰かに自慢したいらしかった。
この店主にはよくあることだったが焦れたのはローゼだ。思わず余裕をなくした声をあげる。
「もったいぶってないで見せてくれよ!」
武器屋が店の奥に取りに行き、出してきたのは黒を基調としたレザーグローブだった。
指が出せるように空いており、甲は何かの獣の毛皮でふさふさとしていた。
自分の拳をふと見る。色褪せたごつごつしたグローブが手を守っていた。
つい比べてしまう。見た目ももちろん惹かれたが、性能が一番気になった。
ローゼの手に似合いそうな――黒豹の前脚のような――身につけているものとは大違いのしなやかなデザインだ。
ローゼは一目惚れし説明を何一つ聞く前から買うことに決めてしまう。
「いやいやいや、ちょっと待った。うちとしては大助かりだが説明ぐらいは聞いてから買ったらどうだい。どうだ聞きたいだろ? このグローブには黒化猫の――」
「あ、ああ……」
早く自分のものにしたくて仕方がなくモーリスの話はローゼの耳を素通りする。
これがあればアタシはもっと高みへ行ける。
……そうすれば“あんな思い”や“あんなこと”は二度と起こさせずに済む。
もう二度とごめんだ。
アタシは強くなる、肉体的にも精神的にも。だってあれじゃ、あんまりだ……。
「――とまぁ、そういうことだ。で早速インストールしてくかい?」
「え、ああ、もちろん!」
遠い記憶から現実に戻ってきたローゼは、二十万ティアをコネクトで払うと自分の腰から剣を取り、柄にある闇色の宝玉部分にグローブを当て取り込んだ。
これでグローブが使えるようになったというわけだ。
武器の扱いのセンスに長けた者にしか扱えない。その点ではローゼに問題はなかった。
この宝玉には武器の形状や仕組みなどを記憶しておける力が備わっている。
遠い昔に魔導士と錬金術師が手を組み作ったものだと聞かされていた。
コルネリアが持つリーベの宝玉は魔法に特化しているが武器をインストールできないわけじゃない。
確か形から入りたがった頃、魔道杖と呼ばれるものを買ってリーベにインストールしていた。
ローゼが使う武器は変形する武器、「千」の名を持つアインタウゼント。
千種類もの武器などをインストール、つまり記憶させることが出来る。
アインタウゼントについている宝玉でも魔法はインストールできる。
使えるかはまた別問題なのだが。
昨夜使った二丁拳銃もこの剣が変形したものだ。
他にもいくつかの武器がインストールされているがローゼが好んで使うのは二丁拳銃が多い。
こうして変形短剣アインタウゼントにストリートファイトに向いてそうなグローブが追加されたのだった。
「試しに変形させてみたらどうだ?」
「ああ」
手に握ったままだったアインタウゼントをグローブへと変形させるイメージを描く、溶けるように形を変えると、両手には購入したばかりの真新しいあのグローブが身に鎧われていた。
パンチを繰り出す。速度は変わらないまま重みが増している気がした。
実戦で使えば速度もアップしていけるかもなと考えると、さっき遠い記憶から現れた憂いはなくなっていた。
「気に入ってもらえたようで何よりだ。またローゼに似合いそうな武器を仕入れるからまた来てくれよ。ただし、ネリアちゃんは怒らせないでくれよ?」